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人の心を動かすことからはじまる「感情駆動型コンサルタント」|Next Creativity Map Vol.13 石井雄樹

2024.08.19
企業のコミュニケーションやマーケティング課題に、さまざまな「得意技」でクリエイティビティを発揮する博報堂のクリエイターやマーケター。連載「Next Creativity Map」では、クライアントの課題に寄り添い、解決、変革へと導くランドマーク人材にスポットを当て、その「技」を解き明かします。第13回は、クリエイティブディレクター/コピーライターの石井雄樹。コピーライターとして20年以上のキャリアを持ち、事業サービスまで領域を広げる石井が、人の「心」を動かすことからはじまるコンサルティングについて語ります。

人の心を考え、インサイトを見つめ続ける。「芯」を捉えることが仕事の基本

-石井さんは入社してすぐコピーライターになったのですか?

石井:はじめはプロモーションの部署に配属されてアクティベーションをやっていたのですが、当時クリエイティブ仕事の主導権を握っていたのは、言葉ができる人か絵ができる人。美大出身でない自分は、コピーが書けないとクリエイティブの真ん中でやっていけないんじゃないかと思って、職転試験を受けコピーライターになりました。

-“芯を食う。心を食う”が仕事のモットーということですが、それはコピーライター時代に培われたものでしょうか?

石井:僕の師匠である横道浩明さんが常に言っていたのが「正しいと面白いを両立している“一点”を見つけるのがコピーライターの仕事だ」ということ。正しさというのは商品やブランドのこと深く考えて見つけるものですが、面白さというのは世の中や生活者をよく見て、人の心を考えなければいけない。「芯」という字のなかには「心」という字も入っていますよね。「本質」とも言い換えられますが、僕には「芯」のほうがしっくりくる。常に芯を捉えることを意識して仕事をしてきました。

-「芯」を捉えるため大切にしてきたことはありますか?

石井:博報堂に入社してから、生活者インサイトを見つけようというのを常に意識してきました。仕事だけでなく、友人関係や恋愛関係でもインサイトを考えるのが楽しくなって。ちょっとヤな奴ですよね、そんな人の心の内側ばかり考えている奴って(笑)。でも楽しくて、思わずやっちゃう。教訓としては、人間関係のなかでインサイトを見つけても、決して口にしちゃいけないということ。見つけたことは口に出さず、そっと自分の行動に反映することが大事だと思いました(笑)。
それは広告でも同じことで、ターゲットに対して「あなたのインサイトはこうだから、これが答えです」と差し出すだけではダメ。考える余白をつくったりして、答えを生活者のものにしてもらうことが大事なんですよね。仕事でもプライペートでも同じことなんだと思います。

広告から事業サービス領域へ。クライアントとの対話のなかでアイデアを生み出していく

-インサイトを見つめながらコピーライターとして仕事をしてきた石井さんが、事業サービスまで領域を拡大していくことになるわけですが、なにかきっかけがあったのですか?

石井:30代まではコピーライターとしてCMをつくったりキャンペーンをつくったりしていましたが、40代に入ってからは言葉を武器にクリエイティブディレクターになっていきたいと思いました。個人的な仕事のやり方だけでなく、世の中的な変化も大きかったですね。それまではクリエイティブをつくって賞を獲ることなどで評価された時代でしたが、どんどん求められる仕事の領域が広がって、コピーだけ書けてもタッチポイントの一部にしかなれない。もっと上のレイヤーで仕事をしなければと痛感したのが2014年くらいでした。
あとは、自分より下の世代と話した時に、あきらかに広告への興味が薄れているように感じたのもその頃。広告よりも商品そのもの、事業そのものでおもしろいことをやったほうが注目される時代になっていると感じたんです。

-事業サービスまで領域を広げることで、具体的に変化したことは?

石井:コピーライターやプラナーの仕事はアイデアを紙に書いて提案する、というやり方ですが、事業領域の仕事では改まってプレゼンの場を設けるのではなく、クライアントと対話するなかでクイックにアイデアを出すスタイルに変わっていきました。
アドリブでアイデアを出す、と言うとかっこいいですが、実際はその前にたくさん案を用意しているんです。このやり方は博報堂のレジェンドと言われる宮崎晋さんがやっていた手法。宮崎さんって、オリエンの席にアイデアを持っていっちゃうんですよ。生活者の視点で商品やブランドの課題を自分なりに見つけて、それを解決するためのアイデアまで先回りして用意しておく。それをオリエンの場でクライアントに見せると、「あ、たしかに本質的な課題ってこっちだよね」とオリエンの内容が変わったりするんです。

最終的に人を動かすのは感情。事業領域でも「戦略&感情」の組み合わせで勝負する

-広告クリエイターによるコンサルティングには人それぞれの「型」があると思いますが、石井さんの強みは?

石井:『裸の王様』という童話がありますが、「この王様、裸ですよね?」とシレッと言えちゃうのが強みかもしれません。ふつうは賢いと思われるために理論武装するんでしょうが、僕は「ちょっと不勉強なんですが教えてください」って言えちゃうし、「これってぶっちゃけ〇〇じゃないですか?」と言える強さがある。それは生活者発想という基本があるからなんです。たとえ女性向け商品を担当しても「うちのカミさんが見たらこう思うんじゃないかな」と言ったりするんですが、ビジネスのシーンであっても生活者の感情を常に忘れないことが大事。
決して論理を否定するわけではないですし、それは前提としながら、やっぱり最終的に人を動かすのは感情だと思うんですよね。コンサルティングのゴールはクライアントの心を動かすこと。それは広告で生活者の心を動かすことと同じだと思っています。クリエイティブの人間がコンサルティングをやるって、別に全然違う島に行くわけではなく、ちょっと対象をズラしているだけなんです。

-いまの業務はマーコム領域と事業サービス領域の半々くらいですか?

石井:そうですね。できれば両方やり続けたいという思いがあります。15秒のCMをひたすら突き詰める仕事も、対話のなかでアイデアを出すコンサルティングの仕事も、両方やらないと錆びてしまう。これからは、クリエイターとして両方できる人材が増えていくんじゃないでしょうか。

-コンサルティングの仕事ではどのような領域を担当しているのですか?

石井:事業やサービスの戦略だけでなく、商品のネーミングやパッケージデザイン、デジタル広告やPR、アクティベーションといった具体物もつくっています。ただ、経営の数字などはマーケターやプロジェクトマネージャーに優秀な人材がいるので、そのメンバーと組んで仕事をすることが多いですね。
僕が担当している梅乃宿酒造のプロジェクトでは、桑嶋くんというマーケターかつPMができる超優秀な相棒とコンビを組んでクライアントに対峙しています。広告をつくるときは昔から「アート&コピー」と言ってアートディレクターとコピーライターがワンチームになることが多かったですが、いまは言ってみれば「戦略&感情」の組み合わせ。マーケターと僕とで互いの領域も行き来しながらコンサルティングを行なっています。

「ワクワクの蔵」というコアビジョンがチャレンジを促した「大人の果肉の沼」

-梅乃宿酒造のコンサルティングは具体的にどのようなプロセスで行なっているのでしょう?

石井:梅乃宿酒造さんは130年以上の歴史をもつ奈良県の酒蔵。社長からDtoC事業のご相談をいただきました。伝統的な酒蔵ではやらないような新しい取り組みをたくさんしている酒蔵さんで、「なぜそんなにチャレンジするのですか?」と尋ねると「とにかく毎日ワクワクしたいんです」とおっしゃるんです。社長のワクワクしたいという思いが強く伝わってきて、2回目の定例会のときにはすでに、「ワクワクの蔵」というコンセプトをワンビジュアルにして提案していました。「ワクワク」という言葉で革新を、「蔵」という言葉で伝統を表現したアイデアです。

僕、なんでもすぐ一枚絵にして持っていっちゃうんです。先ほど話した宮崎さんがオリエンのときにアイデア持っていっちゃうのと同じですね(笑)。この「ワクワクの蔵」という言葉があったことで、クライアントともすぐに合意形成ができました。コアのビジョンさえ決まってしまえば、すべての基準が「ワクワクするかどうか?」で判断できるんです。打ち合わせでも「それ、ワクワクしますね〜」と僕が言うと、自然とポジティブな雰囲気が醸成されて、ちょっと冒険してみようとか、視野を広げてみようという空気が生まれる。
そんな打ち合わせのなかで生まれたのが「PARLORあらごし 大人の果肉の沼」です。もともと料飲店向けに販売していた「あらごし」という果実のお酒シリーズをもっとドロドロにして、ローストビーフにかけたり、かき氷にかけたりできる商品にしよう、というアイデアでした。

ふつうなら「沼なんて言っていいの?こんな変化球投げていいの?」と思うところですが、ワクワクするかどうか?という基準で考えるからチャレンジできる。コンサルティングというと数字を動かすことと思いがちですが、数字はすぐには動きません。その前に、「それ、ワクワクするね!」と人の心を動かすことが大事。数字はその後で付いてくるものです。
結果「すごい名前のリキュールがある」とSNSでも拡散されて大人気商品に。製造してもすぐに売り切れてしまう状況が続き、半年でECの売上を10倍まで伸ばすことができました。

AIにはできない、心を読んで動かすコンサル。「感情駆動型コンサルタント」に未来がある

-数字より先に、感情を動かしていくことの大切さを実感されているのですね。

石井:そうですね。AIが発達し続ける社会において、もうすでにChatGPTでネーミングやコピーを考えることもできる。誰もがクリエイティブできる時代です。でも、僕らがやっているのは、商品のことを突き詰めて考え、同時に生活者のことを見つめ続けて、その接点を鮮やかに結びつけるという人間の脳みそを使ったクリエイティブ。そのやり方でこそ、人の心を動かすクリエイティブジャンプができるんだと信じています。
人の心を見つめて、読んで、動かしていくことは、AIにはなかなかできない仕事なのかもしれません。論理のコンサルティングはいずれAIに取って代わられるかもしれませんが、心を読んで動かすコンサルは人間にしかできないし、それが広告をやってきた僕らの強み。脳波を測って心を読めるような時代になったらわからないですけどね(笑)。

-インサイトを読み続けてきた石井さんのスキルが生きるということですね。さいごに、これからやっていきたい仕事などありますか?

石井:博報堂はクラフト力のあるクリエイターがたくさんいるので、そういう仲間と事業サービス領域の仕事に取り組んでいきたいです。僕らがずっとやってきたクリエイティブは「ナタで切ってヤスリで磨く」という作業の繰り返し。切り口はナタで切るように大胆に、仕上げは精密機械のように磨きあげるという意味です。でもいまは、広告でナタを振ることがなかなか求められない時代。むしろ事業領域のほうが大胆な切り口を求められていると感じます。ナタで切ることが得意なメンバーがたくさんいますから、コンサルがびっくりするようなアイデアを生み出すことができるはず。そういう意味でも、今後はコンサルティング会社との競合プレゼンにチャレンジしたいですね。あとは「大人の果肉の沼」のような仕事をみて、企業さんからお声がけいただけたらこんなに光栄なことはありません。繰り返しになりますが、結果的に数字を動かすためには、人の心を動かさなければはじまらない。心を動かすことで人や企業を動かす「感情駆動型コンサルタント」に未来があると信じているので、その思いを共有できる仲間、クライアントさんとお仕事できたらうれしいです。

石井 雄樹
クリエイティブ局 大島チーム
【クリエイティブディレクター/コピーライター】

東京大学教養学部表象文化論学科卒 。「芯を食う 心を食う クリエイティブを生みだす」が仕事のモットー。主な受賞歴は、 朝日広告賞グランプリ・日本マーケティング大賞奨励賞・JPMベストプロモーショナルクリエイティブ賞・ADC賞(コピーライターとして受賞)・ACCシルバー・TCC新人賞・文化庁メディア芸術祭審査員特別賞 ・JAA消費者が選んだ広告賞等

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