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~第13回BranCo! 対談企画~
Vol.1 BranCo!で考える、生活者発想【後編】
いま、ブランドづくりに「アスピレーション(内なる想い)」が必要な理由とは?

2024.09.25
本年度のBranco!から、生活者発想の一つであり、博報堂のパーパス(「Aspirations Unleashed」)にも含まれる「Aspiration(アスピレーション)」が採点要素に加わりました(下記参照)。 運営を担う博報堂メンバー3名に、アスピレーションを加えた背景、そして今年のテーマ「人間らしさ」についてお聞きしました。

■参加メンバー(写真左から)
・竹内慶:博報堂研究デザインセンター 生活者発想技術研究所所長/ BranCo! 運営サブリーダー
・山崎茜(インタビュアー):博報堂研究デザインセンター 生活者発想技術研究所 研究員/BranCo!運営スタッフ
・宮澤正憲:博報堂執行役員 研究デザインセンター長/ BranCo!運営リーダー
・山野井英未(インタビュアー):博報堂研究デザインセンター 生活者発想技術研究所 研究員/BranCo!運営スタッフ
・瀧﨑絵里香:博報堂研究デザインセンター 生活者発想技術研究所 上席研究員/BranCo!運営サブリーダー

*Branco!評価の基準(2024年度より変更)

:一人ひとりの「内なる想い」が、多様な選択肢をひらく

ー博報堂が考える「Aspiration(アスピレーション)」とは何でしょうか?

竹内
辞書を引くと「願望・野望」という意味が出てきますが、我々はそこまで強いものというよりは「内なる想い」という訳をあてています。今年策定された博報堂DYグループのグローバルパーパス*の中では「Aspirations Unleashed」=「内なる想いを、解き放つ」という言葉を使っています。

現代は、個人のSNS発信が増え、多様性が尊重される一方で、“閉塞感”も生まれたと感じています。フィルターバブル*という言葉に代表されるように、見えない壁で生活者が分化している中で、博報堂グループは生活者一人ひとりがモヤモヤと抱える「内なる想い」を探り、活力や彩りのある社会の実現に活かすことを目指しています。Branco!でも、学生の皆さまにアスピレーションに基づいて発想・企画し、その過程で叩いて磨いて深めてほしいと考え、取り入れました。
*フィルターバブル:インターネットで見る情報が自分の興味や信念に囲まれてしまう状態で、偏った視点を持つこと
*博報堂のグローバルパーパス 博報堂DYグループのグローバルパーパス | 博報堂DYホールディングス (hakuhodody-holdings.co.jp)

宮澤
アスピレーションの語源は動詞の「aspire (呼吸する)」であり、人間が生きるために必要な原動力だとも言い換えることができると思います。そのため、固有の視点・価値観に基づくアスピレーションを大切にすることが、世の中に多様な選択肢をつくることにもつながります。個人に限らず企業においても同様で、「個々人がどうしたいか?」というパーソナルなアスピレーションがオリジナリティとなり、加えて「社会に求められているか?」というソーシャルなアスピレーションの視点も持つことで、生活者が喜ぶブランド・商品づくりにつながると考えます。

:“自分ならでは”の視点・体験から発想する

ー過去のBranco!作品では、どのようなアスピレーションがありましたか?

竹内
BranCo!参加学生が持つアスピレーションには下記の2種類あると考えており、その両者が一致していることがポイントかと思います。

①コンテストへのアスピレーション:「面白いプレゼンをして、聞き手を驚かせたい」「コンテストに勝ちたい」という想い

②アイディアへのアスピレーション:「世の中にこうあってほしい」「このサービスでひとを喜ばせたい」という想い

瀧崎
過去では、アスピレーションは評価対象になっていないものの、②のアイディアが光るチームが沢山ありましたね。たとえば

・第11回(テーマ「幸せ」)グランプリ受賞チーム:ゆかいなさんにんぐみ

チームの一人が海外留学していて打合せで不便を感じていたが、「離れていてもささいな雑談(スモールトーク)が幸せにつながった」という自分たちの経験から、デジタル版の交換ノートのようなアイディアを考えましたね。

(プレゼン資料より)

宮澤
プレゼンの際にも「自分たちが本当にこれがやりたい」そして「社会にも役立てたい」という想いが伝わり、とても印象に残っています。

竹内
「社会に良いこと」と考えると、環境問題や教育格差など一般論になってしまい、アウトプットも似通ってしまうのですが、実体験による義憤や、自分たちでしか思いつかない視点から発想することで、アスピレーションが具体的になり、聞き手も共感しやすいと思います。

瀧崎
・第10回(テーマ「自由」)準グランプリ受賞チーム:FANCY PODS

他にも、外国人留学生である自身が感じた「日本ならではの、会話のもどかしさや社会の苦しさ」から、「ギャルマインド」を取り入れて心理的安全性を高め、自己表現しやすくするアイディアもありましたね。

(プレゼン資料より)

ただ、必ずしも「自分自身が経験したこと」でなくても良いです。

・第10回(テーマ「自由」)グランプリ受賞チーム:いちごコンクリート

世の中に存在する「子育てが忙しく、不自由な母」に焦点を当て、彼女たちの自由を増やしたい!という想いから、ブランドを提案しました。自分以外の「どんな人を、どんな状態にしてあげたいか」と、他者を起点とするアスピレーションも、アイディアの幅につながるので忘れないで欲しいです。

(プレゼン資料より)

:アスピレーションは、誰もが持っているもの

ー アスピレーションを見つけるポイントはありますか?

竹内
1. 「他者から引き出されるアスピレーション」に着目する

自分達の体験から見つかるのが理想ですが、誰もが「こうしたい」という強い想いがあるとは限らないですよね。周りの人を見て「なんとかしたい」と、レスポンス(自身の反応)として生まれる想いもあるかと思います。

2.「問い」の形で世の中を見てみる

考え方として、Why(世の中や生活者がなぜこうなっているのか?)→ What(問題は何か?)→What If(もしもこうだったら?)→How(どのように実現できるか?)の4つの問いを投げかけてみるのも有効です。

3. 「雑談」を大事にする

自分では当たり前と思っていた話も、周りの人が聞くと面白い内容で、議論が発展することがあります。なので、雑談を許容する雰囲気と、どんな意見にも何一つ無駄はないと考えるマインドセットがあるといいですね。

瀧﨑
現業においても、ランチでの雑談などに気づきがあったりしますよね。

宮澤
アスピレーションは全ての人が本来的に持っているもので、それを自己発見するものだと考えます。

4. 自分の好き・嫌いを理解する

アスピレーションの元となっているのは人間の感情であり、好きなこと・嫌いなことを書き出して集めていくのも、他とは違うアスピレーションを見つける1つの方法です。頭で考えるばかりでなくすぎずに、理屈がない、自分の感情に耳を傾け、うまく言葉にできならないような想いも大事にアイディアに活かしてしてほしいと思います。これは人間だからこそ出来ることだと思います。

5. 熱量の大きさは関係ない

“野望”ほど大きいものである必要はないです。人によってアスピレーションに対する熱量の大きさは様々で、正解はありません。生活への違和感など、世の中へのちょっとした感情でも良いです。

ー学生が、アスピレーションを持つことの重要性は何だと思いますか?

宮澤
アスピレーションを持つことは、自分の感情を理解することでもあり、自身が生きやすくなるのではと思います。アスピレーションを見つける過程で、新たな“好き”に気づくと、自己肯定感が上がり、幸せを感じやすいと考えています。さらに、自分の想いを素直に言える世の中になると、もっと生きやすくなりますね。

竹内
Branco!においても、チームで互いのアスピレーションをリスペクトすることで、自分だけではたどり着かないけど、自分がいないと生まれなかったアイディアをつくることができ、これは社会人になってからも活きる経験だと思います。

:いまこそ「人間らしさ」を人間に問う

ー今年のテーマ「人間らしさ」に込めた想いは?

宮澤
AIが進化し続ける時代において “人間らしさ“を人間に問うことに意義があると考えました。学生の皆さんにとっても、未来を見据えて「人間にしかできないこと」を考えるきっかけにもなればいいなと思います。

ー今年のBranco!に取り組む際に、意識してほしいことは?

竹内
「人間中心/至上主義でよいのか」も一緒に考えていきたいですね。他の生命とも生きていく必要がある中で、「生活者」は人間だけとは限らないと思います。また、ステレオタイプ的な人間らしさではなく、もう一歩踏み込んで解釈を広げてもらえると嬉しいです。

宮澤
人間らしさを、AI、コンピューター、動物など、何と比べて考えるのか?昔と今、さらには年代別でどう違うのか?など、比較対象の選び方にユニークネスが表れると思います。

竹内
今回のテーマは極めて抽象的なテーマで、まさに、東京大学教養学部が大切にしているリベラルアーツー「人類が長い歴史のなかでさまざまな課題を乗り越えてきた知の集積」―をフルに活かして、取り組み甲斐があるものだと感じています。

:前提を疑い、「問い」を立てる

ー毎年Branco!では抽象度の高いテーマを取り扱っていますが、その理由はありますか?

宮澤
Branco!は発足当初から企画力と発想力を鍛えることを目的としていますが、特にインプットの段階における着眼点が大事だと考えています。商品名などを使った具体的なテーマ設定をすると、それについて調べることから逃れられないので、入口が狭まってアウトプットも面白くなくなってしまいます。あえて抽象的なテーマにすることで、どこから料理すれば良いか?という入口に頭を使ってもらいたいと思います。

ー最後に皆さまから、本年度Branco!参加者に向けて一言お願いいたします!

宮澤
ぜひ「人間らしいアプローチとは何だろう?」から考えて欲しいと思います。ネットの情報やAIのデータ等をそのまま使うのではなく、通常では出てこないような生成AIの使い方や、アスピレーションに基づいた自分ならではのアプローチができると良いですね。

瀧崎
自分自身が人間なので、究極の生活者発想がしやすいテーマだと思います。分析する材料も身近に沢山あるからこそ、「なぜ?」の自問を繰り返して、自分たちにしかできない発見をして欲しいと思います。

竹内
「人」「ヒト」「Human」「Human-being」など、「人間」を表す言葉は複数ありニュアンスも違う中で、「人間ってなんだ?」の定義から考えていただけると嬉しいです。参加される学生の皆さんが、どう「人間らしさ」を捉えるのか、とても楽しみにしております。

■編集後記

後編で詳しくお話を伺ったアスピレーションについて「自分ならではの視点を、自分と社会に活かす」という点で、生活者発想に深く根付くものだと実感しました。「何が正しいか?」ではなく、原点に立ち返えり「自分が本当にやりたいのか?」「生活者が喜ぶのか?」と”感情”に問いかけるアプローチは、情報摂取量が増加し、テクノロジー発展が急速に進む現代において、世の中を動かす力となるのではないでしょうか。
Branco!参加者は、レクチャーやメンタリング制度を通じてアスピレーションを体得していきます。ここでの経験や学びが社会人になった時や、その先の人生においても、様々な場面で原動力となることを願っています。

「人間らしさとは?」の問いに挑みたい皆さま、第13回Branco!へのご参加お待ちしています!
また、ご参加されない方も東京大学駒場キャンパスにて決勝プレゼンテーションのご観覧が可能です。学生たちのアイディアに乞うご期待ください!

……………………………………………
BranCo!公式ホームページ
https://branddesigncontest.com/
……………………………………………

前編はこちら

■登壇者

宮澤正憲 (Masanori Miyazawa)
博報堂執行役員・研究デザインセンター長
東京大学教養学部特任教授/ 立教大学ビジネスデザイン研究科客員教授

東京大学文学部心理学科卒業。博報堂に入社後、マーケティング局にて多様な業種の企画立案業務に従事。2001年に米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院(MBA)修了後、イノベーションのコンサルティングを行う次世代型専門組織「博報堂ブランド・イノベーションデザイン」を立上げ、多彩なビジネス領域において実務コンサルテーションを行っている。
また、現在東京大学教養学部にて発想教育プログラム「ブランドデザインスタジオ」を運営するなど、ビジネス×高等教育をテーマに教育活動も推進中。立教大学ビジネスデザイン研究科客員教授 。
『東大教養学部が教える考える力の鍛え方』、『「応援したくなる企業」の時代』、『「個性」はこの世界に本当に必要なものなのか』など著書多数

竹内慶(Kei Takeuchi)
博報堂研究デザインセンター 生活者発想技術研究所所長
立教大学大学院ビジネスデザイン研究科客員准教授

2001年博報堂入社。マーケティングリサーチ、コミュニケーション戦略、商品関発等の業務を担当した後、博報堂ブランド・イノベーションデザインに創設期から関わり、2004年より所属。「論理と感覚の統合」「未来生活者発想」「共創型ワークプロセス」をコンセプトに、さまざまな企業のブランディングとイノベーション支援を行っている。アルスエレクトロニカとの協働プロジェクトでは、博報堂側リーダーを務める。著書に『ブランドらしさのつくり方』(ダイヤモンド社/共著)等

瀧﨑 絵里香(Erika Takizaki)
博報堂研究デザインセンター 生活者発想技術研究所 上席研究員

慶應義塾大学文学部社会学専攻卒。2015年博報堂入社。入社後は買物研究所にて、近未来の買物行動予測研究と買物行動を起点としたマーケティングに従事。2017年より、ストラテジックプラナーとして、化粧品やファッション、家電などのコミュニケーションプランニングを担当。2019年よりブランド・イノベーションデザインに所属し、企業のブランディングやコミュニティ開発、ソリューション/ナレッジ開発中心に携わる。
2024年4月からは、博報堂研究デザインセンターに加入。「当事者研究」の視点を大切にしながら、メタバースなどのデジタル空間上における生活者ならではの意識・行動分析や、M/Z世代の研究などを行う。

■編集&インタビュアー

山野井 英未
博報堂研究デザインセンター 生活者発想技術研究所 研究員

山崎 茜
博報堂研究デザインセンター 生活者発想技術研究所 研究員

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