<プロジェクトメンバー>
(写真右から)
柿原 正郎氏
東京理科大学経営学部国際デザイン経営学科 教授
石淵 順也氏
関西学院大学商学部 教授
西村 啓太
博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 室長補佐
本プロジェクト共同代表
澁谷 覚氏
早稲田大学大学院経営管理研究科 教授
本プロジェクト共同代表
杉谷 陽子氏
上智大学経済学部経営学科 教授
米満 良平
博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 上席研究員
米満
デジタル時代のブランドについて議論する本連載ですが、前々回、前回は、調査を通して感情購買といった点を分析してきました。今回のテーマは「共感」についてです。感情が盛り上がって買うということだけでなく、その感情は他者に対して広がりを持っていると考えられます。そこで重要な役割を果たしているのが、「共感」ではないかと。
西村
今回はまず、私自身の体験からお話させてください。先日、友人のすすめで、初めて男性用化粧品を使ったところ、ほんの2-3週間で効果が表れて驚いたということがありました。友人が様々な製品を自分で試した上で、自信を持って紹介してくれるので、「間違いない!」とリスト通りに購入したのです。これこそ、以前議論した(※第3回、第4回)“信頼性”だと実感しました。
柿原
ブランド側のメッセージよりも、信頼する友人の力のほうが大きいわけですね。
西村
そうですね。ただ、ブランド力も無関係ではありません。やはり知っているブランドや大手のブランドだと買う抵抗は低い一方、知らないブランドや海外ブランドなどだと少しは調べたりしましたが、知らないということよりも友人の言葉に共感し、信頼しました。
柿原
そんなに効果があるなら、今、私もカートに入れておこうかな(笑)。
西村
今ここで感情や共感が伝染しましたね(笑)。
買い物と、感情の関係については、石淵先生の書籍『買物行動と感情 -- 「人」らしさの復権』(関西学院大学研究叢書)にとても濃く書かれていると思います。2019年の書籍ですが、発行後の反響や、新しい観点の意見などはありましたか?
石淵
本書では、あくまで「実店舗の買い物行動を分析している」とことわりを入れているのですが、やはり「デジタルはどうなのか」というご指摘いただいて。そこまでカバーできればと思っていた矢先にお話をいただいたのが、この「デジタル時代の新・ブランド論」構築プロジェクトでした。
西村
デジタルをいったん外したのは、実店舗とはまったく違っているからですか?
石淵
はい、その点が大きいですね。今回のテーマでもありますが、メーカーの視点で考えたとき、ECだと、消費者の情報摂取や感情にかかわりにくいように思ったのです。その時点では既存の買物行動研究にどう組み込んでいいのかが、なかなか見通せなかったので書籍では控えたのですが、考えていることはいろいろとありました。
西村
メーカーがかかわれない次元の話が入ってくる、と。その感覚は広告会社の現場も持っています。これだけ情報があふれる中で、買物に関わる一次情報がもっとも載っているはずのメーカーサイトを見てもらうことが難しくなっている。その前提でマーケティングを組み立てなければいけない難しさが顕在化しています。だからこそ、メーカー側からどうやって生活者の感情を盛り上げられるかは、クリエイターやプラナーの腕次第になっている現状があるわけですが、一方でそこに再現性がないことも課題になっています。
澁谷
メーカー側がかかわれない領域をひとことで括ると、カスタマー同士、生活者同士の情報摂取がデジタル環境においてはメインになっている、ということではないでしょうか。
米満
おっしゃる通りですね。その一方で、それと並行しながらメーカーが直接的に生活者にかかわれる領域をできるだけ多く創り出そうというのが、D2Cのビジネスモデルだともいえそうです。D2Cブランドがパーパスや世界観を大事にするのも、感情や共感とつながる部分が大きいからでしょう。デジタルだからコントロールできる領域と、逆にコントロールできない領域がある。そこが難しくもあり、おもしろくもありますね。