――まずは、新生「博報堂コンサルティング」についてご紹介ください。
宮本:博報堂コンサルティングは2001年の設立以来、ブランドコンサルティングに特化して800件以上のプロジェクトに携わってきました。クライアントは大手企業を中心に、省庁や地方自治体にもサービスを提供しています。
コンサルティングファームにはそれぞれの得意分野や強みがありますが、ブランド領域では規模も歴史も国内最大手の一つだといえます。
川口:博報堂グループは、これまで培ってきた広告事業からの領域拡大の柱の一つとして「コンサルティング」を位置付けました。もう一つの軸である「ブランド」は、長年、博報堂グループが強みとしてきた領域です。それらの結節点である「ブランドデザイン・コンサルティング」への注力と強化を掲げました。
そこで、博報堂コンサルティングに、博報堂でブランドおよびイノベーションのデザインやコンサルティングを担ってきたメンバーを統合しています。それにより、博報堂グループならではの経営課題解決と生活者価値創造を実現する「ブランドデザイン・コンサルティングファーム」をつくろうというのが、新体制の狙いです。
――「ブランディングは経営トップの仕事」とよく言われます。改めて、経営がブランドにコミットすべきと考える理由を教えてください。
川口:ブランドについては、これまでマーケティング文脈で扱われることが多くありました。近年では、企業や事業にとってのブランドの役割は拡大しており、経営アジェンダになっています。
ブランドは、企業や事業と様々なステークホルダーとの約束であり、求心力と遠心力を生むものです。低成長時代にあって、経営者にとっての課題のひとつに挙げられるのは、いかに企業価値を高められるか。有形資産だけでなく、無形資産も含めて企業価値を積み上げる必要があります。
企業が存在意義としてのブランドパーパスを定め、生活者、従業員、株主や地域社会の体験を描き、関係を結び直し、価値創造プロセスとして仕組みにすることが求められます。
ブランドは、企業に対するステークホルダーの信頼や期待を高める重要なものです。ブランドをデザインし、価値創造のために仕組み化することは、経営や事業運営そのものともいえるのです。ブランド経営が求められる時代になりました。
宮本:2010年代半ばから「パーパス経営」という言葉が聞かれるようになりましたが、上場企業でパーパスを掲げているのは5~10%程度。多くの企業はいまだに企業の存在意義や、社会との約束を十分定められていません。また、ブランドパーパスを定めただけで、それを経営の仕組みの中に落とし込めていない企業も多く、有言不実行のパーパスウォッシュだという批判も聞かれます。
今の時代、生活者は意味を求めます。「なぜこの企業と関わるのか?」という問いに答えるために、経営はブランドパーパスを定めて、ステークホルダーに対する約束を表明すること、約束を履行することが求められているといえるでしょう。
――クライアントからどのような相談を受けることが多いですか。また、その課題をどのように解決に導いていますか。
川口:ご相談はあらゆる業種の企業や組織からいただいています。経営トップが変わるタイミングや、中計策定、M&Aや企業の統廃合、企業の周年、事業環境の変化などがきっかけになっています。企業や事業の意味をどう捉えて展開していくのかといった、経営視点で企業や事業を根本から見直すための相談を受けるケースが多いように思います。
宮本:ほかにも、歴史のある企業が再び成長していくにあたってブランドを起点としてステークホルダーにきちんと選ばれる仕組みをつくりたいといった話もよくあります。新規事業系の部門の方からは、新規事業を内製で立ち上げようとしてもうまくいかない、立ち上げてはみたもののどうしていいかわからないといった際にブランドが軸になることも多いですね。
結局のところ、多くの日本企業では組織のサイロ化による機能不全が大きな課題になっているのではないでしょうか。ステークホルダーの要請に基づいてバラバラと個別の仕組みをつくり続け、全体が統合されないまま何も生むことができていないように見えています。クライアント企業からご相談を受ける際、起きている事象だけではなくその裏に潜む文脈やナラティブを解きほぐすようにしています。対話やディスカッションを通じて、本当の課題を見定めてからご提案するようにしていますね。
川口:我々の独自性は、経営と生活者の視点を行き来できること。異なる視点と様々な専門性を持ったメンバーがチームとなり、いろいろな角度から問いかけ、この企業や事業はどういう未来を描けるのかという仮説構想を広げることができます。生活者と社会の洞察を踏まえた、構想力や未来を描く力は広告事業で培ってきたものがあります。コンサルティングで磨いてきた戦略構想力や経営洞察力とともに、クライアントにはコンサルティングとクリエイティビティの合わせ技に期待していただくことが多いです。
宮本:我々は論理と感性をどちらも大事にしています。戦略を立てるコンサルティングファームと、アイデアを生んで形にしていくデザインファームの懸け橋となる存在はほとんどいないのですが、我々はそこを一貫して対応できることも強みだと思います。特にブランド経営には、企業経営の仕組みに対する洞察力や、生活者における価値創造の視点など、非常に複雑で多様な視点が求められます。我々は、その両軸を行き来する稀有な存在だと自負しています。
――今後の展望をお聞かせください。
宮本:ブランドデザイン・コンサルティング領域には、まだまだ成長の余地があると考えています。そのため、博報堂DYグループとしても博報堂コンサルティングとしても、この領域をもっと拡大し、数カ年で人員も売上規模も大きくしていきます。ブランドの力で、生活者と企業をむすび、より大きな社会的価値を生み出していきます。
個人的には、コンサルティングサービスの質を高めていくことで、もっと他社にはないサービスが提供できるようになるのではと考えています。経営にリベラルアーツと呼ばれるような人文知や倫理観を埋め込んでいくといったような、より今の時代に沿った経営を実現できるようなサービスを提供していきたいですね。
コンサルティングのご相談、講演・執筆・取材等を受け付けています。事業拡大に伴い、コンサルタントの募集もしています。詳細は
https://www.hakuhodo-consulting.co.jp/company/contact_page/
※「AdverTimes.(アドタイ)」に2024年11月20日に掲載された記事広告から抜粋したものです。
総合コンサルティングファームを経て、博報堂コンサルティングに入社。業種横断で様々な企業を対象に、パーパスやコーポレートブランドのデザイン、新規事業戦略、サービスデザイン、マーケティング戦略、プライシング戦略、組織構築、事業立ち上げなどに従事する。戦略立案だけでなく、その具現化に至る実行支援まで一気通貫で支援することを強みとしている。
博報堂入社後、ストラテジックプラナーとしてマーケティングコミュニケーションに従事。博報堂ブランド・イノベーションデザインにて、チーフイノベーションプラニングディレクターとして、ブランドデザイン、イノベーションデザイン、体験デザイン、ブランドと起点の事業変革などに長く従事した後、博報堂コンサルティングに参画。一級建築士。香川大学大学院、立教大学大学院、東京科学大などでの講義も務める。