大島ももあ/読売広告社 マーケットデザインユニット 総合クリエイティブセンター 関西統合クリエイティブルーム
太田麻衣子/博報堂 執行役員 エグゼクティブクリエイティブディレクター
梅澤宏徳/ソウルドアウト エリアビジネス本部 エリアマネージメントグループ 雲南市ソーシャルチャレンジ特命官
須藤晃史/Hakuhodo DY ONE 第五アカウント本部 シニアマネージャー 兼 第二アカウント須藤局 局長
迎田章男/博報堂 取締役常務執行役員
(※登壇順)
私は日本広告業協会(JAAA)の第53回懸賞論文の新人部門で賞をいただきました。『私たちは今、bad girlたちになにを語りかけるべきか。』というテーマで、今の社会を生きる若い女性たちに対して、私たち広告会社が何を伝えるべきか、何を伝えたら彼女たちをエンパワーメントできるかについて考察しました。個人的にもとても関心のあるテーマだったので、論文にすることができて嬉しく思っています。
多様性について私が思うのは、「多様性を認めましょう」とか「多様性を作りましょう」という話ではないということです。世界はすでに多様であり、多様性はここに存在しているものです。それでもなぜ多様性や違いが議題に上がるのか。それは、「こうあるべき」という抑圧や、「これが当たり前」というステレオタイプな考え方が、社会において無意識に存在しているからだと思います。こうした抑圧に負けると、自分らしく生きることが難しくなります。しかし、その抑圧を破り、自分らしく生きられるようになったとき、違いは力に変わるのではないでしょうか。
私が伝えたいメッセージは、「皆さん、自分らしく生きましょう!」。
「多様性とクリエイティビティ」とは、「『こうあるべき』という固定観念を捨てること」だと思います。それが、違いを力に変えるために最も大切なことだと信じています。
ももあさんの論文が評価されて、時代が確実に変わってきていることを実感します。このような場が作れるようになったこと自体、本当にいいことだと思います。少し前までは、こんなにフラットに話すことはできず、どうしても「私たちはこう思っています」「これを理解してください」というような言い方になってしまい、それがかえって負担になっていた気がします。でも今は、「一人ひとりの心が認められることが大切だ」としっかり伝えられるようになりました。
昨年、カンヌライオンズのグラス部門の審査に参加しました。「グラス(Glass)」とは目に見えない不平等のことで、性や人種の不平等、虐待や暴力、貧困なども含まれ、この部門ではそのような障壁をクリアした取り組みに賞が与えられます。2024年のグランプリは、ユニリーバのスキンケアブランド、ヴァセリンの「トランジションボディローション」でした。ホルモン療法中のトランスジェンダー女性の方が直面する、特有の肌問題に向き合って開発されたボディローションです。これが評価されたのは、単に商品の有用性だけでなく、会社がマイノリティに向き合う姿勢や技術力を示した点でした。
グラス部門の審査員は非常に多様な人たちで構成されていました。トランスジェンダーの方、男性で夫がいる方、耳が聞こえない方、産後4週間の赤ちゃんを連れてきた方など、10人全員がそれぞれ異なるバックグラウンドを持っていました。私自身も、「英語があまり得意ではない」「アジアのマイノリティ」という立場で参加しましたが、他の審査員たちがその背景を尊重してくれる姿勢に触れ、「こんな社会が実現できたら素敵だな」と心から思える経験をしました。それは、目の前の人が「今どう考えているのか」をお互いに想像し合う社会です。
博報堂DYグループがいう「生活者」とは、集団や塊ではなく、一人ひとりの個人を指すのだと思います。その一人ひとりがきちんと認められて、それぞれ違っていても良い、むしろ違っていることが当たり前だとされることが、多様性の本質だと思います。そういった多様性を認める動き自体がひとくくりにまとめられそうになることもありますが、本当に重要なのは「違っていて大丈夫」という考えが浸透することです。さらに、違いをそのまま尊重し、その人に合わせて表現や発想を変えることで、新しい表現や想像力が生まれるのではないでしょうか。そうした新しい価値がどんどん生まれてくる未来こそが、「多様性とクリエイティビティ」の本質なのだと感じています。
私は出身地である島根県の雲南市で働いています。雲南市は東京23区と同じぐらいの面積で人口3万人ほどの町ですが、すごく素敵な故郷で、大学生の頃からずっと地域づくりに関わってきました。ソウルドアウトに入社した理由も地域に貢献したいという思いからです。より故郷に関わりたくて、3年ほど前から「地域活性化起業人」という総務省の制度を使いながら、都市と地方、企業と自治体、地域の間をつなげ、溶かし、課題解決していくことをミッションとして活動しています。どうすれば会社の取り組みを“地域ナイズ”していけるか、会社と地域の接続点を発見し地域の課題を解決できるのか。3年間の実務を積み重ねながら、デジタル分野での会社の強みを活かし、地域の課題解決に従事してきました
この3年間で感じたのは、「輸入」と「再発見」という2つの考え方の違いです。都市部の民間企業の社員として地域に入った当初は、外部の知識や仕組みを「輸入」する感覚が強くありました。私たち民間企業では、競争に勝ち拡大していくために、ある一定のフォーマットを確立し用いることでスケールアップしていくという考え方が基本です。しかし、地域ではそれがうまく合わない場合が多いと気づきました。
地域は「土着的」で領域が限られているため、決まったフォーマットを当てはめるだけでは限界で、その地域の中で可能性を広げることが重要です。地域のリソースは限られており、人口減少などの課題もある中で、外部のものをただ持ち込み、一部の問題を解決する関係や受発注の関係だけでは持続可能性がありません。外部から一方的に与えるのではなく、地域では当たり前に無理なく行われている、けれども実は価値があるものを見つけ、最大化する取り組みが求められているのです。意識しているのは、「貢献してあげる」という上から目線ではなく、「私たちも悩んでいるんです。一緒に盛り上げませんか?」というスタンスです。たとえば、「雲南市が大好きだから一緒に何かやりましょう」と地域の方々と一緒に潜在能力を再発見し、共に引き出していく。この関わり方が「輸入」ではなく「再発見」という表現につながっています。
また、法人格として地域に接するのではなく、個人格で接することも大切だと考えています。地域は限られたコミュニティなので、利害だけを意識した関係や、一方の理論だけで動く利他性の欠けた接し方では、地域内で活動し続けることは難しい。一人ひとりの思いや背景を知り、つながりを丁寧に作る必要があります。地域に対する愛を伝え、「地域を第一に考えていて、むしろ一緒に企てていきたい共犯者です」というスタンスを大事にしてきました。「東京の企業は怖い」と思っていた人にも、「この人なら信頼できる」と感じてもらえるような関係性を築くことが、地域に溶け込む上での鍵だと感じています。
私にとって「多様性と生活者発想」とは、「発見しながら溶け合う」という感覚でしょうか。地域の潜在能力を再発見して、それを活かしていくという考え方は、多様性にも通じるところがあると思っています。地域が持続可能であるためには、当たり前のように行われていることや隠れた魅力を掘り起こすことが大切です。そうしたものを活かせば、無理なく持続可能な形が見えてきます。そして、これは地域だけではなく、人にも当てはまると思うんです。一見違うことも、その人にとっては当たり前のことであり、他者から見ればとても素敵なことかもしれません。無理に変えたり合わせたりするのではなく、お互いの違いを尊重し、そのままの姿で自然に溶け合える関係が理想だと思います。それは「生活者を見る」という視点ではなく、「私も生活者の一員だ」という感覚で、一緒に体感し、共に暮らしを作り上げるようなイメージです。なので、「発見」と「溶け合う」という言葉が、自分の感覚を最も表しているかなと思います。
そして「溶け合う」という感覚とともに、「体感しながらわかる」ことも重要だと思います。これは多様性にも、地域の魅力の再発見にも通じることです。実際に行動してみる、試してみることで新たな道が開けることがありますし、自分の信念や「地域が好き」という気持ちを言葉にするだけでも、新しい可能性が見えてくると思います。そうした「体感値」をこれからも大切にしていきたいです。
私は4つの部を束ねていますが、ちょうど2年ほど前に第一子が生まれ、3ヶ月間の育休を取得しました。昨年4月から妻も復職して、新米父ちゃんとして日々奮闘中です。
育休は、先輩や地元の友人が取得していたので、子どもが生まれることがわかった時点で自分も取得する前提でいましたが、やはりさまざまなクライアントとの仕事もありますので、自分が抜けても問題ない状態をどうやって作れるか、周囲に迷惑をかけるけれど本当に休んでいいのかという思いも少しありました。ただ、上司や一緒に仕事をしている方々には「育休を取ろうと思ってる。期間はまだ決めていないけど、長めに取る予定」と事前に伝え、直前に3ヶ月ほど取得したいと思うと話していました。最初は、上司も少し不安そうな感じがありましたが、直前になるほど、僕自身も覚悟が決まってきましたし、チームのみんなも「ご家族といい時間を過ごしてください」と快く送り出してくれました。振り返ると、周囲の協力があってこそ取れた育休だったと思っています。
3ヶ月後に復職した際、チームに大きな変化を感じました。一緒に働いているみんながとても自発的になって、チーム感が高まった印象がありました。僕がいなくても物事がどんどん進み、決定され、自分はいらないのかなと思うぐらいチームとしてまとまっていて感銘を受けたことを覚えています。
私自身は、「ジェンダー」を特に意識しなくてもいいと考えています。男女関係なく、重要なのは子どもが生まれたという大きな変化の中で、日々の仕事と家庭のバランスをどう取るか、ということ。正直に言えば、私は最初そのバランスをうまく取れませんでした。もともと仕事に多くの時間を費やしてきたので、子どもが生まれた直後に意識を切り替えることができず、どっちつかずで、どちらもうまくいかない感覚に陥ったこともあります。最近になってようやく、妻と役割分担をしながら仕事も家庭もうまくやれるようになってきました。
今振り返っても、育休を取って本当によかったと感じています。もちろん育児は大変なこともありましたが、それ以上にいい時間だったという印象が強く残っています。皆さんにも育休を取ることをお勧めしたいですし、もし周囲に育休を希望する方がいたら、ぜひ協力していただけたらと思います。特に管理職の方々には、育休への理解を深め、それを発信することが求められます。管理職が理解を示すことで、「自分も休みを取っていいんだ」と感じられるはず。そのような対話が自然に生まれる社会になることを願っています。
会社として女性管理職の比率を上げていくという大きな課題があります。どの組織にも共通する課題かもしれませんが、私が営業ユニットを率いている立場として特に感じるのは、産休・育休を取得した女性たちが、職場にしっかりと戻り、営業セクションで再び活躍してくれることが、これからの会社の成長のためにも不可欠だということです。
私のユニットは比較的女性比率の高いチームが多いのですが、彼女たちが戻りやすい環境をどう作るか関係者とディスカッションを重ねてきました。また、ワークショップを通じて互いの意見を交換することでさまざまな発見もありました。
ただ、これは私の責任でもありますが、これまで現場まかせで進めてきた取り組みでは限界があることを痛感しています。大きなユニットになった今、現場まかせをやめ、制度や仕組みをきちんと整える必要があると考え、産休・育休を経験した多くの社員の話を聞きながら、さまざまなケースに対応できる仕組みづくりに取り組んでいます。
2人のお子さんを育てながら営業リーダーを務める女性社員の例です。彼女は1人目の育休後、「休み前に担当していたクライアントは大変だから、こちらのチームに移ったほうがいい」と言われて新しいチームに異動しました。クライアントとチームの両方に対して「初めまして」になるため、初めての子育てと合わせて、大きなストレスとプレッシャーを感じたと話していました。その後、2人目の育休後は休み前と同じチームに戻ることができ、その方がスムーズだったと感じたそうです。チームメンバーからの報告や、クライアントからの「待っているよ」というメッセージが励みになったと話していました。
周囲が「無理しないでいいよ」「帰った方がいいよ」と過度に配慮することが、逆に働く意欲を削ぐ瞬間もあったという彼女の経験を踏まえ、産休・育休からの復帰をサポートする際の考え方を改める必要があるのではないかと強く感じています。
職場や社会で相互理解を深めるためには、人に対する「思いやり」や「想像力」が非常に大切ですよね。相手のことを思いやり、また相手から思いやられる。そのように互いに想像し合い、対話を重ねることがが、特にジェンダーを語る上で大切だと思います。
私たちは「生活者発想」を掲げていますが、この言葉をあらためて考えると、世の中は多様な生活者によって成り立っているという当たり前のことをしっかり理解することの重要性を感じます。チームも、実はさまざまな背景や価値観を持つ生活者の集団です。この「多様な生活者の集合体」という原点に立ち返ることで、私たちの想像力はもっと広がるのではないでしょうか。相手の立場や気持ちを想像し、思いやる姿勢こそが、次の創造へとつながる第一歩だと思います。