(写真左から)
林 竜太郎
博報堂 ストラテジックプラナー
畠山 卓也
博報堂テクノロジーズ DXソリューションセンター プロジェクトマネージャー
牧野 壮馬
博報堂 データサイエンティスト
滝口 勇也
博報堂 上席研究員/クリエイティブファシリテーター
── はじめに、生成AIをデプスインタビューに取り入れる際に留意した点を教えてください。
林
まず、ボボットウでは 生成AIを使っている部分と使っていない部分があります。というのも、社会的な生成AIに対する期待感や万能感がある一方で、生成AIにすべて自由にインタビューさせるには技術的な発展が追いついておらず、まだ早いと考えているからです。また、AIには長期記憶を持ちにくい性質があることから、例えば30分〜60分という時間でインタビューを行う場合、当初の目的を忘れてしまうことも起こり得るでしょう。ですから現時点では、そういった技術的制約から インタビューフロー自体は人間が作り、生成AIが質問を生成して問いかけるといったハイブリッドの形にしています。また、基本的な生成AIの制御はプロンプトエンジアリングをメインに使っていますが、インタビューのデータを取った後の分析はPythonで行っています。企業によって課題感が異なるなか、定性的に聞かないとわからない現場のモチベーションの実態を、インタビュー結果から構造的に分析して、次の打ち手に繋がるきっかけになればと思っています。
畠山
一つひとつのインタラクティブな会話の中で、AIはある程度の短期記憶を引き継ぐことはできますが、生成AI単体のAPIを使う観点でいくと、人間と同じように質問を繰り返していくうちに最初の方で話した質問を忘れてしまう性質があるんですよね。
牧野
インタビュー時間が短く、そんなに凝ってない内容のものであればできると思いますが、企業向けに一定の専門知識を持った状態でインタビューを遂行していくのは、現状のLLM(大規模言語モデル)だと難しいと思います。
畠山
もちろん、そこは生成AIをカスタマイズしていけば解決できるところではありますが、単純に生成AIの制御や完了要件を決めるのが難しいという側面もあるんです。インタビューを実施するときは「何を持ってゴールとするのか」、「何を聞き出したいのか」といった目的をしっかり定義しなくてはなりません。特に、後者の「何を聞き出せば成果とするのか」という部分をAIが判断するのは非常に難しく、現実的ではないんですね。こうした背景から、ボボットウでは人間の考えるインタビューフローと生成AIで対応するところを棲み分けていて、現段階では最低限の目的を達成するというような仕組みを取っているわけです。ボボットウの根幹である、従業員の本音や仕事へのこだわり、好きを引き出すために、人間が用意した固定の質問を引き継いで、「〇〇と言ってましたけど、本当はどう思っているんですか?」とAIが問いかけていくことで、インタビュイーの懐に入っていくように設計しています。
──従業員の思いは千差万別と言えますが、本音を引き出すために生成AIを活用した創意工夫はどこにあるのでしょうか。
林
サービス編の話と繋がる部分としては、生成AIにボボまるというキャラクターの“人格” を目一杯注入したことです。プロンプトの指示によって、性格や喋り口調にもキャラクターの人格を反映させ、統一されたUXの中で温度感や手触りのあるインタビューにすることを目指しました。キャラクターが一貫性を持って質問してくれるようにすることで、なんとなく人間と話している感覚になっていき、次第にボボまるとの関係性が構築され本音を言いやすくしていく。設問の過程で、少しずつ自分のことをわかってくれていると感じるようなユーザー体験を意識しました。「距離感を少し縮められる人格を作る」ことにこだわったことで、サービスのテスト段階では、回答した従業員の方から「次回のインタビューでも、ボボまるに自分のことを忘れないでいてほしい」という声をいただくことができました。
滝口
また、企業が抱える組織課題やインタビューの範囲(正社員、パート・アルバイトなど)に合わせて、「組織風土改革カセット」や「採用ブランディングカセット」、「離職率低下カセット」など、あらかじめ用意している質問群(カセット)をもとに、人間がインタビューフローを設計しています。
インタビューフローの中でも、AIに合わせる部分はプロンプトを作成しているメンバーに渡す必要がありますし、定量的にデータを取りたい部分などはUIを設計するメンバーにお願いしなくてはいけないので、その辺りの取り回しや後工程を意識しながらインタビューの中身を作っています。