博報堂の米作り活動「はくほうファーム」の発端は2011年。「座学にとどまらず、もっと外でできる研修を」との声を受け、都市と農村をつなぐ一環として耕作放棄地を田んぼに戻す活動を行うNPO法人「えがおつなげて」と連携し、翌年の2012年から「はくほうファーム」による社員の農作業体験がスタートしました。社員が木や雑草が生え放題の耕作放棄地を開墾し、その後も毎年田植え、草取り、稲刈りの作業も社員が行います。コロナ禍でその作業は一時中断していたものの、2023年より活動を再開しています。
都心からバスで約2時間30分、標高1000メートル程に位置する山梨県北杜市増冨地区の「はくほうファーム」で農作業体験は行われます。現在の活動では、社員が体験するのは田植えと、稲刈りの2回。参加するメンバーは、部署も職種も年齢もバラバラで、あちこちで「はじめまして」の声が聞こえてきます。甲州弁のラジオ体操でみんな一緒に体をほぐしたら、作業が始まります。
6月:田植え
田植えは完全手作業で実施します。苗を植える間隔や1株に植える苗の本数など植え方のレクチャーをしっかり受けて、作業がスタート。田んぼの両端から目印のついた紐を張り、それを頼りに、慣れない田んぼのぬかるみに四苦八苦しながら1株ずつ丁寧に苗を植えていきます。少しひんやりとした泥に手を入れて平らにならし、束にした苗を夢中で植えていると、日頃溜まった何かががすっと抜けていくような、不思議な感覚を覚えます。
参加者は次第にコツをつかみ始め、和気あいあいとしたコミュニケーションのもと作業は順調に進みます。隅まで余すことなく苗を植え、キレイに並んだ稲を見ると大きな達成感に包まれます。
10月:稲刈り
田植えのあとは、「えがおつなげて」の方々が有機農法で大切に育ててくださったお米の収穫体験です。「はくほうファーム」には立派に実った黄金色の稲が一面に広がり、参加者は「はくほう米」の収穫の喜びを噛みしめます。実際の作業は、稲刈り・稲束づくり・稲架(はさ)掛けの3工程に分かれます。
・稲刈り:鋸鎌(のこぎりかま)の使い方のレクチャーを受け、それを使って稲の根本からザクザク刈り取っていきます。切れ味鋭く、とても気持ちよく作業が進みます。
・稲束づくり:刈った稲の根本から20cmくらいの場所を麻紐で固く結んで束にしていきます。この稲一束で、ようやくお米2〜3合程度になるそうです。とても地道な作業ですが、みんなで声を掛け合いながら頑張って進めます。
・稲架(はさ)掛け:束ねた稲を棒に架けて1〜2週間、天日干しにして乾燥させます。杭を交差させて田んぼに差し込んだ稲架に、稲束を3:7に分けて、互い違いに傘のようにして干していく作業を2人ペアになって行います。この作業がとても楽しく、稲束づくりで少し疲れが出ていたみんなが元気に作業を進める姿が印象的でした。
作業後は温泉で疲れた体を癒します。宿舎に移動したのちNPO法人「えがおつなげて」代表の曽根原さんから、日本の耕作放棄地の現状や「はくほうファーム」の活動についてのお話や、博報堂プロダクツが取り組む、お米を起点とした循環型ソリューションについての紹介を通じ、現業を通じ、どのように社会課題が解決できるのか、学びを深めます。
デジタルテクノロジーの進化により、生活のあらゆる場面でデジタル化が進むことで、広告マーケティング領域の仕事も複雑化し、高速化しています。その分、社員一人ひとりが持つ専門性も多様化し、仕事のスキルも、個性も“粒違い”の人材が博報堂DYグループには多く在籍しています。「はくほうファーム」での取り組みは、普段接点を持ちづらい社員同士が仕事の環境とは全く異なる環境で共同作業を行い、コミュニケーションを深める貴重な機会です。異なる部署や職種の社員が協力し合うことで、自然な対話が生まれ、相互理解が深まります。農作業後の交流会や食事の場では、参加者全員が集合時とは全く違った良い表情で、リラックスした雰囲気の中、お互いの仕事やプライベートなどさらに親睦を深め、職場の垣根を越えた新たなつながりが生まれます。
収穫した新米「はくほう米」は、博報堂プロダクツ豊洲本社の社員食堂「5615」で提供されるほか、米焼酎「博報」の原料となっています。
さらに、博報堂プロダクツでは、このプロジェクトを通じて、アップサイクルなものづくりに取り組んでいます。収穫したお米を脱穀する際に出る籾殻とFSC認証紙から独自開発した「もみがらノート」を制作する、廃棄物を新たな価値に変える試みです。
―もみがらノートの取り組みについてはこちら
「はくほうファーム」での農作業体験の参加者はこれまで1000名を超えています。「はくほう米」を育てる非日常の環境下で多様な社員間の絆を紡ぎながら、クリエイティビティの創出につなげていきたいと考えています。
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