第1回目は、トークンエコノミーを活用することで「政治をエンターテインする」をミッションに掲げるPoliPoli CEO・伊藤和真さんをメインゲストに招き、「ブロックチェーンとコミュニティ」をテーマにディスカッションを行いました。
前半は伊藤さんより、PoliPoliのビジョンとしくみを説明していただきました。
PoliPoliが解決したい問題は、「ネット政治コミュニティが荒れること」、そして「政治と人々の距離が遠いこと」の2つだと伊藤さんは話します。それらの問題を解決するためのサービスとして今年7月にβ版がリリースされたアプリ「ポリポリ」では、政治家と市民が「良い」発言をすれば(=コメントへ「いいね」がつけば)トークンが集まるしくみを設計。
ユーザーは議論したいトピックごとに「トークルーム」を作成し、政治家や他のユーザーとディスカッションすることができますが、誹謗中傷などの発言をすればユーザーはトークン(=信頼の量)を失うため、自ずとコミュニティを健全に保つインセンティブが生まれます。この評価経済モデルによって、質の高いコミュニティがつくられることにつながるのです。
現在のβ版ではトークンは導入されていませんが、正式版では独自トークン「Polin」が発行されます。このPolinを使って、たとえば市民は応援したい政治家に投げ銭を送れたり、政治家はPoliPoliがつくるデータベースにアクセスしたりすることができるようになります。トークンを介することで「ポリポリ」は、政治家にとっては新しいかたちの「個人献金プラットフォーム」として、市民にとっては自分の声を政治家に届けるための「議論プラットフォーム」として機能するのです。
政治の問題といっても、外交や経済といった大きな課題ではなく、「この商店街の道路が狭い」「駅の喫煙所の位置を変えてほしい」といった身の回りの小さな課題を解決するために「ポリポリ」が使われることを伊藤さんは期待しています。
「政治はイシュー解決のためにあるものなので、実際に問題解決につながるようなサービスにしていきたいと思っています。困ったことがあったら『ポリポリ』を開いて意見を提案し、その声が政治家にまで届く──それがぼくたちのやりたいことですね。ゆくゆくは政治家だけでなく行政にもPoliPoliエコノミーに入ってもらい、各地の行政の評価ができるようになったらおもしろい。政治・行政に声を届ける機能を担う、総合プラットフォームをつくりたいと思っています」
参加したメンバーとの質疑応答のなかで伊藤さんがたびたび話していたのは、「お金の価値が総体的に下がっていく」ということでした。たとえば、将来的にPolinが「円」のような法定通貨と交換可能になったときにも、「ポリポリ」では自身の発言へ「いいね」がつくことや政治家への投げ銭量のほうを重視して信頼スコアが計算されます。つまり、お金を出してPolinを手に入れても、コミュニティに貢献した人には勝てないしくみを設計するのです。
また「ポリポリ」では、「自称 政治家」でも政治家としての登録が可能だといいます。現在の社会では実質的にお金のある人しか選挙に出ることはできませんが、「ポリポリ」上では自称 政治家でも市民からの信頼を得られれば、世の中を動かすための「声」を得ることができるかもしれません。「お金がなくても、看板や地盤がなくても政治家になって、想いが実現されるような世の中をつくりたい」と伊藤さん。PoliPoliの構想が実現されたときに訪れるのは、「お金」よりも「信頼」の力が大きくなる社会といえるでしょう。
2019年4月の地方統一選挙、9月の参議院選挙という政治が盛り上がるタイミングを見据え、現在は質の高いコミュニティをつくることに注力していると伊藤さんは言います。仮想通貨領域の法制度が整い、Polinを゙国内で取引できるようになったとき、日本の政治はもっとおもしろく、もっと人々に身近なものになりそうです。
後半は、PoliPoliの話を踏まえ、参加したメンバーで「法定通貨を介さずにつながるコミュニティをつくるために必要なこと」をテーマにディスカッションを行いました。話された内容をダイジェストにしてお届けまします。
伊藤(博報堂・HAKUHODO Blockchain Initiative)
ブロックチェーンはサービスをつくる技術ではなく、コミュニティをつくるための技術だと考えています。ブロックチェーンで実装されたトークンを使って、共通の価値をもった不特定多数のユーザーが活発に価値交換を行うコミュニティのことを「トークンコミュニティ」と呼んだとき、そのコミュニティの構成要素には以下の5つがあると思います。
1. ブロックチェーン技術で実装されたトークン
2. コミュニティに参加する生活者の共通の価値観
3. コミュニティ内で交換される価値
4. 価値交換を活発にするためのイベント
5. トークンコミュニティのエコシステムに参加するプレーヤーの役割分担
なかでも大事になってくるのが、2の「共通の価値観」です。ビットコインは、現在では世界中の多くの一般的な人々がもつものになっているため、その人たち全員がもつ共通の価値観などはないのでは?と思われるかもしれませんが、サトシ・ナカモト氏が論文を出した2008年当初は、「法定通貨に対するアンチテーゼ」という非常に強い共通の価値観をもった開発エンジニアの濃いコミュニティで、一般の人々はそこに参加していませんでした。いま、仮想通貨の法定通貨的な価値が下がり始めているのも、実は当初のビットコインほどには「共通の価値観」が設定されていないからではないか、という仮説をもっています。
加藤(博報堂・HAKUHODO Blockchain Initiative)
ビットコイン以降に生まれた他の仮想通貨は、トラストレスな仕組みを支えるために、ユーザーに経済的なインセンティブを与えることによって誰しもが善良な参加者になる、という理屈の部分だけではビットコインに似ていますが、一番大切な「共通の価値観」の設定という部分があいまいになってしまっているものもあります。
伊藤(博報堂・HAKUHODO Blockchain Initiative)
ただ、ビットコインも、そもそも「法定通貨に対するアンチテーゼ」という共通の価値観をもつコミュニティとして始まったにもかかわらず、あるときになって仮想通貨取引所が生まれたことで、アンチテーゼを唱えていた対象の法定通貨、つまり現金と換えられるようになり、その誕生当初の価値観との矛盾が生じてきていることが、今後ビットコインにどのような影響を与えるのかを考えるのはおもしろいかもしれません。
加藤(博報堂・HAKUHODO Blockchain Initiative)
いわゆるマイニングじゃないかたちでのフェアな承認システムが生まれれば、経済的なインセンティブに頼らないコミュニティをつくるためのブレークスルーになるかもしれません。
ただマイニングを使わないとなるとコミュニティを完全に分散的にするのは難しいし、そもそも人間のコミュニティである以上、「完全に分散的なコミュニティ」というものが設計可能なのかという疑問もあります。現実的にはコミュニティを健全に保つ人が一部に存在する「半分散的」なものが考えられますが、権力の正当性をどう設計するかが課題になりそうです。
古米(博報堂・HAKUHODO Blockchain Initiative)
現在は経済価値のものさしとして法定通貨が使われていますが、ビジョンを共有した「共通の価値観」をもった人同士だと、法定通貨に換えなくても価値は交換できるはず。たとえばアイドルのファンたちは、現金に換えなくても「握手券」という価値を共有しています。理想論的には、そうした共通の価値があれば法定通貨に換えなくてもいい。
伊藤(博報堂・HAKUHODO Blockchain Initiative)
僕の兄がとあるバイクブランドのユーザーなんですけど、コミュニティのつながりが強くて、ユーザーたちの間では顕在化しない助け合いが日々行われているんですよね。そうした、すでにファンの間で行われている活動の価値を顕在化するためにトークンを使ってみてもおもしろいと思っています。
加藤(博報堂・HAKUHODO Blockchain Initiative)
一方で「好き」を数値化してしまうのは、必ずしもファンたちに受け入れられることではないかもしれません。数字で「好き」を測られるのは違うだろう、と。
伊藤(博報堂・HAKUHODO Blockchain Initiative)
おっしゃる通りだと思います。ぼくはトークンコミュニティを実装するためにはユーザーエクスペリエンス(UX)が重要だと思っていて、トークンを使う体験を「トークンを交換している」と思わせないようにできないかと考えています。
たとえばスマホを振ってトークンを送ったり、振動でトークンを受け取ったことを感じたりと、アクションや体感でトークンの交換を体験させられるようにできたら、いちいち数字を見なくてもいい。トークンコミュニティに求められる身体性を考えることにもチャレンジしていきたいと思っています。