THE CENTRAL DOT

デジタル時代の「新・ブランド論」【第3回】
生活者インタビューから読み解く、情報接触と選択のリアル

2024.09.05
SNSなどデジタル環境の変化に伴い、生活者の情報選択・購買・消費行動は大きく変化しています。また、様々なテクノロジーの登場によって、企業の行うデジタルマーケティングも日々進化しています。その一方で、長期的な視点に立った企業と生活者との絆づくりである「ブランド」はどうでしょうか?デジタル時代において、改めてブランドとは、ブランディングとはどうあるべきなのか──そんな問題意識からスタートした「デジタル時代の新・ブランド論」構築プロジェクト。
本連載では、マーケティング、消費者行動論、社会心理学などに精通した研究者と博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・センターのメンバーによって進められているプロジェクトをご紹介します。
第3回では、本プロジェクトにおいて実施したデプスインタビューで得られたリアルな生声や具体的な行動をもとに、デジタル時代における生活者の情報接触やコンテンツ選択、購買行動がどのように変化しているのか、またそれらが何に影響されているのかを議論しました。
第2回はこちら

<プロジェクトメンバー>
(写真左から)
西村 啓太
博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 室長補佐
本プロジェクト共同代表

石淵 順也氏
関西学院大学商学部 教授

澁谷 覚氏
早稲田大学大学院経営管理研究科 教授
本プロジェクト共同代表

柿原 正郎氏
東京理科大学経営学部国際デザイン経営学科 教授

米満 良平
博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 上席研究員

SNSネイティブな生活者は“情報過多”を感じない

西村
今回はデプスインタビューで出た発言や意見を振り返りながら、議論していければと思います。まず、博報堂DYグループにて行った消費者のデプスインタビューの調査設計を紹介します。情報をもっと知りたくなる、人に伝えたくなる、思わず買いたくなるなど、次の行動につながる感情そのものの変化や変化する瞬間をこのプロジェクトでは、「感情モーメント」と呼ぶことにしました。その「感情モーメント」を探るべく、合計16名にインタビューを実施しました。世代による違いも含めて幅広く意識を捉えるため、男女若年層(20~27歳)および男女中年層(30~40代)、さらに「直感的な購入」と「理性的な購入」という買物の仕方によってグループを分けています。

では、さっそくリアルな声を見ていきたいと思います。最初は「情報量」についてです。

西村
デジタル時代の情報量の多さに困っている生活者も多いのではと思っていましたが、案外困っていない、むしろ情報量の多さをポジティブに捉えている方が多く、印象深かったですね。選択肢が増えるので良い、SNSで自分に合った情報だけを見ているので情報が多いとは思わない、などの意見が象徴的でした。余計な情報はスルーするのが当たり前、といった様子もありましたね。マーケターや研究者からの視点だと、情報量の多さはどうしても目につくのですが・・・(笑)。

柿原
そうでもなかった、むしろ全然困っていなかったということですね。たしかに学生の話を聞いていても、我々の見方が古いんだと思うこともあります。スマホネイティブ、SNSネイティブだと、まったく感覚が違いますよね。

米満
「情報過多時代」という言い方がよくされますが、これはマーケティングを実行する企業目線の表現なのかもしれないですね。今回のデプスインタビューで、強く実感した点のひとつです。企業側は自分たちが発信した情報が埋もれてしまうという悩みがあるので、情報量の多さに対してネガティブな印象をもってしまいますが、生活者の視点ではそもそも見え方が違っていたということでした。

柿原
90年代から2000年代、多すぎる情報の中で必要な情報が見つけられない「インフォメーション・オーバーロード」という概念が広まりました。我々の世代には、そうした中で情報を精査して選ぶ感覚がありますが、今はいつでもどこでも情報が取得できるから、選ぶというより好きなときにほしい情報を得ているんですね。だから困らない。

石淵
中には我々と同じような感覚で話されている方もいたので、世代でもまた違うんだろうなという気もしました。例えば、ひとつにSNSの使い方の違いがありそうですね。特に若い世代ほど、自分のフィードに好みの情報だけが流れてくる心地よさに慣れているので、情報の多さはさほど気にならないんだろうと思います。

FACEBOOK
でシェア

X
でシェア

関連するニュース・記事