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生成AIが切り拓く新たな社会とクリエイティビティ(後編)

2024.05.17
Chat GPT の登場をはじめ、日進月歩で進化を遂げる「生成AI」。
インターネットやスマートフォンが社会を変革したように、生成AIも過去に匹敵するパラダイムシフトを起こし 、広告やマーケティングにも大きな影響を与えると言われています。生成AIはビジネスをどのように変革し、新たな社会を切り拓いていくのか。

博報堂DYホールディングスは生成AIがもたらす変化の見立てを、「AI の変化」、「産業・経済の変化」、「人間・社会の変化」 の3つのテーマに分類。各専門分野に精通した有識者との対談を通して、生成AIの可能性や未来を探求していく連載企画をお送りします。

連載の最終回(後編)では、これまでの有識者インタビューを振り返るとともに、生成AIがクリエイティビティや生活者の暮らしに対し生み出しうる変化について、博報堂DYホールディングス 取締役常務執行役員CTOの安藤元博と博報堂DYホールディングス執行役員 兼 Chief AI Officerの森正弥、博報堂 執行役員 兼 株式会社博報堂ケトル クリエイティブディレクターの嶋浩一郎に加え、これまでの有識者インタビューを行ってきたクロサカタツヤ氏、博報堂DYホールディングスの西村啓太で対談を行いました。

>前編の記事はこちら

価値論とクリエイティビティは裏表。アウフヘーベンしやすい状況をいかに作るか

安藤
僕は、澁谷先生の仰るインタレストグラフ(興味・関心に基づくつながり)とソーシャルグラフ(生活者同士の社会的なつながり)について注目しています。

あらためて、インタレストグラフとソーシャルグラフとは一体何なのかということを考えてみたいんですよ。
インタレストグラフというのは、その人の価値観についての情報を固定していると思うんです。
要するに「自分はこういうことが好きだ」という風に決まっていて、共通の興味関心をベースにそれ以外のものには共通項がないんですよ。

では時としてなぜ、諍いが起きるかと言うと、その表面上は共通である興味関心対象への見方が、実際は人によって違ってくる可能性があるからだと思います。最初は共通を前提にして繋がっているからこそ、少しでも意見が食い違えばもはや関係性に修正が効かず、非常に嫌だと感じてしまうのではないでしょうか。

一方でソーシャルグラフは、 お互いの反応を見ながらアウトプットを交換し合うことで互いに影響を与え合い、興味関心が変化していく。その点がインタレストグラフと異なる点です。

「この人が言うんだったら面白そう、やってみよう」
このように、人間の行動は一体なぜ変容するのか。

僕たちのような広告会社では、その人が興味関心を抱く過程に対して、いったん直線的にプランニングすることがあります。

この人はそもそもどんなことに興味あるのか。どんな人なのか。どんな生活をしているのか。その人は本当に何が好きなのか。その人に働きかけることで、どんな反応を示すのか。
ペルソナを仮説し、インサイトを探り、タッチポイントを想定し「こういう切り口だったら人の心は動く」と考えてコンテンツを届けるわけですが、必ずしもそれがベストとは限らない。

静的な情報を緻密に分析していくのは効率的なプランニングである一方、必ずしもそれで人の心を大きく動かすかどうかはわからないということが、テクノロジーの進化によって明らかになってきているのではと思うんです。

むしろ、最初は全然考えてもいなかったけれども、 自分が興味関心のある人から「これはいい」と直接または間接にレコメンドされた時に、その人の行動がまるで変わってしまうことも起き得ます。

生成AIがメディアになり互いの潜在的な思いがコミュニケーションという出来事になってくることで、そんなことが増えていくのではと思っていて。


Aというアイデアがあったときに、それは違うという反論Bがでてきた時、最終的にA、Bを汲み取って弁証法的にCという答えになったりする。
Cというアイデアは最初に出したアイデアと意図した方向性が異なっても、合意形成感が強いと個人的には感じていて、AでもBでもない、Cというアイデアに、意見が対立していた両者の間で、お互い納得度が高くなりやすいなと思うところはあります。

安藤
その、最初に拘っていたものよりも納得感が高まっている可能性がある、というのがポイントだと思うんですよ。合意形成は妥協ではなく、むしろ自分の中での発見があるというか。その方が大きな価値が生まれる。

クロサカ
その価値を本当に顕在化させるためには、アウフヘーベンの弁証法に見るAでもBでもなくてCになるという状況をどういう風に作ればいいのかが鍵になると思います。AかBかCのどれかだと言えるのが人間の自由であり、楽しみや平和だと言えるのではないかと思います。

安藤
文明も価値も、AかBか、それともCかを選択できる状況で生まれます。一方、例えば独裁の体制下では文化や社会の進化が止まってしまうんです。
だからこそ、歴史的に見ても、独裁体制はある一定期間は続くんだけど、いずれ社会が停滞してひっくり返るわけで、そのような価値創造のない社会は崩壊するというのは自明のことだと皆わかっているはずなんです。

クロサカ
どうやったら、アウフヘーベンしやすい状況を作れるのか。
この手がかりが少しでもあると、生成AIの怖さやリスクといったネガティブな印象に対して、「こういう方向性で仕向けていけば大丈夫」ということが言えるのではと思っています。

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