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本質価値を深めながら、イノベーションの芽を見出した「丸亀シェイクうどん」|Hakuhodo Showcase Vol.01丸亀製麺【前編】

2025.02.27
博報堂が手がけた革新的なプロジェクトやクライアント事例を厳選してご紹介する連載「Hakuhodo Showcase」。最新のマーケティング戦略からクリエイティビティあふれるコミュニケーション手法、事業開発、社会実装のケースまで、担当したプラナーやクリエイターによる解説を交えてご紹介します。第一回は丸亀製麺のマーケティング本部長 南雲克明さんをゲストに招き、「丸亀シェイクうどん」の開発秘話やインナーコミュニケーションの取り組みについて伺いました。

写真左から:
チーフアクティベーションディレクターとしてブランディング、コミュニケーションやインナープロモーションを手がける⽯川雅雄。
丸亀製麺の取締役で、マーケティングの統括を担う南雲克明さん。
丸亀製麺のブランド戦略を支援するコンサルタントの岡⽥庄⽣。

外食産業にとって厳しい時期。コロナ禍にスタートした丸亀製麺と博報堂の協業

-はじめに、丸亀製麺さんとのこれまでの取り組みについて簡単に紹介ください。

⽯川雅雄(以下、石川):私が丸亀製麺さんの業務に参加させていただくようになったのは、2020年になります。最初は、主にCMやコミュニケーション設計、キャンペーン制作の業務をお手伝いさせていただいていました。様々な業務を通じて南雲さんに教えていただいたのが、商品を売ることと、店舗のあり方や、従業員の方の気持ちやモチベーション、すべてつながっているということ。そんなことへの理解も深めながら、業務の領域も拡大し、ブランディングやインナーコミュニケーションのご相談をいただいたり、生活者発想での商品開発もお手伝いしています。「丸亀シェイクうどん」や「丸亀うどーなつ」もそのひとつです。

岡⽥庄⽣(以下、岡田):私が丸亀製麺さんのチームに入ったのは2021年から。ちょうどコロナの出口が見えはじめた頃ですね。これからいかに事業を回復・成長へと加速させるかというタイミングだったこともあり、コミュニケーションに限らず、事業としてテイクアウトをどう広げていくか、従業員のモチベーションどう上げていくかといった幅広い活動をお手伝いしてきました。

南雲克明さん(以下、南雲):2020年頃はコロナ禍で外食産業全体が落ち込んでいた時期。そこからのV自回復を狙っていましたので、商品をつくること、ワクワクするような体験をつくること、社内のモチベーションを上げること、それらを同時に取り組まなければならなかった。博報堂さんには本当に大事なタイミングで入っていただいて。おふたりあっての丸亀製麺という感じです(笑)。

⽯川:ちょっと褒めるタイミングが早すぎますね(笑)。

うどんを“振る”から、うどんが“踊る”へ。丸亀の本質価値とつながった「丸亀シェイクうどん」

-事業としてテイクアウトに注力するなか「丸亀シェイクうどん」が生まれたということですが、あらためて開発の経緯から教えていただけますか?

南雲:「丸亀シェイクうどん」は2023年の5月にデビューさせた商品。その年の1月4日の初出勤で、社長の山口が「こんなのつくってみたんだけど、どう?」と見せてくれたのが、カップにうどんと出汁と野菜が入ったもの。シェイクうどんの原型ですね。
もともと6月にドライブスルー店舗を出店する予定があったので、車のカップホルダーに入れられる形状を模索していたのですが、テストキッチンでそれを食べたとき、一店舗だけで販売するのはもったいないと直感的に思ったんです。きっとこれは、外食の楽しさやワクワクを体現できる商品になるだろう。でも、それをかたちにするにはどうすればいいか…。
コロナが5類に移行する5月を発売日に設定したので、4ヶ月という短い期間で商品開発からコミュニケーション設計まで取り組みました。

⽯川:正月早々にご相談いただいて、そのときは「カップうどん」と呼んでいましたよね?うどんを振るっておもしろいし、なによりすごく美味しい。これはいけるなと思いました。原型はできているので、あとは名前をどうするか、コミュニケーションをどうするか。
「丸亀シェイクうどん」というネーミングは、割とすぐに決まったのですが、丸亀製麺の本質価値である「ここのうどんは、生きている。」と、この新しい振るうどんとをどう結びつけていくかが難しくて、最初のポイントでした。チームで議論するなかで、一度これまでの丸亀製麺のCMを全部見ようということになって。あらためて振り返ってみると「ここのうどんは、生きている。」というシグネチャーカットが、うどんが踊っているようなカットだったんです。「これ、踊ってるじゃん」と気づいて生まれたのが、「うどんがおどると、ココロがおどる。」というキャッチコピー。これを見つけたときはうれしかったですね。
うどんを振るを、うどんが踊ると解釈することで丸亀の本質価値とつながる。CMも含め、とにかく「振る」を突き詰めてコミュニケーションしようと考えました。
今でこそこんな感じで話してますけど、南雲さんにも「今回はホームランを狙いましょう」と言われていたので、かなりプレッシャーを感じながら、やってました(笑)。

「丸亀シェイクうどん」から見出した、ブランド成長につながるイノベーション視点

岡田:私はプロモーションの細かい作業には入っていませんが、この「丸亀シェイクうどん」が丸亀製麺の事業にとってどんな意味を持つかという視点で注目していました。同じテイクアウトの商品としては「丸亀シェイクうどん」のほかに「丸亀うどん弁当」という商品もありましたが、それとは明らかに違う存在。普段丸亀製麺に行かない人、普段丸亀製麺を食べない時間帯にも食べてもらえる「丸亀シェイクうどん」は、店内飲食の代替品ではなく、ある種イノベーション商品だと感じたんです。
お店で美味しいものを提供するというブレない姿勢がありながら、毎年ひとつでもイノベーティブな商品にチャレンジするというのが丸亀製麺のブランド成長につながる。新たな挑戦をする土台を「丸亀シェイクうどん」がつくったんだと考えています。

南雲:断片的になっている創りたい未来の画を岡田さんがうまく整理してくれるんですよ。頭の中にあるけどうまく描けないことを「それってこういうことですよね」と言語化してくれる。これはすごい技術です。我々は本質価値を磨くことを追求してきましたが、新しい価値を生み出すイノベーションの視点が加わることで、2024年の「丸亀うどーなつ」、そして2025年の新たな構想にもつながっています。

「丸亀シェイクうどん」の開発秘話を中心に話を伺った前編につづき、後編のテーマは丸亀製麺のインナーコミュニケーション。従業員のモチベーションを上げ、外食産業全体の価値向上を目指す取り組みについてお話しします。

後編はこちら

南雲 克明
株式会社トリドールホールディングス 執行役員 CMO 兼 KANDOコミュニケーション本部長 兼 株式会社丸亀製麺 取締役 マーケティング本部長

早稲田大学大学院商学研究科卒MBA。コナミスポーツ、サザビーリーグなど外食・サービス・小売の事業会社においてさまざまなブランドのマーケティング責任者を歴任。2018年トリドールホールディングス入社。2022年より現職。独自のメソッドによる「感動ドリブンマーケティング」を推進、ビジネスと企業価値の持続的な成長に取り組む。

⽯川 雅雄
株式会社博報堂 クリエイティブ局 チーフアクティベーションディレクター

営業を経て、新事業開発セクションでサービス開発などを経験。その後、クリエイティブ局で、TVCM、コンテンツ、PRなどの企画制作、様々な業種の統合キャンペーン、さらにブランド構築、事業戦略、商品開発まで幅広いエグゼキューションを担当。

岡⽥ 庄⽣
株式会社博報堂コンサルティング マネージャー

ブランド戦略・マーケティング戦略の策定を支援する博報堂コンサルティングに所属。著書に『プロが教える アイデア練習帳』(日経文庫) 『博報堂のすごい雑談』(SBクリエイティブ) などがある。 法政大学客員研究員。日本マーケティング学会理事。

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