6月7日からの三日間、今年も中国では「高考(ガオカオ)」と呼ばれる全国統一の大学入試が行われました。中国教育部によると、今年の全国受験者数は去年より35万人増えて975万人となり、2010年以降の最多記録を更新したそうですが、2008~2018年の推移(※図①)からみると、2013年以降はやや復調気味ながらも10年前の受験者数と比較すると100万人近くも減少しています。今年の大幅な好転は、ミレニアムベビーブームの影響を受けた一時的な盛り上がりとも考えられます。
従来の「高考」といえば、多くの中国高校生にとって、今後の人生を左右する重要な試験でしたが、大学進学率が上昇(※図②)し続けている今、その受験の意味が薄まりつつあるように思います。「高考」に受かるだけが成功への唯一の道ではないと考え、受験せずに海外留学という道を選ぶ若者も増えています。特に北京や上海など大都市の高校では、最初から「高考」ではなく海外の大学を受験する学生がかなり増えています。それどころか、近年では中学高校から海外へ留学する人も多く、留学の低年齢化が顕著になっています。たとえば、アメリカのInstitute of International Education(IIE)によると、2016年時点でアメリカの高校に留学している中国人は約3.3万人で、全米高校の留学生全体の約42%を占めています。さらに、その増加幅も突出しており、2013年以降の3年間で48%も増えたそうです。
一方、海外留学生の帰国ブームも起きているようです。中国教育部によると、海外への留学者数はずっと右肩上がりで増えており、2017年に初めて60万人の大台を突破し、前年比11.74%増の60万8400人に達しました。それに対して、同年の海外留学からの帰国者数は同11.19%増の48万900人となりました。また、2014年以降の「帰国率」、すなわち海外留学先から帰国した人の出国者数に占める割合が、8割近くの水準で推移しています(図③)。
留学生の帰国ブームが起きた背景には、中国国内企業の急成長や留学先の移民政策の変化、中国政府の人材回帰戦略による留学帰国者優遇政策などがあります。特に近年では、テクノロジー分野のイノベーションの進展により、新しいビジネスチャンスが沢山生まれ、留学者の帰国を惹きつけ続けています。それを象徴するように、LinkedInがまとめた「世界のAI領域の人材」レポートによると、2013~2016年まで、海外留学を経て中国に帰国した「中国人AI人材」の人数が年平均14%の伸びで増加していると同時に、同期間中に中国へ“還流”する“海外勤務経験を持つ華人(中国系)AI人材”の数も年平均10%の伸び率を示しています。
中国は既にかつての「人材流出大国」から「人材還流大国」になりつつあると言えるかもしれません。2000年前後から、「海亀族」と言われるグローバル人材(留学、海外での勤務経験者)が希少価値の為、企業や社会に持てはやされていた時代がありました。今はむしろ人材豊富の為、企業や雇用側がやや有利な買い手市場となってきていると考えられます。
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新聞社とメーカーの市場調査部/企画部を経て、博報堂生活綜研(上海)に入社。コトバや文字表現に関わる長い経験を活かしたコンセプトワークが得意。好きなものは真実、真相、真心。片言も、散句も、意味を持つと信じる。全ての一期一会を「情書(ラブレター)」だと思い、常にその真意を読み取ることを心がける。