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エグゼキューションオフィス・PEAKが考える、令和のコミュニティマーケティングとは? ~Google「ユーチュー部」

2025.02.26
2022年に博報堂グループにジョインした、エグゼキューション力を強みとするPEAK。
2年間で社員数を2倍以上に増員し、SNS時代に合ったSTEAM STUDIOの立ち上げをサポートするなど博報堂グループの新しい価値創造を目指し成長を続けています。
ショート動画やコミュニティマーケティング、ライバービジネスなど常に最新のトレンドを捉えた需要の高い領域の実績も増えています。
その裏側には、平均年齢27歳という活気あるメンバーの高い実行力と他にはないユニークな採用制度や会社運営があります。全5回の特集では、PEAKの考え方と事例を通して新しいクリエイティブのあり方をひも解きます。本稿では組織の特徴とともに、コミュニティマーケティング実例としてGoogle「ユーチュー部」を紹介します。

ソ・ヨンボン
株式会社PEAK 代表取締役社長

松崎 直人
株式会社PEAK コミュニティマーケティングディレクター

横山 昴
株式会社博報堂 アクティベーションディレクター

PEAKのDNAは「エグゼキューション力」

横山
博報堂でアクティベーションディレクターをしております横山です。
同時に、PEAKでは「客員Cクラス制度」※のもと新規事業開発の責任者も務めています。まず、創業者で代表のソ・ヨンボンさんから、PEAKのアウトラインを教えてもらえますか?
※博報堂グループからPEAKにより強化する領域の人材をCクラス(CXO等)の肩書で招き入れ、事業責任者を任せる取り組み


僕はもともと外資系の広告会社でさまざまなクライアントワークを経験しました。
2016年に独立しPEAKを立ち上げ、早い段階でいい仲間に巡り合えてメンバーが増え、2018年ごろから博報堂との取引も始まり、数多くの案件で協業する中で2022年6月に博報堂グループにジョインしました。

横山
PEAKは「マーケティングにおける実行領域での価値創出に特化したエグゼキューションオフィス」と称し、実行力を強みとしていますが、背景にある考えは?


いくらすばらしいアイデアでも、実現できなければ意味がありません。
空想や妄想のような案を出せる人は沢山いますが、施策としてやりきって初めてクライアントの顧客に届き、クライアントのビジネスに貢献できます。アイデアが大事なのは当然ですが、同じくらい、実行するところに僕らは価値を置いています。

それは、横山さんも同じですよね。クリエイターの中には、風呂敷を広げるだけ広げるような人もいるかと思いますが、横山さんはすごく実行力を重視するクリエイターだと感じています。

横山
そうですね、私も博報堂DYグループに入社をしてから数々のサービスを立ち上げてきましたが、現場のニーズと今のトレンドを素早くかけ合わせて、すぐに提案に盛り込み、実装に移れるアイデアばかりだと自信をもっています。

今、PEAKのメンバーは50人近くになっていますが、皆とても若く機動力があって頼もしいです。それぞれの得意領域が異なっているのは、PEAKの幅広い対応力につながっていますよね。組織マネジメントについて聞かせてください。


PEAKには、縦割りの部や課の枠組みがありません。「ハッシュタグ組織」と呼んでいるオリジナルの構造を敷いていて、所属を固定しないプール型組織であり、かつ個々人の強みを「#(ハッシュタグ)」で可視化しています。エグゼキューション力を強みにしているので、各自が「何ができるのか」を自覚・表明し、クライアントの課題やニーズに合わせて最適なチームを編成しているんです。イントラネットでも、ハッシュタグでメンバーの得意領域を共有しています。

横山
一般的に、例えば名刺には「〇〇部〇〇課」と入っていますが、PEAKではその代わりにハッシュタグが記載されているんですね。このあと話してもらう松崎さんなら、「#コミュニティマーケティングディレクター」や「#イベントプロデューサー」などが入っていたり。


経験の浅いメンバーが習得中の領域は、#を薄い文字で載せています。
所属云々ではなく、自分の能力がチームそしてクライアントに貢献することが実力であり、実力が伸びると権限が委譲される。それを担保するのがハッシュタグ組織で、皆のモチベーション向上にもつながっています。

そもそもPEAKという社名も、決して“現状がピーク”という意味ではなく、常に僕ら自身でピークを否定して最先端を更新する意志を込めてつけているんです。

ゼロから熱量を起こす令和のコミュニティマーケティング

横山
組織が大きくなると、一般的に決裁者の意思決定が鈍くなったりすると言われていますが、ハッシュタグ組織とピークを越えていくという考え方によって、現場とソさんの意思疎通と決定がすごく速い。変化が激しい時代に対応できる要因ですね。

私がPEAKにジョインしたときにチームメンバーに対して掲げたメッセージは「共創」という文化を根付かせることでした。インフルエンサーとの共創から始まり、その活動は生活者との共創まで広がっていきました。
そこから着想を得て生まれたPEAKの事業のひとつに、コミュニティマーケティングがあると思います。まず、お二人から概要を解説してもらえますか?


コミュニティマーケティングという言葉を最近改めて聞くようになりましたが、企業が独自のファンコミュニティをつくり企業やメンバー同士の交流を創出したり、インタビューを通して事業のヒントを得たりと、いろいろな目的に活用されていますよね。それらは自分たちの企業やブランドが中長期的に愛される“場”をつくるイメージです。

しかしながら、場作りというのは簡単なものではなく、マーケティング課題に応じて、コミュニティの性質や活動内容が大きく変わるため毎回がオーダーメイドになります。更には継続的な企画作りなど走り続けることに必要となる人的工数も高くなり、始めたはいいものの継続しないケースがしばしば。

そこでPEAKでは、コミュニティ参加者目線でのメリットや喜びという観点と、クライアントの実現したい絵図を間に入ってチューニングしながらコミュニティを企画・実行するチームを発足。彼らが両者のコミュニティマネージャーとなりファシリテートすることで常に前に進み続ける体制を組むことに成功しました。

横山
そうですよね。参加する意義や得られる喜びという観点が外せないですね。
その点松崎さんはどう思いますか?

松崎
そうですね。参加者目線でのメリット設計が欠けると企業の意図が前面に押し出されてしまって、継続的な参加者が生まれないコミュニティになってしまうので、コミュニティを語る上では外せないポイントですね。
逆にいうとそこが上手くいったコミュニティは、イベントは盛り上がりますし、継続的な参加者が生まれることで企業側への積極的なフィードバックも増える有益なものになりやすいと感じます。
ファンがプロダクトに求めていることや、参加することでどのように承認欲求が満たされるか、ライフスタイルの中でどういうことを嗜好したりやりたいと思っているのか・・・というように参加者心理を深く理解して、逆算してコミュニティを設計することが大事ですね。

横山
その点、PEAKはどう実現しているんですか?

松崎
まず、コミュニティ設計にあたって、向き合っている生活者や顧客についてグループインタビューを重ねて理解を深めます。コミュニティが走り出した後にもアンケートをこまめにとって運営に反映させていけるように体制をとっています。
また、活動を通して企業への好意をより育てていくために、クライアントとも徹底的に寄り添い、一緒に取り組める「共創関係」をつくることを重視しています。
たいてい企業の熱量と顧客の熱量は異なるので、間に入ってファシリテートしていきます。ここにすごく工数がかかるのですが、だからこそ企業だけではなかなかカバーできない、僕らのエグゼキューション力が生きる部分です。

ショート動画投稿をコミュニティで活性化:Google「ユーチュー部」


僕がPEAKとしてコミュニティマーケティングを事業化しようと意思決定したきっかけが、ここで紹介したいYouTube ショートにフォーカスしたZ世代向けコミュニティマーケティング事例「ユーチュー部」なんです。Googleにも協賛いただきながら、PEAKが主体となってコミュニティを運営しています。
発足半年で、300人弱のメンバーが、計8,000投稿ほどショート動画を投稿しています。

横山
発足から間もないのに、すごくアクティブなコミュニティですよね。

松崎
目的は、Z世代を対象にYouTube ショート動画の投稿数をより増やして、活性化させていくことでした。さらに、すでに頻繁に投稿しているインフルエンサーではなくまだYouTube ショートに一度も投稿したことがない人を巻き込み、撮影することの楽しさと投稿することで起こる反応を知ってもらい、活動の継続を促すことが必要でした。

横山
活動のポイントは、ある程度の既存のファンを集めてもっと好きになってもらうアンバサダー活動をするのではなく、何もないところにゼロから熱量を起こしてコミュニティを生み出す必要があった、ということですよね。

松崎
そうですね。大変でした(笑)。分解すると、①集客、②動画を撮影・投稿してもらう、③その動画が成功する=反応を得られる、④活動が継続する、という4つのハードルがありました。

例えば集客にしても、「YouTube ショート動画を投稿してみたい人!」と募集するとすでに興味がある人が集まります。すそ野を広げるには、まったく興味がない人に振り向いてもらわないといけない。そこで「企画~撮影~投稿で動画編集力や発信力がつく=就活に役立つ」といった文脈をつくり、継続的なミートアップイベントを実施しました。
集客はクローズドで、PEAKとつながりのある大学や教育機関などに趣旨を説明し、そこから草の根的にZ世代の方々に告知しました。

横山
集客だけでもかなりの工数がかかりましたよね。

松崎
はい。実際、集めて終わりではなく継続が大事なので、楽しみながら、自分の就活やキャリアも視野に入れて真面目に取り組んでくれるメンバーを迎えることがカギでした。なので、あえて広告などは打たずに、完全紹介制にすることで特別感を高めました。

毎回のイベント参加者は100名を超えます。コミュニティの一体感を創出するために、オリジナルのTシャツなどのグッズをつくったりもしています。

このイベントでは、メンバーの関心事(トレンド)とYouTube ショートの機能のおもしろさや、制作ノウハウを掛け合わせながらレクチャーします。ただ“お勉強”として伝えるだけではなく、参加者が楽しい“体験”として持ち帰り、その日から自発的に投稿を継続してもらえるように様々な工夫をしました。そこで僕らが最も意識したのは、コミュニティからグループへの分散のさせ方でしたね。

メンバーがいかに自然に盛り上がるか、そのための工数を惜しまない

横山
コミュニティからグループへの分散のさせ方は、松崎さん相当こだわっていましたよね。

松崎
そうですね!メンバー同士、メンバーと運営スタッフが仲良くなれる仕組みを作ることが、とても大事ですね。
イベントやコミュニティには基本的には1人で参加する方が多いので最初はみんな見ず知らずの状態から始まります。
そこで、イベントの序盤で6人組のグループ分けを行い、その後の動画制作や制作物の発表までグループで取り組んでもらうようにしています。また、イベントの要所要所にも軽食タイムや懇親会など、いろんなメンバーとコミュニケーションを取れる時間を意図的に設けています。その後の日々の投稿活動でもMeetUpで仲良くなったメンバー同士でグループを作ってもらい、他のグループと切磋琢磨し合える環境を作ることで、楽しみながら投稿を継続してもらうことができました。
メンバーと運営も日常的に交流を行うことで仲良くなり、最近ではメンバーに意見を聞いたり、イベントを手伝ってもらったり、とても頼りにさせてもらっています(笑)。

さらに、イベントが終わって日常に戻っても投稿を続けてほしいので、オンラインでやり取りしながらグループ単位で投稿数などを競う仕組みも導入をしました。期間内で投稿数が最も多かったグループには旅行や体験企画をプレゼントし、その様子をまたショート動画にしてもらいました。結果、グループの団結力も高まり、更に投稿モチベーションが高まるというスパイラルを起こすことができましたね。1グループ800投稿を超える猛者も生まれました。それには運営側もびっくり(笑)。


「ヘリコプターに乗れる体験」なんかは皆テンションが上がっていましたね。

松崎
でしたね! そうした仕組みを入れて、熱量を継続的に高める中で、自分の型を見つけて投稿するメンバーも増え、3〜4万回再生される動画が数多く生まれました。


「ユーチュー部」を実験の場として使い、発信してくれるようになっていますね。また、そうしたメンバーの様子から、次の戦略や施策につながる気づきを得ているのも、このコミュニティマーケティングが好例といえる点です。

松崎
そうですね。人はどういうきっかけで行動を起こすのか、といった心理や潜在的ハードルを、コミュニティメンバーのモニタリングすることで詳細に把握することができました。そのように抽出したインサイトは核心的であり、ユーザーと近い距離感で関係値を築けるコミュニティマーケティングならではの強みだと思います。

横山
プロダクト愛が芽生える瞬間といったディープなインサイトを明瞭に観察できるということが、ユーザーと近い距離感で向き合うコミュニティマーケティングだからこそできる重要な意義ですね!
同時にそれらが、PEAKのコミュニティマーケティングの経験値になっていきますね。両顧客の熱量を維持し、楽しく関与してもらうには省けない手間も多いですが、それをやり切ることがエグゼキューション力だと改めて実感しました。
まさに数年前に僕らが目指していたEmotionalなCRMをPEAKと一緒に実現をできたこと、そして今後も続けていけることが嬉しいです。最後に、お二人から今後の展望をひとこともらいましょう!


今後の野望としては、引き続き常にピークを疑い、更新していきます。松崎のようなリーダー人材を若手からどんどん育てて、新しいものを取り込んで、PEAKの原動力を爆発的に高めたいです。

松崎
これからも、やり切ることにこだわって、クライアントとともにユニークな新規事業を生み出していきたいです。僕自身は、そこでリーダーシップを発揮していくことが目標です。

ソ・ヨンボン
株式会社PEAK 代表取締役社長

松崎 直人
株式会社PEAK コミュニティマーケティングディレクター

横山 昴
株式会社博報堂 アクティベーションディレクター

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