THE CENTRAL DOT

「音声×IoT」で恐怖体験!スマートスピーカーとの対話の可能性を追求

2018.10.10
#UX
博報堂とWHITEは今年8月、都内でスマートスピーカーとの対話によって恐怖体験が生まれる体験型コンテンツの実証実験を行いました。その名も「スマート怪談」。スマートスピーカーと対話していると、室内の照明やカーテン、テレビ、プリンターなどのIoT家電が様々に動作し、体験者の恐怖を煽るという内容です。今回の実証実験の様子、そして経緯や成果について開発メンバー7人が語り合いました。

「スマート怪談」実証実験レポート

8月某日、都内某所のマンションの一室で行われた「スマート怪談」の実証実験。体験は2人1組で行われ、部屋の真ん中に置かれたソファーに座るとガイド役がスマートスピーカーに「前世占いを開いて」と指示をして、部屋から居なくなります。するとスピーカーから「かしこまりました。それでは占いたい方の下のお名前を教えてください」と返答があり、体験がスタート。

普通のマンションの一室で行われた実証実験。当日、体験者には「スマートスピーカーの体験」とだけ知らされていました。

1人目の前世占いが終わり、もう1人の体験者の占いを始めると「あなたの前世は『みどり』です。『みどり』についてお話しますか」と、ひとりの女性の名前が…。

すると、正面のテレビから突然映像が流れ出し、“みどりちゃん”という少女が過去に工場で足を踏み外して亡くなってしまったというニュースが――。映像がおどろおどろしいものに変化したり、けたたましい効果音が流れ出したり、照明がチカチカと点滅したりします。

前世占いをしていたはずが、テレビから突然少女が亡くなったというニュースが…

映像が終わると、スマートスピーカーの通常の声ではなく、少女の声で「私の話?いま私の話してたでしょ。いままでずーっと一人で寂しかったなぁ。あなた友達いる?」との問いかけが。みどりちゃんがスマートスピーカーを乗っ取ってしまったようです。

みどりちゃんの問いかけに返事をすると、「友達がいないから、一緒にかくれんぼで遊びたい」とのお願いが。断ってもお願いされるため「いいよ」と答えると「10秒数えたら探しにいくから隠れてね」とカウントが始まります。

「もういいかい?」「もういいよ」とかくれんぼのやりとりをすると、みどりちゃんは「それじゃあ探しにいくね、どこに隠れたのかなぁ?ここかなぁ」と…そして同時にカーテンが動いたり、部屋の壁を叩く音が聞こえ、「あ、わかった!もしかしてそこかな?」という声がした直後、背後から「みーつけた」とみどりちゃんの声が。背後には誰もおらず、正面に目を向けるとテレビには体験者の姿が…。

「ねぇねぇ、みどりとのかくれんぼ、楽しかった?」との問いに「楽しかった」と答えると「本当に?よかった」との言葉に続き、扉をガンガン叩く音とともに「もっと遊びたいなぁ、遊んでよ!」との絶叫が。すると部屋にあるプリンターが動きだし、血文字で「ずっといっしょ」と書かれた紙が出力されます。

すると突然、目の前の机に置いてあった携帯電話に、みどりちゃんから着信がきます。

テーブルの上にあったスマホにみどりちゃんから着信が…!

電話に出ると、「今からあなたの家にいくね」と語りかけてきます。部屋が明るくなり、スマートスピーカーから通常の声で、みどりちゃんは工場で機械に巻き込まれ、病院に搬送されたが息を引き取ったという旨の説明があり、「みどりちゃんは今も友達になってくれる人を探しているかもしれません。これで、前世占いを終わります。ありがとうございました」という言葉と共に体験が終わります。

今回実証実験に参加した体験者からは、

・最初の前世占いを一度信じてしまったことや(最初の問いは誰がやってもキリン)、怪談だと思っていなかったこと、家電が動くと知らなかったことなどから、本当に恐怖を感じた
・スマートスピーカーを人を脅かすものとして意識していない分、余計に怖かった。幽霊の声が聴こえたりすると、本当に怪奇現象が起こったように感じた
・会話しながら進行していくので、自分も関わっているという実感があり没入感があった。空間全体が連動しているのも、没入感をより深めてくれた
・お化け屋敷と違って、座ったまま体験しているので、逃げたり出来ない恐怖があった
・スマートスピーカーやIoTが、人を楽しませるエンタテインメントに使えることが実感できた

といった声が聞かれました。

今回の開発メンバーと体験者

スマートスピーカーで効率・時短以外の体験を提供したい

実証実験を終えて、開発メンバーが当日を振り返りつつVoice UIの可能性について語り合いました。

■博報堂VoiceUIチーム/WHITE 若手選抜ユニット
博報堂 第三クリエイティブ局 アクティベーションプラニング部 中原大輔
博報堂 第二クリエイティブ局 アクティベーションプラニング部 松本祐典
博報堂 アクティベーション企画局 アクティベーションクリエイティブ1部 前山佳代
博報堂 アクティベーション企画局 デジタルアクティベーション部 吉田 汀
WHITE UX事業部 伊東春菜
WHITE プロデュース局 玉川洋祐
WHITE UX事業部 國原秀洋

中原:本件がスタートしたきっかけは、博報堂のVUI(Voice UI)を研究するチームを率いる中川リーダーから「若手メンバーだけでスマートスピーカーの新しい体験にトライしてみて欲しい」という話が出たことです。そこで博報堂と、関連会社でVUIアプリケーション開発の経験が豊富なWHITEの若手メンバー7人でグループを作り、新しい体験を考えることになりました。以前、自動車メーカー向けのVUIプロジェクトを担当した際に得た会話のシナリオ構築のノウハウなどを生かせたら、と考えていました。

松本:私も中原と一緒に自動車メーカー向けのVUIプロジェクトに参加していました。そのプロジェクトでは、どういった場面にスマートスピーカーを活用すると効果的か、といったアイデア出しの部分から関わりました。

博報堂 第三クリエイティブ局 中原大輔(左)、博報堂 第二クリエイティブ局 松本祐典(右)

伊東:WHITEでUXのプランナーやデザイナーをしている伊東です。当社は日本でスマートスピーカーが発売される前の段階から、アプリケーション開発に取り組んでいました。これまで子ども向け英会話などの教育系アプリや、イケメンと会話するエンタテインメントアプリなど、様々なアプリケーションを開発してきました。

玉川:WHITEの玉川です。プロジェクトマネージャーをしています。まだ入社してから4ヶ月で、VUI関連の案件に関わるのは今回が初めてでした。

國原:WHITEでエンジニアをしている國原です。昨年からVUI関連のプログラムを全般的に担当しています。本件でも、スマートスピーカー向けアプリケーションの実装やIoTとの連携などに関するプログラミングを担当しました。

WHITE UX事業部 伊東春菜(左)、WHITE プロデュース局 玉川洋祐(中)、WHITE UX事業部 國原秀洋(右)

前山:博報堂の前山です。VUI関連の業務は今回が初めてで、スマート怪談のロゴ作成や写真の撮影などアートディレクションを担当しました。今回のシナリオで登場するメインのキャラである「みどりちゃん」の声も担当しています。プライベートで結婚式VTRのナレーションを担当する機会があり、ナレーション自体が好きだったので立候補しました。

吉田:博報堂の吉田です。私ももともとはVUI関連の業務の経験はなく、スマートスピーカーも持っていませんでした。IT自体にもそれほど強くありません。でも去年秋にチームに参加してからVUIがすごく好きになって、スマートスピーカーも買いました。本件ではシナリオ制作などに関わりました。

博報堂 アクティベーション企画局 前山佳代(左)、博報堂 アクティベーション企画局 吉田 汀(右)

中原:まず開発を始めるにあたり思ったのは、スマートスピーカーとセットで語られることが多い「時短」や「効率」といったものとは違う方向性を狙いたい、ということでした。スマートスピーカーに時短や効率を求める人は、もう既にスピーカーを使っているのではないか、と思ったんです。そうでない人にも興味を持ってもらい広く普及させるにはどうしたらいいか。そう考えたときに「エンタテインメント体験を提供したい」と思いました。

吉田:VUIチームではスマートスピーカーは「これからのライフメイトになる」と捉えていて、人間との上下関係ではなくパートナーのような存在になると考えています。手を使わないで利用できる「Parallel」、人間の代わりをする「Clone」、ふとしたことでもすぐ記憶に留めてくれる「Flash Moment」、リビングなどの空間に人を集めて繋ぐ「Humanity」、会話から人間の真意を引き出す「Third Things」、自身が意識していなかった想いまで汲み取る「Superview」の6つを、スマートスピーカーが生活に入っていくうえでのキーワードに挙げています。本案件ではこの6つのキーワードも意識しつつ、新しい体験のアイデアを考えていきました。

中原:アイデアは50個以上出たと思います。最終的に“怪談”でいこうとなりました。

松本:ほかにも、例えば旅行会社に協力してもらい、行きたい旅行先の気候など様々な特徴を室内で再現して旅行に行った気分に浸る、というアイデアもありました。

伊東:就活生向けの面接の練習という案もありましたね。シナリオのアイデア出しやIoT家電を動かすタイミングなどについては博報堂が、VUIの技術的な部分はWHITEが担当するという役割分担になりました。

中原:そういったいくつかのアイデアのなかから、「スマートスピーカーを使った怪談は人から恐怖を引き出すし、自宅のような環境でできる。HumanityやThird Thingsに繋がる」という結論が出たんです。ただし、声のやり取りだけをメインにすると人間が話す怪談より怖くならないと思ったので、スマートスピーカーでできることを活かせるように、部屋にあるIoT家電を制御してエンタテインメント体験を提供しようということになりました。

今回の実証実験でスマートスピーカーが制御していたIoT機器

國原:シナリオができてからは、実際にシナリオがうまく流れるかを確認するためロールプレイをしましたね。みどりちゃん役、スマートスピーカー役、カーテン役、照明を落とす役、プリンター役、などの具合に各自に役割を振って。

中原:開発が本格的に動きだしてからは週一回会議をやり、それぞれが宿題を持ち帰ってまた一週間後に持ち寄る、という流れで進めていきました。シナリオが完成したのは6月頭です。プログラムの開発、調整はぎりぎりまでかかってしまい、8月の実証実験当日まで調整を繰り返し、本番を迎えました。

部屋の至るところに仕掛けられたIoT家電。カーテンや照明、効果音を出すためのスマートフォンなどは今回開発されたスマートスピーカー用アプリからの指示で、シナリオ通りに動くようになっている。

スマートスピーカーとの“新たな対話体験”のために、考え抜いたシナリオ

吉田:シナリオづくりでは、スマートスピーカーとの自然な対話から恐怖体験へと導入させるために、どうすれば人の恐怖を引き出せるのか恐怖研究家の方にインタビューしたりもしました。いきなり怖い話をして身構えさせるのではなく、まず前世占いをして日常が恐怖体験に変わっていくというシナリオにしました。自分の名前がスマートスピーカーから発声される仕掛けを取り込め、対話への没入感が高くなるためです。

松本:スマートスピーカーと普通に会話していたのに、途中から幽霊がそれをのっとり、部屋にあるIoT家電を勝手に動かすというシナリオが徐々に決まっていきましたね。

國原:エンジニアの立場からも、「シナリオは凄く面白いな」と思ったんです。ただ、今あるスマートスピーカー向けに提供されている開発キットでは実現できないことも多いな、とも感じました。例えば、現状のIoT家電は安全上の問題で「電気を付ける、消す」といった簡単な制御しかできないようになっています。コンロが勝手に付いたら火事になるし、扉が勝手に開いたらセキュリティの問題になるためです。本件の使命は「未来感のあるエンタテインメントを提供する」ことだったので、アプリを一般向けに公開するのではなく体験者の没入感を高くするためにも専用のアプリを開発することに決めました。

伊東:シナリオを作る際にも、スマートスピーカーから体験者にどう話しかけるのがいいかは凄く考えましたね。台詞の間を細かく調整したり、疑問形で聞くようにしたり、明らかに質問だと分かる台詞にしつつ、長文に成り過ぎないようにしたり。

現状のスマートスピーカー向けアプリは、基本的にこちらから話しかけるとリアクションを返してくれるというものが多いですが、将来的には生活スタイルや表情などから利用者のことを読み取って、指示をしなくてもコミュニケーションを取ってくれるようなものが増えると思います。本件では、そういった将来の展開への繋がりも意識しながら、シナリオを考えていきました。

玉川:没入感を優先した部分は多かったですよね。シナリオに「君は友達がいるの?」という、みどりちゃんの台詞があるのですが、通常のアプリであれば、その後に「いるかいないかで答えてね」など回答を促す言葉が続きます。これは親切で対話もしやすいのですが、今回のシナリオの場合は不自然だし、没入感を削ぐことになります。

前山:通常のナレーションは、聞く人のリアクションがなんとなく想定できるケースがほとんどです。でも今回は、みどりちゃんの台詞を聞いた人がどういう感情になるかは人それぞれだろうし、リアクションがはっきりとは想定できません。そういう中で適切な感情表現をする、というのは難しかったですね。

新しい対話体験への手応えと、見えてきた次に繋がる課題

吉田:実証実験の体験者からは「スマートスピーカーと会話しながらの体験は能動的に入り込めるのが良かった」「普段のスマートスピーカーとのやり取りよりも、ずっと自然に感じた」といった好意的な反応をいただきました。その一方で「どういうタイミングで答えを返せばいいか分からなかった」といった声もあり、実際にシナリオがうまく進まないトラブルや課題もありました。

中原:スマートスピーカーに慣れている方とそうではない方で、やり取りがスムーズに進むかに違いが出てしまったので、そこも課題ですね。スピーカーが話し終わる前に回答した方の場合は、スマートスピーカー側でうまく認識できずエラーが出てしまったり。

伊東:エラーになってしまった部分は、スピーカーの性能向上や利用者の慣れ、シナリオの組み方などいろいろな解決のやり方があると思うので、今後考えていきたいです。

松本:会話の始まりや終わりを正しく認識するために、Webカメラを使った画像処理なども取り入れていく必要があるかもしれません。

玉川:オフィスで用意した環境ではうまく動作していたIoT家電が、実験で使った部屋のネットワーク回線ではうまく動作しない、ということもありました。今後、様々なスペースを使った案件があると思うので、今回の経験を生かしたいですね。

一般公開できる体験・アプリに繋げたい

松本:今回の開発は「若手で自由にやってくれ」という指示だけでスタートしているので、期待されていたことは「将来的な発展を感じさせる、とにかく面白いものを作ること」だったと思います。今回実験してみて、スマートスピーカーの使い方にはいろいろな可能性があるなと思いました。例えば賃貸マンションにスマートスピーカーを設置し、内見のときにコンテンツを楽しむとか、大家さんに確認したいことをスマートスピーカーに聞けるようにする、といったことも考えられます。

伊東:中国のホテルでは、既にスマートスピーカーでルームサービスを頼んだりできる機能の導入が検討されているみたいですね。スマートスピーカーであれば海外の方でもやり取りできるので、注文なども簡単そうです。

中原:今はいろいろな企業・団体の方がAI技術やスマートスピーカーにご関心をお持ちだと思います。本実験はあくまで社内向けでしたが、エンタテインメント向けコンテンツを開発した経験や実績を、今後の案件に生かしていきたいと思います。

伊東:今回のような企画を、住宅メーカーや恐怖専門家の方なども巻き込んで、大きなプロジェクトにしてみたいですね。一般の人にも体験してもらいたいと思っています。その場合は顔認証とか、声以外の生体認証も組み合わせたいです。

吉田:今回はクローズドなアプリでしたけど、一般に公開するようなアプリにしてみたいという気持ちもやっぱりありますね。

國原:スマートホームやIoT家電を作っているメーカーさんにも、外部機器との連携が容易にできるよう、WebAPIなどを公開いただき共同でプロジェクトができたら面白いし、そういった働きかけもしていきたいですね。SNSなどと連動できれば、今回のような数分間だけの体験ではなくて、長期間に渡る体験もできると感じています。例えば、一週間後に突然Twitterアカウントに幽霊が話しかけてきたり、とか。

玉川:これまでのお化け屋敷って、体験者が中を歩き回りますよね。スマート怪談は、部屋で座っていながら恐怖体験ができる。そうなると、やれることが大きく変わります。お化け屋敷というテーマだけで考えてみても大きな変化があるので、それ以外にもいろいろな場面で新しい体験を作ることができると感じました。

松本:例えば、家に彼女を呼んでサプライズでプロポーズする、という場合にそれをサポートするよう照明や音楽などを適切に設定できるアプリケーションを販売する、といったことも可能だなと思いました。

中原:スマートスピーカーが一般家庭で普及すれば、企業が家の中でもサービスや体験を提供することができるということですよね。今回エンタテインメント体験を開発したことで、そうしたことが明確に認識できるようになりました。

今回の実証実験を通じて、スマートスピーカーを使ったエンタテインメントやサービスが、各家庭や専門施設などで広がっていく可能性を強く感じられました。今後も博報堂 Voice UIチーム/WHITEでは、実験を通して見えた課題を解消しながら、VUIが持つ価値を模索し生活者との新しいコミュニケーションの発見と開発に挑戦し続けていきます。

■ご参考
【WHITE】http://255255255.com/
【WHITE VUIサイト】http://vui.255255255.com/

FACEBOOK
でシェア

X
でシェア