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こそだて家族を解放する、幸せな新視点 第6弾
講談社 with class 岡本編集長
“みんなちがって、みんないい”時代に必要な親の力と、幸せな子育ての可能性

2024.10.28
「こそだて家族を開放する、幸せな新視点。」を軸にお届けしている、博報堂 こそだて家族研究所(以下、こそだて研)による本連載。 最終回となる第6弾では「子育て・教育の新視点」をテーマに、女性向けwebメディア「with class」の岡本編集長を訪ねました。
日ごろから子育てや教育界分野における情報を集約し、発信される中で見えてくる、働く母親たちのリアルな姿とは。そこから子育てや教育におけるどんな時代の潮流、新たな兆しが感じ取れるのでしょうか。

ゲスト:
岡本 朋子 氏
株式会社講談社 第二事業本部 withアーティスト事業部
with class編集長

こそだて研メンバー:
用丸 紗希
博報堂DYメディアパートナーズ 新聞雑誌局 メディアプロデューサー

藤川 裕佳子
博報堂 クリエイティブ局 アクティベーションディレクター

西尾 創一郎
博報堂 ストラテジックプラニング局 ストラテジックプラナー

末富 新
博報堂 ストラテジックプラニング局 ストラテジックプラニングディレクター

■「小1の壁」「発達グレー」「海外志向」「中学受験」「睡眠」…多様化するママたちの悩み

用丸
まずは、「with class」という媒体や読者層について、概要を教えていただけますか。

岡本
「with class」は女性向けファッション誌「with」から派生したwebメディアです。もともと雑誌「with」は、ファッション誌とはいえ読み物が非常に強く、地に足の着いた読者が多い媒体でした。独身から、結婚して子どもができるなどライフステージが変わっても、「ずっとwithが好き」と言ってくれるファンも多かったんですが、あるとき、ママになった元・読者モデルの方から「読みたくなる媒体がない」という話を聞いて。だったら彼女たちに向けたメディアをつくろうと思って生まれたのが「共働きwith」で、さらには、専業ママにもターゲットを拡げた「with class」が生まれました。

その後の大きな転機となったのは、「with class」の人気連載を書籍化した『自ら学ぶ子に育つ おうち遊び勉強法』のPRの際にインフルエンサーさんと知り合い、彼女たちの価値に気づいたことです。生活者であると同時に、私たち編集者以上に生活者と結びついていて、発信力がある彼女たちとコラボレーションすることで、より強いSNSメディアがつくれるのではないかと思い、教育や子育て関連記事に特化したインスタグラムのプロジェクト「with class mama」を立ち上げ、「with」と現役ママのインフルエンサーさんたちで一緒に運営することにしました。

実は「with class」を展開する中で感じていたのが、どれだけ読者と近い目線でいようとしても、出版社としての“上から”の目線をぬぐいきれないという葛藤でした。一方で、識者や文化人による見識に裏打ちされているという、出版社ならではの信頼感は強みなんです。逆にインフルエンサーさんたちは、どこまでも生活者に寄り添っていて、ママ友の延長のような存在である一方、信頼感という点ではある種弱みがある。つまり互いの強み、弱みを補い合える関係性だったわけです。

特に現在2歳~6歳の子どもを抱えるママたちは、コロナ禍当時、母親教室や支援センターの利用も制限されて孤独な子育てをしていたので、インフルエンサーさんの発信がリアルなママ友に代わる非常に貴重な情報源になっていました。生活者と強い結びつきを持つ彼女たちと一緒にやっていくことで、結果的に読者にとっても、今一番良い形で発信できているのではないかと思います。

用丸
日頃、読者の皆さんやフォロワーさんに向き合う中で、印象的な課題感などはありますか。

岡本
「小1の壁」「発達グレー」「海外志向」「中学受験」など、思い当たるキーワードはいくつかあります。悩みも多様化しているように感じますね。

末富
悩みの背景には時代の変化ももちろんあると思いますが、多くは、教育や育児の選択肢が広がって、多様化していることが原因なのではないかと感じるんですが、いかがですか。

岡本
そうですね。「みんなちがって、みんないい」はもちろん素晴らしい思想ですが、昔と比べて情報量が各段に増えた分、自分にとっての最適は何なのか迷ってしまいますよね。

用丸
「発達グレー」というのは、医師から発達障害の診断が下っているわけではないけれども、子どもに発達障害の傾向があるのではという状態を指す俗称ですよね。ひと昔前だったら通常学級に入れる選択肢しかなかったところ、今は認識できることも増えて多様な選択肢があるからこそ、その子に一番合った環境や前向きな選択肢は何かと悩むことになるのですね。

岡本
皆さん、自分や家族にとっての最適解を探しているんですよね。そして多様なインフルエンサーさんの中から自分と近い世帯構成や子育ての考え方が自分に近い人を探して、自分のとった選択の少し先の未来に具体的にどんなことがありうるのか、参考にしている。それから、子どもや教育に関する相談って、価値観や経済力の違いがはっきりしてしまうから、意外と近しい友人には相談しにくかったりするんですよね。

末富
悩みができると人に話したくなるものですが、相談や対話の機会が失われているからこそインフルエンサーさんたちの姿が大いに参考になりますよね。さらには、友人でも専門家でもない、ちょうどいい距離感で悩みを受け止めてくれる存在にもなっているわけですね。

岡本
「睡眠」も大きなキーワードです。塾通いで帰宅が夜遅くなってしまい、十分に睡眠がとれないという子どもが多いので、実は私たちで、睡眠の質をより高めるための「育脳まくら」を開発しました。開発にあたっては、インスタグラムのアンケートで1万人以上の方から睡眠の悩みについての声を集めたほか、試作品をインフルエンサーさんたちに試してもらい、フィードバックをいただきました。おかげさまで1万円を超える高価格帯商品にもかかわらず発売2週間ほどで600個を売り上げる好評ぶりでした。

用丸
生活者のリアルな声を反映させたからこそ、皆さんに喜ばれるものがつくれたわけですね。

■「過渡期」に必要なのは、トライアンドエラーを恐れない態度

用丸
「with class」では大規模な読者アンケートも行われたと伺いました。何か印象的だった内容はありますか。

岡本
やはり「with class」読者の皆さんは、自分の生き方をしっかりと自分で考え、思い切って取捨選択ができるバランス感覚をお持ちだと思いました。さまざまなサービスなどを賢く活用しながら、キャリアも子育ても追求している印象です。

用丸
現代は子育ての選択肢が多いからこそ、いかに子どもに合った取捨選択ができるかが親に求められているなと普段から感じています。「with class」読者の皆さんはそうした姿勢を確立されているんですね。

岡本
誌面では、「こうすべし」といった発信はせず、「親も間違うし、間違えれば軌道修正すればいいんじゃない」というスタンスにしています。断定はせずに、読者も巻き込みつつ「どう思う?」と問題提起するというか。中学受験にしても、良い学校の定義はそれぞれだし、勉強だって嫌いにならない程度にやることがとても大事なわけで。親も子も気に入った学校に行ければそれだけでいい体験になるし、そういう選択を通して親子でいろいろと体験すること自体がすごく楽しいし、価値になると思います。

末富
柔軟な考え方の親御さんって、育児や教育に関してトライアンドエラーを恐れない態度を持っているなと感じます。我々の今後の活動でも、こんな選択肢もあるよ、固定観念にとらわれずに肩の力を抜いて自由に考えていいんだよと親御さんたちに伝えたいと考えていて。とても参考になるお話です。

岡本
「with class」読者には視座が高いママが多いなとも感じます。日本の産業や研究分野などさまざまな競争力低下について課題意識があったり、これからの社会ではどういう人が活躍するのかなど、一歩先を見据えて子どもの教育について考えています。そして、先達のトライアンドエラーを上手に参考にしながら、自分たちでもいろいろとやってみるというスタンスですね。

末富
グローバル思考や非認知教育、探究学習など、ここ数年教育界隈で言われていることはしっかり把握されていて、優先的に情報収集する対象を自分なりの視点で選択されているのでしょうね。

用丸
中学受験をする子どもが増えていますが、読者の皆さんはどのように向き合われているんでしょうか。

岡本
今、「中受の後の進路をどうするのか?」が話題になっています。というのも、大学入学の枠の半分ほどが学校推薦型選抜になっていて、競争が激化しており、中学受験したことが逆に不利に働くのではないかという不安を抱えているからです。子どもがあるジャンルに関してどれだけ知識が豊富でも、それだけではだめで、限られた枠内に入るためにはプレゼン力など総合的に問われるようになっている。しかも大学側も、どういうふうに人を採っていくか手探りの状態なので、その道が確立されていないわけです。こうなると、やはりトライアンドエラーを恐れずにできる親が強いということになります。

用丸
さまざまな場面で、「今が過渡期」という言葉を耳にしますが、まさに大学受験においてもそうなんですね。ほかにも、印象に残るような価値観の変化、兆しなどは感じられますか。

岡本
話題としてよく上がるのは、男性の育児に対する価値観です。私自身は、13年前に長男を出産した際ほとんど育休を取らず、代わりに一般企業に勤める夫が1年間の育休を取得しました。その間子育ても家事も夫がメインで担っていたので、復帰後も主体的に育児に取り組んでいるし、小1の壁も中学受験も、チームとして一緒に乗り越えられてきました。よく、「夫が2週間の育休をとったがゲーム三昧」などの妻の不満を目にしますが、母親がメインでやっている育児のサポートとして入ると、どうしても当事者意識に欠けてしまうんでしょうね。でも自分が主体だとなった瞬間、責任が生まれますから、おむつ替えだってなんだって必死に学ぶんですよね。

用丸
父親だって当たり前に家事や育児をするし、母親だって忙しく働くという姿を見て育った今の子ども世代が大人になった時にはじめて、家庭内で議論するまでもなく当然に父親も母親も当事者意識をもって、育児や家事を対等に分担していく時代になるかもしれないと感じました。社会や家庭において、根底にある育児や家事への価値観が、完全に入れ替わっていくのは次世代以降になってしまうかもしれませんが、過渡期である今は、過渡期なりの幸せを目指していきたいと思いました。

岡本
やはり男性が育児のことをどれだけ自分事化できるかが鍵だと思います。我が家では子どもが熱を出したときも第一連絡先が夫になっていたので、ちょっと今はお迎えに行けないという場合も、「妻にお願いしないといけない」という罪悪感が生まれていたと思う。でもそれが、「妻がお迎えに行くことは当たり前ではない」という価値観になってもらういいきっかけになっていたかもしれません。

藤川
子どもが熱を出したときに、自分の仕事は当然休んでいいものだと夫に思われている感じがすると、もやっとします。仕事を休むことがどれだけ大変かわかっておいてもらえば、お願いするときに「ごめん」の一言も出るし、互いの仕事にもリスペクトが生まれる気がします。

岡本
夫は会社で周囲の方たちに「うちは夫婦が完全にフィフティフィフティだから世間一般とは違う」と説明しているそうです。今、母親が子育てしながら働くための環境は整いつつありますが、肝心なのはそこじゃなくて、夫側が育休をとっても出世レースから外れないでいられて、子どもが熱を出しても気兼ねなくお迎えに行けるような労働環境だと思う。そうすることで男性も子育てに関与しやすい社会になっていくのだと思います。

■ヒューマンスキルと “自己操縦感”が幸せのカギに

用丸
5年後10年後を見据え、子育てにまつわるさまざまな環境の変化があっても変わらない大切なことって何でしょうか。

岡本
「その子が幸せに稼げること」でしょうか。結局は、人より少し得意なこととか、人よりも嫌がらずにできることを通して、お金を稼げたらそれでいいと思います。稼ぐということは自立、自活することであり、将来どんな選択をするにしても必要になってくる力です。勉強を頑張っても、勉強以外の得意を活かすでもいいですが、その力がどう社会の役に立ち、お金をもらえるのか、早い段階から考えた方がいいのかなと思います。

藤川
多様性の時代だからこそ、親がぶれずに自分の子どもと向き合って、その子のために必要な取捨選択ができると良いですね。塾の勉強だけを一生懸命させて、幸せに気づけない子になったら本末転倒ですよね。

用丸
私自身、子育てにおいてまさに「みんなちがって、みんないい」の時代だからこそ、何を優先すべきか、最適解が何なのかと正直悩むことがあります。ただ、「幸せに稼げること」さえゴールに据えておけば、より思い切って取捨選択ができそうです。肩の力が抜けるようなお話でした。

岡本
また、どんな時代でも、人がどう考えているかを理解して円滑に人間関係を遂行するヒューマンスキル的な力は重要です。それから学び続ける力。60歳になったら定年して世間から身を引くような時代じゃありませんから、いつだって新しい知識やスキルを学び続けないといけないし、だからこそ学ぶことは楽しいという意識を小さい頃から持たせることが大事だと思います。自己肯定感につながる自己“操縦”感も大事。自分がこの生き方を選んでいる、という意識です。選択肢が多い時代だからこそ、意志を持って何かを選び取る力というのは、幸せに生きていくためのポイントだと思います。

用丸
ありがとうございます。最後に、未来はこうあってほしい、というお考えはありますか。

岡本
やはり夫婦が子育てにちゃんとコミットできる社会になっていくのが一番だと思います。家庭をプロジェクトチームであると考え、各自が動ける状態であれば、リストラでも親の介護でも、きっと乗り越えられるものだと思います。バディがいれば大丈夫なんですよ。ただ、「男は仕事さえしていればいいんだ」という考えでそれを妨げているのが日本社会だったり企業風土だったりする。でも、皆それを変えなきゃと思っているし、実際に変わりつつあると感じます。男性が働き方を変えるのと同時に、女性もその覚悟を持って働くことが、共働きにおいては重要。責任をもって働きたい、働き続けたいという思いを強くしていけば、意外と周りも変わっていくのではないでしょうか。

用丸
親たちの支えになるような言葉をたくさんいただけて、なんだか応援していただけたような気持ちになりました。貴重なお話をありがとうございました。

スタッフ後記

「子育てに関する思考と選択を、マキシマムからミニマルへ」
子育てにおいて究極のゴールは「その子が幸せに稼げること」と意外とシンプルで、その軸さえ据えておけば、必要な選択が明確になって取捨選択がしやすくなる、というお話には気づかされるものがありました。
子育てや家庭において、“みんなちがって、みんないい”と言われる正解がない時代に、目の前にたくさんの情報や選択肢があると、何が最適解なのかと思い悩み模索するマキシマムな思考や選択になりがちです。ですが、家庭の軸と子ども本人の意思を大切に“いかに必要なものだけを選び取っていくか”というミニマルな思考や選択をしていくことが、子育てや家庭の幸せの可能性を広げていくのかもしれないと考えさせられました。(用丸)

「社会の中で幸せに生きていくための力」
「自己操縦感」というキーワードは、子育てをする上で大人にとってもとても重要な言葉だと感じました。価値観が多様化し選択肢が豊富にあるからこそ、子どもにとって、家族にとって、そして私にとって幸せな選択は何か。一人ひとりが自己操縦感を持って、「その家族ならではの幸せ」を形作っていければいい。そのために子どもと一緒にいろんな経験をして、選ぶ力を育んでいきたいと思いました。(藤川)

価値観が多様化して選択肢が増えることは、いい面もありつつ悩みが増える原因にもなっているというお話は重要なポイントだと感じました。一説によると、「人生の意味」に人が悩み始めたのは職業選択の自由が生まれた近代以降だそうです。選択肢が増えれば増えるほど、悩みも増えるのが人の性かもしれません。多様化がますます進むこの時代だからこそ、自分で自分の未来を切り拓く力を持つことが大人も子供もこれからより重要になってくると感じました。(西尾)

岡本 朋子 氏
株式会社講談社 第二事業本部 withアーティスト事業部
with class編集長

1999年講談社入社。デザート編集部で少女漫画を担当。with編集部、ViVi編集部を経て、2017年「with online」編集長に就任。
現在、共働き家庭をメインターゲットにしたwebサイト「with class」、インスタメディア「with class mama」編集長。
プライベートでは中学2年生の男子と小学4年生の女子の2児の母。第一子の誕生時に、一般企業に勤める夫が1年間の育児休暇を取得。

博報堂こそだて家族研究所

博報堂こそだて家族研究所は、子育てに正解はなく選択肢が無数にあるこの時代に「こそだて家族」のこれからの姿を研究・調査・情報発信を行うプロジェクトです。現役のパパママ世代が中心となり、クリエイター、ストラテジックプラナー、PRプラナー、メディアプラナーなど、多様なスキルを持つスタッフが所属しています。「小学生の子を持つファミリー」を中心としながら、マタニティから大学生の子を持つファミリーまで幅広いこそだて家族を対象としたマーケティング&コミュニケーションの専門家として、新しい視点や考え方の提案を行っています。
https://www.hakuhodo.co.jp/kosodatekazoku/

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