井上:今日はシークレットゲストにお招きいただきありがとうございます!本当にすごく緊張していますが、温かい目で見てくれたら嬉しいです。
皆さんから客観的に見て、「アイドル = 完璧な偶像」というイメージを持たれている方が多いのではと個人的に思いました。実際に本当にそうなのかを確かめるために、乃木坂46のメンバーにアンケートをとってみました。
まず「アイドルは人間らしいと思いますか?」という質問に対しては、ほとんどのメンバーが「人間らしい」と回答しました。また、「どんな時に人間らしさを感じますか?」という質問をスタッフの方々も含めて聞いてみたところ、「理想を目指してもがく姿」や「なりたい自分に近づこうと努力する姿」という言葉が印象的でした。
このことから「取り繕うと思う姿」こそ、アイドルにとっての人間らしさなのではと私たちは考えています。
その一方で、「ストレスで暴飲暴食をしてしまう時」や「寝不足になると肌が荒れる時」「お腹が空くと機嫌が悪くなる時」といった回答も目立ちました。取り繕おうとしている姿から、ふと、ありのままの姿を見せた時も人間らしさを感じるのではと思っています。
2つの質問から見出せたのは「ありのままの自分」と「「取り繕った自分」を“行き来すること”こそが、人間らしさだということでした。
中西:さらに、「アイドルとして取り繕う自分は好きですか?」と「アイドルとしてありのままの自分を出すことは好きですか?」という質問を乃木坂46のメンバーに追加で聞いてみました。
最初の質問に関しては、「そう思わない、好きではない」と回答した人が一番多い結果になりました。「本当の自分がどこにいるのかわからなくなる」「取り繕った自分は後からしんどくなりそう」など、ネガティブな回答が目立ちました。
続いての質問も、「ありのままの自分を出すことが好き」と答えたのは3人に1人と、あのままの自分を出すことも別に好きではないという結果になりました。
「ありのままの自分を好きになってもらえる自信がない」「本当の自分に対して否定的になってしまって傷つく」といったように、アイドルならではの悩みや葛藤が多く寄せられました。
ちなみに、どちらの回答も「好き」と答えたのは18人中たったのひとりでした。
このように、私たちも皆さんと同じように「ありのままの自分」と「取り繕った自分」の切り替えやバランスに悩んでモヤモヤしていることがわかりました。
菅原:これまでのインプットを振り返ると、私たちはオーディションの時から、「ありのままの自分」と「取り繕った自分」をどう使い分けるかに頭を巡らせていたように感じています。
井上 和ちゃんは、オーディション時に悩んだことがあると聞いたのですが、それはどういうことだったんですか?
井上:私はありのままの自分を好きになってもらい、認めてもらいたいなと思ってオーディションを受けたはずなんですけど、やはり自信がなかったり、どう自分を出していいかわからなかったんです。結局たくさんある審査においては、あらかじめ用意していた応募動機を一語一句覚えて臨んだのですが、自分が望んでいることと、言っていることのギャップに悩んだのかなと思っています。
菅原:オーディションの選考を担当するスタッフによると、オーディションの過程では、ありのままの自分と取り繕った自分の両面を見るようにしているそうです。
また、人を惹きつける要素や闘志を持ち合わせているかどうか、作られた姿ではなく控え室などですれ違った際の挨拶や態度も見るようにしているとのことでした。
乃木坂46のメンバーの中には、オーディション終了後にパーティションを壊してしまったり、自己PRの時間なのに緊張しすぎて立ち尽くしてしまったりと、結構大きな失敗をしていたにもかかわらず、オーディションに合格した人もいます。
池田 瑛紗ちゃんもそのうちのひとりなんですよね。
池田:はい。私の場合、最終審査の1つ前の二次審査で「得意の絵を持ってきます!」と高らかに宣言したのですが、本番の最終審査では見事に絵を持ってくるのを忘れてしまって(笑)。
しかも忘れたことに嫌気がさして、その後の審査ではずっとふてくされていたんですよ。絶対に落ちたと思っていたのですが、今こうしてこの場に立つことができています。
菅原:あらためて思い返してみると、オーディションではあまり気負わなくても良かったのかもしれません。これは就職活動における企業の面接でも同じことが言えそうです。
このことから、私たちは就職活動中の学生が「ありのままの自分」と「取り繕った自分」のどちらも認めて好きになれるようなブランドを作りたいと考えました。
池田:私からはブランドについて説明していきたいと思います。アウトプットとして考えたのは、MBTI診断をモデルにした「NOGI診断」です。これは、「ありのままの自分」と「取り繕った自分」を知って、どちらの自分も好きになれるサービスになっています。
ブランドのロゴは私がデザインしたのですが、それぞれの自分を否定することなく、自分を受け入れてほしいとの思いを込めて制作しました。
NOGI診断では3つのプログラムを用意しています。まず、自分自身をあらためて知ってもらうために「NOGI試験」に答えていただきます。ここでは、「ありのままの自分」と「取り繕った自分」の両方の立場でアンケートに回答してもらいます。
NOGI診断では、乃木坂46のメンバーになぞらえて診断結果を見ることができます。
例えば「菅原咲月」タイプの場合はコミュニケーション能力が高いので、営業職に向いている傾向が出てきます。今回は自分と企業のマッチングを目的としているので、企業側にも「ありのままの意見」と「取り繕った意見」を回答してもらい、結果に反映していきます。
2つ目のプログラムでは、先ほどのアンケート結果をもとに、「ありのままの自分」と「ありのままの企業」、「ありのままの自分」と「取り繕った企業」、「取り繕った自分」と「ありのままの企業」、「取り繕った自分」と「取り繕った企業」の4種類の相性を知ることができます。
3つ目のプログラムはオプションのようなものですが、私たちが乃木坂46というアイドルグループに加入して実際に体験したことをもとに提案していきます。
今まで考えた「ありのままの自分」と「取り繕った自分」は、場数を踏んで経験が与える姿だというのを、私たちは今までの活動で知っているからです。
例えば、私たちはデビュー直後に7万人のファンで埋め尽くされた日産スタジアムでライブを開催しました。その経験は、今の私たちの活動に間違いなく大きな影響を及ぼしています。
経験が大切だと思うことができたのは、ファンの皆さんの力、スタッフさんの力によって、大きな舞台が私たちの前に用意されていたからです。
このような経験を、NOGI診断を通じて提供したいと思っています。
菅原:アイドルとして自分と向き合ってきた、私たちだからこそ思うことは、「ありのままの自分」と「取り繕った自分」の2つを意識することが人間らしさを表していることです。「ありのままの姿」も「取り繕った姿」も、私たちはそんな人間らしさを肯定したい。
これが、NOGI診断というブランドを通して本当に伝えたいことになります。
乃木坂46のプレゼン後には、参加メンバーを交えた特別セッションが行われました。BranCo!での経験を通じて、どのような学びや発見が得られたのでしょうか?
司会進行は、瀧﨑絵里香(BranCo! 運営事務局/博報堂 生活者発想技術研究所 上席研究員)が務めました。
はじめに、「BranCo!で一番学びになったこと」を伺うと、池田さんは「少人数でのグループワークが学びになった」と回答しました。
普段、乃木坂46は30人程度で活動しており、グループ全体で行動する時もあれば、個人の仕事に取り組むことはあるものの、「少人数で何か1つのことを成し遂げるというのは本当に貴重な機会だった。この4人で取り組むのも初めてだったので、BranCo!を通して仲が深まった」と池田さんは振り返りました。
井上さんは「言葉にする大切さを学んだ」とコメントしました。
「乃木坂46として活動していると、自分の中だけで完結していることが多いなと感じていました。今回あらためて4人で言葉にして話し合うと、結構みんな同じこと考えているんだとか、同期なのにまだ知らなかった部分がたくさんあることに気づきました」(井上さん)
菅原さんはBranCo!に参加したことで、「自分自身も人間らしいとすごく思った」と語りました。
「私はもともとアイドルが好きだったのですが、アイドルは人間らしくないのではと思っていた部分もあって。今回、私たちが色々とアンケートを元に調査していくうちに、『ありのままの自分』と『取り繕った自分』を行き来することが人間らしいという考えに至ったんですけど、まさにその通りだなと思いました。
自分も3年間、乃木坂46で活動させてもらっているなかで、すごく納得できる答えが見つかったなと感じています」(菅原さん)
一方で中西さんは、フリップボードに「緊張にも色々ある」と書きました。
数万人のファンが集まるドームツアーなど、大勢の前に立って歌や踊りを披露するのは慣れているのに、「人前でプレゼンする」というのは経験したことのない緊張感を味わったそうです。
次の「一番きつかったことは何か?」という質問に対して、池田さんは「時間の使い方」を挙げました。
「実はダブルミーニングなんですよ。プレゼンの時間配分で悩んだ部分もありましたし、アイドルの仕事をしているなかで、いかにプレゼンの準備をする時間を確保するかを考えていました。大体2ヶ月ほど準備の時間をいただいたのですが、BranCo!のことを考えない日はなかったですね」(池田さん)
井上さんは“人に見られる仕事”をしているからこそ、自分はどういう人間なのかを日々考えているそうですが、「どうしても考えるだけで満足してしまい、アウトプットを出すのに苦手意識を感じていた」と話しました。
「4人でのグループワークを通していろんな人の意見を聞くのがすごく学びになりましたし、自分一人では素晴らしいプレゼンを作るのは難しかったと思います。大変なこともありましたが、最後までやりきることができて本当に楽しかったです」(井上さん)
「ブランドのコンセプトを何もないところから考えるのが大変だった」とコメントしたのは菅原さん。
プレゼンで発表した「NOGI診断」にたどり着くまで、色々と迷いながらかなりの時間を要してしまい、アウトプットまでの道のりが大変だったとのことでした。
それでも、普段の活動ではなかなか味わえない新しい体験だったからこそ、「このタイミングで人間らしさを考えたことによって、これから先も今とは違う自分になれるかもと思った」と貴重な経験を振り返りました。
中西さんは「自分の中ではどう話すのか定まってないのに、『プレゼンを1回通してみようか』と言われたときが一番大変だった」と具体的なワンシーンをピックアップしました。
「『スライドが完成したかも!』という時点で、試しにプレゼンをしてみる機会がありました。本来は15分を目安に終えなければならないのに、てんやわんやであたふたしてしまい、30分近くかかってしまったんですよ。でも、その出来事があったからこそ添削ができたので、1回通しをやって良かったなと思っています」(中西さん)
続いては「4人のメンバーの中で、一番人間らしいと思うのは誰ですか?」という質問です。全員同時にフリップボードを見せると、池田さん、菅原さん、中西さんは揃って「井上 和」さんの名前が記載されていました。
これを受けて、井上さんは「ちょっとびっくりした」とコメントしつつ、「普段の活動の中でも『ありのままの自分』を大事にしているが、そのまま嘘なく全部伝えたいと思う自分もいるなと思った」と、あらためて自分のことを人間らしいと感じる答え合わせになったようです。
菅原さんは「今回の話し合いの中で、ありのままの姿と取り繕おうとする姿を一番見た気がする。乃木坂46の井上 和としている瞬間と、ふとした場面で見せる素の井上 和はすごく印象的だった」と井上さんを選んだ理由を述べました。
会場からは100を超える質問が寄せられた中で、「ロゴを考えた際にこだわったポイントや工夫したことは何か」という「NOGI診断」のロゴを制作した池田さんに向けての質問を取り上げました。
最初は診断のロゴということで、メカニックなイメージにしようと思っていたそうですが、「あまり有機的な線を使わずに、シンプルでありつつ、一目で目に留まり、受け取ってもらいやすいデザインを意識した」とロゴデザインでこだわった点を説明しました。
次いで、「一番楽しかったワークは何ですか?」という質問に対して、乃木坂46の各メンバーは次のように回答しました。
「私は、BranCo!の一番最初にみんなで行った『他己紹介』です。このメンバーでやるにあたって、まずはお互いのことをもっと知り、さらには相手のことを見てそのまま言語化する力を育むために行ったんですけど、『実はあなたのこと、そんな風に思っていたんだ』とあらためて知ることができました。
私たち5期生メンバーは、研修期間も含めると3年半ぐらいは一緒にいるのですが、まだまだ知らないことはいっぱいあることに気づかされましたね」(中西さん)
「私はアンケート結果を見た時がすごく楽しかったですね。特に、オーディションを振り返って、こんなところまで見られていたんだというのを知った時はすごくワクワクしました」(菅原さん)
「今回の活動で一番楽しかったワークは、人間らしさについて4人で話している時でした。いつもはあまり人と意見をぶつけ合うことはなくて、例えばライブでMCしているメンバーの言葉を一方的に受け取ることがほとんどでした。
でも実際にディスカッションを繰り返し、人間らしさとは何かを考えていくなかで、みんなが本当に心の中で思っていたことを知れた時は、すごく嬉しかったし、楽しかったなと思います」(井上さん)
「プレゼンテーションをブラッシュアップしていく瞬間が楽しかったです。最初のリハーサルがてんやわんやの状態だったので、そこから2回目、3回目とリハーサルを重ねていくうちに段々と良くなっていくのが、自分たちでもすごくわかりました」(池田さん)
最後に4人から学生に向けてのメッセージを伝えました。
「BranCo!は自分を好きになれる場所」
そうコメントしたのは菅原さん。
あまり自己肯定感が高くなく、アイドル活動をしているなかで悩むこともある。
でも、「自分も認めてもらえる場所があるんだ」というのをBranCo!を通して知れたことで、少しだけ自分を好きになれたそうです。
中西さんはグループワークを通して人と話すこと、自分を認めて相手も認められるというコミュニケーションの大切さを学んだことから、「自分も他人も愛せるようになる」という言葉を示しました。
井上さんは、何事も経験に勝るものはないと感じていることから、「経験」の2文字を掲げました。
「先輩のMCを聞いて『こういう風に話したらいいんだ』と思っていても、実際に経験しないとわからないことはたくさんあるし、いざ自分でやってみると面白さや楽しさを実感できた」とBranCo!を通してすごく良い経験が得られたと語りました。
池田さんはいろんなことを知って、好きになれる意味を込めて「自分と仲良くなれるチャンスがある」とフリップボードで発表し、トークセッションを締めくくりました。
その後、第13回BranCo!『人間らしさ』決勝プレゼンの審査員発表・授賞式が行われました。結果は以下の通りです。
大会を主催した宮澤は「イベント全体を通して、学生の創造性と発想力が際立っており、社会の抑圧や窮屈な世界観から解放したいという思いがプレゼンから伝わってきた。このBranCo!自体も『人間が作ったものを人間が評価する』ということが本質であり、常に“人間らしくある”ことが大切だというのをあらためて感じた」と閉会の挨拶を述べ、大会を締めくくりました。
まさに“企画の甲子園”として、全国から多様な大学が参加する規模にまで成長しているBranCo!。
今後の展開にも、どうぞご期待ください。