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こそだて家族を解放する、幸せな新視点 第3弾
放課後NPOアフタースクール/VIVISTOP NITOBE
「選択肢」と「居場所」から生まれる幸せな放課後の可能性

2024.09.11
博報堂こそだて家族研究所による、既存の教育の形に囚われない新しい教育に挑戦している方へのインタビュー連載。第3弾は「放課後の新しい選択肢」を探り、実践している放課後NPOアフタースクール代表理事/新渡戸文化学園理事長の平岩国泰さん、新渡戸文化学園内にあるクリエイティブラーニングスペース「VIVISTOP NITOBE」の山内佑輔さんと、新渡戸文化高等学校の大澤結穂さん、髙橋ほのみさんに話を伺いました。
共働きが当たり前になり、学校と親だけでは子どもを「見きれない」現状の中、習い事で忙しいと感じたり、もっと遊びたいと感じる子どもが増えています。幸せな放課後の実現のために、今どんな取り組みが実践されているのでしょうか。そして、そんな取り組みを放課後に体験してきた子どもたちは今何を感じているのでしょうか。

ゲスト:
平岩 国泰
放課後NPOアフタースクール 代表理事
新渡戸文化学園理事長

山内 佑輔
VIVISTOP NITOBE クルー
ジェネレーター/エスノグラファー

大澤 結穂
髙橋 ほのみ
新渡戸文化高等学校3年生(取材当時)

聞き手:
伊勢 壮太
博報堂こそだて家族研究所
博報堂 ミライの事業室 ビジネスデザインディレクター

用丸 紗希
博報堂こそだて家族研究所
博報堂DYメディアパートナーズ 新聞雑誌局 メディアプロデューサー

善福 沙李
博報堂こそだて家族研究所
博報堂 クリエイティブ局 アクティベーションディレクター

■放課後から時間、空間、仲間という3つの「間」が失われてしまった

伊勢
今の日本は、共働きが増えて少子化が進む一方、塾通いなどで忙しいと感じる子どもが多く、諸外国に比べて子どもの幸福度があまり高くないという残念な現状があります。そのうえで過半数の親が、安全面や学習面、そもそも楽しく過ごせているかといった点で放課後に不安を感じています。学童保育も、利用者が増える一方で待機児童の問題や、働き手の環境悪化も指摘されています。こうした現状をふまえ、どうしたら幸せな放課後がつくれるのか、放課後の選択肢は実はもっと広げられるのではないかという点を皆さんと議論できたらと思います。

平岩さんは「放課後NPOアフタースクール」を主催されていますが、もともとどんな問題意識をお持ちだったんですか?

平岩
せっかく学校の時間が終わって、「課」から「放」たれた「後」のはずの放課後に、子どもたちがあまり放たれていないことに課題を感じていました。僕らが子どもだった昭和の時代は、地域の中に安全性があり、小学生になれば子どもだけで遊んでいいという社会の合意がありました。その安全性が脅かされた結果、子どもは決められた場所で決められた通りに放課後を過ごすしかなくなりました。

さらには、昔よりも授業が増えたことで自由に過ごせる時間そのものが短くなっていますし、自由に遊べる空き地のような場所も減りました。その結果一人で過ごさざるを得ない子どもも増えた。時間、空間、仲間という3つの「間」が失われてしまったのが非常に大きいと思います。

伊勢
山内先生はいかがですか。

山内
僕は、大人がサービスの提供者と受給者という関係性に分断されていることにも課題を感じます。子どもを預けられる安全な場所がないため、多くの親が放課後に習い事をさせていますが、親はサービスを買うわけですから「こういう能力が上がる」「受験に有利」などの成果を求めます。サービス提供者は成果を出すために、より効果の高い、効率的に価値を提供できる形に持っていくことが使命になってしまう。その結果、子どもの選択肢を奪ってしまっているのが今の社会かなと思います。

用丸
対価を払うことで、無意識のうちに関係性に意味が持たされてしまう、というお話にはハッとさせられました。
平岩さん、どういった経緯で放課後NPOアフタースクールの活動を始められたのか、改めて教えていただけますか?

平岩
大きなきっかけは2004年に子どもが生まれたことです。子どもの連れ去り事件が相次いだ年で、とても他人事とは思えませんでした。そして、事件を扱う新聞記事を読むうちに、子どもが犯罪に巻き込まれるのが午後3~6時の放課後の時間に集中していることに気が付き、「放課後の時間を何とかしなくてはならないのではないか」と考え始めました。またその頃、たまたま友人から、アメリカではアフタースクールという場が子どもたちに安心安全に過ごせる放課後の時間を提供していることを聞いたのです。当時僕はまだ会社員でしたが、「自分がやるべきことはこれだ!」と運命を感じ、NPO法人立ち上げに動いていきました。

善福
具体的にはどのような活動を行っているのですか。

平岩
地域の方に“市民先生”として伴走していただきながら、放課後の校舎やグラウンドをフル活用して、スポーツから料理、工作など子どもたちがさまざまな活動に挑戦できる環境を整えています。常時8種類くらいのプログラムを用意し、子どもたちが自由に過ごし方を選べるようになっています。

伊勢
アフタースクールを実際に活用してきた大澤さん、当時の放課後を振り返ってみていかがですか?

大澤
放課後も、アフタースクールという場で友人たちとまだ一緒に過ごせることが嬉しかったです。小学校高学年では塾に行き始める子も多く、一緒に遊べる友達も減ってしまうのですが、それでもアフタースクールという場が共通の居場所になっていました。特に好きだったのは、女子美術大学の先生が来てくださっていたデザインのプログラムです。初めて機織り機の存在や、その使い方を教わることができ夢中になりました。卒業後はデザイン系の進路に進む予定ですが、間違いなくアフタースクールでの経験が原点になっています。

善福
親としても、居場所ができるというのは安心しますね。教室に居場所がないと感じてしまう時期もあるかもしれないけど、学校の外で安心して過ごせて、自分の興味関心を掘り下げたり、可能性を試すことができる場があるというのは素晴らしいと思います。

伊勢
山内先生はもともと公立小学校で図工専任の教員をされていましたが、2020年、新渡戸文化学園内にあるここ「VIVISTOP NITOBE」の立ち上げから企画運営を担当され、現在“クルー”として活動されています。 VIVISTOPでの取り組みについて教えてください。

山内
VIVISTOPは主に10歳以上の子どもが対象で、クラフトツールやデジタル機器などをフル活用し、子どもたちが思うままに創造性を発揮してものをつくったり試したりできる場です。「くだらないこと、意味のないことをやっていい」という方針を徹底したいと考えていて、僕も先生ではなく、同じクリエイターとしてここに存在し、互いに刺激し合いながらものづくりを楽しめたらいいなと思っています。

伊勢
髙橋さんはVIVISTOPを利用してきて、どんな印象をお持ちですか。

髙橋
こうすべき、という正解がない場所でした。自分が思ったものを形にしていくプロセスの中で、自分が自分らしくいられたというか、ここでなら思い切りやれる!という気持ちになれる場所でしたね。

山内
ここでは、人・モノ・コトは同時に存在すると思っています。急に自由に過ごせと言われると戸惑ってしまうものですが、そこにモノがあれば「何これ」となって、やってみて、その結果コトが生まれます。またここでは大人も、いちクリエイターとして手を動かしているので、「何をやっているんだろう」と興味を引くきっかけになります。とにかくここへ来てうろうろしていれば、興味のきっかけが何かしら見つかる。そういう環境にしたいと思っています。

用丸
自分自身が高校時代は、アフタースクールやVIVISTOPのような場所で目的なく好きなことを学んだり、フラットに社会人と触れ合う機会はなかなかありませんでした。いろいろな選択肢の中から興味があるものを試すことができ、家族や学校といった枠の外の世界の大人の存在も身近に感じられて視野が広がる。そうした経験を通して自分の好きなことがクリアになったり、自分自身をよりよく知ることにつながっているのでしょうね。本当に子どもたちにとっては大きな意味のある環境だと思います。

■放課後に培われた、退屈に向き合いモヤモヤし、何かを生み出す力

伊勢
時代が変わっても変わらない、放課後のあるべき姿とはどんなものでしょうか。あるいは、どんな放課後であってほしいと思われますか。

平岩
もっと子どもが選べる環境をつくれたらと思います。そのためには親を含め社会全体の意識の変革も必要です。学童も、その存在目的が「親が働けるようにするため」になっていますよね。でも本来、子どもは自由に放課後にやりたいことをやる権利がある。僕らはアフタースクールを通してそこを補強しようとしていますが、子どもにはいろいろな居場所があってしかるべきだと思うし、そのためには社会的合意も必要。「放課後は子どもが主体的に過ごせる時間であるべき」「だからそれを保証しよう」と言える社会を目指したいと思っています。

とはいえ価値観は簡単には変わりませんから、おそらく一世代、30年くらいのスパンで取り組むべき課題だとは思います。我々の世代はとにかく共働きを成立させるために汗をかきまくり、やがて待機児童の問題も徐々に解消されてきました。今は学童が足りなくなっていますが、しばらくすればそれも解消されるでしょう。そうして初めて質に目が向くようになり、今の学童のあり方についても議論が始まるのではないかなと思います。

伊勢
僕らは30代ですが、博報堂こそだて家族研究所のメンバーに男性がいるということが、ひとつ前の世代に比べれば大きな変化だと思います。一方で男性の育休取得については、制度は整いつつもまだまだ取得率が低かったりする。まさに今は過渡期で、時代の変わり目なんですね。

山内
小学校高学年になって、周りが受験の準備を始めると、受験しない子たちは一緒に遊べなくて退屈を持て余してしまいます。でも僕が、時代が変わっても変わらないと感じるのは、この「退屈」です。つまり、昔から子どもってすぐ退屈してしまうからこそ、無理やりいろんな遊びを生み出してきたわけです。僕ら大人は、子どもの「つまんない」に過剰反応するのではなく、子どもの退屈を受け止める覚悟も必要。退屈を味わう時間も本質的には必要なんじゃないかと思うんです。ただ動画を見ていれば時間は潰せてしまうので、スマホは大敵ですね。

善福
友だちと遊べなくなって退屈を感じるということは、同時に孤独感も感じているということですよね。でも仲間がいれば、面白い体験にもつながるような気がします。子どもたちにとって、スマホ以外の選択肢があるということが、当たり前になってほしいですね。

伊勢
大澤さんと髙橋さんは、放課後の時間を使っていくつかプロジェクト活動も行ったと伺いました。

髙橋
私たちは中3の頃から、適切な森林管理を認証するFSC®マークの普及活動を一緒に行ってきました。より視覚的にFSC®マークについて伝えられるよう、iPadを使って絵本仕立てにしました。

高橋
絵本をつくるだけではなく、FSC認証の森がある東京都の桧原村に赴き、ワークショップも企画しました。そもそも前例がなかったので、誰をいつ呼び、何を目的にして、どんな形で実施するのかなど、放課後の時間を使ってすべてゼロから考えていきました。

大澤
それから、卒業を機にこれまでの体験を振り返り、デジタルブックにまとめる取り組みも始めています。私は小中高、高橋さんは幼稚園から高校3年生の現在まで新渡戸で過ごしてきたので、それぞれ新渡戸愛が強くて(笑)。何かを形に残したい、でも何ができるだろうかと、放課後の時間にモヤモヤしながらずっと話していました。

山内
誰に言われるでもなくゼロから活動をつくっていくのは、大人でもなかなかできないこと。そんな力も放課後に培われたのかもしれないと思うと、放課後の大切さを感じます。

善福
自分で目的を考えて行動するという、仕事に近いようなことを、高校生の時点でごく自然に楽しんでできているのはすごいですね。まさにそうした力は、学校の授業だけでは学べないことかもしれません。

■居場所の数が増えるほど幸福度は上がる

伊勢
5年後、10年後、どんな社会になっていてほしいという願いはありますか。

山内
時折、親御さんから「この子はやりたいことがまだ決まっていないので、活動には参加させられない」という話をされます。大人は確実性の高い方を選ぼうとしがちですが、今は明らかに逆の、不確実性の時代です。未来は予測しにくいし、答えがはっきりしないことも多い。あれこれ試行錯誤して生きていくのがこれからの時代ならば、何かにモヤモヤし、考え、糸口を探し、トライして、またモヤモヤする…そんな時間を楽しみながら、放課後に積み重ねることを大切にしたいです。

髙橋
5年後10年後に限らず、本当にやりたいと思えることが出てきたときに、それに挑戦できる環境や、応援してくれる大人がいることがすごく大事だと思いました。

大澤
大人も、子どもと対等な立場で、一緒に楽しめるような社会になればいいと思います。子どもをコントロールしようとするのではなく、子どもの可能性を引き出しながら、もっとやってみよう、楽しもうと大人が思えるような社会が理想的です。

伊勢
偶然ですが、「親が楽しむ姿を見せることこそが、子どもにとってもいい未来につながる」という話を、平田オリザさんからもされたばかりです。

平岩
5年後10年後、子どもの居場所が今よりもっと増えているといいですね。居場所が増えるほど、幸福度や自己肯定感、社会貢献欲なども上がっていくことがわかっていますから。できれば家庭や学校の他に、3つ目、4つ目の居場所があるといい。それは「人」でもよくて、おじいちゃん、おばあちゃんのように、行けば必ず喜んでくれる存在がいるだけで、心に一つ居場所ができます。斜め後ろから見守っているような大人が周囲に増えれば子どもの幸福度も上がると思うんです。そういう社会を放課後からつくれるといいですし、大人が口を出さない放課後の時間を、子どもたちの手に還したいですね。

伊勢
髙橋さん、大澤さんのお二人は、未来が楽しみですか?

髙橋
自分が面白くてドキドキしてワクワクして、モヤモヤするような未来をつくれたら嬉しいですね。

大澤
放課後の活動を通して、先の見えない、答えのない問いに向き合う楽しさを知ることができた。だから未来もとても楽しみです。

用丸
目指す社会に近づけるために、私たち大人が今からできることは何でしょうか。

平岩
子どもの頃、退屈だった時に自分がいくつか遊びのアイデアを出すと周りがすごく楽しんでくれたのを覚えています。また図工の時間に、使ったお皿を洗って片付けていたら、「平岩君は使う前よりキレイにして戻してくれました」と先生にすごく誉められたんです。自分の行動によって誰かが喜んだり、人や社会がちょっとでもよくなったと思えるなら、とても幸せなことだと気づきました。そんな体験をする大人が増えていけば、やがて社会も変えていけるのではないでしょうか。そして、子どもたちの成長する力をもっと信じて、彼らがやりたいこと、探究したいこと、学びたいことを大事にしていけたらいいと思います。

伊勢
もっと長い目で子供を信じてみたいと思いました。本日はありがとうございました!

スタッフ後記

「子どもたちの手に還したい」
もしかしたら、大人は子どもたちから、いろいろなものを奪ってしまっているかもしれない。お話を伺い、とてもハッとした瞬間でした。私自身「これをやっておいた方がいい」「今日はこうやって過ごそう」と、親として子どもに良かれと思って先に選択肢を潰したり、時間の使い方を決めたりしてきました。それは、知らず知らずのうちに子どもの選択や時間を奪っていたのかもしれません。放課後は退屈でもモヤモヤしていても、子どもに任せて良い。まさに新しい視点を頂きました。(伊勢)

生徒さんたちの意志のある瞳が印象的でした。
親心でつい退屈を埋めようとしてしまう。だけれども、余白があるから自分で考えて選ぶことができる。自ら選ぶことが糧になり自信につながるのだと、平岩さん・山内さんのお話から学ぶことができました。
親が子育てに悩む不確実な時代だからこそ、子どもたちには時間の過ごし方を自分自身で選ばせたい、そう強く思いました。(善福)

「目的のない時間と空間が、探究心と個性を伸ばす」
子どもの視野を広げるための習い事だったはずが、対価を払うことで親は無意識に成果を求めてしまい、提供側は効率的に成果をあげるため、教育がサービス化してしまっていることが多いというお話には気づかされるものがありました。
一方でVIVISTOPは、目的のない時間と空間だからこそ、子どもの純粋な「やってみたい」が生まれて、成果が求められない環境の中だからこそ、夢中になって取り組んだ先に純粋に自分が「好きなこと」を知ることができる、ということが理想的な子どもの視野の広げ方、探究の機会提供だと感じました。安全な環境下で、たくさんのプログラムや経験、専門家との出会いを選択することが出来、自走的な探究の先に子どもの個性が確立されていく、VIVISTOPのような放課後の環境が日本中に広がればよいなと考えさせられました。(用丸)

平岩 国泰
放課後NPOアフタースクール 代表理事
新渡戸文化学園理事長

山内 佑輔
VIVISTOP NITOBE クルー
ジェネレーター/エスノグラファー

博報堂こそだて家族研究所

博報堂こそだて家族研究所は、子育てに正解はなく選択肢が無数にあるこの時代に「こそだて家族」のこれからの姿を研究・調査・情報発信を行うプロジェクトです。現役のパパママ世代が中心となり、クリエイター、ストラテジックプラナー、PRプラナー、メディアプラナーなど、多様なスキルを持つスタッフが所属しています。「小学生の子を持つファミリー」を中心としながら、マタニティから大学生の子を持つファミリーまで幅広いこそだて家族を対象としたマーケティング&コミュニケーションの専門家として、新しい視点や考え方の提案を行っています。
https://www.hakuhodo.co.jp/kosodatekazoku/

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