4年目の春。
ヤマザクラもそろそろ終わりの頃になると、必ず電話が来る。大好きな師匠からだ。
「いつ来るケェ、ほうか、決まったな。ほな、駅まで迎えに行っから」
ど素人のわたしを快く誘ってくれる当時の室長との初めての出会いは、いまでも鮮明に覚えている。
市長直轄で総勢7名の役場横断の新設組織・重責の長に就任、そんなところに追い打ちをかけるようにやってきた東京モンの上司。彼は、国の命を受けてやってきた首長補佐役、しかも年下・・・
歓迎会の席で緊張しきっていたその室長は、会の終わり間近、ほんとうにギリギリのとこで彼のところにやってきた。
「よろしくお願いいたします」と深々とあたまを下げられたその姿を目の当たりにして、彼は涙がこぼれ落ちそうだった。今となっては懐かしい。
そんな室長は、しごとで関わるようになってすぐに田植えに誘ってくれた。地方創生やるなら、うちのまちでやるなら、農業をちゃんと知ってもらわねば、という熱い思いだったのだろう。ご自身が所有する田んぼに案内してくださった。
GWの中日、ほんとうはもう少し早い時期が田植えにはよいそうだ。
ひとがだんだんいなくなり、人手がどんどん足りなくなり、GWに息子や娘・親戚を都会から呼び戻して田植えを行うところが増えたのだそうで、そこここの里山は田植え作業で賑わっている。
どうせやるならふわふわとした体験ではない、ほんとうの農業に少しでも関わりたいな〜なんて思っていた気持ちが通じたのかどうか? わたしは間違いなくひとりの人足となった。
わたしがすぐに取り掛かれるように、苗から田んぼから長靴から麦わら帽子まで、いろんな準備をしてくれた師匠、いきなり「深谷さん、田植え機乗るっぺ」と促した。
いや〜走り屋でよかったな、でもダートは全然経験ないな〜などと思いつつ、ひと通りの操作を教えてもらい、GO!
うわ〜 どひゃ〜 ひえ〜っ
ハンドルは取られるは、まっすぐ進まないは、で、植えた苗は四角い田んぼに波打っている。
直そうと思えば思うほど、どんどんと罠にはまっていき、ついに田んぼの端が三角形に余ってしまった
すいません ほんとうにすいません
いや〜 ふかやさん はじめてにしては うまいな〜 やっぱ走り屋だったからだな!
はははっ
こうやって、みなさんのふだんの営みを大いに邪魔しながら、ガチンコ農業をやらせてもらい、以来毎年この田んぼで汗をかくようになった。御影石が豊富にとれる山々から良質な水が流れるこの田んぼは、美味しいお米が採れる。計ればあの魚沼産も凌ぐ数値が出るらしい。師匠と一緒の田植えと稲刈り、なぜだか毎年石高が増えていった。相変わらず苗は波打っているが・・・笑
そんな師匠も今年で還暦
あと何年田んぼやれっかな〜
と言いながら、今年また田んぼを一枚引き受けていた
10年後か20年後か?
農業はどうなるんだろう、この文化経済的景観を見ることはできるんだろうか?
農業従事者は全国でわずか180万人、その平均年齢は66.6歳*
わたしの師匠、この業界ではまだまだ若手なんだ
天気予報に反して田植えの時は、いつもいい天気になる
今年ははやく終わったな〜 深谷さん、腕上げたな
そんな優しいことばをかけてくれる師匠
4年目の田んぼは、相変わらず波打っている
苦労や痛み、てしごとが実りにかわる
自分はなにができるのか? 未だにみえないまま、
でもお米は今日もまいにち着実に育っていく
なかなかうまくならない 今年もまっすぐ植えられなかったGW
ヤマザクラが終わりかけている山が笑っているようだ
秋の収穫は、頑張らないとな
そうこの無人駅にも、この秋待望の新病院という大きな収穫が花開くんだな
国が笑ったこの広大な75Haの未開の地に、生涯活躍のまちをほんとうにつくるんだ
4年越しの第一弾。この長がいなければ、ぜったいに成し遂げられなかったこと
このまちの時の刻み方で、のろまの亀でも、着実に前を向き歩をすすめる
こんなに強く懐の深いひとたちがいるまちに関われて、ほんとうによかった
帰り道、ふと思った
今年とれたお米は、うーさんの寿司ネタにしてもらおう
大自然の恵みのなか、わたしはまだまだ新米だった
次回は、なかかひたちかひたちなか です。
*農林水産省 農業労働力に関する統計より
http://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html
*トコトコカウンター:2016年4月より訪れた場所ののべ数