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デジタル時代の「新・ブランド論」【第2回】
デジタル時代のブランドを掘り下げていく「手がかり」とは

2024.07.12
SNSなどデジタル環境の変化に伴い、生活者の情報選択・購買・消費行動は大きく変化しています。また、様々なテクノロジーの登場によって、企業の行うデジタルマーケティングも日々進化しています。その一方で、長期的な視点に立った企業と生活者との絆づくりである「ブランド」はどうでしょうか?デジタル時代において、改めてブランドとは、ブランディングとはどうあるべきなのか──そんな問題意識からスタートした「デジタル時代の新・ブランド論」構築プロジェクト。
本連載では、マーケティング、消費者行動論、社会心理学などに精通した研究者と博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・センターのメンバーによって進められているプロジェクトをご紹介します。
第2回では、デジタル時代のブランド論を検討するにあたっての「キーワード」について議論しました。生活者のニーズや購買行動の意思決定プロセスなどをめぐって、活発な議論が交わされました。
第1回はこちら

<プロジェクトメンバー>
(写真左から)
西村 啓太
博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 室長補佐
本プロジェクト共同代表

柿原 正郎氏
東京理科大学経営学部国際デザイン経営学科 教授

石淵 順也氏
関西学院大学商学部 教授

澁谷 覚氏
早稲田大学大学院経営管理研究科 教授
本プロジェクト共同代表

杉谷 陽子氏
上智大学経済学部経営学科 教授

米満 良平
博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 上席研究員

情報が多すぎるデジタル環境における購買行動の変化

西村
今回は、前回の皆さんのご専門も踏まえて、これからこのプロジェクトにおいて「デジタル時代の新・ブランド論」というテーマを掘り下げていくにあたってのキーワードについてお聞きしていきたいと思います。このテーマ自体が壮大なものなので、既にプロジェクトの中では様々なキーワードがでてきていますし、毎回ひとつひとつのワードに対してとても深い議論を重ねてきているわけですが(笑)。これまでの議論なども思い返して、改めて気になっているワードはありますでしょうか?

澁谷
本当に毎回刺激的で、話が尽きませんね(笑)。実務と研究、そして専門分野が異なる皆さんがブランドや消費者行動という共通のテーマで自由に議論できること自体が今まであまりなく、とても重要な取り組みだと改めて感じています。

杉谷
そうですね。今までの議論の中で、私は特に、デジタルでの購買行動における「手がかり」について取り上げたいと思います。デジタル環境下は情報があふれかえっている一方で、人間の情報処理能力そのものは以前から大きく変わってはいません。デジタル環境によって変わったのは、購買行動の拠り所となる「手がかり」です。

従来の購買行動は、ブランドへの信頼や製品の機能、価格などが購買を決めるための重要な手がかりになっていました。しかし、今のデジタルの環境では商品やサービスの数が増え、それを取り巻く情報も膨大になった結果、消費者にとってはひとつひとつの情報を精査することが困難になっています。インフルエンサーのリコメンドやネット上でのレビュー、SNSでバズっているという現象を拠り所にするなど、購買行動の新しい「手がかり」がうまれているのではないでしょうか。

米満
サブスクなど購買・所有ではなく、モノやサービスを一時的に利用するデジタル化された消費行動である「リキッド消費」も、デジタルによる生活者の消費スタイルの変化、とくにブランドなどへのこだわりが希薄化するという概念ですが、もっと手前の消費者の購買行動や情報処理プロセスにもデジタルによる大きな変化がありそうですね。

西村
購買行動の手がかりという視点で言えば、従来は例えば「お気に入りのタレントがTVCMに出ている」といったことも重要な要素の一つでした。

杉谷
はい。つまり、デジタル環境によって、以前と比べるとインフルエンサーの影響が強くなっただけで、購買行動における「他者」の影響や役割は変わっていないとも言えます。消費者の思考や購買行動のメカニズムは、大枠では変わっていないと私は考えていますが、その中でも何かが変わったのか、変わっていないのか、細かく見ていくことは大事だと思います。

西村
情報を発信する立場から考える、購買行動の新しい「手がかり」の変化している部分をしっかりと捉え、コミュニケーションに入れ込んでいく工夫が必要ということかもしれませんね。

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