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FOR2035来るソロ社会の展望を語る–vol.6 前編/エッセイスト酒井順子さん「誰の中にもある女子マネ的要素」

2017.12.06
#ソロもんLABO

第6回のゲストは、エッセイストの酒井順子さんです。2003年に上梓した『負け犬の遠吠え』(講談社)では、独身で子どもがいない30代女性を「負け犬」と自虐的に表現し、社会現象といえるほど大きな話題を呼びました。5月には新刊『男尊女子』(集英社)を発表。女性達自身の中に潜む“男尊”思想について鋭く切り込んでいます。多くの女性の中にある、女子マネ的心理とは?独身男女の出会いを阻む「両すくみ状態」とは?酒井さんの考える結婚観も交えながら、これからの男女関係論などについて語り合いました。

誰の中にも存在する、女子マネ的“男尊女子”な要素

荒川和久(以下、荒川):『男尊女子』(集英社)読みました!非常に面白かったです。

酒井順子さん(以下、酒井):ありがとうございます。

荒川:ご著書では、いわゆる“女子マネ”みたいな女子のことを「男尊女子」という言葉で表現されていますね。高校まではそんな素振りも見せなかった友人が、大学生になると急にかいがいしく男性の世話を焼くようになる様子を見て驚かれたと。

酒井:私は女子校出身で、もちろんみんな高校生の頃も男性にモテたいという気持ちを持ちつつも、「女子だけでやっていく」という感覚を持っていたのに、共学になったとたん、手のひらを返すように男性を“立て”たり、自分を弱く、小さく見せるようになっていった。それが人生で初めて気づいた“男尊女子”の実例でしょうか。

荒川:確かに、以前女子高出身の独身女性にインタビューしたとき、まさに同じような話をしていました。それまでは部活動の荷物を運ぶのでも、すべてを自分たちでやることに慣れていたのに、大学に入ると男の人が重い荷物をひょいと持ってくれて、「あ、男の人はこういうことをしてくれるものなんだ」と知ったそうです。そこで、やってもらえることに対して嬉しさというものが芽生えてしまったと。

酒井:新鮮だったんでしょうね。それと同時に、男の手助けをする、男の人を助ける自分に対しての充実感のようなものに目覚める人も結構います。

荒川:男性の地位が女性より高い社会的な傾向を指す「男尊女卑」をもじって、実はその意識を自分の中に内面化させてしまっている人が多いということを、男尊女子という言葉で示されているわけですよね。なるほどと思ったのは、別にこれはゼロか100かの話ではなく、人には何かしら「男尊女子」成分があるということ。濃淡があるんですね。

酒井:それが親の教育によるものか社会的なものなのか、原因は人それぞれでしょうが、その成分がまったくない人というのは少ないはずです。また、状況に応じてそういう傾向が強まったり弱まったりもする。以前、とある週刊誌のインタビューで、「で、(女性の)何割くらいが男尊女子なんですか?」と聞かれてとまどったことがありました(笑)。「何割」というのは男性の発想だなぁ、と。

荒川:たとえば女子マネに代表されるような男尊女子度の高い方々は、その自覚はあるんでしょうか?そして、男尊女子的な行動をとらない方は、そのあたりをわかっていて、意識的にそうしてるんでしょうか。

酒井:女子マネ的な方々は、おそらく無自覚だと思いますよ。「運動部の男子を補助すること」が、本当にキラキラして見えたのでは。その時、「モテたいから」といった現実的な欲求には蓋をして、見ないようにしているような気がします。私自身は、他人の補助より自分が運動をしたい、というプレーヤータイプだったわけですが、その時は「男尊」との関係性は全く考えずに道を選ぶも、よく考えていたら大きな分かれ道だった気が。

荒川:そうなんですね。ご著書にもありましたが、「男はとりあえず立てておけばいいよね」と割り切っている方もいますよね。そうしておいたほうが世の中がうまく回るからと。専業主婦だったうちの母親なんかまさにそのタイプなんですが。

酒井:専業主婦の中には、「立て方」上手の人が多いのかもしれませんね。いちいち理屈を考えず、自分を曲げてでも相手を立てておいた方が楽だとか、話が早い、という感覚。積極的に男性の役に立ちたい女性というのは、確実にどの時代にも存在しています。その感覚が女性にとって先天的なのか後天的なのかはよくわかりませんし、「他人への献身は女性ならではの喜び」という説もありますが、性役割分担として、子どものころから刷り込まれている部分も大きいとは思うんですよね。

しない、できない問題。代弁されると独身男性は嫌がる?

荒川:男性をサポートしたいという女子マネ的な方々がいわゆる専業主婦像を補強していく一方で、いまは、男性と同等に働き自分で稼げるようになればなるほど、経済的に自立すればするほど、専業主婦という考え方はおろか「何のために結婚するんだろう?」と考える女性も増えている。自立した女性が結婚への必要性を感じなくなるという状況でもあります。

酒井:ご著書の『超ソロ社会』にもありましたが、低収入の男性と高収入の女性が余ってしまうという状況なんですよね?

荒川:そうなんです。実は以前、東洋経済オンラインの連載で女性の「上方婚」について書いたんですが、自分が1000万も稼いでいるような高収入の女性ですら自分より稼ぐ男性を求めたがります。でも、そんな男性はなかなかいない。「上方婚」の考え方では結婚のハードルが上がるだけだと言ったら、炎上してしまいました(笑)。上方婚を狙うから結婚できないのではなく、そもそも自分で生活できるようになった女性は結婚の必要性を感じていないだけなんだと。「結婚したいけどできない」のではなく「結婚はできるけどあえてしないんだ」という指摘でしたね。

酒井:でも、私感ですが「できるけどあえてしない」と言っている人は相当少ない印象です。

荒川:そうですね。実際は少ないと思います。面白いのは、男性の場合は逆の反応で、「いまの男の人たちは結婚しない」といったことを書いたところ、「『しない』と言うな、『できない』んだ」とお叱りを受けました(笑)。

酒井:反論のしかたにも男女に違いがあるんですね。私が『負け犬の遠吠え』を書いたのはもう十数年前になりますが、そうやって独身問題を語る男性は少なかったんです。独身の男の人がなぜ多いのかということを説明する勇気を、まだ持つことができなかったのではないでしょうか。今は荒川さんみたいな方がその状況を分析、検証、発信されていて感慨深いというか、時代の変化というものを実感しています。

荒川:そう言っていただけるとありがたいです。本当は、多くの独身男性の心の叫びのようなものを代弁したいといった意識もあったんですが、実際には何を書いても叩かれることのほうが多くて(笑)。おそらく代弁してほしくもないし、分析もいらない。ほっといてくれ、という思いの方が大きいんじゃないかと。

酒井:女性の方は、そのあたりを代弁してもらうことで、ある意味スッキリしたという部分もあるんじゃないかと思います。男性の方が繊細ですね。

荒川:そうですね。おそらく男性で、未婚で、収入や年齢の面で自分たちを社会的弱者だとカテゴライズしている人の場合、「自分たちの気持ちはどうせわかるはずがない」と聞く耳持たず、突っぱねてしまう。そこの分断は大きいと感じますね。でも別に年収300万円ないと結婚できないということはなく、200万円台でも結婚している男性はいっぱいいるんです。いろんな情報が氾濫しすぎていて、これくらいの稼ぎがなければ結婚する資格がないと思い込まされているだけなんですよね。
あと非婚化の原因のひとつに、職場結婚が減ったこともあると思うんです。それで、企業がもうちょっと仲人役を買って出るようにしたらいいのにと書いたこともあります。それはそれで、また叩かれましたが(笑)。

酒井:いいアイデアだと思いますけど。最近は、運動会とか社員旅行とか、80年代くらいまであった企業イベントを復活させようという傾向もありますよね。はたから聞いていると楽しそうだなと思いますし、保守化しつつある若者は楽しんでいるのでは?

荒川:会社がまだ家族的だった時代ですよね。調べてみたところ、職場結婚が激減したのが、90年代前半からなんですね。これは、92年に日本初のセクハラ民事訴訟が最高裁で勝訴したというのが大きく影響しているような気がします。昔は女性社員を男性社員がデートに誘うということは珍しくなかったことなんだと思います。

酒井:いまはそういうことがやりにくくなってしまった。

荒川:そうですね。気に入っている人からの誘いならいいけれども、そうじゃない人からの誘いはセクハラだとか。上司から、「お前あいつとはどうなんだ」なんて言われることにも嫌悪感をおぼえる、といったことがありますね。

酒井:でも私は、一周回って、そういうのも必要なのではないかと思うようになってきました。ある意味、外圧がなくなったから結婚しなくなったんだろうなと。

荒川:いい意味での外圧がないんですよね。職場というコミュニティーだけではなく、かつてと違って、地域や親族のコミュニティーも弱体化しています。個人の自己責任の範囲がかなり増えてきてしまっていると思います。

後編に続く

酒井 順子(さかい じゅんこ)

1966年東京生まれ。学生時代よりエッセイを執筆し、立教大学観光学科卒業後、博報堂勤務。1992年に退職後、執筆に専念。2004年「負け犬の遠吠え」で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞を受賞。「男尊女子」「地震と独身」「子の無い人生」「源氏姉妹」「ユーミンの罪」など著書多数。

荒川 和久(あらかわ かずひさ)

博報堂「ソロもんLABO」リーダー
早稲田大学法学部卒業。博報堂入社後、自動車・飲料・ビール・食品・化粧品・映画・流通・通販・住宅等幅広い業種の企業プロモーション業務を担当。キャラクター開発やアンテナショップ、レストラン運営も手掛ける。独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・WEBメディア多数出演。著書に『超ソロ社会-独身大国日本の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち-増え続ける未婚男性ソロ男のリアル』(ディスカヴァー携書)など。

★アーカイブ★
https://www.hakuhodo.co.jp/magazine/series/solo/

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