―動画専門集団hakuhodo.movieが誕生した背景について教えてください。
山本:
まずは、動画を取り巻く現状について最初にお話します。動画サービスの発達とスマホの普及により、世界中の人々が、いつでもどこでも手軽に動画を楽しむ時代となりました。YouTubeの公式ブログによると、今年6月、YouTubeの月間視聴者数は、なんと全世界で15億人を突破したそうです(※1)。また、日本の動画広告市場もその伸びは著しく、2016年時点でのウェブ動画の市場規模はおよそ842億円。2017年は1,374億円(163%増)にまで拡大し、2020年頃には2,300億円超が見込まれています(※2)。技術的にもその頃5Gも商用化されれば、100倍の高速通信、1000倍の大容量データ時代が到来します。まさに「大動画時代の到来」となるでしょう。そして、そういった兆候は、得意先からの「動画を使った顧客コミュニケーションをしたい」というご相談がここ数年で、急激に増えていることからも実感しています。
そうした背景をふまえて昨年12月に立ち上がったのが、博報堂DYグループ4社横断のタスクフォースhakuhodo.movie(ハクホウドウ・ドット・ムービー)です。グループ横断のチームをつくったということは「博報堂グループの総力で、動画ビジネスに本格的に取り組む」という姿勢の現れです。メディア、クリエイティブ、ストラテジック、それぞれの部署から総勢70人くらいが頻繁に集まり、テレビCMや番組企画を含め動画統合プランニングに関する最新の取り組みや、どんな座組なら実現が可能かといった情報交換を、定例会などで密に行っています。さらに社内研修やワークショップなどでも最新の情報をシェアし、互いがダイレクトにつながりはじめました。組織の枠組みを超えてプロフェッショナルが集まる体制としては相当強力で、スピード感・規模においても、過去になかったものになりつつあると思います。
林:
博報堂という会社は、テレビCMづくりに何十年にわたり携わってきた実績があり、「動画を生業にしてきた会社」といっても過言ではありません。動画に関するノウハウが蓄積されているのです。さらに会社の理念として「生活者発想」を掲げているように、膨大な生活者データの知見があります。これらの知見をかけあわせれば、効果ある動画統合ソリューションをクライアント企業にご提供できると確信したんです。
肌感覚ではありますが、2016年に動画環境の節目があったように思います。「最新スマホの操作法」「レシピ動画」「メイクのテクニック」といった日常の“ハウツー動画”が飛躍的に増え始め、それをきっかけに、“ライトなウェブユーザー”も頻繁に動画を見始めたと感じています。難しい取説をひっぱりださなくても、百聞は一見にしかず、で動画はわかりやすく教えてくれますから。
山本:
観るようになっただけでなく、動画を“使い始めた”ことが大きいと思います。動画をきっかけにモノを買い、動画で購入後のサポートを受ける。その動画をまた友人とシェアする―我々が「視聴後行動」と呼んでいる、“動画を観た後の行動”へとつながっている。動画を使いこなす時代になったのだと思います。
※1
https://youtube.googleblog.com/2017/06/updates-from-vidcon-more-users-more.html
2017年6月22日発表、YouTube Offical Blogより
※2
https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=20966
2017年11月サイバーエージェントが発表
林:
僕たちは、前述のような“動画を観るだけではなく使いこなす生活者”を動画生活者®と名付け、彼らの特徴を調査しています。それが2017年2月に発表した「動画生活者®実態調査」です。
第一回の調査では、推定される「動画生活者®」人口は3,800万人ということが判明し、さらに彼らには7つの特徴的な欲求があることがわかりました。
たとえば「友だちとの会話に役立つネタ探しとして動画を観る人」、「休日のレジャーの情報収集がしたい人」、あるいは「動物の動画などで癒されたいと願っている人」など、動画にアクセスする生活者の具体的な欲求が浮き彫りになったのです。
実はこの調査をする前、我々は動画視聴を促しているのは、「暇をつぶしたい、話題を得たい、感動したい……といった、“観たい、楽しみたい”といった欲求だろう」と推論していました。しかし、ふたを開けてみるとより積極的な「7つの欲求」がはっきりと出てきました。これは既存の調査には見られない、我々ならではの調査による貴重なファインディングスでした。
―「動画生活者®」がどんな人たちなのか、その特徴について説明していただけますか?“動画をつかいこなす”とは具体的にどんな行動なのでしょう?
林:
動画がきっかけで、ものを買う。使い方や買ったあとのサポートも動画で済ます。動画でショーアップされたイベントを楽しみ、時には自ら撮った動画を投稿、仲間とシェアしたりする。動画で知り、動画で理解し、動画で好きになる。動画を通じて企業やブランド、商品と長く長く続く関係を築いていく。そんなふうに動画に積極的に関わり、つながる人々を「動画生活者®」と名づけました。
そして、さらにこの調査からわかったのは、動画生活者は、そうではない人たちに比べて明らかに広告に対する信頼、関心が高いということ。彼らはより積極的に広告を見る可能性があり、かつ、動画視聴後の行動もアクティブであると推測されるわけです。この点については、今後継続的に深堀りしていければと考えています。
―動画活用のためオリジナルメソッド「16マス・プランニングメソッド」について教えてください。
山本:
我々はこうした動画生活者の実態調査と分析をふまえて、生活者がいつどんな状況で動画を観ているかの「視聴モーメント」を明らかにし、それから、動画視聴後にどういった行動に出ているかのパターン分析を行っています。
たとえば20代30代で有職、子どもがいない女性の場合、平日の朝7時~8時には約9%がweb動画を視聴し、そのうちの半数以上は通勤中でに観ていることが判明しています。そういった「動画生活者®」のいつ・どこでを含めた具体的な「視聴モーメント」を明らかにし、その視聴にはどんな欲求が紐づけられているかを多角的かつ精緻に分析することで、届けたいターゲットにもっとも効果的に届けるためのストーリーを組み立てられるのです。抽出・分析された「視聴モーメント」×「行動欲求」。これらを手がかりに、「つくる」「届ける」をプランニングするのが、「16マス・プランニングメソッド」と我々が呼んでいる方法、となります。
山本:
統合マーケティング&コミュニケーションの潮流としてペイド(Paid)、アーンド(Earned)、シェアード(Shared)、オウンド(Owned)の頭文字をとったPESOモデルがありますが、これは我々が生活者にメッセージを「どう『届ける』か?」のプラットフォームの話です。これに、「リーチ・認知」「好意・関与」「理解」「検討・購買」といった、「何を目的として『つくる』か?」を掛け合わせると、全部で最大16のパターンが表出されるんです。これは16マスすべてを埋めないといけないというわけではなくて、あくまでもこの16マスを白地図として使って、「どこに手を打つか」を俯瞰して、そして統合的に捉え考えていくというメソッドです。
そもそも動画をつくる場合、提案の際に「こういう理由があるから、この動画をお勧めします」という説明責任が必ず生じます。その成果―PV(再生回数)だけではなく、どれくらいエンゲージメントしたか、どれくらいコンバージョンしたかだって、全部計測できますからね。これまではその都度プランニングし、提案し、結果を見てどうだったからまた競合で提案して……という、ある意味場当たり的な状態になっていたように思う。そこをより整理し、強化するためにも、我々はこのメソッドを開発しました。
林:
ちなみにこの16マスのなかにはテレビCMも入っています。さらにテレビだけでなく、アウトドアメディアの動画、つまりサイネージのようなものや、街頭ビジョンなども含まれていて、動画の意味を広くとらえることで、テレビCMやウェブ動画を、それぞれにどんな役割を担わせていくかを考えやすくするという意図でつくっています。
山本:
16マスの横軸、つまり先ほども言った「リーチ・認知」「好意・関与」「理解」「検討・購買」という広告の4つの目的(KPI)は、ただ強制的にこの流れでファネル全体を埋め、カスタマージャーニーを描かなきゃ、というわけではなくて、あくまでもそのうちの一部を狙うというのでもいい。16マスすべてを埋めていかなくてもいいわけです。
例えばテレビCMとweb動画の出稿タイミングが異なった場合。web動画のフリークエンシーを最大3回までと考え、オウンドメディアに置きっぱなしになっているCM素材を有効活用し改めてYouTubeに出稿するなど。全体を見ながら次のアクションを考える、動画施策全体の整理のためにも使うことができるんです。
林:
2017年2月27日に実施した「動画生活者®実態調査」につづき、12月20日には「動画生活者®統合調査」を発表しました。
昨年度はweb動画のみに焦点を当てたのに対し、今回の「動画生活者®統合調査」は、web動画、リアルタイムテレビ視聴、タイムシフトテレビ視聴、ビデオ・オン・デマンドも「統合」して分析しています。前回より、生活者の動画行動が緻密にわかるものになっており、さまざまな視点でマーケティング活動に役立つデータを提供することが可能なものになっています。
たとえば、10代女性を分析してみると「入浴中」に視聴する人がぐんと増えたりだとか、「金融・株式・投資」ジャンルの動画は自宅に次いで「通勤中」で視聴する人が多い。さらにこの“入浴中”と“通勤中”では、視聴している気分だって異なるはず。そこまでもしっかり読み解くことで、その人の生活や気分に深く入り込んだ動画プランニングの為に、重要な基礎データを提供することができる調査となりました。ぜひ、ご覧ください。
山本:
まさにモバイルファースト、モバイルオンリーな世代も増えているわけで(笑)そんなモバイルユーザーの実態を見てみると、マイクロソフトの調査で、「金魚の集中力は9秒だけど、ミレニアル世代は8秒で飽きてしまう」というレポートが話題になりました。(※)フィードに流れてくるような動画はそれだけ、どんどん短くしていかないといけないとされているわけです。でも一方で、“動画ラバー”も確実にいて、長い動画だって好んで観てくれる人たちがいる。そこにわかりやすい正解はなく、そうした事実を「どう見極めるか」、「動画施策全体をどう統合し、計画し、実践していけるか」がこれから大事なポイントになってくるのだろうと思います。
Attention spans Consumer Insights, Microsoft Canada
https://www.techly.com.au/2015/05/29/microsoft-study-people-shorter-attention-spans-goldfish/
林:
冒頭でも触れましたが、博報堂という会社はTVCMとして動画というものをもう何十年も作り続けている。その知見を、いかに今後SNS上の動画とか、ネット上の放送局などの番組づくりなどに活かせるかも、このタスクフォースの大きな命題になっていると思います。単なる動画「視聴者」ではない、動画を使いながら何らかの生活をしている「生活者」ととらえなおすことで、何か新しい動画の形が見えてきます。そのときに、我々のような集団が非常に力を発揮すると考えています。
1984年 博報堂入社。CMプランナー/コピーライターとして様々な業種の制作業務に携わる。
2000年に博報堂のグループのクリエイティブエージェンシーのクリエイティブディレクターとして外食チェーン、情報通信、家庭用品各社の課題解決型コミュニケーション業務に携わる。2012年には博報堂DYメディアパートナーズにて、開発を手掛けたオンエア中のテレビ番組とCM をリアルタイム連動させる広告手法「プレイ・オン・アド」が話題に。 広告業界ネタ深夜番組、お笑い×SNSなど独自のラジオ番組企画/プロデュースも手がける。2014年からインタラクティブデザイン局にてインタラクティブコンテンツ/プラットフォーム開発業務に従事。テレビCMからWEBまで 「動画統合ソリューション」を実践する博報堂DYグループ4社横断プロジェクトhakuhodo.movieコアメンバー。
2002年 博報堂入社。大手通信会社グループのマーケティング戦略立案からキャリアをスタート。その中で、ある新技術を活用した広告配信プラットフォームの発明で特許出願。それをコア・コンピタンスに、大手通信会社グループとの共同事業会社設立業務に従事、経営の視点を得る。
その後はデジタル・クリエイティブ部門に所属。「デジタルは、広告よりも広い。」をポリシーとして「デジタル」と「事業視点」を武器としたクリエイティブ・プラニングに従事。hakuhodo.movieにおいては、事業戦略発想とクリエイティブ発想を横断しながら、クライアントに対する動画統合ソリューションの実現をサポートしている。
受賞歴:カンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバル メディア部門ブロンズ、ニューヨーク・フェスティバル PR部門 シルバー等