今年もいよいよ残すところあとわずかとなりました。2016年は皆さんにとってどんな年だったでしょうか。国内外ではさまざまなことが起こった1年でしたが、やはり記憶に新しいのは、11月に行われたアメリカの次期大統領選挙におけるトランプ氏の勝利ではないでしょうか。
「アメリカを再び偉大な国にする」をスローガンとして掲げたトランプ氏の主張は、国内産業・雇用の不安定化を防ぐためのTPPからの離脱や移民流入の制限などが並び、「自国第一」「保護主義」とも評されています。その理念や政策に対する是非は、すでに多くの報道機関や専門家によって語られていますが、その本当のところは、実際に彼が大統領に就任する来年1月20日を待ってみなければわからないでしょう。本稿ももちろん、そのあたりの是非を論じる趣旨のものではありません。が、少なくともひとつ言えることは、現実に上記のようなトランプ氏の主張が、アメリカに暮らす相当程度の数の生活者たちの心をとらえ、彼に勝利をもたらした、ということ。「他国より、まずは自国を」。そんな生活者意識の高まりが根底にあることを感じさせられます。
さて翻って、ここ日本。「他国より自国」という内向き志向の生活者意識は、果たしてアメリカだけの話であって、日本には関係がない現象なのでしょうか。それとも日本でも同様に、そのような意識が高まりつつあるのでしょうか。今回はその点について、博報堂生活総合研究所の「生活定点」調査データを使って、考えてみたいと思います。
これは、「日本の利益志向vs世界への貢献志向」という選択式の質問に対して「世界への貢献よりも日本の利益を第一に考えるべきだと思う(=日本の利益志向)」と、「日本の利益より世界貢献することを第一に考えるべきと思う(=世界への貢献志向)」の、2つの回答率の推移を示すグラフです。
質問開始時の1998年には「日本の利益志向」と「世界への貢献志向」はおよそ6:4の割合でした。その後、「世界への貢献志向」は徐々に弱まり、「日本の利益志向」が強まった結果、直近の2016年には7:3の割合へと変化しています。
次に、こちらのグラフは「世の中の考え方について、あなたにあてはまるものを教えてください。」という質問のなかで、「貿易の自由化に賛成している」と答えた人の割合を示したものです。1990年代に5割弱だった割合は、2000年代から徐々に低下を続け、2016年には過去最低の22.0%となりました。年代別に見ると、60代が31.0%で全体より約9ポイント高く、逆に20代は、全体より約9ポイント低い12.9%となっており、若い人たちほど貿易の自由化を望ましいとは思っていないことが伺えます。
同じく、「世の中の考え方について、あなたにあてはまるものを教えてください。」という質問のなかで、「日本は移民を受け入れるべきだと思う」と答えた人の割合がこちらのグラフです。最初に調査した2014年は10.6%、2016年はやや低下して8.5%となりました。もちろんアメリカと日本とでは置かれている状況や移民にまつわる論点も違ってくるため、同列に扱いきれるわけではありません。しかしこの数字からは、日本でも移民の受け入れについて、決してポジティブに捉えられてはいない様子が見て取れます。
いかがでしょうか。こうして長い目で生活者の意識を捉えると、ゆるやかにではありますが、日本においても「世界への貢献よりも自国の利益」「貿易の自由化には消極的」という意識の変化が進んできており、また直近の論点として「移民受け入れには消極的」、という考えが見えてきます。1990年代には盛んに論じられたPKOやODAなどを通じた日本の国際協力・開発途上国支援の拡大や、WTOを中心とする自由貿易促進の枠組み作りの機運は、バブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災などの経済危機・大災害を経て徐々に後退。決して良くはない状況の中で、「何よりもまず、自分たちの暮らしをきちんと保ちたい。」そんな気持ちが強まっているのではないかな…と、データを眺めながらそんなことを考えました。
2016年前半に起こったもうひとつの“サプライズ”、「イギリス国民投票によるEU離脱決定」でも、大きな論点として移民・難民受け入れと自国の利益の問題がありました。ヨーロッパでは来年も、オランダ、フランス、ドイツと、主要国で相次いで大統領選挙・議会選挙が予定され、ここでも「他国より自国」は大きなテーマになろうとしています。
2017年。世界各国の生活者たちは、そして私たち日本の生活者は、これから先、どんな国の姿を描き、自国に対して何を望むのでしょうか。
<終>
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第1回 / 何を見ているのか言ってごらんなさい。あなたがどんな人だか言ってみせましょう。