2回目に登場するのは、中国四国博報堂マーケットデザイン室でMDディレクターを務める我那覇健一。中国四国地方を中心に、民間・自治体問わずさまざまな地域ビジネスのコミュニケーションに携わっています。中国四国地方で今どんなビジネスが生まれているのか、地域の仕事に掛ける想いなどについて聞きました。
中国四国博報堂に入社したのは2002年です。もともとメディアを担当していましたが、携わる領域が徐々に広がっていき、これまでプロモーションやマーケティング、クリエイティブなどでの経験を経てきました。今現在は、MDディレクターという肩書でマーケットデザイン室に所属しています。具体的には、地方銀行や流通のCM制作やキャンペーンの企画を行ったり、自治体の観光プロモーション立案や新規事業開発など、マーケティング、クリエイティブディレクション、あるいはプロデューサーだったりと、案件によってフレキシブルに動くことが多いですね。いずれにしても、メディア経験から得た、情報を広げるスキルと、マーケティングやクリエイティブの創造するスキルを掛け合わせ、クライアントさんの戦略作りから実施までを統合的にデザインすることを手掛けています。
現在中国四国博報堂が取り組んでいるプロジェクトの一つに「LOCAL re:creation(ローカルリクリエーション)」というものがあります。構想は今から2年ほど前。当時は元岩手県知事の増田寛也さんが書いた『地方消滅 東京一極集中が招く人口急減』(中公新書)という本が話題になったり、東京一極集中による弊害がいろいろと取りざたされ、世の中が少しずつ“地域”に目を向け始めた頃でした。そんな中、地域の広告会社も変わらなければいけないのではないか?という議論になり、「広告会社の最大の武器は何か」「地域の広告会社にしかできないこと何か」について一度棚卸ししてみたんです。その結果行き着いたのは、広告会社らしい「総合的なクリエイティブ力」を発揮すること。そして博報堂だけで完結するのではなく、会社や業界を超えた地域クリエイターと一緒になって取り組むフレームをつくるべきだという結論に至りました。そうして生まれたのが、クリエイティブディレクターやアートディレクター、プロデューサー、デザイナー、カメラマンなど、地域ビジネスに貢献できる多様なメンバーが集まったクリエイティブユニット「LOCAL re:creation」です。このユニットを通し、ここ中国四国地方の魅力や価値をあらゆる角度から見直し、リデザイン、リブランディングしていくことで、この地域の抱えるさまざまな課題解決の足掛かりにできればと考えています。
LOCAL re:creationから生まれた活動の一つが広島県三次市の「雲の上の朝ごはん」。三次市の観光プロモーションの一環として、もともとあった、明け方に霧の海という絶景が見られる展望台を活かした観光コンテンツ開発を手掛けました。宿泊による経済効果を狙い、展望台で朝食がとれる空間プロデュースを実施したところ、期間限定イベントではありましたが全国からさまざまな反響がありました。
また、地域に新しい表現フォーマットをつくるということで、現在、地域連携プロデューサーという立場で瀬戸内「DINING OUT」にも関わっています。「DINING OUT」とはもともと博報堂DYグループの株式会社ONESTORYが行っている、地域食材をはじめとする地域の観光資源を駆使した野外プレミアムレストランです。すでに全国各地で開催されているものですが、イベント自体は、地域の人材や資源をベースにしながら、料理人や文化人などの一流クリエイターをつなぎ、地域の隠れた魅力を効果的に発信できるプロジェクトだと思います。すでに尾道を舞台に開催しましたが、大好評のうちに終えることができました。今後も瀬戸内エリアでの開催を計画しています。
また別の活動ですが、2016年3月に設立された「せとうち観光推進機構」(瀬戸内7県が連携して発足。通称「せとうちDMO」)」において、地域観光ビジネスのマーケティングにも関わっています。インバウンド促進業務として、博報堂グループと連携し、世界7カ国に向けて動画広告を制作、配信しました。多くの外国人観光客が「SETOUCHI」を認知し、訪れるキッカケになればと考えています。さまざまな企業、自治体の方々と連携、共創していく作業は、難しい反面とてもやりがいのある仕事だと感じています。
僕自身は沖縄出身で、仕事をキッカケにこの地にやってきました。そういう意味ではもともとこの土地に特に強いつながりがあったわけでもないのですが、地域の仕事をしていくうちに、自然と友人知人関係が広がっていき、いまではもう一つの故郷のように思っています。仕事をすればするほど人とのつながりも増えていくし、そこから仕事を越えたつながりに広がっていく。結局、地域に住む人、関わる人を好きになることが、地域愛につながっていくのだと思います。
近年では全国的にも“地域”への注目が非常に高まっているのを感じますが、一種のトレンドのようなものだとも思います。それをこの土地だけで盛り上げていくのではなく、あらゆるプレーヤーと連携し、流行だけで終わらせない、地域の継続的な発展というものを考えていかなければなりません。そういう意味でも、地域と東京というエリアの概念だけでなく、メディアや企業など、あらゆるステークホルダーをつなぐ触媒としての役割や、地域の魅力を表現するクリエイティブディレクション、地域ビジネスプロデュースを手掛けるなど、「つなぐ」「つくる」「ひろげる」役割を担うことが今僕らに求められていることではないかと考えます。広告会社の存在価値は、地域においてますます多様に広がっているのではないでしょうか。
撮影場所:LIFE MARKET HARBOR CLUB DEJIMA
2002年 中国四国博報堂入社後、メディア・PRプランナーを経て、マーケットデザイン室に所属。クライアントの戦略づくりから実施まで、一貫したワンストップ業務を手掛ける。近年は、民間・自治体のブランディングやマーケティング、TVCMなどのクリエイティブディレクションに従事。 DINING OUT地域連携プロデューサー兼務。
■チイキノベーション! バックナンバー
VOL.1 広告会社だからできる。未来のための地域づくり(地域創生ビジネス推進室 山口綱士)