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博報堂DYグループ Diversity Day 2024レポート vol.2
―「自分らしい性のありかた」を知ろう、話そう。

2025.03.19
博報堂DYグループでは、2023年に「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)方針」を定め、経営テーマとしてDE&Iに取り組むことを宣言。その一環として、「あらゆる『生活者』を想像しなくちゃ、創造なんてできないぞ。」をスローガンに、博報堂DYグループらしいDE&Iの実現に向けて、一人ひとりの行動を促すことを目的とした「博報堂DYグループ Diversity Day 2024」を開催しました。
レポート第二弾は、トランスジェンダー支援団体「乙女塾」創設者で歌手の西原さつきさんと、大広に所属しLGBT総合研究所を設立した森永貴彦を迎え、「自分らしい性のあり方」をテーマに行ったトークセッションの模様をご紹介します。

西原さつき氏/トランスジェンダー支援団体「乙女塾」創立者、歌手
森永貴彦/大広 未来開発局、LGBT総合研究所 代表、立命館大学客員准教授

ファシリテーター:
舩越啓/博報堂・博報堂DYメディアパートナーズ 経営企画室 サステナビリティ企画部長

■イントロダクション

舩越(博報堂DYメディアパートナーズ)
「LGBTQ+」という言葉自体は多くの方が聞いたことがあると思いますが、理解している内容や深さは人によって異なるかもしれません。本セッションでは、トランスジェンダーの当事者であり、トランスジェンダーの支援団体「乙女塾」の創立者である西原さつきさんと、大広に所属し、LGBT総合研究所を設立された森永貴彦さんに、当事者の生き方・考え方などについてお話しいただきます。

森永さんは、2016年にLGBT総合研究所を立ち上げられたのですよね。

森永(LGBT総合研究所)
はい。それから約8年が経ちますが、現在も多様なジェンダーやセクシュアリティについて研究し、情報を発信しています。

多様な性のあり方を構成する要素には、「性的指向」と「ジェンダーアイデンティティ」があります。「性的指向」は、恋愛や性的感情の対象となる性別に関する指向のこと。一般的な異性愛だけでなく、同性を好きになる同性愛、異性・同性どちらも好きになる両性愛、そして性的指向がない無性愛など、さまざまな形があります。
一方「ジェンダーアイデンティティ」は自身が認識する性のこと。出生時に割り当てられた性別と同じ性自認を持つ「シスジェンダー」が多数派ですが、それと異なる性自認を持つ「トランスジェンダー」の方がいます。

「LGBT」という言葉は、「LGBTQ+」や、国によっては「GLBT」と表記をすることもありますが、いずれも同じ意味で性的マイノリティの総称です。
2021年にLGBT総合研究所が、日本でどのくらいの割合の方がLGBTQ+に該当するのか調査したところ、6.5%という結果でした。国内でもさまざまな機関が調査を行っていますが、LGBTQ+該当者の割合はいずれも3%から10%ほどという結果になっています。

舩越
左利きやAB型の方が約10%と言われているので、それに近い割合ですね。我々の仲間や、取引先、家族や友人の中にもLGBTQ+の当事者がいるかもしれないことをぜひ想像してみていただけたらと思います。

■トランスジェンダーのリアル(西原さつき氏/「乙女塾」創立者)

西原(乙女塾)
今日は「トランスジェンダーのリアル」をお話ししたいと思います。トランスジェンダーに実際に会ったことがある方は、まだ少ないのではないでしょうか。私自身の体験談を通じて、どんなことを考え、どんな思いを抱え、どんな悩みを乗り越えてきたのかを共有できればと思っています。

私は16歳の時に性別移行を始めました。女性ホルモンの注射を受け、性別適合手術を経て、現在では戸籍上の性別と名前も変更しています。現在は、9年前に創立したトランスジェンダー向けのレッスンスクール「乙女塾」を運営するほか、ボイストレーニングの講師としても活動しています。また、性的マイノリティやトランスジェンダーについて知っていただくため、作曲や歌手活動などエンターテインメントを通じた啓発活動にも取り組んでいます。

全国の中学校や高校で講演活動を行い、自分の体験談を伝える活動もしています。年間60~80校を訪問する中で感じるのは、トランスジェンダーに対する価値観や感覚が、大人と学生で大きく異なるということです。大人はトランスジェンダーを「遠い存在」と考えがちですが、若い世代は「いて当たり前」という感覚を持っています。SNSやネットを通じて日常的に接しているためか、「SNSで見たことがあります」といった反応をよくもらいます。この世代間の感覚の違いは、実際に現場に立たなければわからなかったことです。
また講演をすると、その後一定数の生徒からSNSを通じて、「実は自分も当事者で、誰にも言えなかった」、「ずっと一人で悩んでいました」といったメッセージをいただきます。どの学校でも同様なので、多くの方が当事者として悩んでいるのだと実感します。

こうした活動を通じて、多くの方に、性的マイノリティやトランスジェンダーに関する理解を深めてもらうことを目指しています。そんなトランスジェンダーの私のリアルを一言で表すと、「選択の連続」です。トランスジェンダーの人は、どんなライフスタイルを送っているのか疑問を持つ方も多いかもしれません。私の人生を振り返ると、節目ごとに、少し重い決断も含めていろいろな選択を迫られました。

―今までの人生は「選択の連続」

最も大きなターニングポイントとなったのは、女性ホルモン治療を始めた16歳の時。医学的な治療を受けることで、体が徐々に変化していくのを実感しました。肌質が改善され、髪がツルツルになり、自分が綺麗になっていく感覚がありました。一方で、筋力や体力が低下するといった変化も伴いました。それまで簡単に開けられたものが開けられなくなったり、ものすごく疲れやすくなったりするようになったのです。また、皮下脂肪が増え、胸やお尻が大きくなり、体型が女性らしく変化していきました。

中でも個人的に最も驚いたのは、「見える色の数が増えた」という体験でした。私自身の感覚なので、みんなが同じではないかもしれませんが、女性ホルモンの投与を始めてしばらく経った頃、色彩の世界が一変しました。これまで気づかなかった細かな色の変化に敏感になり、世界が驚くほど鮮やかに見えるようになったのです。調べてみると、女性のほうが色の微細な変化を感知する能力が高いとも言われており、そうしたことが影響していたのかもしれません。

しかし、この治療には代償も伴いました。それは、生殖機能を失うということです。16歳という年齢で、「男性として生きて家庭を持つ」か、「子どもを諦め、自分の道を進む」か決断したことは、人生最大の選択でした。

―トランスジェンダーは「身近にいるかも」と思ってほしい

その後大学を卒業して、従業員約1000人規模の地元の大手企業に就職したのですが、戸籍上の性別である男性として登録され、性別の変化が進む中で力仕事が難しくなるといった課題に直面。「自分らしく生きたい」という気持ちが高まり、名前を変えたいと上司に相談しましたが、「前例がない」という理由で認められませんでした。当時はまだ環境や制度が整っていなかったと感じます。この会社には1年半ほど勤め、自分の道を進むために転職しました。
2社目では、ベンチャー企業の柔軟さに期待して、小規模なIT系広告会社に就職しました。ここでは自分の性別を受け入れてもらえて非常に嬉しかったのですが、労働環境の厳しさが原因で結局退職しました。

2社での勤務経験を通じて当時私が感じたのは、「大手企業のフットワークの重さ」と「ベンチャー企業の未整備な環境」というそれぞれの課題でした。ただ現在は、環境や制度も整い、安定性と柔軟性を兼ね備えた企業も増えているかもしれません。そんな職場環境があったら、私ももう一度会社員としてチャレンジしたいです。

現在は、トランスジェンダーをはじめとした多様な方々が集うコミュニティの形成に力を入れています。最初は交流会としてスタートしましたが、現在では作曲や歌の披露、朗読劇などのパフォーマンスを取り入れることで、楽しみながら一体感を得られる場になっています。
参加者の年齢層は13歳から77歳までと幅広く、特に45歳以上の方が半数以上を占めています。年齢に関係なく性別に悩む方は多くいらっしゃいますが、仕事や子育てが一段落してから自分の人生を見つめ直し、新しい一歩を踏み出す方が多い印象です。こうした活動を通じて参加者が自分の居場所を見つけ、喜びを感じている姿を見ると、さらに多様な企業や団体などと連携してコミュニティを広げていきたいという思いが強くなります。トランスジェンダーという言葉に距離感を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、当事者は身近にもいるかもしれません。「近くにいるかも」と少しでも意識していただけたら嬉しいです。

■一番大切なのは「知ってもらうこと」

舩越
貴重なお話をありがとうございました。西原さんのお話の中で「自分らしさ」という言葉が出てきましたが、「自分らしく」あるために意識されていることはありますか。

西原
子どもの頃の素直な興味や欲求を思い出すことを心がけています。地元に帰ったり、思い出の場所に行ったり、好きだった食べ物を食べたりすると、自分の気持ちがリセットされるように感じます。
子どもは肩書きや役割に縛られることが少ないため、自分の素直な気持ちのまま行動できますよね。しかし大人になるにつれて、周囲の目を気にしたり、周りに合わせたりすることが増え、本当の気持ちに蓋をしてしまうことも多いと思います。子ども時代の気持ちを思い出すと、自分らしさを取り戻せる気がします。

森永
私自身もゲイですが、それを周囲に言えなかったときは、嘘をついて生活することが多くありました。恋愛の話題になると、相手のことを女性に置き換えたりして、必死に自分を隠していました。でもその嘘を重ねるうちに、自分らしく生きているという感覚が失われ、自分自身に自信が持てなくなりました。だからこそ、自分に嘘をつかずに生きられる環境がもっと広がってほしいと強く思います。それが自分らしく生きるための第一歩になると思います。

舩越
人生にはたくさんの選択がありますよね。その選択の積み重ねが、自分らしさを形作っているのではないかと思います。LGBTQ+に限らず、すべての人が自分の選択をリスペクトされるべき。そして、その違いを楽しむことができれば、もっと素敵な社会や会社になっていくのではないかと感じています。
最後に読者のみなさんへメッセージをお願いします。

西原
一番大切なのは「知ってもらうこと」だと思います。トランスジェンダーは遠い存在だと思われがちですが、実際には身近にいる可能性が高いです。今日のようなセッションを通じて、「自分の近くにもいるかも」と思っていただけたら嬉しいです。日常の雑談の中で、「最近LGBTQ+について勉強しているんだ」などとさりげなくLGBTQ+について触れていただくだけでも、当事者にとって大きな救いになります。ぜひ、日常生活の中で少しずつ話題にしてみてください。

森永
LGBTQ+について初めて触れるとき、少し怖いと感じる方もいるかもしれません。でも、ぜひ積極的に関わってみてほしいです。「わからないことがあるけど教えてもらえる?」と素直に尋ねることから始めるだけで、コミュニケーションが広がることもあります。セクシュアリティを特別扱いする必要はありません。恐れずに一歩踏み出し、対話を大切にしていただければと思います。

舩越
お二人とお話しする中で、当社グループの行動指針である「ちがいを交ぜて、ちからにする」をあらためて実感しました。この目標を実現するために、私たちも引き続き努力を続けていきたいと思います。

西原 さつき氏
トランスジェンダー支援団体「乙女塾」創立者、歌手

自身の経験をもとに「乙女塾」を創立。アーティストやクリエイターの活躍の場「スタジオさつきぽん」、テレビドラマや映画の制作・出演、全国の中学・高校での講演活動などを行い、性移行の体験を次世代に伝える。あだ名は「さつきぽん」。

森永 貴彦
大広 未来開発局、LGBT総合研究所 代表、立命館大学客員准教授

2011年に大広に入社。博報堂DYグループ横断社内公募ベンチャー制度「AD+VENTURE」を活用し、2016年にLGBTQ関連の調査・研究を行う専門シンクタンク「LGBT総合研究所」を設立。国内におけるジェンダーレス・マーケティングの第一人者として活躍。

舩越 啓
博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 経営企画室 サステナビリティ企画部 部長

1994年博報堂入社。ストラテジックプラナーとして、クライアント企業のマーケティング支援に携わる。2012年に米国に赴任し、マーケティング・アナリティクスの実務を担当するなど、長年にわたりマーケティング戦略やデジタル戦略に従事。2024年4月から現職。

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