Q.シニア市場が経済をけん引すると言われて久しいですが、最近、シニア市場が急激に巨大化したような気がします。
安並:
団塊世代が、2018年現在68~70歳に到達されています。65歳のタイミングでリタイアされた方々は2015年くらいからシニアライフを満喫するモードになっているのかもしれないですよね。街中に、昼間から美術館、平日旅行といったアクティブなシニアが目立ってきた頃です。通常、サービスが立ち上がり出すのに数年後なので、ご相談がふえたのが2017年。まさに去年あたりから急激に増えたと感じています。
梅村
日本にある全ての企業は、人口総量減少とそれに伴う人口構造変動という2つの問題から逃れることができないことが明白です。経済は基本的には人口に比例しますので、縮小していくしかない。2100年ぐらいには、半分になるくらい人口が減少するとも言われています。世界に先駆けて日本は深刻な事態がやってきます。
佐藤:
今後、経済成長し続けることが難しい。だったら次は何を目指すか?これは大きな問題です。ずっと以前から頭では理解していたことだけど、2つの問題に向き合わなければいけないんだ、とすべての企業がここ数年ひしひしと感じ始めたのでしょう。
梅村:
そう。それで急成長している市場ではありますが、実ははっきり見えているのは60代ぐらいまでで、
70、80、90はたぶんモヤの中にいますね。結局シニアって思ったほど解明されていないのが事実です。これから私たちがやらなくてはいけないことだと感じています。
Q.ご指摘どおり、未解明なことも理由だと思いますが、様々な業界でシニアビジネスに大成功している例って少ないように思えますが理由はなんでしょうか?
梅村:
恩恵の一部を受けている事業はあるし、ピンポイントで「シニアの間でこれが人気」という現象は起こっていますが、総じて消費は活性化してないと思います。
私はシニアがお金を使わないことが主な原因だと思っています。お金を使ってしまうのが怖いから。
100歳まで生きることはもはや“リスク”です。自分が、つれあいが、いつ病気になるかわからないし、介護生活が始まるかも・・・と考えたときに、あれ使え、これ使えと言っても使えないですよ。お金持ちですら社会不安に押しつぶされていて、消費にそんなに向かってない。むしろ、皆さん、ため込むだけため込んでいます。積極的に現在、消費対象となっているのは健康関連商品・サービスくらいでは?
Q.アクティブでリッチなシニア層がこれからの日本の消費をけん引していくわけではないのですか?
梅村:
私たちにはそのような方たちがなかなか見えてこないんです。メディアも2012年頃には「100兆円市場の到来」だと煽っていました。団塊の世代が65歳を迎える大量退職で、どんどんお金が社会に回り始めるようになる。なぜなら、彼らはさんざん遊び、消費してきた世代だからという理由で。
ただし、ふたを開けたら思うようには使わない。
安並:
私は、貯めたお金の投資先が見えてないのでは?と考えています。
団塊世代がちょうど70代になってくるというようなときに、彼らは「足腰が立たなくなるかもしれない」「これからひとりで生きるかもしれない」ことを想定しながら投資を考えているはずでしょう?
実際にリフォーム市場はシニアが牽引していると聞きます。バリアフリーにするとか等、一人で暮らしていくための「一人立ちの準備をし始めるステージ」にきているのではないでしょうか。そのようなライフスタイルに寄り添い、適切な商品やサービスを考えるのは、非常に意義があると思います。
そしてバリアフリーを考えるあまり、デザイン性を軽んじてはいけないのが、時代の最先端を走り続けてきた団塊世代の方たちです。私たちには、今までの研究で蓄積した様々な知見があるので、そういったシニア生活者の気持ちと、企業サービスを良い形でマッチングさせることができます。
Q.「博報堂シニアビジネスフォース」が、どんなことをクライアントに提供できるのかご説明ください。
梅村:
博報堂は2011年に今のシニア層が従来の「シニア」という言葉では捉えきれないことを発見、「新しい大人」という呼び方を提唱し、調査や知識の体系化を行ってきました。その積み重ねの上で、研究所(ラボ)だけではない、シニアビジネスのソリューションを提供する”フォース”を発足させたいと思ったのです。
最大の特徴は、一気通貫(ワンストップ)でクライアント企業のシニア市場に対する課題を解決すること。コミュニケーション活動だけにとどまらず、「分析」「コンセプトづくり」「新商品開発・新規事業立ち上げ」「メディア提案、効率化」・・・どんなテーマでも、シニア市場で悩んだら、かならず具体的な答えを出せる実動部隊へと進化しました。
そもそも、シニアの気持ちは陰陽ないまぜです。不安のなかにも希望があり、希望のなかにも不安があります。博報堂シニアビジネスフォースは、シニア生活者をより深く洞察するために、インサイトをとことん見つめる「陰陽インサイト」を独自に考案しました。
不安のなかにある”小さな希望”に着目して、その先にある「歓び」や「本質的な欲求」を可視化し、生活者が抱えるネガティブな課題をポジティブな価値へと転化させる、オリジナルメソッド 「PositiVision」を開発しました。「陰陽インサイト」と「PositiVision」を併せて、よりシニア生活者の本質を捉えた商品やサービスをコンセプト段階から開発し、シニア生活者にとっての「新しい幸せ」を創造できるのではないかと思っています。
安並:
もうひとつ大切にしたいのは、シニア生活者との共創です。 私自身も14~15年マーケターとしてクライアントワークに携わった経験の中で、実際に生活者の中に飛び込み、クライアントと向き合って生み出していくものがが、いかに強く使い勝手が良い「知」となることを実体験しています。
それだけに、調査だけでは限界もあり、非常に悩んでいたところへ昨年、高齢社会共創センター代表理事で、東京大学高齢社会総合研究機構特任教授の秋山弘子先生との出会いがありました。
当センター内に「リビング・ラボ」という活動体があります。高齢者が住む地域(鎌倉)で、実際に意見を聴くのはもちろんのこと、プロトタイプを試していただき、実際にフィードバックをいただいて改善するというようなことが可能であることを知りました。即、博報堂もリビング・ラボの会員となり、シニア生活者の方々のご意見をうかがえる環境をつくることができました。今後は東大の研究室の力も借りながら生活者と共創するスキームを作っていきたいです。赤坂のビルの中にいるだけでは生活者が見えないですから。
佐藤:
あと、僕が強く必要性を感じていることは、博報堂は、シニアビジネスの領域において、常に世の中に先駆けていたと自負しています。だからこのプロジェクトもずっと先駆けなきゃならないと思っています。今後は70代へと移行していく団塊世代の“次”も見据えたシニアビジネスフォースでなければいけないなと考えています。
Q.つまり「博報堂シニアビジネスフォース」は、20年後、30年後のシニア市場も見つめていくのですね?
佐藤:
そうです。だから、先ほど話に出ていた、今70代の人が自立のために投資するという発見があったとして、その予備軍である60代、50代においても新たな発見していく必要があります。
Q.最後にクライアントの皆様へメッセージをどうぞ!
梅村:
まず、どんなことでも、シニアマーケティングにご興味があるクライアント企業には、お声掛けいただきたいです。なかなか正確にシニアのことは捉えられないと思うんです。ましてや、企業の30~40代の担当の方ならなおさら。視界がモヤモヤ~ッとしているのが普通です。
その迷いを入口にして、調査・コミュニケーションはもちろんのこと、事業開発までお手伝いさせていただきます。
★「博報堂シニアビジネスフォース」に関する詳細は2018年12月6日付のプレスリリースをご覧ください!
https://www.hakuhodo.co.jp/archives/newsrelease/52924
1995年博報堂入社。ビジネスインキュベーション局・部長/クリエイティブディレクター/新しい大人文化研究所・前所長/映画監督 受賞:アジア太平洋広告祭(アドフェスト)ロータスROOT賞、 The Cup : Best Use of Local Culture(三大陸合同広告祭)、スパイクス銀賞、東京コピーライターズクラブ会員、TCC新人賞、ACC賞、広告電通賞モバイル部門最優秀賞他 新趣味募集中
2004年博報堂入社。ストラテジックプラナーとしてトイレタリー、食品、自動車、住宅・人材サービス等様々な業種のマーケティング・コミュニケーション業務に携わる。2015年より新大人研のマーケティングプラナー兼研究員として、シニアをターゲットとしたプラニングや消費行動の研究に従事。共著に『イケてる大人 イケてない大人―シニア市場から「新大人市場」へ―』(光文社新書)
コンテンツビジネス開発、テクノロジーを活用したビジネス開発等、幅広いプロジェクトのビジネス開発を経験。
2016年より「新しい大人文化研究所」の統括プロデューサーを務める。