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従業員の「誇り」と「ワクワク」を生み出す。ブランドを強くするインナーコミュニケーション|Hakuhodo Showcase Vol.01丸亀製麺【後編】

2025.02.27
博報堂が手がけた革新的なプロジェクトやクライアント事例を厳選してご紹介する連載「Hakuhodo Showcase」。最新のマーケティング戦略からクリエイティビティあふれるコミュニケーション手法、事業開発、社会実装のケースまで、担当したプラナーやクリエイターによる解説を交えてご紹介します。第一回は丸亀製麺のマーケティング本部長 南雲克明さんをゲストに招き、「丸亀シェイクうどん」の開発秘話やインナーコミュニケーションの取り組みについて伺いました。

「丸亀シェイクうどん」の開発秘話を中心に話を伺った前編はこちら

写真左から:
丸亀製麺のブランド戦略を支援するコンサルタントの岡⽥庄⽣。
丸亀製麺の取締役で、マーケティングの統括を担う南雲克明さん。
チーフアクティベーションディレクターとしてコミュニケーションやインナープロモーションを手がける⽯川雅雄。

従業員一人ひとりの「誇り」と「ワクワク感」がモチベーションにつながっていく

-前編で「商品を売ることと、店舗はどうあるべきか、従業員はどうあるべきかはすべてつながっている」というお話しがありましたが、ここからは丸亀製麺さんのインナーに向けた取り組みについて教えてください。

南雲克明さん(以下、南雲):重要なブランドコミュニケーションや主力の新商品がローンチされる際には、全国をまわってマーケティング部自ら説明会を行うなど商品の価値をリアルに伝えることを大切にしています。また、全国のチーフマネージャーやマネージャー・店長に向けてブランディングの狙いやコミュニケーション戦略を伝え、お客さまがワクワクする姿を想像して「やる気」につなげてもらう。お客さまがブランド価値を体験するのは店舗です。どんなにいい商品を開発しても、お店が売ってくれなければはじまらないですからね。

-従業員のモチベーションを上げるために大切にしていることは?

南雲:いくつかあると思いますが、重要なことのひとつは誇りを持ってもらうこと。2024年の春には丸亀製麺全店に麺職人がいることをコミュニケーションの中核においてブランディングを展開しました。自分たちがいるから美味しいうどんが提供できて、お客さまによろこんでいただける。そのことが、誇りやモチベーションにつながると考えています。
もうひとつは新しさやワクワク感ですね。「丸亀シェイクうどん」や「丸亀うどーなつ」がそうですが、これをお客さまに提供したら喜んでもらえるよね、というワクワク感がやる気につながる。新商品が出るときはキーホルダーのようなグッズをつくって配るなど、一人ひとりが自分ごと化できる工夫も大切にしています。

社員へのインタビューから制作。会社の本気度が伝わった7本のアニメーション

-博報堂は社内向けコミュニケーションにどのように関わっているのでしょうか?

南雲:わかりやすい例でいうと、2024年に制作したアニメーションでしょうか。我々トリドールホールディングスは、2023年に「幸福経営」を掲げ、「働く人のハピネスをつくり、それによって感動体験を創造する」という新しい経営思想を打ち出しました。事業会社のグループ全員に周知するため、丸亀製麺でも全国をキャラバンして説明会を行うなど、半年ほどかけて従業員と接点をもつ機会があったんです。キャラバンするとき、説明用の動画があったほうがいいと考えて、岡田さん、石川さんにご相談しました。

岡⽥庄⽣(以下、岡田):はじめはアニメーションという話はなくて、3D映像のような未来を感じるワクワクする映像を作りたいご依頼だったんですよね。それで我々がいくつか考えたなかにアニメーションのアイデアがあった。

石川:あのときの最初のプレゼンテーション、よく覚えています。急いでアニメのプロットを書いて見せたら南雲さんが「これはいいね!」と手放しで褒めていただいて。そんなことあんまりないので、すごく印象的で記憶に残っています(笑)。はじめに店長編、その後麺職人編をつくって、さらに新入社員編、アルバイトから社員になった人編など全部で7パターンの物語をつくりました。

南雲:実際に店長会でアニメを見てもらったら、ウルッときている人もいて。アニメーションのほうがメッセージがすんなり入ってくるんでしょうね。内容もクオリティも素晴らしかったですし、社員の反響もよかった。いまは店舗に配って採用や教育に役立ててもらっています。

-ストーリーはどのようにつくったのですか?

⽯川雅雄(以下、石川):7つの物語、それぞれの立場の方に取材させていただきました。インタビューしてみると、すべての方がすべてのポジションで誇りを持って働いていることが伝わってくるんです。みなさん会社が好きなんですよね。だから、聞いた話を脚色する必要はほとんどなかった。従業員みなさんが、この人と同じように思ってもらえるためにストーリーを考えました。

岡田:人事系の映像としては過去にないくらい好評だったようですね。インナーコミュニケーションにそこまでコストをかけにくいという企業が多いなか、今回は会社の本気度が伝わったんじゃないかと思います。店舗のある企業はとにかく従業員さんが多いですし、丸亀製麺さんだけでもアルバイトやパートを含めて約3万人いるわけです。だからこそ、マスコミュニケーションが得意な博報堂が役に立てると感じたのです。働いている一人ひとりが生活者で、いろいろな想いがあって丸亀製麺で働いていることを考えると、その人たちにメッセージを伝える広告的な視点が南雲さんの視点とうまくリンクしたのかなと思います。

南雲:これまでは人事との関わりがそこまで深くなかったのですが、いまではマーケティングと人事のコワークが増えていますね。採用にもリテンションにもマーケの視点は使えますし、相性がいいとは感じていましたが、実際にやってみて成果を出せていると感じます。

岡田:とくに丸亀製麺さんの場合、従業員の方がお客さんの目の前でつくるというライブ感が価値。お店で働く方たちの存在は「マーケティングの一部」であって、切り離しては考えられないんですよね。

丸亀製麺の強みに社員のモチベーションや地域の個性をプラス。より強いブランドへ

-約3万人という規模の従業員と向き合うとき、どういったむずかしさを感じますか?

南雲:3万人のなかで社員は1割未満。多くを占めるアルバイト、パートさんは10代から70代までという年齢の幅もあり、みなさん価値観も違うし、モチベーションも様々です。しかし1店舗で考えれば30人程度。それならもっときめ細かいマネジメントが可能になりますよね。
いま考えているのは、約860店舗ある店に向かってルールをつくるトップダウン型から、店舗ごとに権限を持たせた、ボトムアップ型ビジネスモデルへの転換。その根本的な変化のはしりが、アニメーションを見せながら行ったキャラバンの説明会ということになります。お店に権限委譲することで、店舗それぞれが個性を生かしたもっと強い状態をつくっていく。
これまでの丸亀製麺は、秀逸なオペレーションと統制力が強みでしたが、それを実現できたのは現場の力あってこそ。そこに社員のモチベーションや地域の個性をプラスしていけば、もっと強いブランドができあがると考えています。

岡田:ひとことで言えば「お店を主役にする」ということ。それを掲げる企業はたくさんありますが、実現できるところはなかなかありません。丸亀製麺はその一弾として、47都道府県のご当地うどんをつくるという「わがまち釜揚げうどん47」キャンペーンを行いましたよね。

南雲:全国の麺職人から公募したレシピを商品化しているので、みんなすごく盛り上がって楽しんで参加してくれた。モチベーションが上がっているのを感じました。

-従業員の働きがいと会社のイノベーションについて、どのような関係があると考えますか?

南雲:外食業界は今後人手不足を免れません。給与水準を上げることももちろん必要ですが、それにも勝るのが、「自分で考えて実行したことがお客さまに喜んでいただいている」というやりがいです。そのための権限委譲を積極的にやる。これまで丸亀製麺の強みに店舗の個性がプラスされることでより成長できるというのが我々の仮説ですし、外食産業の未来のかたちでもあると考えています。

石川:丸亀製麺のうどんって、セントラルキッチンでつくったものを使うのではなく、すべての店で粉からつくっている。全店舗に麺職人の方がいて、1人1人が異なる個性でうどんと日々向き合っている。そのDNAは権限委譲と非常に親和性が高いですし、「店が主役」というのは丸亀製麺の本質価値と深くつながっているんですよね。

南雲:いまうまくまとめてくれていますが、僕や社長のなかにあることを構造化して、可視化してくれるのが石川さんや岡田さん。頭の中にあっても言葉にならないと実現できないですからね。そこは本当に助かっています。

岡田:南雲さんが言っていた言葉ですごく好きなのが「マーケティングで会社をリードする」という言葉。マーケティングというのはお客さんにものを売るだけでなくて、会社が変化していく先の姿を共有して、みんなが同じ方向を向けるようにすることだと思うんです。

南雲:そうですね。未来の絵を描くということ。いま不確実な時代でみんなこわいわけです。そこをリードしていくのがこのチームの役割だと思っています。

外食産業で働く人のステータスを上げ、子どもの「夢」になる職業に

-丸亀製麺のマーケティングチームとして、今後の展望をお聞かせください。

南雲:外食ビジネスは食を支え、食の課題を解決し、食を通じて笑顔を提供できるすばらしい仕事だと自負しています。この外食ビジネスのポジションや外食で働いている人のステータスを上げて、将来子ども達の「夢」になる職業にしていきたい。丸亀製麺の成長だけでなく、業界全体の価値向上にも貢献していきたいと思います。

石川:外食産業はお客さんも多いし、従業員も多い。すべてにマーケティング発想や生活者発想が生きてくる業態です。僕らが領域を問わず協働することで、会社の価値や業界の価値をさらに上げていきたいですし、日本が世界に誇る食としてうどんの魅力を発信していきたいですね。

岡田:私が仕事をするうえで大事にしたいのは、やはり成果を出すこと。2024年のACCマーケティング・エフェクティブネス部門で「丸亀シェイクうどん」がグランプリに選ばれたことは非常にうれしいできごとでした。丸亀製麺さんのすごいところは、毎年新しいイノベーションに挑戦しながら、しっかりとビジネス成果も生み出していること。さらには、外食の文化を変え、世の中に新しい体験を提供するという社会的な価値も生み出していること。今後も「成果を出す」ことに重きをおいて取り組んでいきたいと思います。

-さいごに、南雲さんにとって博報堂はどんな存在ですか?

南雲:クライアントとエージェンシーという関係より、対等なパートナー。すべてを話していますし、何事も真摯に向き合ってくれるので絶大な信頼を置いています。広告以外のインナーコミュニケーションでも戦略、戦術が必要。人の心を動かすための「リアリティ」を生むパートナーとして、欠かせない存在です。

南雲 克明
株式会社トリドールホールディングス 執行役員 CMO 兼 KANDOコミュニケーション本部長 兼 株式会社丸亀製麺 取締役 マーケティング本部長

早稲田大学大学院商学研究科卒MBA。コナミスポーツ、サザビーリーグなど外食・サービス・小売の事業会社においてさまざまなブランドのマーケティング責任者を歴任。2018年トリドールホールディングス入社。2022年より現職。独自のメソッドによる「感動ドリブンマーケティング」を推進、ビジネスと企業価値の持続的な成長に取り組む。

⽯川 雅雄
株式会社博報堂 クリエイティブ局 チーフアクティベーションディレクター

営業を経て、新事業開発セクションでサービス開発などを経験。その後、クリエイティブ局で、TVCM、コンテンツ、PRなどの企画制作、様々な業種の統合キャンペーン、さらにブランド構築、事業戦略、商品開発まで幅広いエグゼキューションを担当。

岡⽥ 庄⽣
株式会社博報堂コンサルティング プロジェクトマネージャー

ブランド戦略・マーケティング戦略の策定を支援する博報堂コンサルティングに所属。著書に『プロが教える アイデア練習帳』(日経文庫) 『博報堂のすごい雑談』(SBクリエイティブ) などがある。 法政大学客員研究員。日本マーケティング学会理事。

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