博報堂生活総合研究所アセアン(以下、博報堂生活総研アセアン)は2017年12月14日、バンコクにてアセアン家庭の男女平等に関する研究発表を行いました。アセアンの生活者に関する研究発表は年に1度行っており、今回で4回目となります。今回は、博報堂生活総合研究所アセアン所長の帆刈が、研究発表から見えた「アセアン夫婦のリアル」についてレポートいたします。
博報堂生活総研アセアンは、2017年12月20日(木)に、4回目となるアセアン生活者フォーラムをバンコクにて開催いたしました。今回のテーマは、「『Gender Equality at Home』 ~アセアン家庭の男女平等についての新視点~」と題し、クライアント、メディア、パートナー等総勢400名を超えるゲストに来場いただきました。
近年、ジェンダーイコーリティ、いわゆる男女平等への社会的注目が高まっています。
世界経済フォーラムが男女平等の状況を国別にランキング化するグローバルジェンダーギャップレポート2017によると、世界144カ国中、トップ3はアイスランド、ノルウェー、フィンランドと北欧諸国が占め、アセアンに属する主要5カ国では、シンガポールが65位、ベトナムが69位、タイが75位、インドネシアが84位、マレーシアが104位とやや下位に位置づけられていることがわかります。(ちなみに日本はさらに下位の114位でした)。
このランキングからはアセアン各国は依然男女平等について遅れていることが示唆されます。それでは、こうした男女平等の遅れは、実際のアセアン家庭でもあてはまるのでしょうか?
実際のアセアン夫婦の役割分担がどうなっているかについて、夫婦の役割分担を4つのタイプに分け、どのタイプに最も近いか質問したところ、以下のような結果になりました。
1.男は外で働き、女は家庭を守る役割分担「トラディショナルタイプ」約23%
2.家事や子育てなどの役割分担をタスクごとに夫婦で平等に分担「タスクベースシェアリングタイプ」約51%
3.家事や子育てなどの役割分担を時間のある人が柔軟に担当する「フレキシブルシェアリングタイプ」約25%
4.伝統的家族から役割が逆転し、女が外で働き、男が家庭を守る役割分担「スイッチタイプ」約2%
このように、男女の平等の状況とは別に、タスクベースシェアリングタイプとフレキシブルシェアリングタイプを合わせると、夫婦で家事や育児をシェアするタイプは約76%にのぼり、アセアン家庭の実態として夫婦で家事や子育てを平等に役割分担している世帯が既に過半数を占めていることが分かります。
シェアリングタイプが多い3つの背景要因としては、①アセアン全体で8割以上が男女共稼ぎであること、②女性の地位が向上していること(仕事、交際意識の変化)、③技術進化の手助け(仕事や育児におけるインターネットやSNSの利活用)があることが挙げられます。
どれが正解、不正解ということではないのですが、どのタイプが実態として、自分たちの現状の役割分担に満足しているのかについて比較したところ、下記のように役割分担の満足度が出ました。
1. トラディショナルタイプ 平均72%(夫82%: 妻64%)
2. タスクベースシェアリングタイプ 平均87%(夫90%: 妻83%)
3. フレキシブルシェアリングタイプ 平均74%(夫83%: 妻68%)
4. スイッチタイプ 平均65%(夫73%: 妻55%)
タスクベースシェアリングタイプが最も満足度が高くなっています。どのタイプも夫側の満足度が妻より高いのが特徴的ですが、タスクベースシェアリングタイプは夫と妻の満足度ギャップが小さいのが特徴です。
それでは、こうした満足度の違いはどこからくるのでしょうか。
1. トラディショナルタイプ
女性の現状に対する満足度は低く、トラディショナルタイプから脱却したいという意識が強いことが分かりました。その理由は、このタイプの夫は「男は一家のリーダーとして外で働き、女は家庭を守る」という役割分担意識が強いため、家事や育児への協力度が低いことが多く、妻の側に不満がたまりやすいということがあります。
妻「夫は結婚当初は少し家事を手伝ったが、今は5時に帰ってくるとお酒を飲んでそのまま寝てしまう。先日夫が酔っぱらって指を骨折したので、少しざまあみろという気分もあってSNSに写真をあげた」(タイ)
2. タスクベースシェアリングタイプ
男女ともに現状に対する満足度が高く、タスクベースシェアリングタイプを継続したい意向が高いのが特徴です。その理由は、このタイプの夫婦はお互いコミュニケーションをよくとり、協力しあって育児も家事も分担しているケースが多く、満足度につながっているようです。
夫「タスクを細分化して、いつ、誰がどの作業をやったか分かるようにしている」
妻「お互い忙しく、状況共有する時間がとれない中、こういうものを作っておくと便利。旅行計画も一覧表にして一緒に検討できるようにしている」(シンガポール)
3.フレキシブルシェアリングタイプ
基本フレキシブルシェアリングタイプは継続したいと思っているが、女性の役割分担に対する満足度は男性とのギャップが大きいことが分かりました。その理由は、意識と実態のギャップにあるようです。夫は家事や育児分担意識は高いのですが、実態としては妻の負担が大きくなっており、妻の不満がたまるということが多いようです。
妻「自分も時間があれば洗車をすることがある」(インドネシア)
4.スイッチタイプ
男女ともにスイッチタイプの継続意向が低いのが特徴です。その理由は、この役割分担形態自体が、あまり社会的に広く認められていないという認識があるようです。
夫「クルマやエアコンの購入にあたっては、自分のエゴを抑えて妻の意見を聞いた。物事は(階上を指さして)上にいる人(妻)が決めることが多い。」
妻「自分は外出が好きで、先日は趣味の射撃に出かけてストレス解消してきた」(インドネシア)
これまで見てきた調査結果から、アセアンでは男女平等意識については国ごとに様々ですが、家事や育児の役割分担については夫婦で平等にシェアするタイプがマジョリティとなっており、また平等にシェアするタイプほど満足度が高いことが分かりました。
生活総研アセアンでは、こうした結果をどうマーケティングの新しい視点として取り入れるために、①「シェアリングタイプ」を戦略ターゲットとして設定してみる、②購入の意思決定が「夫婦一緒」に行われていることに着目してみる、③「夫婦」という単位に対するマーケティング・コミュニケーションを検討してみることを提案しました。
今、自社が最も買ってもらいたい戦略顧客はどのような夫婦関係の家族なのか。その夫婦はどのような意思決定プロセスを行うのか。これからのアセアン・マーケティングにはこうした視点が欠かせないと思います。
さて、今回の研究結果はいかがでしたでしょうか?みなさんは、どのタイプにあてはまるでしょうか?
生活総研アセアンは、今後も常に新しい試みにチャレンジし続けていこうと考えております。ご期待ください。
【プロフィール】
1995年 博報堂入社。 マーケティング・プラナーとして得意先企業のマーケティング業務を担当
2005年 英国ロンドンの広告会社に出向
2006年 英国ロンドンのブランドコンサルティング会社出向した後、同年、博報堂に復職
2013年 博報堂アジアパシフィック(HAP)にエグゼクティブ・リージョナル・ストラテジック・プラニング・ディレクターとして赴任
2014年 博報堂生活総合研究所アセアン所長
★アジア生活者のリアルアーカイブ★
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