──日本食が一般に浸透しているタイでは、独自のアレンジを加えて日本食を作って食べることにこだわる生活者がいる
日本食はタイの生活者に長く愛されてきました。タイにおける日本食レストランの数は過去10年間で急激に増加し、現在は2000以上の日本食レストランが存在しています。他国の料理に比べて「健康的」であるとタイでは信じられている日本食ですが、デパートの中から幹線道路沿いに至るまで、どこでも食べることのできる一般的な料理としても、タイの人々の生活の中に浸透しています。
こうした日本食ですが、中には自ら独自のアレンジを加えて日本食を作り食べることにこだわる現地の生活者たちがいます。我々は日本の食文化を尊重しながらも、意図的に一捻りを加える彼らを【ジャパン・ツイスター】というトライブとして捉えています。例えば、あえてタイの魚を使って刺し身や照り焼きなどの料理を作ったり、日本のラーメンにタイのスパイスを取り入れている店などが人気を博しています。
日本人シェフが現地の味覚に調整しているのではなく、現地の生活者が独自に日本食に対して解釈を加えていることがポイントです。彼らの行動の背後にある考え方を調べることは、“日本らしさ”を現地にローカライズさせる上で重要な手がかりを与えてくれるでしょう。彼らを調べて得られる気づきは、食品以外の分野においても適用可能です。ファッションや美容、旅行など様々な領域で、日本らしさを活用しつつ海外事業を展開する際のヒントを得ることにつながるでしょう。
──タイでは伝統の昆虫食を、健康や美容に効果的な食事、あるいは高級グルメとして新たな価値を見出す生活者が登場している
古くから昆虫が食べられてきたタイでは、健康志向の高まりから昆虫食の利点を見直し、生活にカジュアルに昆虫食を取り入れている【インセクト・リッチ】というトライブが出現し始めています。
タイの一部地域では以前から、コオロギやカイコなどの虫をスナックとして食べる慣習がありましたが、日本のイナゴの佃煮のような感覚で、若年層からはあまり好まれていませんでした。また街頭の屋台で売られているものは、主に観光客に向けて販売されているものだと認識されてきました。しかし、近年の世界的な昆虫食への注目と国内の健康水準の見直しとともに、昆虫食の持つ健康食としての側面に焦点が当たり始め、一部の若い消費者たちは昆虫食に価値を見出すようになってきています。
伝統的な調理法だけでなく、様々なバリエーションの虫グルメが登場し始め、中には高級虫料理を販売する店も出現して人気を呼んでいます。バンコクにある「Insect in The Backyard」というレストランでは、高級フレンチのように盛り付けられた新しいスタイルの昆虫料理が提供されており、連日国内外からの客で賑わっています。
食品としての栄養価の高さや食糧生産の持続可能性という観点から大きな期待を背負っている昆虫食ですが、まだまだ日常的に摂取するには抵抗がある人がほとんど。その点、健康・美容促進やグルメ食として昆虫を味わうタイの生活者から【インセクト・リッチ】は、今後の食の未来を洞察する上で重要な示唆を得ることができると考えられます。昆虫食自体の活用だけでなく、その他の健康食品や美容食品の開発においても、大きなヒントを与えてくれるはずです。
──糖尿病患者が増加するタイでは、その反動として健康食の定期宅配を利用し、毎食決められた健康食を摂取する生活者が増えている
糖尿病患者が増加しているタイでは、砂糖摂取量が日本人の約1.5倍。日本と同じ銘柄の商品でも、濃い味を好むタイ人の舌に合うように糖質含有量が多くなっているものも多く存在します。ヘルシーさが売りの日本食のお弁当も、不健康だからといって脂の量を控えて販売すると、途端に売上げがダウンしてしまう事例もあるほどです。昨年2017年には、国民の不健康是正のため、炭酸飲料に含まれる砂糖の量に比例して課税する「砂糖税」の導入も行われました。
こうして味の濃い料理が多く存在する中で、健康食の定期宅配サービスが注目を集めています。我々はこのサービスを利用して、健康的な食生活を実現しようとする生活者を【ヘルス・パッカー】として捉えています。彼らは、ミールパックと呼ばれる健康的なお弁当を、一週間や一ヶ月間といった単位で定期購入し、配達される毎食、朝昼晩、食べ続けています。例えば、yummy dietというサービスでは、6日間、18日間、24日間のいずれかの期間を選択し、毎日三食分の主食が含まれるお弁当と、レモネードドリンク、フルーツが送られてくるようになっています。
彼らは、食事の度に健康的な料理を選ぶストレスから解放されることに価値を感じていると考えられます。定期購入によって、半ば強制的に健康になるという考え方は、不健康がとりわけ問題視されているタイの生活者に顕著な考えでしょう。【ヘルス・パッカー】と、その食生活を支援する現地独自の商品やサービスを調べることは、日本企業の持つリソースを活かすことのできる健康や美容関連、食関連の商機を捉えることができるはずです。
──肉体だけではなく、精神を鍛えるために高強度のヨガに取り組むタイの男性生活者が増加している
健康志向の高まりが顕著なアジアの生活者たちは、食生活の見直しや運動習慣作りなどに積極的に取り組むようになりました。特にタイでは、ランニングやジムでの筋トレなどに熱中する生活者が急増しており、ここ数年でフィットネスブームが訪れているようです。
そんな流れの中にいる旬な生活者として、ヨガに熱中する男性たちを【マインド・ビルダー】として捉え、注目をしています。彼らは体を動かしてスッキリしたり、外見をカッコよくしたいといった一般的なフィットネスに対する考えではなく、何事にも動じないよう自分の心や精神自体を鍛えたいと考えています。事実、ヨガ講師になるためにトレーニングを受けている男性が増加していたり、ヨガクラスの難易度のレベルが増えるなどサービス提供者側にも変化が見られます。
高強度のヨガを日々実践している【マインド・ビルダー】は、肉体だけでなく精神のケアもできている状態を健康だと捉え、それが美しさにつながると考えています。本連載でも既に紹介した、健康食にこだわる生活者や、男性にも関わらずメイクアップを実践するような美容意識の高い生活者に加えて、アジア男性の健康や美容意識について調査をする際には【マインド・ビルダー】を対象にすることが一つの有効な手段になるのではないでしょうか。
──アジアの“旬な生活者”の価値観を「どう観る」と「何が分かる」のか、トライブリサーチの方法と実践例をご紹介します。
2018年7月27日に、弊社が集めたアジア諸国の先進事例、及び“旬な生活者”であるトライブをご紹介するアジア・トライブセミナーを開催する予定です。本セミナーでは、博報堂グループのSEEDATAが強みとする「トライブリサーチ」を活用して、アジア市場におけるビジネス・チャンスを、現地の旬な生活者の価値観から捉える手法を、方法論から実践に至るまで解説します。また、実際に中国で行ったトライブリサーチや、それに伴う最新事例から各社へ活かせるアイデア発想を行うワークショップも用意しておりますので、アジアの旬な生活者の価値観を「どう観る」と「何が分かる」のか、そのコツと方法をお教えします。ご興味のある方はぜひチェックしてみてください。
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【生活者研究講座】アジア・トライブセミナー