こんにちは、ヒット習慣メーカーズの山本です。
季節の変わり目ですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。一気に寒くなったと思う日があれば、汗ばむほどに暑い日が戻ってくるなど、夏と冬を繰り返すような気候で、秋はいったいどこへ行ってしまったのかと思います。秋といえば、自分のようなキャンプ好きにはベストシーズンなわけであって、アウトドア欲求が高まりっぱなしです。今回も、わたくしのコラムとしては前回に引き続き、アウトドア界隈の新たな潮流についてお話ししたいと思います。
コロナ禍で盛り上がったキャンプブームは一定の落ち着きを見せ始めているようにも思う一方で、以前のコラム「アウトドアシェアリング(ヒット習慣予報 vol.320『アウトドアシェアリング』)」でもご紹介したように、一般的なアウトドア体験より一歩進んだ新たな面白い動きが生まれているようにも感じます。今回ご紹介する兆しもまた、一つのキャンプ場に滞在するこれまでの一般的なキャンプとは異なり、移動を目的とした旅の手段としてテント泊をする『移動型キャンプ』をする人が増えているという話で、『ロードキャンピング』と名付けました。どのようなロードキャンピングが増えているのか、事例を見ていきましょう。
一つ目は、『キャンプ場巡りでロードキャンピング』です。
これまでも一つのキャンプ場に連泊するスタイルはありましたが、複数のキャンプ場を巡る新たな旅の楽しみ方が広がっています。まさに移動する旅×キャンプのスタイルです。動画配信サイトのアウトドア系チャンネルでは、憧れのキャンプ場を巡る旅モノ企画の動画が増えていたり、同じ野営2泊でも連泊型と移動型のどちらが楽しいのかを比較したネット記事があったりと盛り上がりを見せているようです。私自身も今年の夏の休暇に友人と奄美大島を旅行した際、レンタカーとキャンプ前提で予定を組み、毎晩違うサイトにテントを張り宿泊しましたが、途中の買い出しが楽であったり、毎日違う自然景観を見られたりと、普段のキャンプとは違った体験を味わうことができ楽しかったです。バンライフという言葉も定着して久しいですが、バンで移動するキャンプ旅もまた、この『キャンプ場巡りでロードキャンピング』に当てはまる例だと思います。
二つ目に紹介するのは、『自転車でロードキャンピング』です。
最近、自転車好きの友人から、キャンプギアに夢中になっているという話を聞きました。自転車で長距離ライドを楽しんでいるうちに、今度は宿泊までしたくなって、自転車にギアを括り付けて現地でテント泊をする「自転車キャンプ」に興味を持ったようです。聞くところによると最近の自転車業界では、ロードバイクのように長距離走れてテントなどの重い荷物も積める、キャンプ旅にぴったりな“グラベルバイク”と呼ばれる新しいスタイルの自転車が人気なのだとか。中には、テントひとつとグラベルバイクだけで日本一周の野宿旅をする猛者Youtuberもいるのだとか。GoogleTrendsで調べてみると、確かに“グラベルバイク”の検索数は急上昇の推移をここ数年維持しており、自転車×移動キャンプの新たな楽しみ方が広がっているように思います。
▼「グラベルバイク」の検索数推移
最後にご紹介するのは、『ファストパッキングでロードキャンピング』です。
ファストパッキングというのは聞き慣れない言葉だと思いますが、登山のサブジャンルとして盛り上がりを見せている、トレイルランニングとバックパッキングを組み合わせたアクティビティです。通常のハイキングやバックパッキングと異なり、山を走ることに重きが置かれ、目的地までの移動をできるだけ早く効率的に行いながらも、夜はテントや簡易シェルターで宿泊し、複数日間の縦走や旅を楽しむエクストリームな登山スタイルです。ただ歩くハイキングですらテント泊の縦走は大変そうなのに、さらにスピードや距離を求めて山を走り、毎晩の宿泊地を変えて野宿するとは、なかなかストイックなアクティビティですよね。調べてみると、数日間をかけて既定の山岳ルートを走りながら、時間内にゴールを目指すというファストパッキングのレース大会もあるそうです。水は持参のろ過フィルターを活用して現地で補給するなど、参加には適切なサバイバル知識も必要なんだとか。トレイルランニングの走る爽快感と、テント泊でしか叶えられない自然との一体感を同時に味わえることが人気の理由のようです。
さてここまで、『ロードキャンピング』の例についてお話してきましたが、その盛り上がりの背景にある理由を考察したいと思います。
一つ目は、キャンプブームが一定の落ち着きを見せる中、アウトドア体験のニーズ自体も変化していることが挙げられると思います。私の周りのキャンプ好きの間でも、一般的なキャンプ体験は、BBQをして、焚火を見て、テントで寝て帰る、の繰り返しでマンネリ化しがちだという声を聞くことが多くなりました。一方、今回の事例を見てみると、自分で設定したルートや目的地を踏破するという、ゲーム性のあるミッションを達成することに重きがあるように感じます。自然と触れ合い癒されることがメインの消費志向のアウトドア体験から、自己の成長や発見につながるような、生産志向のアウトドア体験へと、ニーズが移り変わりつつあるのではないでしょうか。
もう一つは、制度の変化や技術的な進化によって体験のハードルが下がり、間口が広がったことが挙げられます。たとえばテレワーク推進や働き方改革により、移動型キャンプを楽しめるだけの長期間の休暇が取りやすくなったこともその一例ではないでしょうか。また最近のアウトドア商品では、UL(ウルトラライト)という商品カテゴリが人気を博しており、ギアがますます軽量化し、移動を伴う旅でも運びやすくなったことも、ロードキャンピングの間口が広がっている要因として挙げられるといえそうです。
最後に『ロードキャンピング』にまつわるビジネスチャンスについて考えてみました。
今回ご紹介した事例の中には、キャンプ好きの方でもまだ実践したことのない新たなスタイルも多かったかと思いますが、いかがでしたか?個人的には、自転車キャンプは未経験でかなり気になっていて、本気でやってみようかと、まずは中古市場で安く買えるグラベルバイクを探しているところです。誰か自転車に詳しい方、おすすめのバイクがあれば教えてください。(笑)
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
2017年に博報堂入社以来、ストラテジー×クリエイティブの統合発想を武器に、企業やブランドの戦略・企画立案に従事。写真と音楽とすべてのユースカルチャーをこよなく愛する。