スパイクス2017のミュージック部門の審査委員長を務めたTBWA\HAKUHODOの佐藤カズー、アウトドア & ラジオ部門の審査員を務めた博報堂の三浦竜郎、メディア部門の審査員を務めた博報堂DYメディアパートナーズの嶋田三四郎に、各部門の審査基準や今年の受賞作品の特徴などについてインタビューしました。第2弾は、三浦竜郎です。
三浦竜郎
博報堂 統合プラニング局
クリエイティブディレクター
初めにアウトドア & ラジオ部門の審査基準について今年の審査委員長から語られたのは、「アウトドア、ラジオのいずれにおいても、業界のクリエイティビティのレベルを一段上げるようなものを評価しよう」ということ。賞における非常に基本的な考え方ではありますが、僕も強く共感するところでした。
まずラジオ部門で印象的だったのは、「ANCHOR MILK SLAMS INSIDE OUT」です。ミルクって、小さい頃は親から言われるまま飲むものですが、反抗期を迎える頃には“親からうるさく言われるからかえって飲みたくないもの”になってしまう。それで、この作品では、ポエトリーリーディングの世界チャンプの人が、非常にかっこいい、ミルクをテーマにしたポエトリーを詠むんです。「お前の体は何でできているんだ」「お前の笑顔はどこから来ているんだ」といったことを10代の若者に向けて、とてもクールに、ちょっとしたユーモアをまぜて語りかける。それがすごくグッとくる。やっぱりミルクって大事かもしれない、ミルクって意外とイケてるかもしれない、という風に若者の認識を変えることに成功したということで、ゴールドに推しました。
グランプリを獲ったのは「SMARTWIG」。オーストラリアのラグビーチームのサポーター向けにつくられた、ラジオ内蔵型のアホなウィッグです。ラジオからはオリジナルのコンテンツが聴けて、サポーター同士がより一体感を味わいながら応援できるというもの。これはラジオの表現を超えたオーディオテクノロジーのアイデアなので、ラジオとしてどう評価するかを悩みながらも、僕はグランプリ候補に推薦しました。というのも、この仕事は、ラジオのもつ“電波が届く範囲のコミュニティを強くする”という力、可能性を証明したと思ったんです。さらにいまはGoogle Home、アマゾンのアレクサなど、音声テクノロジーの可能性がぐんと広がりつつある時代でもあります。ラジオとテクノロジーを駆使して音声広告の可能性を拡大したという点でも、グランプリにふさわしいと思いました。
THE STAR SYDNEY「SMARTWIG」(BASHFUL・オーストラリア)
URL: https://www.spikes.asia/winners/2017/radio/
(注)動画URLは、公式サイトで一定期間閲覧可能。
アウトドア部門では、「THE UNUSUAL FOOTBALL FIELD PROJECT」と「MEET GRAHAM」という非常に強い2つのエントリーがストレートでゴールドに進みましたが、僕がもう一つゴールドに推したのが「THE CONSCIOUS CROSSING」です。歩行者用の線路を横断する通路に柵があるのですが、その柵の形を任意に変えていくことで歩行者や自転車ユーザーに注意喚起し、危険な横断を防ぐというもの。詳しい審査員に確認したところ、実際にかなり高い効果をあげているんだそうです。一見地味なんですが、僕はこれには数年後、世界中の鉄道で導入されているかもしれないという可能性を感じたし、そうした見過ごしてしまいそうな可能性を厳しく精査し、評価すべきものは高く評価することも審査員の大切な役目だと思っています。このような世界の目を開かせる力のあるソリューションは、大々的に褒めようと話しました。
結局グランプリを獲ったのは「THE UNUSUAL FOOTBALL FIELD PROJECT」です。ビルや建物の隙間を活かして、空き地の形に合わせたサッカー場をつくり、子どもたちが遊べるようにするというもので、舞台はタイでしたが、スリランカやベトナム、あるいは東京の歌舞伎町でも応用できるかもしれない、非常にアジアらしさを感じる仕事です。サッカー場の形に応じてルールを決めていくとしたら、それは子どもにとってはとてもクリエイティブなプロセスで、教育の場にもなっているし、それは不動産開発ブランドとの美しい結びつきでもあると指摘したところ、ほかの審査員からも賛同が得られました。
AP THAILAND「THE UNUSUAL FOOTBALL FIELD PROJECT」(CJ WORX・タイ)
URL: https://www.spikes.asia/winners/2017/outdoor/
(注)動画URLは、公式サイトで一定期間閲覧可能。
広告賞を見れば世界の水準がどこにあるかがわかるし、自分たちに足りないものもわかるようになる。僕自身は今年、もっといいものを作るためには、個人力だけでなくチームワークを鍛えることが必要かなと感じました。日本のエントリー全体を見回しても、個人力が光る比較的小さなプロジェクトがたくさん出ているような状況で、より大きなチャレンジを世界水準で実現する業界に進化していきたいですね。ビジネスに失敗は許されないので、人間はつい安心できるものや、どこか見たことがあるものを選んでしまいがちです。こうゆう場を通して、誰もが思ってもみなかったフレッシュでクリエイティブなソリューションを探し続け、試行錯誤を続けることは、私たちの業界が産業界に対して負っている責任であるとも思います。ぜひみなさんにも、広告賞から多くの気づきを得てほしいと思います。
★スパイクス2017アーカイブ★
【スパイクス・アジア2017】―博報堂DYグループ審査員インタビュー(①ミュージック部門 佐藤カズー)
博報堂グループ、および博報堂DYメディアパートナーズは スパイクス・アジア2017にてグランプリなど29の賞を受賞。― ヤング・スパイクスでも優勝 ―
【スパイクス・アジア2017】TBWA\HAKUHODOチーフクリエイティブオフィサーの佐藤カズーが、Music部門の審査委員長に。その他、博報堂DYグループから2名が審査員に決定。