9回目に登場するのは、北海道博報堂アカウントプラニング局の河野俊介。「新どさんこ研究所」の商品開発プロジェクト「モノゴトFACTORY」の第一弾プロデュース商品となった「今金アスパラ」の漬物について、北海道を盛り上げるために広告会社が担うべき役割などについて聞きました。
私が大学卒業後就職した会社は1社目、2社目とも地域の広告会社で、北海道博報堂は3社目となります。当初はプロモーションプラナーとして入社、その後クリエイティブディレクターとして仕事をするようになります。プロモーションに携わるにしても、映像やグラフィックの理解もあれば、より統合的なコミュニケーションのプランニングができるのではないか?という部の判断で、制作業務にも関わらせていただくようになりました。ここ数年は、国際線の直行便がつながって北海道を訪れる外国人の数が急増したこともあり、担当先の自治体と一緒に継続的なインバウンド施策に取り組んでいます。基本的には北海道を海外の人に向けてどうブランディングしていくか、飽きられないようにどうすべきかといったことを考えるわけですが、そこから必然的に地域創生のことにも思いを巡らせるようになりました。
北海道でよく言われるのが、「素材一流、加工二流、サービス三流」という言葉です。素材が良すぎて、加工することで商品の質が落ちてしまうというイメージがあります。実際農家さんや漁師さんに「どうやって食べると美味しいですか?」と聞くと、「そのままが一番うまいんだよ」と返される。素材の時点で成立してしまっているので、それ以上のことをしなくていい、となってしまうんです。ちなみに辛子明太子は、北海道でとれるスケトウダラを九州で加工することで強力なブランドに生まれ変わっています。そういう例がいくつもあります。それから北海道は九州の2倍くらいの面積がありますが、あまりにも広いため人材の派遣や流通にものすごく時間がかかる。新幹線もないので移動が大変なんです。そんな中、これから海外のものがどんどん入ってきたときに、単純に北海道ブランドで勝てないところはどうすればいいのか。価格面でも競争できず、海外でも品種改良の結果おいしい品種がつくれるようになったときにどうすればいいのか……。そういった課題意識をなんとなく持っていたところで、仁木農園さんとの出会いがありました。
あるとき、生産者の方を対象に情報発信について学ぶワークショップを行ったのですが、その懇親会で出会ったのが、今金町でアスパラガス農園を営む若手農家の仁木宏直さんです。今金町は幻のジャガイモと称される「今金男爵」でも有名で、中心部を後志利別(しりべしとしべつ)川という清流が流れ、その水を利用した農業が盛んな町。仁木さんいわく「今金町の自慢はとにかく水が美味しいこと。その水で育てるうちのアスパラは絶対的に美味しいんですが、なかなか光が当たらない」とのことでした。そこで、どうしたら話題にできるだろうかと話をするなかで、出荷直前にカットする未利用部分のことを聞き、ではそれを活用して何か商品にしませんか?とご提案したんです。商品のアイデアとしては、まず北海道は素材にもっとも力がある土地なので、それとは真逆の何かを掛け合わせると面白いのではないかと考えた。そこで思い立ったのが、歴史あるブランドである“京都の漬物技術”。両者を掛け合わせることで、より商品価値を向上させられるのではないかと思いました。調べてみると、ピクルスはあってもアスパラガスの漬物はなかなか見当たらなかったこともあり、漬物を開発しようということになりました。
漬物屋さんを探すにあたっては、地道にネット検索をし、志の高そうなところに電話してメールして……ほぼメールは無視されてしまうのですが(笑)。こちらの想いに共感してくださり、さらに伝統的な作り方を守っている漬物加工会社の初代亀蔵さんから幸いにもお返事をいただき、お願いすることになりました。販売経路に関しても、北海道の食品などを主に扱う北海道生活社さんという商社が我々に賛同してくださった。最初に電話をかけた際は広告の売り込みだと勘違いされたんですが(笑)、社長が「いや、売り込みではないと思うぞ」と言ってくださったみたいで。いざ話をしてみると、広告会社とのコラボレーションは未体験ということもあり、是非一緒にと言ってくださいました。弊社のクリエイティブチームの協力も得て、ポスター、リーフレット、商品パッケージと、形にしていきました。結果的に新鮮なアスパラガスを一本まるごと漬け込んだ「一本漬」と、出荷時に切り落とされる根元を使用した「根もと漬」を販売、おかげさまで大好評のうちに売り切ることができました。
北海道博報堂には、これからの北海道を支えていく人物に注目し、その取り組みについて、またビジネスの可能性についてリサーチする「新どさんこ研究所」と、そのなかで具体的に商品開発を行っていく「モノゴトFACTORY」があります。そうした枠組みは、私たちの「地域に直接的に貢献していきたい」「広告ベースではないところでも地域のために汗をかいていきたい」という願いのシンボルでもあるんです。その取り組みの一環として、今回は非常にいい事例ができたのではないかと考えています。
プロモーションって、広告のいろんな手段を使って販売促進していくことだと思うんですが、広告以外の方法でもそれは可能なのではないか?ということは長らく思っていました。ただ広告を受注しているだけだとなかなかその範疇から出られないので、得意先にも提案ができるようにするには、まずは自分で何かしら事例をつくらなければと考えていたんです。今回、広告会社として、ちょっと新しい座組みで、商品のコンセプトを考え、製造、加工の部分と生産者をマッチングさせ、商社と組んで販売するといった一連のプロジェクトをプロデュースすることができた。これは、広告会社が持つ「人と人を結びつけるプロデュース力」が活かせた結果だと思いますし、これをやり切れたことは、北海道博報堂という会社にとっても意味のあるチャレンジだったのではないかなと思います。北海道では正直、広告会社は広告領域以上のものはまだ期待されていません。でも、広告会社が広告の枠を超えていくことで、チャレンジできる課題はたくさんあると考えています。単純に予算をいただいて広告をつくるという関係ではなく、一緒に成長する事業パートナーとして、得意先のビジネスに貢献できる広告、方法をありとあらゆる方向性から考えるというのが、これからの我々の役割になってくるのではないでしょうか。
インバウンドを担当しているときに、外国の人から見た北海道のイメージを聞く機会が何度もあったのですが、まだまだ北海道には発信できていない部分が多かったり、自分たちが掘り切れていない魅力がたくさんあるということに気づかされました。むしろ北海道が北海道の中だけで経済を回していくよりも、こんなにも北海道の魅力を感じてくれる人が世界中にいるんだから、外のマーケットに北海道を売り出していく方がいいのではないか、とも考えさせられました。ちなみに北海道博報堂は、「新どさんこ研究所」「モノゴトFACTORY」などの取り組みが認められ、札幌商工会議所から平成29年度CSR経営表彰において「地域・社会貢献部門」を受賞しました。広告会社の受賞は初めてだということで、非常に誇らしく思います。これからもますます、北海道をコンテンツとしてとらえ、さまざまな活用方法や価値を生み出していくことで、国内外をマーケットに、道内企業が一緒になって盛り上がっていけたらと考えています。
2005年、北海道博報堂入社。自治体・民間企業のプロモーションを中心とした統合型キャンペーンを中心に担当。
まだまだある北海道の魅力を、日本中に、世界中に発信するため日々奮闘中。
出身地である山陰地方の魅力も、個人的に発信中。
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