■参加メンバー(写真左から)
・竹内慶:博報堂研究デザインセンター 生活者発想技術研究所所長/ BranCo! 運営サブリーダー
・山野井英未(インタビュアー):博報堂研究デザインセンター 生活者発想技術研究所 研究員/BranCo!運営スタッフ
・瀧﨑絵里香:博報堂研究デザインセンター 生活者発想技術研究所 上席研究員/BranCo!運営サブリーダー
・山崎茜(インタビュアー):博報堂研究デザインセンター 生活者発想技術研究所 研究員/BranCo!運営スタッフ
・宮澤正憲:博報堂執行役員 研究デザインセンター長/ BranCo!運営リーダー
ー本年度のBranCo!では改めて、”生活者発想”に着目すると伺いました。
宮澤
以前から生活者発想は重視しておりましたが、今回さらに際立たせたいと思い、新たに”生活者発想”を評価ポイントに加えました。アイディアを企画する際には、「生活者の想い」や「世の中や生活者がこれで動くか」という視点が企画に魅力や迫力を持たせる上で重要になってきているためです。
ーそもそも生活者発想とはどういうものですか?
竹内
生活者発想とは、博報堂が40年以上フィロソフィーとして掲げている、人を“消費者”と捉えるのではなく、主体的に生きている人間の生活全体を捉えようとする考え方です。学生の方々にとっても、生活者発想は3つの視点から力になりうると感じています。
①インプット・コンセプト・アウトプットという一貫したプラニングのひな型が身につく
②「消費」以外も含めて考えることで、常識や固定概念に対してオルタナティブ(別解的)な見方ができるようになる
③自分自身や人間自体を多面的に捉える姿勢が身につく
これによって、物事を新たな視点で捉えたり、考えをまとめて伝えたりするような多様な場面で活用することができる発想だと感じます。
宮澤
最初の調査だけでなく、コンセプト、及び最後のアウトプットの部分に至るまで生活者発想が使えることを理解しておくことは大事な点だと思いますね。矛盾や飛躍無く、最初から最後まで一気通貫していることはBranCo!のプレゼンにおいても重視される点です。
ー現代において、なぜ生活者発想が重要となるのでしょうか?
宮澤
ビジネス全体として生活者発想の重要性が増している時代背景はいくつかあります。
①多面化・複雑化する情報環境
以前は企業と消費者の1対1の関係だったことが、現代ではSNSを通じて評判や口コミ情報を見るようになっています。ビジネスの相手を”消費者”としてだけ狭くとらえるのではなく、周りからの影響を含めたより広い視点を持つことがマーケティングのポイントとなるのです。
②ビジネスと社会貢献の両立
以前は主に企業利益をあげることに注力していましたが、現代ではSDGsなど世界的な流れにより、社会性と経済性の両立をしなければならなくなっています。ビジネスを考える上で、世の中や生活者にとって本当に良いのか問われるようになってきていると感じます。
③AIの台頭による”人間らしさ”の問い直し
生成AIも含めて様々なものが自動化できる時代において、より人間ならでは視点が大事になります。AIだとデータによって人を一面から捉えることはできますが、人間は想像力を働かせて一人をより多面的に捉えることができることは、重要なポイントですね。
竹内
現代はVUCAの時代と呼ばれ、不確実性が増すなか、“どこかからやってくる”未来に何とか対応しなければならないと思われがちですが、未来の社会は一人一人が生活していくことでしか生まれないと思っています。それぞれの人々や企業が意思を持って未来に向かって歩んでいく生活者であると捉えることは根本的に大事になると感じています。
人的資本経営などと言われて久しいですが、人間を“企業人”として捉えて発想してしまっていることにボトルネックがあるのかもしれません。“一人の生活者”としての自分の声に素直になり、現状の固定観念にとらわれた自分からどう脱却できるのかと考えることがイノベーションにつながると思います。
瀧﨑
BranCo!は、テーマは抽象的ですが「やり方には型がある」という、少しめずらしいパターンだと思います。正解のない問いにチームで挑み、想像力を働かせてテーマそのものを解釈することで生活者発想を実践的に体験してもらえる機会になると思います。
ーBranCo!ではどのように生活者発想を学べるのでしょうか?
竹内
やり方の型は非常にシンプルな「インプット・コンセプト・アウトプット」の3段階です。多様なインプットをコンセプトに集約して、そのコンセプトをアウトプットに広げるというリボンフレームを使用しています。
今年からはそれに(本記事後編で触れる)アスピレーションが加わりますが、基本はその型で半年間チャレンジいただいて、その体験の中で自然と生活者発想を身に着けていただくものとなっています。
宮澤
型があることで、型をどう破るのかを考えたり、それを自由に加工して新たなものを考えたりしてもらえると嬉しいですね。ベースの基準や型を持ちながら、自主的に長期で取り組んでスキルを上げていくことは、ある意味究極のアクティブラーニング(能動的学習)だと捉えています。
瀧﨑
加えてBranCo!の期間中は、そのリボンフレームの説明や使い方のポイントなどを豊富に含んだレクチャーを社員の方から提供させていただきます。
また、予選を通過したチームには、生活者発想を業務に取り入れている社員がメンターとしてつき、人によっては現業さながらの熱いアドバイスをさせていただいています。社員との交流を通じて生活者発想について学べるような仕組みになっていると思います。
ー過去のBranCo!の優秀作品はどのように生活者発想を活かしていましたか?
竹内
①第1回(テーマ「お土産」)グランプリチーム:大盛りライス
あるチームは、旅行から帰った後の疲れたタイミングにいただく、割りばしのついた即席みそ汁をお土産として提案しました。旅行の楽しさが一番落ち込む最後の瞬間をグッとあげたいという生活者の気持ちに寄り添った着眼点がまさに実体験を伴った生活者発想だと感じましたね。
②第6回(テーマ「笑い」)グランプリチーム:ひょっこりはん
メッセージ内の「(笑)」が増えると社交辞令の多いコミュニケーションとなるということを発見し、それを探知してアラームを通知するという、「笑うことは良いことだ」という前提を疑い、「笑」をアラートにするという逆張り・別解的見方も印象に残っていますね。
宮澤
③第2回(テーマ「旬」)グランプリチーム:素直に。
そもそも「旬」の食べ物とは、消費を前提としている概念ですが、優勝チームは発想を転換して、変化する環境の中でたくましく生き残ったものを「旬」と再定義し、自分がそれを食べることがエネルギーをもらえることが旬の生活者価値なのではないかと提言していたことが非常に興味深かったですね。
ー生活者発想が身に着くと何が良いのでしょうか?
宮澤
生活者の感覚を起点にリボンフレームで考えることは、プレゼンをする時、文章を書く時、計画を立てる時など多様な場面で役立てることができます。
実際BranCo!経験者で生活者発想を実社会で活用している人も多くいますね。例えば弁護士になった方が、法律に対する違和感を時代の流れや生活者の視点から感じることが多く、法律を変える動きを実際に行ったという例などがそれにあたります。生活者発想は、どんな領域の仕事に就いたとしても、役にたつと思います。
瀧﨑
また広い視点で生活者を見つめることは、自分のことも見つめる目線が身につき、自己理解を深めることにも繋がると思いますね。たとえばエントリーシートを書く際などにも、役に立つと思います。
竹内
まさに瀧﨑さんは日常的に長時間メタバース空間に滞在しており、その当事者としての目線でメタバースに関わる業務に入ることで、生活者のための設計ができるようになっていると感じています。彼女のように生活者発想を突き詰めることのポテンシャルは本当に大きいと感じますね。
ー最後に学生のみなさまへのメッセージをお願いします。
宮澤
BranCo!は、過去参加者から「学びが多く、とても役に立った」という声が多く、ビジネスやプライベートを含むそれ以外の領域にも役立つという意味で、結構お得なコンテストかもしれません。人生をより楽しく生きたいと感じる方はぜひ参加してみてください。
竹内
文系、理系、美術系問わず、あらゆる力が活きるコンテストだと思います。また、チーム組イベントで知り合った、初めまして同士のチームでもそれぞれの経験や力を組み合わせていく異種格闘技のようなところがありますので、少しでも興味があればぜひ参加してもらえると嬉しいです。
瀧﨑
特に今年度から、大きく取り上げている”生活者発想”に関するレクチャーは、学生のみなさんからの反響が大きいです。興味を持っていただいた方は、ブランドレクチャーだけでも気軽にご参加いただけると嬉しいです。(※今年度のブランドデザインレクチャーは終了しました。)また、決勝イベントを見に来るだけという方も沢山いらっしゃいます。
BranCo!をうまく活用いただけると嬉しいなと思います。
今回お話を伺い、改めて「生活者発想」とはとても広くて、自由な発想法だと感じました。だからこそじっくりと、それぞれが工夫を施しながら身に着けていくものなのかもしれません。
自分も他者も環境も、一側面だけでは捉えきれません。あえて自分自身のモヤモヤした感情に素直に向き合い言語化してみたり、他者との対話で今まで想像もつかなかったような視点を見つけていく中で、既存の”前提”や”定義”とは異なる、面白く本質的な視点やアイディアが生まれるのだと感じました。
後編では、生活者発想の中でも個人の持つ「想い」に着目した”Aspiration(アスピレーション)”についてお話を伺いたいと思います。
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BranCo!公式ホームページ
https://branddesigncontest.com/
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後編につづく
■登壇者
東京大学文学部心理学科卒業。博報堂に入社後、マーケティング局にて多様な業種の企画立案業務に従事。2001年に米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院(MBA)修了後、イノベーションのコンサルティングを行う次世代型専門組織「博報堂ブランド・イノベーションデザイン」を立上げ、多彩なビジネス領域において実務コンサルテーションを行っている。
また、現在東京大学教養学部にて発想教育プログラム「ブランドデザインスタジオ」を運営するなど、ビジネス×高等教育をテーマに教育活動も推進中。立教大学ビジネスデザイン研究科客員教授 。
『東大教養学部が教える考える力の鍛え方』、『「応援したくなる企業」の時代』、『「個性」はこの世界に本当に必要なものなのか』など著書多数
2001年博報堂入社。マーケティングリサーチ、コミュニケーション戦略、商品関発等の業務を担当した後、博報堂ブランド・イノベーションデザインに創設期から関わり、2004年より所属。「論理と感覚の統合」「未来生活者発想」「共創型ワークプロセス」をコンセプトに、さまざまな企業のブランディングとイノベーション支援を行っている。アルスエレクトロニカとの協働プロジェクトでは、博報堂側リーダーを務める。著書に『ブランドらしさのつくり方』(ダイヤモンド社/共著)等
慶應義塾大学文学部社会学専攻卒。2015年博報堂入社。入社後は買物研究所にて、近未来の買物行動予測研究と買物行動を起点としたマーケティングに従事。2017年より、ストラテジックプラナーとして、化粧品やファッション、家電などのコミュニケーションプランニングを担当。2019年よりブランド・イノベーションデザインに所属し、企業のブランディングやコミュニティ開発、ソリューション/ナレッジ開発中心に携わる。
2024年4月からは、博報堂研究デザインセンターに加入。「当事者研究」の視点を大切にしながら、メタバースなどのデジタル空間上における生活者ならではの意識・行動分析や、M/Z世代の研究などを行う。
■編集&インタビュアー
※過去BranCo!決勝プレゼンの様子