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ヒット習慣予報 vol.322『ウォーカブルライフ』

2024.07.09
#トレンド

なんともあついですね。ヒット習慣メーカーズの中林です。

あついときは妄想します。
もし氷河期がやって来たら?巨大な流氷の中に閉じ込められ、冷凍保存され、氷が溶けると同時に目を覚ますとそこは一面氷の銀世界。肩こりや腰痛も氷で冷やされたせいかすっかり治っていて、元気いっぱい狩りに出かける・・・初っ端から脱線してしまいました。あついせいですね。

あついとやる気が出ません。思考と思考の間にあついが入りこんで邪魔をするからです。
困った、なにか元気が出るような話はないものか、とネットサーフィンをしていると「世界の歩きやすい街、第6位に東京が選ばれました」と。(※1)
なんと!寝ている場合ではない!と、飛び起き街へ歩きに出ました。
(※1: This European city has been named the world’s most walkable|TimeOut)

改めて意識してあたりを見渡してみると、ウォーキングをしている人の多さに驚きます。
夕涼みが気持ちいい時期だからかしら?と想像するも、ウォーキングへの関心度合いを表す検索数データを見ると10年にわたりじわじわと右肩上がり。どうやら、特段季節が関係している訳ではないようです。

「ウォーキング」の検索数推移(日本)

出典:Googleトレンド

ところでみなさん、「ウォーカブル」という言葉は知っていますか?
言葉そのまま、歩きやすい・歩きたくなる、という意味の造語なのですが、近年、この言葉を軸として、人々がもっと暮らしの中でウォーキングを楽しめるように、と世の中が少しずつ変わってきているようです。
今回のコラムではその変化ポイントについて、いくつかご紹介したいと思います。

一つ目は、「街全体のウォーカブル化」。
最近仕事の関係で夜の原宿に行くことがあるのですが、ちゃんと服を着替えて颯爽とウォーキングしている人をよく見かけます。調べてみると、原宿に関わらず、街なかでのウォーキング人口が増加しているそうです。(※2)
理由の一つとして、運動後にリラックスできるスポットが増えていることが関係しているのではないかと考えました。仕事帰りに荷物を預けウェアに着替えることができるランニングステーションは以前からありましたが、着替えの場所に加えて銭湯やサウナなどが併設されているなど、運動後のチルアウトをより満喫できる場所へと変わってきています。ですので、運動としてだけでなく、メンタルのデトックスとしても生活にウォーキングを取り入れる人が増えているのではないでしょうか。
また、実際に車線を減らして歩行者空間を広げたり、階段を減らすバリアフリー化や都心の緑化計画を推進している街も出てきており、都市部でも歩くことを楽しめるウォーカブルライフを推進していくという姿勢も感じられます。
(※2:「散歩・ウォーキング推計実施人口4,981万人と過去最多(PDF)」|笹川スポーツ財団)

二つ目は、「靴のウォーカブル化」。
シューズといえばランニング、というイメージを持っている方は多いと思います。が、近年注目されているのはウォーキングに特化した歩くための靴。ウォーキングの流行にともない、より歩きやすさを追求したウォーキングシューズが売れているそうです。日常履きのスニーカーでは長い距離を快適に歩けないし、ランニングとウォーキングでは体の動きが異なるため、本格的にウォーキングを始めたいと思ったタイミングで専用のシューズを購入する人もいるそう。確かに、街なかでウォーキングしているひとの足元を見ていると、スタイリッシュなデザインやおしゃれなカラーの物を履いている場合が多いです。洋服からウェアに着替えるように、靴からシューズへと履き替えることで気持ちのスイッチとしての役割も担っているのかもしれません。

そして三つ目は、「おでかけのウォーカブル化」です。
バスツアーは通常バスに乗り観光地を巡るものですが、最近、ウォーキングがメインのツアーが続々と登場しています。内容は、街歩きをしながら歴史や文化について学ぶものから、自然を感じられるスポットを歩くなどさまざまですが、自分の足で歩くことがツアーの醍醐味となっています。乗り物に乗って観光地を巡るよりも、その地域ならではの体験ができることが特徴で、体験の唯一性を求める現代人のニーズともマッチしていることが人気のポイントだと考えられます。

では、一体なぜ暮らしのウォーカブル化が起こっているのでしょうか? 理由は大きく二つあると考えました。
一つ目は、自然不足の解消です。
車や電車などの乗り物が普及した現代では、自分の足で歩かずともいろいろな場所へ行くことができます。とても便利で効率がいい一方で、自然や街並みなどの景観を楽しむ余裕を持てなくなっていると感じる人が増えています。ウォーキングでは周りの景色が目で追えるスピードで移動するため、普段感じづらい自然を肌で感じられたり、乗り物では気付けないような小さな発見をできる喜びがあり、遠出せずとも自然欲を満たせる習慣として注目を集めているものと考えられます。

二つ目は、体を動かすことでストレスを発散する人が増えている、ということです。生活者の健康意識はますます高まっており、日常的に運動習慣を持つ人が増えていますが、最近は健康になるという目的以外にストレス発散のために運動する、という声をよく聞きます。デスクワークで縮こまった体を伸ばし、汗をかくことって気持ちいいですよね。けれども一方で、運動したいけど、ジム通いやランニングはきつくて続かない・・・という人も多く、健康意識は高いけど運動ガチ勢ではない層にリフレッシュしながら心身デトックスできるウォーキングという習慣が定着したのではないでしょうか。

最後に、今後の広がりについて、考えてみました。

「ウォーカブルライフ」のビジネスチャンスの例
■社内にウォーキングコースをつくる
■歩きながら地域の情報をガイドしてくれるウォーキングデバイスを開発する
■ウォーキングで見つけた小さな発見を記録するサービスをローンチする

このコラムを書きながら、会社でちょっと休憩したくて、近くにいる人に声をかけるとき、コンビニ行こ~ではなく、さんぽ行こ~と誘っていることに気づきました。実際に向かう場所はコンビニなのですが。笑

▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。

中林 磨美(なかばやし まみ)
博報堂 クリエイティブ局
ヒット習慣メーカーズ メンバー

2021年博報堂に入社。趣味は編み物、好物はさば寿司といわし、あと卵焼きです。まいにち散歩をします。髪がとても長いです。切ろうかな。

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