■谷脇からの推薦文
加瀬澤は、アツいのにクールな、揚げアイスみたいな人です。
初めて仕事を一緒にやらせてもらったのは加瀬澤がまだ2年目になりたての時でしたが、持ち前のアツさで数十名のスタッフを鼓舞し続け、随所にリーダーシップを発揮しながらプロジェクトを前に進め続けていました。
でも、ただアツいだけじゃない。ストラテジックプラナー顔負けの分析資料を打ち合わせに持ってきて、コアアイデアに至る決定打を自ら打ったことも。冷静にインサイトを紐解いて、ロジックを積み上げていく能力もとても高いです。
動きながら考えられて、考えながら動くこともできる。
この類まれなハイブリッド感は正直羨ましい。とても尊敬している後輩です。
でも僕は食べるなら揚げアイスより普通のアイスの方が好きです。
——今回は久しぶりにビジネスプロデューサーの方の登場です。2018年入社の加瀬澤力さんにお話を伺います。加瀬澤さんは、推薦者である谷脇さんとは、入社2年目で同じチームで仕事をされたそうですね。
加瀬澤力(以下、加瀬澤):谷脇さんは僕の4年先輩で、当時は自動車メーカーを一緒に担当していました。チーム自体とても若いメンバーが集まっていて、僕は谷脇さんとアクティベーションといった施策で一緒に組ませてもらっていました。
——谷脇さんにはどんな印象をお持ちですか?
加瀬澤:一言で表すなら「奇才」ですね。前回のインタビューでも出てきたと思いますが、お笑い芸人やったり、街のケーキ屋さんを目指したり、バックグラウンドがあまりに多様で、情報量が多すぎる。アイデアの飛ばし方とかは天才のソレなんですが、王道の天才というより、ちょっとズレた天才なんですよね…やっぱり「奇才」がピッタリだと思います。
——なんでも加瀬澤さんは、幼少時代、“激烈な”教育方針の元で育てられたとのこと。生い立ちから伺いたいです。
加瀬澤:父の教育方針は、「やるなら全て1番になれ」というものでした。元々兄の影響もあってサッカーをやっていたのですが、サッカーでも1番じゃないといけない。1番というのは学年で1番とか、チームで1番ではありません。やるなら世界一になれ。激烈ですよね。
そのために、徹底的にやり込む。僕は天才でもなんでもないので、とにかくやるしかない。時間をかけて、努力をし続ける。朝5時に起こされて走ったり、帰宅したら父の前でリフティングを1万回やったり…サッカーだけでなく、勉強も1番を目指して、ストイックな日々を送っていました。
——できるかできないかじゃなくて、やるかやらないか、ということですか。現に、加瀬澤さんはサッカーでも学生時代大活躍されています。
加瀬澤:本気で取り組んでいました。ただ、大きな挫折がありました。大学2年時に足を骨折しました。それまでは周りにも「自分のやり方は正しい。なぜなら本気で努力しているから。なぜ同様にやらないのか?」とエクストリームなコミュニケーションばかり取っていたのですが、怪我をして試合に出ることができなくなり、とあるチームミーティングに参加した時のこと。チームメイトから「この中に、お前が嫌い、ないし苦手だと思っている奴がたくさんいる」と言われ、その場にいた全員が同意の挙手をしたんです。
相当なショックでした。今まで自分の価値観が絶対だと思って、それを貫き通して、周りにもそんな自分の考えを押し付けていたことに気付かされたんです。でも、それが大きなきっかけだったことは間違いありません。心を開くこと、そしていろいろな人の考えを素直に吸収していくこと——その大切さに気付かされた瞬間でした。素直に、まっすぐに相手を受け入れることは、今の僕の仕事の軸にもなっています。
——学生時代まではサッカーに没頭していた加瀬澤さんが、なぜ博報堂に入社するに至ったのでしょうか。
加瀬澤:サッカーで食べていく道を諦めざるを得なくなり、就活することになりました。当時、業種は固定していなかったんです。というのも、父から叩き込まれた「1番になる」という姿勢は僕のテーマでもありましたから、自分が1番活躍できる業界に行きたかったから。
じゃあ、1番活躍できるための、自分の最大の強みってなんだろう。考えた末の答えは「人より先に前に出て、力強く自分の意思を主張できること」でした。ビジネスプロデューサー、つまり広告会社における営業とは、いろいろな価値観の人を巻き込んでリーダーシップを取り、1つのプロジェクトを進め、成果を最大化させる仕事です。これは、自分がサッカーでやってきたことと、大きくリンクする。それなら、広告会社の営業がベストだと考えました。多様なクライアントの業務に関われる方が、修練度も違うと思い、この業界を選んだんです。
…とはいえ、実は博報堂を選んだ最大の決め手は、人事の方に惚れ込んだからでした。僕は、就活は早く受かったところに入社するのではなくて、全部受けてみないと気が済まなくて。そんな時、博報堂の人事担当から「君には期待を感じているけれど、きっとこれからも就活を続けるよね。それなら、全部受かって、やり切ってから博報堂に入社してほしい」と言われて。もちろんこれは僕に限った話だと思うのですが、その一言に、「僕の人間性を尊重して、価値観や素材を活かし切ってくれようとしている会社なんだ!」と感動したんです。そんなエピソードがあって、絶対に走り切って博報堂に入りたいと思いました。
——入社してからのイメージギャップはありましたか?
加瀬澤:正直ありませんでした。就活をやり込んでいたので、OB訪問で聞いていた仕事のイメージとの乖離はほぼなし。結局、最初から僕がやりたかったのは自分のリーダーシップを発揮しやすいポジションにつくことだったので、博報堂のビジネスプロデュース職につけたことは純粋に嬉しかったです。
ただ、もちろん仕事は一筋縄ではいきませんでした。この業界が難しいと感じるのは、クライアントの業績が振るわない場合、広告費から最初に見直されることが多いということ。そんな時、何を働く上でのモチベーションにするかは人それぞれです。だからこそ、社内での目標設定がずれていたり、すり合わせができていないと、とても辛いと感じます。
——クリエイターもいれば、ストラテジックプラナーもいる。そしてもちろん、クライアントという社外の方もいる。同じ目線に合わせ続けるのは、そう簡単なことではないように思います。
加瀬澤:サッカーはすごくシンプルです。個々がどうであれ、最終的に1-0でも勝てばいいし、トーナメントに優勝すればいい。それが唯一のゴールです。しかし、この仕事はルールとゴールが人によって異なる。だから、僕らビジネスプロデューサーは、そのルールとゴールをしっかり設定するのが最大の役割なのだと考えています。
——一つのプロジェクトにおいても、社内外にたくさんの関係者がいる。だからこそ個々の持つバラバラなルールやゴールをどう落とし込むか…最適解を探す秘訣はなんなのでしょうか。
加瀬澤:例えば、プロジェクトにおいて自分たちがどこを目指さねばならないのか、ゴールが明確化されていないことは往々にしてあります。ゴールを設定するには、まず自分たちの考えていることや現在地の解像度を高めて、言語化していく必要があります。
もちろん、それは簡単に言葉にできるものではありません。何度も対話を重ねて、クライアントの方々のモチベーションはどこにあるのかを、ひたすら聞き続けるんです。それが僕らビジネスプロデューサー職にとっての、本質的なコミュニケーションだと思います。対話を続けることですね。
——相手が心を開いてくれるまでに、時間もかかるのではないでしょうか。
加瀬澤:そうですね。過去に、クライアントの方とコミュニケーションを取りたくて、電話やメールでアポを取ろうとしたのですが、なかなか返事がなくて、クライアントのロビーでひたすら張り込んでいた時もありました。会えなかった日には、その時期がたまたま七夕だったので、ロビーにあった笹の葉に短冊でログを残したこともあって…(笑)
この短冊のエピソードは、ちょっとしたギャグみたいなものなのですが、僕の中では「できる限り多くの、誰かの記憶に残るような仕事がしたい」という思いがあって。誰もやっていないことをやるのが好きなんです。短冊の話も、きっとロビーの笹の葉に短冊を残すような営業っていないと思ってやりました(笑)
これ、面白そうだなと思ったことはやってみたいし、誰かの記憶に残り続けるなら全力でやりたい。そして、僕が言ったことや下手なりにも作ったもので誰かが幸せになったり、発見があったりしたら、それって幸せじゃないですか。どれだけオンラインでのコミュニケーションツールが発達しても、「加瀬澤じゃないとできないコミュニケーション」をし続けたいです。
——入社して7年ですが、この仕事の醍醐味はなんでしょうか。
加瀬澤:先述の話にも被りますが、自分自身に裁量を与えてもらうシーンも増えた今だからこそ、誰もやっていないような取り組みを構想して実行できることですね。広告会社そのものの醍醐味は、掛け算だと思っていて。Aという企業とBという企業の間に、僕らが接着材のように存在していて、その2社をくっつけることで、シナジーが生まれ、課題が解決される。それが、僕らがいる付加価値だと考えています。それぞれの利害や目的、ゴール、モチベーションを日々肌で感じ取りながら、最適なゴールを提案するのは、このビジネスプロデューサーという職業だからこそできることです。楽しいですね。
——今後5〜10年といった中長期的なスパンで、目指したいことがあれば教えてください。
加瀬澤:博報堂はもっと自由であっていいと思うんです。もちろん、仕事をしていればいろいろな事情や社会情勢で、やりたいことができないこともある。けれど、博報堂はこれまで、一見誰もピンとこない価値観やアイデアにもフォーカスをして、それを面白がってきた会社だと思っています。そんな博報堂らしい独自の視点を、もっとビジネスとして成り立たせられるような体制や組織を作ってみたいです。
博報堂の人って、みんなめちゃくちゃ優秀なんです。先輩も、後輩も、僕が考えつかないようなことを発想できる人ばかり。そんな人間力に優れた人たちが周りにいるからこそ、もっと自由に、もっと楽しく働ける場所にできる気がするんです。
——博報堂の中で「1番になる」という思いもおありですか?
加瀬澤:これまでは、なんでも1番を目指し続けてきた自分でしたが、今は決められたルールの中での1番ではなくて、誰かにとっての“唯一無二”をたくさん増やしたいと思っています。「誰かの記憶に残る」ことを願って精進していきたいです。
取材・執筆=田代くるみ(Qurumu)、撮影=杉能信介