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連載対談企画「キザシ」第12回 / ジャパンブランドのキザシ

2018.03.28
博報堂人が、社会テーマや旬のトピックスを題材に、生活者の暮らしの変化を語る対談企画「キザシ」。
第12回は、Creativity誌「世界の最も影響力のある50人」、Forbes誌「世界広告業界最もクリエイティブな25人」に選ばれるなど世界で最も注目される日本人の一人、クリエイティブディレクターのレイ・イナモト氏をゲストに迎えました。同じく海外を拠点に活動する博報堂の中尾文美執行役員と、ジャパンブランドのキザシについて語ります。

ジャパンブランドはハードからセンスへ。

中尾:レイさんも私も、海外生活が長くなればなるほど日本への愛国心がロマンティシズムのように深まるように思えるのですが、フラットに欧州から見た日本、メイドインジャパン、ジャンパンブランドって今どうとらえられていると感じますか。

イナモト:受け手が誰なのかによると思うのですが、文化度の高い人、もっと具体的にいうと学歴や年収の高い海外の方たちは、きっといまのメイドインジャパン、日本のモノとかコトとかを見て、完成度も高いし、すごく緻密だし、サービスも含めて、日本のクオリティはほぼ世界一だと評価してくれていると思います。

中尾:その昔、80年代のジャパンブランドはハードが主流でした。車であろうがエレクトロニクスであろうが、いわば、メイドインジャパン=機能保障のクオリティということが世界的に認知されていました。でも、いま何かが大きく変わろうとしている。そう感じるんです。絶対的な、確かなクオリティのベースがあるからこそ、いま世界はその先の日本のクリエイティビティに注目していると思います。だから、ハードからソフトへというよりは、ジャパンブランドはセンス、スピリットという領域に入った気がするんです。

イナモト:確かにハードからソフトというよりは、ジャパンブランドへの期待はハードからセンスやスピリットそして文化へとシフトしているのかもしれませんね。

中尾:実は、海外から見たジャパンブランドの強みというかセンスって、サイエンスとアートのハーモニーだと思うんです。それは、車であろうが懐石料理であろうがおもてなしであろうが、どんなものにもあると思う。サイエンスとアートが妥協なく、完璧に融合している。

イナモト:例えば引き算とシンプルの極致に見える寿司も、実は、その仕事は科学的な根拠を持った緻密なサイエンスとアートのハーモニーですよね。そういうセンスですね。
また別の見方をすると、クリエイティビティもいろいろな質がありゼロから10の軸で考えられるんですよね。だとすると、アメリカはゼロから1が得意、中国は1から8、日本は8から10が得意だと思うんです。クリエイティビティの質がそれぞれ違う。既存のものから新しいものを生む日本人や日本のブランドは改めてすごいと思う。

中尾:確かに、日本の場合は、まったく新しいものを生み出すというよりは、既にあるものをシフトするというクリエイティビティのひねり。そして、それを実現するクラフトマンシップの技と精神性が突出しています。完成度にスピリチュアルな何かを感じてしまう。いまの世の中を見ると、インフラもデバイスの導入も整った、じゃあ次はどうするのというところで、ジャパンブランドのクリエイティビティとオーケストレーションの力の見せどころなんじゃないかと思います。だからこそジャパンブランドには可能性があると思う。

イナモト:ジャパンブランドが成功する要素はすべて整っているんじゃないかと思います。では、逆になにが足を引っ張っているのか。ついついそう考えてしまう。僕が常々思うことは3つあるんですが、まずひとつは、男性だけで物事を決めていいの?ということ。それから2つ目に、年上の人を尊敬することとは別に、日本の大企業の中で年齢にかかわらず優秀な人が活躍できるチャンスをもっと与えるべきなんじゃないかということ。そして3つ目は英語の克服。これらを妨げているのは、日本の企業や政府を牛耳っているおじ様達の精神的な壁、そしてエゴだと思うんですよ。克服するのは難しいかもしれないけれど、一方でとても簡単なことなんです。というのは、これらの課題を解決するには、実はコストはほぼゼロなんです。僕は、これを解決することで日本の企業の可能性は大きく開けると思います。なぜなら、ジャパンブランドが評価されるファクトは既に持っているのですから。

中尾:確かに日本はまだまだダイバーシティーの理解はアカデミックであり、日常とはかけ離れているかもしれませんね。

イナモト:そしてジャパンブランドを低く見ているのは、実は日本人自身なんじゃないかと思う部分もあります。数年前に見た先進各国の人々へのアンケートの結果に、ヨーロッパの人の多くは日本が一番クールだと思っているけれども、日本人は自分たちが一番クールだとは思っていないというものがあった。日本人が一番自分の国に自信を持ってないっていう結果が実に興味深かった。

中尾:日本人はやはり自画自賛を嫌うからでしょうか。

イナモト:日本人の日本に対する感情は複雑なように感じます。確かに、欧米に比べると表立って自国を誇るということが少ない気がします。でも食べ物は絶対日本食がいいよねとか、やっぱりモノは日本製のほうが信頼できるよね、とか、けっこう表には出さない強い想い入れがあるのも確か。僕だって人生の半分以上は海外なのに、髪の毛を切るときは絶対に日本人のサロンに行きます。丁寧に仕上げてくれるという絶対的な安心感にほっとできる。

中尾:私も絶対そうですね(笑)。

可能性は、ストーリーテリングからトラストビルディングへ。

イナモト:ブランドや企業について、広告やマーケティングの業界について考えたとき、最近強く感じ始めていることがあって、いままでの人とのつながりはコミュニケーションがベースになっているじゃないですか。特に20世紀は、ストーリーがはっきりしていてマーケティングがうまい企業が大きくなってきました。それが崩れかけているなと思っているんです。マーケティング業界ではここ10年20年、ストーリーテリングやコミュニケーションデザインがもてはやされましたけれど、結局、最終的に人に信頼されないとブランドは愛されないと思うんですね。だからいま、「ストーリーテリングからトラストビルディングへ」と、大きく流れが変わってきています。「トラストビルディング」、つまり、信頼を築いていくことが大事だということ。ストーリーテリングも大事ですけれど、ストーリーをいくら伝えたとしても、例えばそれと裏腹のことを行ったりすると、一気に信頼を失ってしまうわけですよね。そういうことを考えると、ジャパンブランドは、ストーリーを伝えるマーケティングは正直言って欧米企業に比べると弱いかもしれませんが、信頼は得ているという点で、可能性はすごくあるなと海外にいて思います。

中尾:特に欧州ではフェィクニュースに敏感な今、マスメディアやマスマーケティングに対する不信感が非常に高く、生活者が自分で情報を検索し、生活者が自分の評価で情報を選択することを重要視している中で、リアルでありオーセンティックであること、つまり正真正銘のものなのか、その実態を明快に細かくファクトとして開示できるかということが大事になってきているんじゃないかと。

イナモト:そこはあると思います。ある事例ですがサンフランシスコに「Everlane」という高い支持を集めるアパレルがあって、生地や縫製のコストから同社が取るマージンに至るまで生産過程のすべてを、透明性を持ってオープンにしているんですね。でも、それがコミュニケーションであり、サービスであり、ブランドになっているんですよね。単なる情報ではなく、行動でバックアップできないと、もう信頼は築けないと思います。

中尾:そうですね。企業規模の大小に関係なく、ノウハウや原材料を含めて、すべてのプロセスにおいてファクトがあってオーセンティックであるものに対して、多少価格が高くてもそれを購入したいという意思が生活者にあると思いますね。

イナモト:もうマーケティングだけでモノを買ってもらおうという時代は終わっていますよね。

中尾:だからこそ顔の見えるジャパンブランドであってほしい。血の通う温度感が重要です。海外ブランドは必ずファクトとして創業者であったり、従業員であったり、トラストをパーソナライズするのが得意だと思うんです。日本だって本田宗一郎さん、鳥井信治郎さん、服部セイコーの創業者、服部金太郎さんやナイキのミューズとも言われる鬼塚喜八郎さんのように熱く語られるべきヒーロー達は多い。

イナモト:ブランドはなんとなく知られていても、由来であったり、トラストとなるべきファクトはまだまだ海外で知られていませんよね。そこは大きなチャンスかと。

変化の時代に支持を得るための、確固たる「スタンス」の表明。

中尾:トラストビルディングの本質は明解なスタンス。媚びない姿勢。自分の主張を明解に持ち、ターゲットと信念という深いレベルでつながることです。だからこそ購入というレベルから、a sense of belonging、共感、仲間意識が生まれる。

イナモト:だから企業は、誰に対してもアピールしたいから当たり障りのないスタンスを保っていたのが、「我々の考え方はこうです」とはっきり言える世の中になったんじゃないかと。ブランドって、企業であっても自らの考えをしっかり持って、それをはっきり示すことなんじゃないか、スタンスを持つということなんじゃないかと思います。

中尾:日本人の一番の弱みともいえる、はっきりスタンスを示さないということは時代遅れになるとも言えますね。誰からも嫌われたくないのは誰からも本当の意味で好かれないのかも。

イナモト:昔、欧米のビジネスマンが日本のビジネスマンにYes or Noを問うと、返ってくる答えはorだっていうジョークがあった(笑)。もろ手を挙げて賛成されなくても、自分のスタンスを持ってそれを示すということが非常に大切になってくると思います。

中尾:オーセンティシティーが重視されればされるほど、誰のための何を信じるブランドなのか。存在意義はもちろんスタンスをはっきりさせずに市場に評価されることはどんどん厳しくなるでしょう。ジャパンブランドには明解なPOVを持ち、存在意義にプライドを持っていてほしい。そしてそのお手伝いを少しでもしたいですね。

イナモト:日本初で、かつ世界一になろうっていう気持ちを大切に。まだまだジャパンブランドはこれからですから。

<終>

レイ・イナモト
Inamoto & Co. クリエイティブディレクター

99年にニューヨークの大手デジタル・エージェンシー、R/GA社に転職。2004年から15年まで欧米大手のAKQA社でGoogle、Nike、Audi、Starbucksなど、グローバルブランドのデジタルマーケティング戦略を担当。08年より同社のクリエイティブ最高責任者、CCOに就任。2016年にInamoto & Co.を設立。

中尾文美
博報堂 執行役員

1995年米ウェルズリー女子大学卒業、1996年博報堂入社。営業職、コンサルティング職などを経て、2015年7月にグローバルビジネス担当執行役員に就任。
2016年4月よりグローバルビジネス欧米担当執行役員に。

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