博報堂DYグループのCSRは、生活者と社会の中に「新しい幸せ」を生み、つなげ、ともに広げていくことを基本理念として掲げています。このインタビューシリーズでは、生活者一人ひとりが、自分らしく、いきいきと生きていける社会の実現を目指し、日々の仕事の先に存在する社会課題に対して、自らの「クリエイティブの力」「伝える力」「一人ひとりの個性」を主体的に発揮しながら取り組んでいる社員たちの声をお届けします。
子どもたちに僕が教えられることは何だろうと考えていたとき、「作文」における子どもたちの一番の悩みが、「そもそも何を書いていいかわからない」ということだと知りました。そこで、僕がこれまでコピーライターとして仕事をしてきた20年間で活用してきた情報整理術を応用すれば、小学生でも無理なく作文を書けるのでは、と考えました。
僕らコピーライターは、文章をいきなり書きません。材料になりそうな言葉を大判ふせん1枚につき1つ書き出すことから始めます。15分くらい集中して書き出したら、デスク周りにばーっと貼りだします。ポストイットに書いた言葉を眺めながら、いくつかのテーマを探し出し、テーマごとにふせんを仕分けします。それらを組み合わせては、また剥がして順番を並べ替えたり、あるいは言葉を足しながら、考え方を整理していきます。
子どもたちは、まずは黄色のふせんを「できごとカード」として、「おばあちゃんちに行った」「海で泳いだ」など、身の回りに起こったことを思い出し、ふせん1枚に1つのできごとを書き出していきます。
青色のふせんは「ほりさげカード」。このカードに、できごとカードに書いたことのうち、これは!というものを選び、細かく思い出して書き込んでいきます。作文教室が大切にしていることは、子どもたち一人ひとりが持つ異なる視点や語彙、発想です。彼らの紡ぎだす言葉に無駄なものは何一つない。子どもの本意を引き出し、光るフレーズがあれば一緒にそれを膨らませながら、自分の思ったことや感じたことをそのまま書けばいい、と伝えています。
広告でも作文でも、人を引き付ける文章にはまずネタの力があります。でもそれと同時に、自分自身や身の回りに起こった出来事を見つめ、それを表現する力が欠かせません。こうした二つの力がある事を子どもたちに知ってほしいと思っています。 実際に、「道で犬のフンを踏んですッ転びそうになりました」など、その人の半径5メートルで起きていることの方が多くの共感を呼んだり、世の中のトレンドをそのまま映し出していることもあります。
親子でコミュニケーションをとりながら情報共有してもらうことも、「作文チャッチャ」のもう一つのポイントです。その際どうしても親のバイアスがかかってしまいます。面白いのは、子どもたちはそれにあらがって自分のものにしようとすること。親子のやりとりの中で、教える、教えられるという一方的な関係ではなく、親にとっても大いに発見があると思います。
実は僕自身、子どもの頃には作文がとても苦手な子どもでした。大学は理系に進み、博報堂に入社してコピーライターに配属された時、「作文がとても苦手」という気持ちをぐっと飲み込み、当時のトレーナーから徹底的に指導してもらい、作文術を身につけていきました。「作文チャッチャ」には、これまでの僕の経験や日々仕事を通して学んできたことが詰まっています。
博報堂というコミュニケーションを生業にする企業だからこそ、子どもや教育に貢献する活動に携わる意味があると感じています。ネットニュースやSNSなどで簡単に情報発信ができて、身の周りに玉石混交の文章があふれているいま、子どもたちには基礎的な「考える」「伝える」方法をぜひ身につけてほしいと思います。
1995年博報堂入社。
コピーライター/クリエイティブディレクターとして日本を代表する企業や外資系企業の
マーケティング活動を国内外を問わずサポートしている。