── 垣口さんがAI領域に関心を持ったきっかけや、ジャパリトークの開発を担当することになった背景を教えてください。
私は大学で美学芸術学を専攻していました。あまり馴染みのない学問かもしれませんが、哲学の一ジャンルとして美や芸術について考える分野です。もともとAIに関心はなかったのですが、卒業論文を書いていた時期に世の中でAIが話題になりはじめ、漠然とテクノロジーを活用した新しいクリエイティブのカタチを追求してみたいと考えるようになりました。また、学生時代には演劇にも取り組んでいて、特に脚本を書くのが好きでした。自分で劇団を立ち上げて公演を行うなど、創作活動にも力を入れていました。
このような背景もあり、AIの中でもストーリーテリングに活用できる技術に強く惹かれるようになったんです。ただ、自分のやりたい方向性としては「AIにシナリオを書かせること」ではありませんでした。私自身、ストーリーを考えること自体が好きでしたし、「どうすれば人の心を動かせるか?」を深く考え抜くのは、本質的に人間がやるべきことだと思っています。その一方で、新しい技術をうまく活用すれば、ストーリーテリングの可能性を広げることができるのではという漠然とした期待も抱いていました。
博報堂に入社してからも、AIを活用したエンターテインメントコンテンツをどう面白く作るかという部分にやりがいを感じ、日々業務に取り組んでいます。
── ジャパリトークのサービス概要を教えてください。
超巨大総合動物園“ジャパリパーク”を舞台に、数百人もの個性豊かな動物キャラクター(通称 フレンズ)が登場する『けものフレンズ』に由来したコミュニケーションサービスが「ジャパリトーク」です。まるでサファリを楽しむようなイメージで、次々と新しいフレンズたちと触れ合うことができます。おしゃべりモードでは、複数のフレンズとグループで自由に会話を楽しむことができる 一方、ストーリーモードでは『けものフレンズ』の世界観をベースにした完全オリジナルの物語が展開され、ユーザーの発言に合わせてフレンズが反応し、ストーリーが進んでいく仕組みになっています。
ストーリーモードでは、ストーリーライン自体は存在するものの、まるで自分が実際にジャパリパークに足を踏み入れ、フレンズたちと共に冒険を繰り広げているかのような体験ができるように工夫を凝らしています。例えば、ストーリーモードの第1話で草原を探索する場面があるとします。そこでユーザーが「遠くを見てみたい」と発言すると、AIが「双眼鏡を使ってどこを見る?」と問いかけるなど選択肢を自動的に生成し、それに基づいてストーリーが進行していくのです。AIによる選択肢の自動生成機能によって、まるでアドベンチャーゲームのようにユーザーの行動や発言が物語の中で反映され、物語に積極的に関与できる仕様になっているんですね。
このように、ユーザーの発言や行動に合わせてストーリーが展開する「自由度の高さ」と、偶発的な要素で物語が進む「没入感を重視した体験」がジャパリトークの特徴です。