-江藤さんは2005年の新卒入社ということですが、これまでずっとマーケティング畑ですか?
江藤:そうですね。就職活動をしているときからストラテジックプラナー志望でした。学生レベルではありましたが、考えてプレゼンするというのが大好きだったんです。
-ストプラ職ひとすじで20年のキャリアになりますが、その間に仕事との向き合い方など変化した部分は?
江藤:2005年当時は我々にとってコミュニケーションがメインの業務。広告会社がコミュニケーションのアイデアをプレゼンし、それをクライアントが判断して受注に至るというプロセスです。もちろんいまもそういった仕事はありますが、2010年代半ばくらいからでしょうか、クライアントの課題自体が複雑化してきた。
CMをつくればいいという話ではなく、そもそもの事業をどう考えるか、組織をどう考えるかなどさまざまな課題が生まれ、それに応えるためには一発のプレゼンテーションでは追いつかないわけです。相談を受けた1カ月後には話が変わっていたり、クライアントのスピードもどんどん上がっていくのに対して、我々の向き合い方も変える必要がありました。クライアントのカウンターパートになるためには、相談を受けて1カ月後にプレゼンするのではなく、常に相談相手として事業責任者のそばに寄り添っている状態が理想。それが新しいストラテジックプラナーのかたちなんじゃないかと考えたんです。
ちょうど2010年代半ばからクラウドプラットフォームが流行りはじめて僕も活用していました。いまでこそ当たり前になったテレカンや、資料共有、共同編集というコラボレーションが格段にやりやすくなったんです。クラウドというテクノロジーを使うことで、常時接続でストラテジーを提供できるのではないかと考えました。
-クライアントの課題の複雑化とスピード感のアップ、そこにクラウドというテクノロジーの進化が加わったことで新しい向き合い方が生まれたわけですね。
江藤:そうですね。考え方の基本は、「クライアントもエージェンシーも含めたひとつの戦略チームをつくる」ということ。そのリーダーシップを担うことが、僕の考えるRepresentationという働き方です。ブランド戦略だけでなく、マーケティングの組織強化や、新規事業の開発にも取り組んでいます。
-これまでのクライアントと広告会社の関係性とは異なるRepresentationという価値提供の仕方は、チームでどんな役割を果たすのでしょう?
江藤:ひとつは、その事業、ブランドが生活者にとってどんな意味を持つか定義すること。新ブランドだけでなく、既存ブランドでも存在意義を再定義することからはじめることが非常に重要ですし、いま求められていることだと感じます。ものを売るメーカーであっても、ビジョンやパーパスを再定義することでサービスを提供することが価値になるかもしれない。そういったビジネスの広がりを生み出すことができます。
-企業内の視点だけではむずかしいことですか?
江藤:そうですね、一緒にやることではじめてソリューションが生まれると考えています。正直、広告会社でないと考え付かないアイデアというのはないかもしれない。でも、企業は顧客を見ていますが、我々が見ているのは生活者。そのキャップが重要です。
もうひとつは、僕らはさまざまなビジネスモデルをケーススタディとして持っているということ。これまでストックしてきた知見を引き出し、その経験を活用できるというのは大きいと思います。あと、僕はビジネスに関する世界中の情報を集めるのが趣味なんですよね。通勤中はひたすらそんな記事を読んでいます(笑)。
-幅広い知見を活かすことで、思い込みにとらわれず変化を与えることができるということですね。
江藤:そういう意味では、クライアント内の組織の縦割りや役職の序列を超えて、ひとつのチームとして対話を促すことも外部からしかできないことかもしれません。
そして、ビジネスを推進する際、プロジェクトマネジメントという機能が必要不可欠です。どこにマイルストーンを置き、どのタイミングでチームを拡大し、どう結実させるか。その流れを客観的にマネジメントしていくというのも重要な役割のひとつだと考えています。
-チーム内の対話を促すために、意識していることはありますか?
江藤:チームのなかには、何かに特化した知見を持っていたり、いわゆるオタク的な存在の人もいる。ともすると普段の会議ではオミットされそうな人の個性も引き出すことを意識しています。それにはまず、チーム一人ひとりの得意技を知ることですね。クライアントの個性はすべて把握します。自分の会社の人より、クライアントの社員のことのほうが知っているかもしれない(笑)。
-一人ひとりの個性を把握するというのは、むずかしいことでは?
江藤:少し情緒的な言い方になってしまいますが、クライアントのことが好きなんですよね。相手がどんな役職だろうが、いっしょに仕事する人を友人だと思ってる(笑)。初対面から心を開いて、なにがお互いのエキサイティングポイントなのかを切り拓いていきます。いっしょに食事行くのも楽しいですよ。今日はどんなテーマで盛り上がろうかなと考えたり。
-それは江藤さんのパーソナリティでしょうか?
江藤:もちろんそれもあると思いますが、Representationにはそういった行動資質が必要になってくると感じます。もちろんデータは重要ですし、分析できることは大前提として、そのうえで、新しい時代のストラテジストやプラナーに必要な素養なのではと考えます。
-情報収集が趣味であったり、クライアントを友人と思ったり、仕事とプライベートの境なく楽しんでいる印象があります。
江藤:そうですね、はじめに「考えてプレゼンするのが好きでストプラになった」と話しましたが、初任の上司がスージー鈴木という方で、とにかくプレゼンで人を楽しませることに知恵を絞るプラナーだったんです。それが僕のキャリアのなかですごく勉強になった。
いまは、「プレゼンテーションで楽しませる」から「ビジネス課題で楽しませる」に変わってきているのだと思うんです。このビジネス課題をどう解決する?というワクワクをクライアントチームと常に共有できている状態が、その事業体を強くしていきます。
-課題というと解決しなければならない“高い山”と考えてしまいがちですが、それを楽しませるにはどんな秘訣があるのでしょう?
江藤:いや、楽しくないですか?課題を解くって(笑)。課題に向き合うことが楽しくなるような工夫はもちろんしますし、考えやすいフレームをつくるのは得意。ワクワクしながら取り組んでもらえるように導くのは僕らの得意技だと思います。課題を設定して、それを解くための手段を考えるのが大好きなんです。
解決するために誰かの力が必要だったら、その人を連れてくるチームコーディネーターとしての役割も果たします。そうすることで自分が知らなかったソリューションが提供されれば、クライアントもうれしいし、僕も楽しい。プロフェッショナルをストックしておくというのも意識しています。そういう関係値も大事ですよね。
-江藤さん自身が楽しみながら仕事をすることで、チーム全体にいい影響を及ぼしているのかなと感じますが、今後どんなクライアントとご一緒したいなど展望はありますか?
江藤:ひとことで言うと一緒に事業成長をしていきたいクライアントさんです。
いままさにShark Ninja*さんと博報堂チームで、新しい市場開拓に共に挑んでいます。互いに提案を繰り返し、刺激を及ぼし合いながら着実に前進できていると感じます。MKTGフレームワークの開発やKPIの設定、包括的なブランド構築、会議体の運営や外部プロフェッショナルのアサインなどなど、Shark Ninjaさんとワンチームでチャレンジングなビジネス課題に挑んでいます。
*アメリカ マサチューセッツ州ニーダムに拠点を置く世界的な家電メーカー、製品設計およびテクノロジー企業
僕のやり方としてコラボレーションすることが前提。そのスタイルでご一緒できるクライアントさんとぜひお仕事したいです。また、プロダクトやサービスはあるけれど戦略リソースが不足しているという企業さんにもお役に立てると思います。いっしょに戦略組織を強くしていくことができると思いますので、ぜひお声がけください。
2005年博報堂入社。国内外の企業の戦略業務に従事。現在は主に世界的なIT企業の業務に携わり包括的に戦略をリード。2018年博報堂社内に戦略ブティック「Paasons Advisory」を立ち上げる。著書に「ポケッツ!(弘文堂)」「マーケティング基礎読本(日経BP社)」。「週刊エコノミスト(毎日新聞社)」特集記事寄稿 など。アジア初開催の「Advertsing Week Asia 2016」に登壇。「ad:tech Tokyo 2019」登壇。