<プロジェクトメンバー>
(写真左から)
石淵 順也氏
関西学院大学商学部 教授
柿原 正郎氏
東京理科大学経営学部国際デザイン経営学科 教授
西村 啓太
博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 室長補佐
本プロジェクト共同代表
澁谷 覚氏
早稲田大学大学院経営管理研究科 教授
本プロジェクト共同代表
杉谷 陽子氏
上智大学経済学部経営学科 教授
米満 良平
博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 上席研究員
※肩書は取材当時のものです。
西村
前回は、私自身が友人のすすめで買った男性用化粧品にハマり、洋服など異なるカテゴリーの新規購入にも結び付いているという話から、“人”が購買のトリガーになっているところを議論してきました。
杉谷
デジタルで何が変わったのかが語られるとき、私はそこまで消費者の意思決定プロセスがガラッと変わったわけではないと思っています。ただ、圧倒的に変わったのは、情報量が格段に増えたことです。
以前はひとつの製品がいいなと思ったら、消費者はそのメーカーやそのブランドに対して好感を持ち、購買意思決定の拠り所にしていました。でも、今はネット上で情報が集められるので、ブランドのイメージやブランドへの信頼だけではなく、インフルエンサーなど「この人いいな」と思う人の推薦も利用できるようになりました。つまり、情報の単位や発信元がメーカーやブランドではない場合も増えているわけですね。
西村
そうですね。今の杉谷先生のご指摘は大きな論点で、人が購買のトリガーになるとき、ブランドにとってはいかに「生活者の感情や共感を掻き立てるか」が重要になると思いました。エッジが立った商品や世界観が統一された商品は、やはり生活者を惹きつけています。
柿原
西村さんのお話は、ご友人のおすすめで男性用化粧品を買うまでは、“感情ドリブン”ですよね。現時点では、特定のメーカーが気に入ったら直販サイトで買うかもしれないけれど、感情の動きによってはその流れに乗らないかもしれない。メーカーの視点で考えると、マーケティングのアプローチはこれまでと変わらない気がしますが、入口の部分は大きく変わっていますね。感情を意識して目に留めてもらうための工夫や、情報の集約が要るのだと思います。
西村
そうですね。記事も音楽も今までは提供側が束ねていたのが、デジタル時代になってバラバラになり、それを改めてプレイリストのように“まとめる人”に信頼性が生まれているというのは大きな変化です。
柿原
一方で、購入者としては、そんなに入念に調べたり考えたりしてモノを選ぶことは少なくなっていると思います。以前はブランドに対して「これなら信頼できる」と直観的に購入を即決していたのが、今は信頼されなくなりつつある。さらには、「より感情を揺さぶる人」によって「ほしい!素敵!」だという感情が喚起されて、共感につながっていると感じます。
米満
ブランドからよりも、自分以外の他者からのおすすめのほうにより感情が揺さぶられる、と。
柿原
はい、ソーシャル上で、素の感想を語っている人のほうが、ブランド主語の情報よりも中立で本物っぽく感じる側面があります。そうなると、相対的にブランドへの信頼性がつくられにくくなっているのではないか、というのが私の感覚です。
澁谷
「“人”で買う」という行動はアジア圏でも起きているようですね。大学のアジア圏からの留学生でも、親戚が起業しているという人がとても多いのです。なので、ブランドで選ぶのではなく「親戚の会社で、親戚の店で扱っているから買う」という意識がとても強い。
西村
信頼性は究極的には“人”に行き着く、と。サービス業の販売員さんや営業さんも、この人だから買うという要素が強そうですよね。