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学生たちが描く「人間らしさ」の新しい形
~第13回 BranCo! 『人間らしさ』開催レポート前編~

2025.03.21
デジタル化やAIの発展が急速に進み、答えのない時代と言われるなか、あらためて「人間らしさ」とは何かが問われています。
博報堂は、東京大学教養学部教養教育高度化機構と共に、ブランディングの重要性や魅力を学生に伝えることを目的にしたブランドデザインコンテスト「BranCo!(ブランコ)」を2012年から開催しています。第13回目となる今回は、現代社会が問い続ける「人間らしさ」をテーマに、全国82大学125チーム506名の学生が参加。2024年12月21日(土)の決勝イベントでは、プレ審査、一次審査、二次審査を勝ち抜いてきた6チームが、議論と創造の末に生まれたサービスのアイデアが披露され、熱いプレゼンテーションが展開されました。その模様をレポートします。

冒頭では真船 文隆氏(東京大学 大学院総合文化研究科長・教養学部長)による開会の挨拶が行われ、続いて、宮澤 正憲(博報堂 執行役員/東京大学 教養学部教養教育高度化機構 特任教授)が大会の趣旨を話しました。

博報堂が考えるブランドデザインは、「社会にとって有意義な、魅力ある『固有性 = らしさ』を、あらゆる手段を駆使して設計し、つくりだすこと」と説き、「インプット」「コンセプト」「アウトプット」の3つのステップから成り立つリボン思考をもとに創造していくことを述べました。

次いで、二次審査を通過した6チームが発表されると、会場からは歓喜の声が挙がるなど、4カ月におよぶ努力の成果を称え合う大学生たちの想いが溢れていました。

決勝プレゼンでは、各チームが「人間らしさ」を具現化したアイデアを競い合い、未来に問いを投げかける提案は、審査員や観客を魅了しました。以下、各チームの決勝プレゼンの模様をダイジェストでご紹介します。

まさまさチルドレン

▼INPUT

「人間らしさ」とは何かを考えるべく、以下の3つの調査を実施しました。

①アンケートフォームによるアンケート・街中インタビュー
②感情との付き合い方を探るグラフ調査
③子どもの頃の自分への”お願い”を書く「逆タイムカプセル調査」

アンケート・街中インタビューでは、「人間らしさ」と「AI・機械」は対であるという考えが見られたほか、人間らしいと思うキャラクターにはドラえもんの登場人物の「のび太」を挙げる人が圧倒的に多く、全体の傾向として人間らしさは「感情」と密接に関連しており、プラス・マイナス両面の感情と切っても切り離せないものであることが示されました。

また、子ども時代は感情を素直に表現する一方で、年齢とともに抑える傾向があるとわかりました。さらに、「逆タイムカプセル調査」では、感情の「発散」と「抑制」のバランスが大切だと考える人が多いことが明らかになりました。

▼CONCEPT

感情の表現方法は「ギターのエフェクター」のようなものだという考えにたどりつきました。音楽の場合は、エフェクターボードの中からエフェクターを切り替え、理想の音に変えることで、かっこいい音を出すことができます。

感情の場合は脳内で「相手にこういうことを伝えたい 」というのを言葉に変換してから会話していきますが、感情の出し方・伝え方はエフェクターの切り替えに迷ってしまい、ときに間違いを犯してしまうことも...。

こうした失敗の繰り返しが“感情疲れ”を引き起こす原因なのではという仮説に行き着いたのです。

▼OUTPUT

感情疲れに悩む人たちに向けたサポートツールとして、あらゆる感情の表現のお手伝いをするサービス「感情エフェクター」を考えました。感情のままに文章を記入することでエフェクトのかかった文章が完成し、SNSへの投稿やチャットの返信に使えるシンプルな機能になっています。

普段の生活の中で、感情の伝え方に悩む状況に直面した際、感情エフェクターではその状況に合ったエフェクターを選べます。何十種類もある中から好きな5個を選択し、自分のお気に入りの感情エフェクターボードを作成できるのが特徴です。

上司と初めてサシ飲みする場合、距離を少しでも縮めるためにガチガチの敬語ではなく、ちょっと砕けた言葉に変換し、実際の会話で活用していくケースが考えられるでしょう。

また、文化祭の役割を押し付けられたときでも、今回はやむを得ないので引き受けるけれど、急すぎてびっくりした旨が伝わる言葉に変換することで、”嫌”という気持ちを表しながらも、相手との関係に波風を立てずに済みます。

感情疲れから解放されるサービスを提供することで、人間が人間らしくあることを尊重できる社会にしたい。

これがチーム「まさまさチルドレン」の目指す世界観です。

煩悩シスターズ

▼INPUT

「〇〇らしさ」は、他の一般的な何かと比較して使うものと仮定し、それに基づくアンケートを実施した結果、「人間」は「AI」や「ロボット」と比較して考えられることが多く、そこから人間らしさを探る手法として「AIとの差異」を深掘りしました。

生成AIとの会話では何に気持ち悪さを感じるかを実験したところ、AIは優しく話を聞いてくれるものの「思い出に残らない」という特徴が判明し、人間らしさの要素として「思い出に残る会話」が重要であると仮説づけました。

また、AIが思い出に残らない理由として「ストーリー性の欠如」が挙げられ、K-POPアイドルのように、売れる過程を見せる「ストーリー」があれば、記憶に残る可能性が示唆されました。

▼CONCEPT

最も誰かの思い出に残りたい場面は「死に際」だととらえ、「どんな最期を迎えたいか?」のアンケート調査を行いました。そこで一番多かったのは、「大切な人たちに囲まれて“最期”を迎えたい」という意見でした。多くの人が 「自分が死ぬときは、誰かの思い出に残りたい」と思っていることがわかったのです。

ところが、コロナ禍以降の葬式は一般葬ではなく家族葬が主流となっており、以前と比べて死別する時の思い出が残りにくくなっています。

さらに情報過多・効率重視の世の中で、「葬式をやるのも出るのも面倒」という感情が顕在化したのも大きな影響を与えています。

「人間らしい死」=「思い出に残る死」を今の「葬式」で取り戻すのは難しい。
ここで理想と現実のギャップが生じていることに気づいたのです。

▼OUTPUT

「Memorium」は、故人の思い出の品をエピソードと共に展示する「葬式×ギャラリー」のサービスです。

遺族に負担をかけず多くの人に思い出を共有できるほか、家族葬でも葬儀に来た関係者以外の一般人も関わる故人とつながる機会を提供します。さらには従来の儀式的な葬式と異なるため、柔軟な参列が可能になる点がメリットです。この仕組みにより、より良い人間らしい社会の実現に貢献できると考えています。

生き様は自由に決められるようになったものの、死に様は自由に決められない。

でも、人の生き様は死に様に現れるからこそ、死に対する関わり方をもう一度見直すべきなのではないでしょうか。

あんかけスパゲティ

▼INPUT

人間らしさを紐解く上で、人間が「記録に残すため」に生み出した文字に注目しました。

日本人にとって身近な和歌は、過去の物事や大切な人との思い出の「追憶」を詠んでいるのが特徴です。つまり人間らしさとは、記録をして追憶を楽しむことだと解釈しました。

実際にチームメンバーのアルバムやホームビデオを見返してみると、子ども時代にしか聞けない声、言葉、話し方があることがわかりました。思い出を記録に残す手段についてのアンケート調査では、写真・ビデオは追憶目的で残す一方で、録音を残す理由は実務的なものが多いという結果が出ました。

このことから、成長の中にも追憶があるにもかかわらず、子ども時代特有のかわいい声や話し言葉にあまり関心が向いていないのではという課題を見出しました。

▼CONCEPT

子どもとの会話を記録する習慣を作り、追憶できるようにしたい。
そのためには、どのように子どもとの会話を残せば良いのかを考えていきました。

既存の録音のような手法を使い、音だけで会話を残すのは難しく、カメラを向けると、どうしても身構えてしまいます。子どもとの自然な会話を残し、成長を追憶できるようにするためにチームと思案を重ねました。

▼OUTPUT

食卓からはじまる成長のレコーディングカレンダー「RE・CO・CO」は、子どもを持つすべての家庭をターゲットにしています。会話に集中しやすい環境を意識するために、ご飯を食べている時の「家族団らん中の会話」を記録するサービスです。

利用イメージは以下の図のようになります。

使い終わったプレートはバインダーに収納して、ずっと残しておくことで、カレンダーがそのまま思い出のアルバムになるのが特徴です。

加えて、1週間に一度録音を取らなければカレンダーが作れないことから、家族で食卓を囲む習慣を促すことも期待できます。

何気ない会話をもっとカジュアルに形に残すことで、「耳からの追憶」の価値を高めていくことが重要だと考えています。

(hanamaru)

▼INPUT

“人間らしさ”とは何だろうと考えたとき、ありふれた日常に人間らしさが表れている瞬間があるかもしれないと思い、アンケート調査を行いました。

その結果として見えてきたのは「区切りをつける」「書き換える」という行動に、人間らしさを感じている人が多いことでした。つまり、“人間らしさ”とは、自分をよりよく書き換えたいという欲求のことだという仮定にたどり着いたのです。

しかし、趣味で弾いてみようと思ったギターや、体力づくりのための筋トレ、動画編集スキルなど、自分たちの経験を振り返ってみたところ、実際には書き換えられていないことばかりだったことに気づきました。

その理由を探るため、新しいことに挑戦したときに挫折したタイミングを聞くアンケートも実施した結果、「はじめられない」「続けられない」ことが原因で諦めてしまうことがわかりました。

▼CONCEPT

コンセプト立案をする上で、もう一度自分たちの経験を振り返ってみると、何かに挑戦しようとしたときには「長く遠い道のり」を感じるから諦めていることに着目しました。

はじめからゴールを見ないで、一歩先といった近くの道のりをイメージできれば、前に足を踏み出せると思ったのです。

また、「忙しくてできなかった」や「うっかり忘れた」など、継続が途切れたタイミングで挫折してしまうことから、「途切れる=失敗」だと思い込んでいることにも着眼しました。

人間らしさの本質である「じぶん書き換え欲求」を解放していくために、チーム「(hanamaru)」では次のようなコンセプトを掲げました。

①見るのは、一歩先でいい。
②道のりは、途切れ途切れでいい。

▼OUTPUT

ゲームのセーブ機能や本のしおりなど、身の回りには「途切れるのが自然なもの」があります。このように「途切れ」と「再開」の繰り返しが、自分を書き換えていくことにつながるととらえ、あなたの暦で進む日めくりカレンダー「めくりめく」を考えました。

このカレンダーは、自分のペースに沿っていつでも「途切れ・再開」でき、毎日めくらなくてもいい仕組みになっています。

その日のページを破って進めていくうちに、忙しくてできなかった日があっても、「時間ができてから再開する」というように、自分のタイミングに合わせられるのがサービスの特徴です。

はじめられない、続けられないことはダメなんだ。

そう否定するのではなく、1日1枚でいい、途切れ途切れでいい。というように、人間らしさを受け入れ、肯定することが大事になると考えています。

スクイン

▼INPUT

最初に、59名から「人間らしい」写真を募り、機械や動物と対比して人間らしさを考えましたが、それが必ずしも人間特有のものではないと判明しました。その後、「人間らしくない」写真を集めた結果、「感情がない」「生命力や活気を欠いている」「弱さや欠点がない」などの写真が多く寄せられました。

この逆が人間らしさだと仮定すると、何が思い浮かぶでしょうか。
感情があって、生命力や活気に満ち溢れていて、弱さや欠点がある。

これはまさに“赤ちゃん”のことであり、人間らしさの原点は赤ちゃんにあると考えました。一方で人間は成長とともに、感情をそのまま出さずに我慢」するようになります。

大人になるにつれて「本来の人間らしさ」を失うのは、社会が人間らしさを抑圧しているとも言えるでしょう。

▼CONCEPT

社会のルールによって抑圧されている最たる例は、電車の中だと考えました。

電車は、異なる世代や職業の人が集まって、互いに配慮し合う、いわば「小さな社会」だと言えます。帰り道の電車の中では、本当は友人・知人といろんなことを話したいのに、電車のマナーによって話せず、黙って無表情になってしまうことが多いのではないでしょうか。

チーム「スクイン」では電車という小さな社会で、ありのままの感情を出せるサービスを思案しました。

▼OUTPUT

普通列車にプラスで編成する、おしゃべり専用車両の「しゃべレール」は、高校生をターゲットにしました。帰り道の何気ない会話などの小さな幸せを思い出として残すお手伝いをするブランドが「しゃべレール」です。

従来の帰り道では、たとえ会話が盛り上がっていても、電車の乗車後は周囲に配慮して会話を止めなくてはなりません。対して「しゃべレール」では、乗車後もそのまま会話を続けることができます。さらには友人と一緒に電車に乗った記録が残り、「自分が誰と一緒に電車に乗ったのか」がランキング形式で可視化されます。

「しゃべレール」に乗ることで人の目を気にせずにお喋りを楽しんだり、履歴を見ながら思い出を振り返ったりと、電車時間をただの移動で終わらせない体験が提供できると考えています。

ずんだもち

▼INPUT

まずは身近な存在である、「私という人間」についてアンケートを実施したところ、同じ人物であるにもかかわらず、人の印象については全く異なる回答が得られました。

そうしたなかで、関係値が浅い人が思い浮かべる「私という人間」は、「本当の私」と乖離していることもわかりました。人間は関係値が浅いほど相手に対して勝手な虚像を作っていると言えるのかもしれません。

また、「この人はこうだ」という先入観を抱いているなかで、相手の今まで見えていなかった部分が垣間見えた時には「期待ハズレ」や「ちょっと裏切られた気分」のように、すぐには受け入れられない状況に陥ってしまいがちです。

それほど相手のことを知らないのに、見た目や肩書きなどにとらわれ、勝手に期待したり落ち込んだり....。特に今の時代はSNSが発達したことで、何もかも白黒つけて判断されることが増えています。

▼CONCEPT

昔の人は、自分の知識では理解できない現象を“妖怪のせい”にして、受け入れてきたそうです。理解の及ばない不可解な現象については、目には見えない曖昧なもののせいにし、想像を膨らませることで多様な解釈を生み出してきたわけです。

しかし、科学の進歩により曖昧な存在に頼ることが減り、現代社会では肩書きやカテゴリーによる偏見にとらわれ、解釈の余地が狭まった窮屈な世界になっているのではという考えにいたりました。

肩書きやカテゴリーにとらわれず、相手に対する解釈の余地を残すこと。
これこそが、現代の人間が人間らしく生きるために必要なことだと思ったのです。

▼OUTPUT

私の「I」、私が持つ本当の姿の「MY」、本当の私の姿を知っていくあなたの「YOU」という意味を込めたサービスが「I MY YOU」です。

偏見のない出会いの場を提供するイベントですが、以下の2つのルールがあります。

①名前や肩書きなどの、個人情報は一切伏せること
②イベントの最中やイベントが終わった後も、その場では姿を明かさないこと

イベント当日は、専用のベールを羽織り、顔が見えないまま交流したり自由に会話したりするのがユニークな点です。出会った人とさらに仲良くなりたいと思ったら、専用のチャットアプリでIDを交換し、やりとりを続けることも可能です。

見た目の偏見で人を判断してしまえば、素敵な出合いも逃してしまいます。

現代社会は肩書きやカテゴリーがはっきり見えすぎるがゆえに、私たちを生きづらくしているのかもしれません。もっと解釈の幅を広げ、相手と向き合うことが大切なのではないでしょうか。

以上ここまで、決勝に進んだ 6 チームによる白熱のプレゼンテーションの模様をお伝えしました。続く後編ではシークレットゲストで登場した乃木坂46 5期生メンバーによるプレゼンテーションとトークセッションの内容をご紹介します。

~後編に続く~

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