博報堂生活綜研(上海)は、株式会社博報堂の独資子会社として2012年に上海に設立された、中国の博報堂グループのシンクタンク組織です。日本で蓄積してきた生活者研究のノウハウを生かし、中国における企業のマーケティング活動をサポートしていくと同時に、これからの中国の新しい暮らしのあり方を、中国現地で洞察・提言しています。その活動の一つとして、中国の生活者についてレポートします。
一昨年前から、中国では「網紅」(ワンホン、日本語訳:ネットアイドル)という言葉が流行り始めています。ネット上で、ある一定数以上のフォロワーアカウントを持つ個人は影響力のある人と見なされる為、一般生活者や企業から注目される存在となりつつあります。「網紅」によるインフルエンサー機能が、企業の販売や広告宣伝などのマーケティング領域に取り入れられ、「網紅」への企業からの需要は以前より明らかに増えていると感じています。
その影響で、デジタルネイティブとも言われている若者達による、ソーシャルネット上での自己発信が益々加速し、その手法も多様化しています。最近の「網紅」の発信スタイルの特徴として、写真や文章による投稿だけではなく、インターネット上での動画配信や、特に「直播(ジーボー)=ライブ中継」という行動も増えてきていることがあげられます。その根元には、自分の個性や才能をアピールしたいという欲求があると言えます。
その中で、もしかしたら多くのファンを獲得でき、自分が有名になって企業のアンバサダーやタレントのような存在になれるかもしれないという幻想を抱く人も少なくありません。その為に、わざわざ自宅の中で、ライブ配信用のカメラ、ライティングや音響設備を設置し、本格的な放送スタジオまで作ってしまった若い子がいます。また、仕事を辞めて本業・副業として「網紅」を目指して頑張っている若者もいます。
中国当局(CNNIC中国互聯網絡信息中心)の発表数字によると、昨年6月時点で、ライブ配信の視聴者数は3.25億人*に上ると言われています。多くの生活者が、従来型の企業発信のメディアコンテンツに満足できなくなり、同じ目線を持つ他の生活者が作成したコンテンツ、配信スタイルの方に関心が移っているとも言えます。今まで、KOL(Key Opinion Leader)と呼ばれる特定分野における影響力を持つ専門家がいます。企業としていかに彼らを捉えるかと、活用するかがマーケティング上では重要視されてきました。一方、最近の中国で起きている「網紅」ブームという現象は、ネットやデジタル機器を活用して、一般人でも有名人、オピニオンリーダーに成れることがユニークなポイントだと思います。今後、企業が従来のマスメディアとは別に、「網紅」のような個人の発信力をどう駆使して、自社商品の宣伝、販促活動に有効活用できるかは、マーケティング関係者にとって新たな課題になると思います。従って、「網紅マーケティング」への期待が、今後益々高まるのではないかと思います。
※出典:CNNIC(中国互聯網絡信息中心)2016年6月発表
1998年 博報堂C&Dにコピーライターとして入社
2002年 博報堂に転籍。マーケティングプラナーとして自動車、嗜好品、飲料、化粧品等、幅広い業界のプラニングに携わる
2012年 博報堂生活綜研(上海)の設立とともに上海に赴任。各種研究、講演、ブランドコンサルティング業務などの領域で活動
2016年 博報堂生活綜研(上海) 総経理