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博報堂DYグループ Diversity Day 2024 レポート Vol.3
―「インクルーシブな社会」を知ろう、話そう。

2025.03.27
博報堂DYグループでは、2023年に「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)方針」を定め、経営テーマとしてDE&Iに取り組むことを宣言。その一環として、「あらゆる『生活者』を想像しなくちゃ、創造なんてできないぞ。」をスローガンに、博報堂DYグループらしいDE&Iの実現に向けて、一人ひとりの行動を促すことを目的とした「博報堂DYグループ Diversity Day 2024」を開催しました。
レポート第三弾は、「障害=バリア」を「価値=バリュー」に転換するインフラやソリューション、サービスを提供するミライロ 代表取締役社長の垣内俊哉さんをお迎えし、博報堂DYグループ SUPERYARDの松尾俊志、博報堂プロダクツの内田成威と共に、「インクルーシブな社会」をテーマに行ったトークセッションの模様をご紹介します。

垣内俊哉氏/株式会社ミライロ 代表取締役社長、日本ユニバーサルマナー協会 代表理事
松尾俊志/SUPERYARD 取締役副社長
内田成威/博報堂プロダクツ MDビジネス事業本部 プロダクトデザインチーム クリエイティブディレクター、プロダクトデザイナー

ファシリテーター:
奥村伸也/博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラニングディレクター

「Diversity Day 2024」企画・総合司会:
髙田奈美/博報堂DYホールディングス サステナビリティ推進室

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奥村(博報堂)
私はインクルーシブな社会の実現に向けて、「ブランド・アクセシビリティ」という概念を提唱しています。これは、性別、年齢、障がいの有無に関わらず、あらゆる生活者がブランドやサービスを心地よく使い続けられる体験設計を示し、企業の成長戦略においても今後欠かせない考え方だと思います。

本日は、その「ブランド・アクセシビリティ」を監修いただいたミライロの垣内俊哉さんをゲストにお迎えし、SUPERYARDの松尾俊志さん、博報堂プロダクツの内田成威さんと共に、それぞれの視点から「インクルーシブな社会」についてお話しいただきます。

■「ハード」の整備だけでなく、「ハート」の配慮を(ミライロ 垣内俊哉氏)

日本全体を見渡すと多様な方が暮らしています。その中で、高齢者は3割近く、障がいのある方は1165万人で9.3%。合わせると4割ほどの方が何らかの不便や不安を感じて暮らしています。決して少なくありません。私たちはこのような方々と向き合う準備を進める必要があります。

例えば、国内の地下鉄のエレベーター設置率をみると、仙台、横浜、大阪、京都、福岡では100%、東京は97%、名古屋は95%、札幌は93%と、かなり高い水準です。では、海外の地下鉄はどうでしょうか。昨年の8~9月にパラリンピックの関係でパリを訪れていたのですが、地下鉄に乗って驚きました。エレベーターがあるのは全駅のたった9%です。イギリス・ロンドンでは33%、アメリカ・ニューヨークでは30%だそうです。日本はバリアフリーが遅れていると言われていますが、これは誤った認識で、間違いなく世界一外出しやすい国だと思います。

しかし、外出したくなるかどうかは別の問題です。その背景には、企業や人々の対応が「無関心」と「過剰」に二極化している現状があります。何も取り組まない無関心な対応と、必要以上に行き過ぎた対応のどちらかに偏るケースが少なくありません。なぜこのように偏るのでしょうか。それはまだ私たちが多くの違いを正しく理解していないからです。

私は歩けません。しかし、それ自体は障がいではありません。私にとって不便なのは、街中に段差や階段が存在すること。障がいは持っているものでもなければ、抱えているものでもなく、社会環境にあるのです。

この社会が持つバリアを見定め、改善していくこと。それこそが、私たち企業に求められています。今向き合うべきバリアは、大きく分けて3つ。「環境のバリア」「意識のバリア」「情報のバリア」です。

まず、「環境のバリア」について。
さまざまな場所でバリアフリー化が進んでいますが、一部の企業でも、先駆的な取り組みが行われています。例えば、あるメーカーでは国内の主要製造拠点をすべてバリアフリーにしたり、あるサービス業ではバリア情報を公開し、具体的にどんなサポートを受けられるのかをサイトなどで明示しています。

また、全てがバリアフリーであることが理想的ですが、一気に進めることは難しいと感じる企業も多いはず。ある企業では、バリアが残っているところと、改善が進んでいるところをしっかり開示することでミスマッチを防いでいます。大切なことは、できていることもできてないことも、自社の状況をしっかりと発信することです。

次に、「意識のバリア」について。
コロナ禍以降、人と人の接触が減り、特に障がい者は周囲からのサポートを受けにくい状況が続きました。さらに最近では、インバウンドの回復で駅のエレベーターが大渋滞です。国土交通省は障がい者のエレベーターの優先利用を啓発していますが、私の実感では、譲ってくれるのは20代以下の若い世代が多い印象です。これは教育によるものだと思います。インクルーシブ教育を受けている若い世代は、障がい者や高齢者に声をかけたり、手を差し伸べたりすることに躊躇がありません。一方で、障がい者と触れ合ってきた経験が少ない世代はどうしても声をかけづらいと感じるようです。

この状況を変えるには、障がい者や高齢者と向き合うことを、特別なことではなく当たり前のこと、むしろ「できたらちょっとかっこいい」マナーとして普及させること。それを目指して、「ユニバーサルマナー」を提唱しています。このユニバーサルマナーを習得するための「ユニバーサルマナー検定」があり、今までに22万人を超える方が認定を受け、仕事や街中でその知識を活かしています。
※「ユニバーサルマナー検定」サイト:https://universal-manners.jp/

オフィスや店舗などの「ハード」を変えるのは時間がかかりますが、「ハート」は今すぐ変えられます。サポートの方法を知っていれば、多様な方に躊躇なく向き合うことができる。まずは「ハート」を変えていくことが、私たち一人ひとりに求められていると思います。

最後に、「情報のバリア」について。
さまざまな情報をオンラインで取得することが当たり前になった今、障がいの有無や年齢などに関わらず、あらゆる人がサイトから情報を入手でき、サービスを利用できる「ウェブアクセシビリティ」に対応することが不可欠になっています。しかし、国内でウェブアクセシビリティに積極的に取り組む企業は、現状では全体の1割程度にとどまっています。多くの企業からは、「課題に感じつつも何をしたらいいかわからない」という声をお聞きします。

私たちも2021年から、博報堂SXプロフェッショナルズ(旧 博報堂SDGsプロジェクト)と連携して、ウェブアクセシビリティを推進するソリューションを企業に提供。現在は博報堂アイ・スタジオとも協力しながらこの取り組みをさらに進めており、ウェブ上のバリアフリーを支援しています。

日本はすでにバリアフリーの分野において世界一進んでいます。そして、「ハード」の整備だけでなく「ハート」の配慮、さらに「デジタルの領域」においても、世界のお手本となりうる存在だと思います。このような日本の強みを活かしながら、「環境」「意識」「情報」という3つのバリアの解消に向けて、今後もさまざま企業・団体の皆さんとともに活動していきたいと思います。

■障がい者の能力をビジネスの力に(SUPERYARD 松尾俊志)

2023年に三井不動産と博報堂が共同で、精神障がい者の雇用拡大と雇用後のキャリアアップを支援する合弁会社「SUPERYARD」を立ち上げました。
特徴は大きく3つ。

・精神障がいや発達障がいの方に特化した雇用支援を行っていること
・企業でのオフィスワークに適した人材を紹介していること
・紹介した障がい者の方が安定して働けるよう、必要な環境を提供していること

これらを通じて、企業と障がい者の両方を支援しています。

多くの障がい者の方を企業へご紹介する機会を通じ、彼らが大いに活躍できる力を持っていることを実感しています。やる気も能力も十分に備えた方々がたくさんいらっしゃるのです。しかし、そうした方々が必ずしも就職できてきたわけではありません。その背景には、キャリアを積みたい、仕事を通じて社会に貢献したいという強い意欲がある一方で、常に良い状態を維持することが難しいという現実があります。例えば、3ヶ月に一度ほど気分が大きく落ち込む日があったり、自分ではコントロールできない働きにくい時期が訪れたりすることがあるのです。

障がい者雇用に積極的に取り組んできた企業も、「これまでのやり方ではうまくいかなくなってきた」というケースは少なくありません。これまで身体障がい者を中心に雇用してきた企業が、多様化が進み、精神障がいや発達障がいのある方の採用も行うようになり、従来と同じ仕事内容や進め方では難しいと感じる場面が増えてきているのです。

そのような中、私たちは企業に対し、これまで障がいのある方に任せてこなかった仕事や、配属してこなかった部署にも目を向けてみることを提案しています。こういった話をすると、多くの企業から「確かにそういう仕事/部署でも活躍してもらえるかもしれない」という前向きな反応をいただきます。ただ、これまで障がい者の方に任せたことのない業務や、配属が難しいとされていた部署でも、サポートを必要とする方が安心して働けるようにするためには、環境を整えていくことが重要です。

例えば、営業部門などは時期によって多忙になり、職場の緊張感が増すことで、障がい者にとっては働きにくくなることがあります。社員が忙しくキーボードを叩いている音だけでもプレッシャーを感じてしまうのです。
そのような場合、障がい者専用のシェアオフィスを提供し、負担を軽減しながら業務を円滑に進められる環境を整備しています。たとえば、先輩社員は本社で、障がい者の方はシェアオフィスで業務。先輩社員がリモートで指導・サポートしながら、働く環境を最適化することで、障がい者が働きやすくしています。また、部署や環境、人間関係によっては本社勤務が可能な場合もあるため、本社とシェアオフィスでの勤務を半々にするといった柔軟な働き方も取り入れています。

シェアオフィスで最も重視しているのは、障がい者の方がご自身のパフォーマンスを最大限発揮できる環境を作ること。そのため、働き方の自由度を高くし、過集中や感覚過敏といった特性を持つ方が、自分に必要なツール(アラーム、イヤーマフ、サングラスなど)を自由に使える環境を整えています。
また、例えば感覚過敏の方がサングラスをかけて仕事をしている時、それに対して雑談のつもりで話しかけたつもりが、本人には注意や指摘と受け取られてしまうことがあります。こうしたコミュニケーションによるリスクも防ぎながら、不安なく働ける環境を提供することで、障がい者の方が活躍できる機会の創出を目指しています。

■インクルーシブデザインで、すべての人が使いやすいものづくりを(博報堂プロダクツ 内田成威)

私は「色覚特性」を持ち、一般の方と色の見え方が異なります。デザイナーとして、クライアント企業の商品やキャンペーングッズなどのプロダクトデザインに従事していますが、私の色覚特性と経験を活かし、最近は「色覚多様性」や「インクルーシブデザイン」をテーマにした作品の制作にも取り組んでいます。

「色覚特性」は「色覚多様性」ともいいますが、色の識別に特性を持つ人の多様な色の見え方を示す概念です。このような特性を持つ人の視点を取り入れたデザインは、多くの人がより使いやすく感じられると考えています。色覚特性にはいくつかのタイプがあり、個人差もかなりありますが、日本では男性の約5%、女性の約0.2%、全体で約320万人が色覚特性を持っていると言われています。

私の場合、デザインプロセスに入る前に、協業するメンバーに自分の色覚特性について、どのような色の見え方をするのか、どのような部分で誤認しやすいのかなど、しっかり共有しています。デザインを進める際は、基本的にモノクロの状態でデザインが伝わるように骨格をつくり、その上で色付けを行います。色による識別が必要な場合には、文字やアイコンといった色以外の要素を組み合わせるようにしています。また、赤いボールペンや赤いペンは、私には黒や茶色と見分けにくいことがあるため、デザイン時には青色を使用するなど視認性を考慮しています。こうした取り組みを通じて、多様な見え方を持つ人々に配慮したデザインを心がけ、色覚特性を持つ方だけでなく、すべての人が使いやすいデザインを追求しています。

色が重要なデザイン提案や色校正、あるいは微妙な色調整が必要な場合には、チームメンバーの協力を得ながら業務を進め、複数の視点を取り入れることでより完成度の高いデザインを目指しています。こうした経験を重ねる中、自分の経験や視点を活かして、プロダクトデザインの分野で貢献していきたいという思いがより強くなっています。

私が手掛けたデザインを2つご紹介します。
1つ目は、色覚特性を持つ方に配慮した「色が伝わる折り紙」です。
色覚特性を持つ人は日常的に色を間違えることが多く、色選びそのものに不安感や恐怖心を抱くことがあります。その不安を軽減できればという思いから「色が伝わる折り紙」を制作しました。この折り紙は、表側は普通の折り紙ですが、裏側に工夫を施しており、「色の名前」「色の種類」「明るさ」「彩度」が書かれています。この情報から色を正確に理解できるようになっています。

下の画像は、左側の折り紙が元の色で、中央の折り紙は色覚特性を持つ人が見えている色をシミュレーションしたものです。色覚特性の人はこのように見えています。このような特性を持つ方が色を正確に把握し、安心して色を楽しむための一助として、例えばファッション業界やアート領域など、色を多く扱う場面でこの折り紙が広く展開できるのではないかと考えています。

もう1つは、写真作品「光と感覚」です。
この作品は「色覚多様性」をテーマに、弊社のカメラマンと共に制作しました。色が、光や見る人の色覚によって変化する不思議さ、魅力を表現しています。写真そのものは非常にカラフルに見えますが、実際に被写体として使用したのは無色透明のフィルムです。このフィルムを曲げたり重ねたりしながら、2枚の偏光板の間に挟んで撮影することで、透明なフィルムが色を生み出しています。色のない透明な被写体から色が生まれることで、「何色に見えてもその色が正解である」というメッセージを込めた作品です。

下の2枚の画像は同じ写真で、左側が元の色、右側は色覚特性を持つ人が見えている色をシミュレーションしたものです。一般的な色覚を持つ方には、2枚の色の違いがわかるかと思いますが、私の目ではこの2枚はほぼ同じような色に見えます。この作品を通じて、「人によって見える色が異なる」ということを楽しみながら感じていただきたいと思い、今後展示会なども行っていきたいと考えています。

奥村
3人の皆さん、貴重なお話をありがとうございました。
博報堂DYグループの「生活者発想」という言葉には、障がいのある方も含めて、あらゆる人の気持ちを考えようという意味が込められていると思います。その一方で、障がいのある方々の視点がまだ十分に取り入れられていないのではないかという課題も感じています。今一度、生活者発想に障がいのある方の視点を取り入れ、グループ内の働きやすい環境づくりや、クライアント企業のブランドやサービスのインクルーシブな体験を推進していきましょう。

髙田(博報堂DYホールディングス)
「Diversity Day 2024」では、「多様性のある社会」「LGBTQ+」「インクルーシブ社会」の3つをテーマアップしました。「あらゆる『生活者』を想像しなくちゃ、創造なんてできないぞ。」をスローガンに掲げたように、博報堂DYグループは多様な個の集合体です。目に見える違いだけではなく、見えない違いもあふれています。当事者に対して、無意識の思い込みを持たずに向き合うカルチャーがある博報堂DYグループでありたい。そして、一人ひとりの想いがあふれ、いきいきと活躍できる社会の実現を目指すべく、来年度も社員一人ひとりのストーリーを通じて、DE&Iの各テーマを伝える取り組みを創っていきたいと考えています。

垣内 俊哉氏
株式会社ミライロ 代表取締役社長、日本ユニバーサルマナー協会 代表理事

2010年、立命館大学経営学部在学中に株式会社ミライロを設立。障がいを価値に変える「バリアバリュー」の視点を活かし、企業や自治体、教育機関に向けたユニバーサルデザインのコンサルティングを展開。

松尾 俊志
SUPERYARD 取締役副社長

ビジネスプロデューサーとして複数企業のブランディング・広報活動を支援。2023年、SUPERYARDを立ち上げる。

内田 成威
博報堂プロダクツ MDビジネス事業本部 プロダクトデザインチーム クリエイティブディレクター/プロダクトデザイナー

商品の企画・開発やカタチのデザイン、キャンペーングッズなど幅広いプロダクトデザインを手掛ける。色覚特性の目を持ち、自身の見え方や感性を通じ、色覚多様性やインクルーシブデザインをテーマにした作品制作も手掛ける。

奥村 伸也
博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラニングディレクター

日用品、食品、飲料、家電などの領域における広告戦略策定から、事業開発・サービス改善を得意とする。すべての人にやさしいブランドづくりに貢献するため、「ブランド・アクセシビリティ」の考え方を市場に広める活動を行う。

髙田 奈美
博報堂DYホールディングス サステナビリティ推進室

2008年博報堂キャリア入社。 外食、保険、エネルギー企業の営業を経て、2023年より現職。博報堂DYグループのDE&I推進を担う。

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