ありがとう、君の漫画愛。とは
https://www.youtube.com/watch?v=fJZrmX9oWj4
出版社・電子書籍事業者などによる一般社団法人「ABJ」(Authorized Books of Japan)が展開する、海賊版撲滅キャンペーン。人気漫画61作品の印象的なシーンを紡ぎ、Vaundyによるオリジナル曲と児玉裕一監督の映像で、正規版を読んでいる読者への感謝のメッセージが届けられた。
-ABJの海賊版撲滅キャンペーンを手掛けて4年目ということですが、「ありがとう、君の漫画愛。」までの流れを教えてください。
島田:2021年の「STOP! 海賊版 パトロールバナー」からからほぼ同じチームで制作を担当しています。社内の漫画好きなメンバーでチームが組まれていて、私が入社2年目、中馬は入社直後から携わっているキャンペーン。はじめに企画したパトロールバナーは、海賊版を検索した人に漫画のキャラクターが注意喚起を行うもので、「きみを犯罪者にしたくない。」というメッセージを発信しました。
その次は「転載はバカボン」というまったく別のアイデア。「天才バカボン」というひとつの作品にしぼって表現しました。これは中馬から生まれたアイデア。その次に「NO MORE映画泥棒」とのコラボレート企画があって、「ありがとう、君の漫画愛。」へと続いています。
-キャンペーンを続けていくうえで意識したことは?
島田:海賊版を世の中からなくすという大きな目標のためには、ひとつのキャンペーンを打って終わりというわけにはいきません。継続的に発信することを前提に、海賊版のない世界が当たり前になるようステップを踏むことが大切だと考えました。
はじめはパトロールバナーで海賊版が違法であることに気づいてもらい、「読むのをやめよう」とメッセージすることからスタートしましたが、調査をしたところ、漫画読者の83%が海賊版を利用しない「正規読者」だということがわかったんです。そこで2023年からは「海賊版を読むのをやめよう」ではなく、「海賊版を読まないでくれてありがとう」というメッセージに舵を切りました。
根底にあるのは、海賊版を読んでしまう人も漫画が好きで読んでいるということ。その愛に訴えたほうが届くはずというのは最初からの方針だったので、このタイミングで「やめよう」から「ありがとう」へ転換したことは自然の流れだったと思います。
-企画アイデアはどのように出していくのですか?
島田:とにかく案を持ち寄って、そこからみんなでブラッシュアップしていく。漫画が好きな人ばかりなので、すごくやりやすいんです。中馬の「転載はバカボン」企画もはじめは言葉あそびだったよね?
中馬:紙に「転載バカボン」とだけ書いて持っていきました。
島田:その言葉がどんどん膨らんでひとつの企画になっていく過程がおもしろいんです。チームの雰囲気もすごくいいし、新人も臆せず案が出せる。クライアントもみなさん漫画愛にあふれていて、いいムードで仕事ができています。
-「ありがとう、君の漫画愛。」企画はどのように生まれたのですか?
島田:もともとあったのが、Xで「#今日も海賊版を読みませんでした」とポストすると、漫画のキャラクターが「ありがとう」と答えてくれる企画。そこから、「海賊版を読まないでくれてありがとう」というメッセージを、漫画のセリフを繋げて発信するアイデアに発展しました。やっぱり「ありがとう」というメッセージはとても強いので、それを使ってもっと心が動く施策にしたかったんです。それである日生まれたのが、曲をつくってPVにしようというアイデア。そこで、漫画愛が強い児玉裕一監督に映像をお願いして、同じく漫画大好きなアーティストVaundyさんに楽曲を依頼しました。
Xの「#今日も海賊版を読みませんでした」キャンペーンも同時に行いましたが、すごく反響があって、みなさん熱いポストをしてくれたのがうれしかったですね。
-漫画のセリフを繋げて曲にするというのは、思いついてもなかなか実現がむずかしい企画。クラフトでこだわった部分は?
島田:1ミリも妥協してはいけないと思ったので、漫画好きとしてのプライドをかけて取り組みました(笑)。見た人が本当に感動するものにできないと意味がないと思ったので、最後の最後までコマを入れ替え続けたり、チーム全員で漫画を読みながら徹底的にこだわりました。
-どんな順番で一曲をつくりあげたのですか?
島田:まずは、みんなの心が動くような、歌詞になりそうな言葉を集めることからはじめました。「時間を表す言葉」「感情を表す言葉」のように、コマを集めた辞典のようなものをつくったり。それを整理して組み立てて、Vaundyさんにアドバイスをもらいながらブラッシュアップしていくかたちで進めました。ただ言葉を繋ぎ合わせるだけでなく、動画として漫画好きの心を動かさなければならないので、同じ言葉でも「いいシーン」じゃないとダメ。この漫画のこのシーン!というグッとくるものをひらすら選びました。
中馬:ある程度言ってることが同じ、じゃまったく許されなかったですよね(笑)。「〜だ」が「〜です」になっているだけでもアウト。歌詞と1文字でも違っていたら一から探し直しでした。心を動かすコマで、なおかつ一言一句違わないセリフを探すのが至難の業。動画の撮影がはじまってからもコマを探してましたもんね(笑)。結局コマ探しだけで10カ月くらいかかってるんじゃないかな。
島田:スタッフのなかでもこのコマは絶対譲れない!みたいな熱い議論があってすごくおもしろかったよね。男性女性、さまざま世代のスタッフが集まったことで、幅広い層の心に訴える作品になったのはすごくよかったと思っています。
-印象的な反響は?
島田:「自分の人生は漫画に救われてきたから、今度は自分が漫画を救いたい!」みたいな熱いコメントをもらったのがうれしかったですね。「友達が海賊版読んでいたら止めます!」といったコメントがたくさん寄せられました。これを見て海賊版をやめようと思ってくれた人がたくさんいるとわかって本当にうれしかった。
中馬:僕は意外と、Vaundyさんを褒めているコメントがうれしかったですね。「Vaundy天才だ!」みたいな。それってもう、広告を超えたところまでいけたというか、曲としていい作品だと評価してもらえたのだと思うので。
島田:一つ一つの漫画作品や、児玉監督、Vaundyさんのパワーが本当に強いからこそ力を持ったクリエイティブができたのは言うまでもありません。でもそれをただ借りてきたのではなく、ひとつの良い形にできたことを誇らしく思います。
-この仕事から得られた気づきなどありますか?
島田:愛が大事だなって。本気で好きなことを本気でやらないといいものができない。当事者意識のないことや本気で思っていないことを表現しても見ている人に伝わってしまうんですよね。すべての仕事で愛が必要。まずは愛することからはじめないといい仕事はできないと確信しました。
中馬:この仕事を通して感じたのは、ひとつのアイデアが生まれたら、割とまっすぐ伝えた方がいいんだなということ。「ありがとう」を伝えるならそれをまっすぐ伝える。転載バカボンも「転載するなんてバカものだ」というすごくまっすぐなメッセージです。最初の種を素直に考えたら、それをおもしろく表現する。もしくはその逆で、変な種をもってきて、それをまっすぐ伝える。そのどちらかなのかもしれないですね。変なことに変なことを重ねない(笑)。島田さんってその塩梅が上手ですよね。
島田:必ず「一本の木を立てよう」というのは考えていますね。大きいテーマを設定して、そこから枝葉を広げていく。今回はそれが「ありがとう」を伝えることでした。その大きなゴールに向かって緻密にひとつひとつ積み上げていけたのがよかった。
いまはひとつの広告でも複雑に要素が絡んでいるからこそ、一貫して考えるための木が必要。広告ってひとことで伝わらないとダメだと思うんです。だからこそ太い軸をつくりたい。わかりやすくおもしろく、を目指したいと思っています。
中馬:さいしょのパトロールバナーのときから、「みんなとにかく漫画のことが好きなんだ」というのを信じることがスタートだった。それをずっと貫き通しましたもんね。
-さいごに今後の展望は?
島田:今後は海外に向けたアクションをしていきたいと思っています。そのためには文化的な背景がとても重要。そこを勉強しながら進めているところです。まずは「ありがとう、君の漫画愛。」の新聞版を海外で展開しています。国ごとに人気の作品が違うので、それを各国版で展開するというやり方。これからも、国内外問わず、「漫画愛を信じる」ということを忘れずに取り組んでいきたいと思います。
2018年博報堂入社。
デザイン/企画を担当しています。コンテンツ狂い。だれかの宝物になるクリエイティブをつくりたいです!
第67回・第68回準朝日広告賞、第69回朝日広告賞入選、YouTube Works Awardsグランプリ、BOVAグランプリ、ギャラクシー賞優秀賞・AMD award優秀賞、ACCデジタル部門ファイナリスト、JAA広告賞デジタル部門など。
1997年生まれ。2020年度博報堂入社。
誰かにとって嬉しく・楽しくなる企画-デザインをできたらと意識しています。
主な受賞歴に、朝日広告賞入賞、毎日広告デザイン賞入賞、YouTube Works Awardsグランプリなど。