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私の生活定点 第6回 / 茶色く染まる、日本の食卓

2017.03.29
#生活総研#生活者調査

夏山明美
博報堂生活総合研究所 上席研究員


博報堂生活総合研究所が1992 年から24年間にわたって隔年で実施しているオリジナル定点観測調査「生活定点」。このたび2016年度調査が加わり、サイトもリニューアルしました。「私の生活定点」は、「生活定点」を見て気づいたこと、発見したことをさまざまな人が語っていくリレー・エッセイです。

みなさん、こんにちは。生活総研の夏山です。
私たちの最新研究は「みらい博2017 好きの未来」。生活総研webサイトでも、いろんな[好き]関連の記事を掲載しています。そこで、今回の「私の生活定点」は、「私の[好き]にまつわる生活定点」をご紹介します。テーマは「料理」。仕事で生活者研究、私生活で料理研究ってなわけです。あちこち食べ歩いては、「おいしいやん!」と思ったものを自己流で再現(完コピは到底無理。あくまでも真似レベル)。時々、お友達を招いて、手料理をふるまうのも好き。ごはん会では、メニューを書いた黒板を置いて、自前のシェフ服で正装して…なんてことをするほど、はまってます。

減りゆく、和風の料理好き

あるお店で、隣り合わせた40代と思しきカップルが「普段、和食って食べなくなったね」と話しているのが聞こえてきました。「ふーん、そうなんや、私は結構いろいろ食べる方やけどなぁ。他のみんなはどんなもん食べはるんやろ?」と思い、スマホで「生活定点 料理」と検索してみると、「和風の料理が好きな方だ」という項目を発見。早速、見てみると…(※1)
おやおや、20~60代のどの年代も右肩下がりまっしぐら! しかも、よぉ~く見ると、イメージ的には和食好きそうな40代以上で減り幅が大きい。1998年からだと20ポイント前後も減っていて、むしろ、20代・30代の方が踏ん張ってるぐらいです。
2013年、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されましたけど、みなさんの[好き]は違う料理に向かっているようです。じゃあ、それって、何なんでしょう? 他のデータも見ていきましょう。

好きな料理で順位を下げる「刺身」

「好きな料理ベスト3」をランキングで見ると、1996年から20年間、不動の1位は「寿司」! まぁ、ひとくちに寿司といってもカウンター寿司、回転寿司、持ち帰り寿司と、裾野は広がってそうですが…。いずれにせよ、「ザ・和食」ってな感じの寿司が1位。でも、その一方、寿司ネタにもなる「刺身」が2位、3位、5位と順位を下げているのも気になるところ…。

http://seikatsusoken.jp/teiten/ranking/496.html

「焼肉」に食われた「刺身」

さらに、分析を深めるために、「生活定点」をダウンロード。ランキングを作って、色付けしてみました(※2)。おっと、「刺身」ランクダウンの陰に「焼肉」あり…。すっかりポジションを奪われています。これ、ランキングに色をつけただけですが、料理の力関係がわかりやすくなりました。おもしろいから、他も見てみましょう。

「ラーメン」に「うどん・そば」が、差をつけられる

2016年にトップ3入りした「ラーメン」。実は、じわじわと攻め込んできてたんですねぇ。20年前には「ラーメン」を抑え込んでいた「うどん・そば」ですが、10年前に上下が逆転。2016年には2倍の差をつけられてしまいました。

増える「ライス」、消えゆく「ごはん」

日本の食卓に欠かせない、お米。「炊込みご飯」のような和風系の「ごはん」は10年前からトップ10から消えてしまいました。逆に席捲するのが「カレーライス」を代表とする洋風系の「ライス」。「○○ライス」って、オムライス、ハヤシライス、タコライス、トルコライスなど、今や山ほどありますもんね。

食のインバウンドで茶色化する食卓

最後に色をつけたのは、和食以外の料理。こうして見ると、欧米やアジアから、やってきた外来料理が勢力を増していることが明らか。2016年だと、トップ10のうち、6つが外来料理です。ここ数年、外国人観光客の増加が話題ですけど、食の世界でもインバウンドが進んでいたんですねぇ。ここで、みなさん、もう一度、色付けされた料理にご注目ください。焼肉、ラーメン、カレー、ぎょうざ…どれも茶色いものばかり。そう、このコラムのタイトルにもあるように、日本の食卓は、肉や油が入った茶色い料理に染められていたんです。

食卓は共働きとひとり暮らしの増加で、ますます茶色化?

茶色い料理を見ていて思うのは、どれも外食でも、よく食べるものだということ。同時に、レトルトやインスタント、冷凍食品でもお世話になります。「生活定点」では食卓の茶色化に呼応するように、「外食よりも家で食べる食事の方が好きだ」は減り、逆に「調理済み食品をよく使う方だ」が増加。外食派や中食派は着実に増えています。
いろんな見立てがあるでしょうが、私は共働きとひとり暮らしの増加が大きな要因ではないかと思っています。1992年、バブル崩壊の頃に共働き世帯数が専業主婦世帯数を上回り始めました。2007年、単独世帯(ひとり暮らし)が夫婦と子供からなる標準世帯を抜き、歴史上初めて最多となりました。夫婦ともに忙しい人たちや、ひとり分の調理が時間/労力/金銭的に非効率なひとり暮らしには、外食や調理済み食品は便利。だから、茶色い料理好きが増えたのではないでしょうか。だとしたら、大きな社会変化の波にのった茶色化は、もはや後戻りせず、むしろ進むかもなぁ~とも思います。

料理はクリエイティブ。大胆/自由に楽しみたい

ある日の社食。メンチカツカレー、肉みそ納豆うどん、若鶏のから揚げなど、肉や油の茶色い料理が並んでいました。かくいう私も、「腹が減っては働けぬ」と、こうした茶色い料理のお世話になります。
でも、その一方、日本の宝である和食もずっと普通に食べ続けたい。和食を守るために、敷居の高いイメージを下げ、お気軽/お手頃なお店があるといいなぁ。例えば、マイ箸&マイ茶碗をキープしてくれる、ぬか床かきまぜ体験をさせてくれる、旬の食材を持ち込めば好みの調理をしてくれる…などなど。茶色い料理とのフュージョン和食なんてのもいいかも。「生活定点」を起点に、そんな風に発想を飛ばしてしまいます。
最新研究「みらい博2017 好きの未来」のなかで、私たちは「従来のジャンルにとらわれず、新たな楽しみ方を“生みだす“人が増えるでしょう」と予想しています。料理は本来クリエイティブなもの。ジャンルの枠にとらわれず、これから、もっと自由/大胆に楽しんでいきたいなぁ~と思います。

(※1)検索する…「生活定点」で項目を探すには「サイト内検索」機能が便利です。加えて、いきなり検索サイトからサーチして出会える場合もありますよ。
(※2)ダウンロードする…「生活定点」をダウンロードすれば、データを好きに加工できます。全体以外に性別・年代別などのデータもあります。出典(博報堂生活総合研究所「生活定点」調査)明記で、企画書や社内資料、SNSネタなど自由にお使いいただけます。

■バックナンバー
第5回 / スマホ時代の「偶然」との出会いかた
第4回 / トランプ勝利―自国第一・内向き志向はアメリカだけ?
第3回 / 家族の誕生日祝い、大躍進!
第2回 / 生活定点から見えてくる、「新しい大人の関係性消費」
第1回 / 何を見ているのか言ってごらんなさい。あなたがどんな人だか言ってみせましょう。

『生活定点』調査とは、1992 年から24年間にわたって隔年で実施している生活総研のオリジナル定点観測調査です。同じ地域(首都圏・阪神圏)、同じ対象者設定(20~69 歳の男女)に向けて、同じ質問を継続して投げ掛け、その回答の変化を時系列で観測しています。 項目数は約 1,500 項目に及び、衣、食、住、健康、遊び、学び、働き、家族、恋愛・結婚、交際、贈答、消費、情報、メディア接触、社会意識、国際化と日本、地球環境など、生活者のありとあらゆる領域を網羅しています。2016年、最新調査結果の公開にあたって「生活定点」特設サイトをリニューアルしました。http://seikatsusoken.jp/teiten/(時系列データのエクセルファイルもダウンロードできます。日本語版と英語版をご用意しています)「生活定点」特設サイトでは「似てるかもグラフ」「グラフの形から見る」「ランキング表」「面グラフ」など、ふだん、あまりデータを扱わない人にも、統計データを楽しんでいただける工夫をしています。ぜひ、ご活用ください。

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