昔から、ひどく物忘れをする
最近は、物忘れが忘れ物に広がってきた
かさ・パスケース・スマホ、そしてたまに次の予定笑・・
歳を重ねるとそんなことが多くなる一方だ
そして今回の出張、はじめて思いっきり寝坊してしまった
朝5時に家を出る予定なのに、目覚めたのはなんと5時10分。
慌てて支度し5時15分出発
我ながら5分で家を出ることができたのを感動する間もなく、
最寄駅まで走る、走る、走る
どうにかこうにか間に合ったものの
息が上がって、滝のような汗
どうにもなかなか収まりがつかない
こんな長い距離を走りきれた自分を褒めたいなあと思う以上の
すでにヘロヘロ状態で、一路北陸に向かいました
空港があり、基地がある
北前船の港もあった、ここ小松は
いまも昔も、交通と守りの要所
そしてそして、地方創生の先進地域でもある
金沢はよく行くけれど、小松まではなかなか
海沿いのまちという意識しかなかった小松の、なぜか山合いに向かう
素敵なワカモノ基地があるらしい、どんなことが待っているのか興味津々向かっていた
どこへ行っても晴れるのに、
ちょっと縁遠いのか、今回は珍しくポツリポツリと小雨が降る
割となだらかな山裾の道を少しずつ上っていくと、
程よい高さの山々に、ところどころすりむいたかのように荒々しい岩肌がみえる、
石切場だ
高さ方向に縦に掘り進める石切場はいくつか拝見したことがあるけれど、
ここはなんと横方向、いまにも崩れそうだ
そのくり抜いた高さ・ひとの手の凄さを感じさせてくれる石切場は、
その生業を止めて随分と立っているようだ
70世帯ほどの集落が、このあたりにある
どんどん奥に入って行って、人里離れた奥の奥の集落7世帯が住むその一番奥の家に、ワカモノ3名が場を構えていた
カフェ・宿・シェアハウス
都会も地域も日本も世界も
この文法にワカモノは随分とひきつけられるようだ
共有のような私有のような公有のような、境目のない数珠つなぎのゆる〜い佇まい
なぜここに
なぜこんなところに
そう思う場所への意味や根拠・理由を見出したがる現代人
そういう思考が、日本に忘れ場所をどんどん増やしてきた
勝手に忘れることにした場所が日本を覆う
ふわっと女性があらわれた
ふわっとした女性だった、期待以上に
自然体
我々が日々失いがちなコト
自分の感覚を頼りに、大阪から鳥取経由でこの地に辿りついていた
やわらかい
みごとなくらい、やわらかい
お話しするとしっかりとした芯を感じる、まさにふっくら炊き上がったお米のような方
自然にいるからしぜんと自然体になれるのだろうか?
人工物に囲まれるから、しぜんと不自然になるのだろうか?
曇った空にやわらかい空間のなか、予定通り順調に取材が終了
地元のメンバーと一緒に金沢のオフィスへ戻る道中は、雨足が強くなっていた
順調だった取材と天気の加減が、なにかすこし気になりながら
うっ
何の前触れもなく突然手帳がないことに気づく、私
またまた忘れ物だ・・
う〜〜ん
ここのところの忘れ物の酷さに、さすがにどっぷり落ち込んでしまった
雨足がつよくなってきたので、オフィスで傘借りて宿にチェックイン
そういえば、ここ金沢は北陸新幹線開通以降観光客が爆発的に増え、なかなか宿が取れなかったっけ。
ささっと荷物を置いて、夕食へ。
ロビーに駆け下りて、またびっくり。せっかく借りた傘を今度は部屋に忘れてしまった。
気に留めていても忘れてしまう、いや〜さすがに笑いしか出てこない
そんなドタバタのなか、なかなか出逢えない美味しい食事と楽しい大将・女将さんに恵まれて、ぐったりした気持ちをすっかり忘れることができ、その晩はぐっすりおやすみできました
朝
昨晩の雨は上がっている
手帳ありましたよ
昨日の取材先カフェからの連絡をもらう
助かった
ことしのわたしのすべてが記録されている紙のたば
まさしく神の救い
お礼を直接言いたくて、
ぐぐぐっと予定を変更し、今度は列車に乗って、
忘れモノを取りに、忘れゴトを気づきに行く旅に向かった
ご案内の通り最寄駅からタクシーに乗る、30分はかかるだろうか?
初老の運転手に行き先を告げてみた
おう、みんな知ってるよ、ここらじゃ有名なとこだ
若もんがやってるとこやろって
70歳、一人暮らしの運転手さんは
近くの粟津温泉でタクシーをやっている
今は随分とさみしい温泉地になってしまったそうが、
秋口になれば、まだまだ人がたくさん来るそうだ
平地に広がっていた稲穂のゆらゆら感が山の木々のさわさわ感に変化していく
ニコニコ笑いながら、いろんな世間話を仕掛けてくる運転手さん
なになにやし〜 と伸ばすことばづかい、地元ことばは心地よい
北陸生まれのわたしがすっかり忘れていたイントネーションの妙
あれやこれやと話をして
いきさつを一通りお話して
運転手さんもカフェに誘った
そげなとこ入ったことないし〜
おらもう歳だし〜
断られても一緒に行くと決めていた
遠慮しがちで笑顔になる運転手さんと、扉を開けて席につく
ふわっと、パタパタと、
カフェの開店準備をしていたその方は、
昨日とその方とはまったく別のひとに見えた
コーヒーを注文し、
ここで採れたという梨とぶどうをありがたく頂く
忘れた手帳も渡してもらった
柔らかい笑顔・語り口となにげなく最上なひとときと一緒に
この方が作り出すバとトキ
晴れました
日ざしが柔らかく差し込んでくる
お客様さんも次々と来る、山あいの集落の一番奥に
カフェの前のおばあちゃんは タクシー常連なんで、よう来とるわ
運転手さんとの話は続く。
このあたり、冬は雪深くて行きとうないくらいだ
あんな山奥にようけいカフェなんぞを、
応援せにゃ
あんた、東京かあ
中学か高校の修学旅行にいったきりだな
ここ数年金沢にも行っとらん
小松まで新幹線来ても、多分そんな変わらんし〜
いまの会社76歳でタクシーやっとる方がおる
わしも75歳まで頑張らにゃと思ってる
どこ行くのも 財布と相談じゃしの
わははっ
じゃ次は東京で会いましょう!
おうわかった
こんな約束ともつかない言葉を交わして
乗せてもらった駅まで戻っていった
帰り道。今日の石切場は、間違いなく生きていた
次の列車まで小一時間
その間特急が三本 矢のように通過して行った
過ぎ去ると無音になるプラットホーム
多分あのあたりが運転手さんのホームタウンだな
すっかり元気にしてくれた
また 会える気がした
手帳忘れてよかったな
今回のわたしの忘れ物は
とてもありがたいものになった
物忘れと忘れ物に囲まれながら
地域を忘れていく日本を忘れないようにしよう
次回は、こめのくに です。
*トコトコカウンター:2016年4月より訪れた場所ののべ数
*写真4・5は 宮崎昭秀さまよりご提供頂きました。