赤尾:
この集合住宅プロジェクトには、様々な町の人たちと関わりながらつくり上げていくというプロセスをとても大切にしています。神山町はもともと林業で栄えた町なのですが、建物をつくる素材はできる限りこの町の資源である神山の木材でつくります。建設工事も町の若手の大工さんにお願いしていくことで、技術を継承していくこと、人材育成の機会としてこのプロジェクトを位置付けることも意図しています。それは町のお金を町外に流さずに「地域内経済循環」を高めることにもつながります。
集合住宅なので、基本は「住まいづくり」なわけですが、それをできる限りこの町にとって様々な価値を生み出していくような、そんな多義的な取り組みにしていくことを目指しています。
森山:
この町に住む人も含めて、町にある資源をできる限り生かしていく。それをどれくらい繋いでいけるか。他にも、敷地にある緑地も、地域の在来種の苗を育てたりして地元の高校の造園土木科の生徒たちと一緒につくっているんです。ここの造園土木科、四国で唯一なんです。
鷲尾:
なるほど、そうなんですね。
森山:
この集合住宅プロジェクトのランドスケープ・デザインを手がけて下さっている田瀬理夫さんのアイデアなんです。「今そこに高校があって、高校生たちがいて、造園を学んでいる。じゃ、その子たちと一緒にやろうよ。」って。
集合住宅プロジェクトが始まる以前には、この町の宿泊施設の庭づくりを高校生たちが行ったことはありましたし、10年ほど前には、神山町が長年実施してきた「神山アーティスト・イン・レジデンス」のアート作品を、高校生たちが手伝って一緒につくったこともあったようです。でもだんだんと地域との連携が減っていた状況でした。それは町の子どもたちの数や町内出身の先生が減っていったことなどが理由にあったようです。
鷲尾:
田瀬さんのアイデアをすぐ実行できるのも、森山さんが普段から神山つなぐ公社の教育担当として学校とのつながりが深かったからということが大きかったんでしょうね。
森山:
先生方がとてもオープンで。生徒たちが地域に出て学ぶのはすごくいいという実感を持っていらっしゃったので、すぐに「やってみましょう」って言ってくださいました。
鷲尾:
高校生たち、どうでした?
森山:
はい。高校生にもいろんな子どもたちがいますからね。おとなしい子や、学校に行くのがちょっと苦手な子たちもいるわけです。どうかなって見ていましたが、やってみると、そんな子たちがとても生き生きしていたのがとても印象的でした。学校の中で決められた実習地でやるのとは全然違う環境だということ、そして実社会で展開されている仕事の中に自分たちが一員として関わっているということが彼らの中でもすごく良かった。
初年度なので、今年植えた苗は、昨年先輩たちがつくってくれたものでしたから、実際に自分が育てた苗を庭に植えられるわけじゃない。だから、高校生たちがどれだけ自分ごと化できるか難しいかなって思って見ていました。でも、先輩から受け継ぐ、先輩が頑張って育てたものを自分が責任持って植える、ということをちゃんと見えている子たちがいて。それはとても良かったって思います。
鷲尾:
いい話ですね、とても。
森山:
農業高校では、半分が実習の時間です。だから本来はこうした取り組みを授業として組みやすいわけなんですよね。こちらから「この時期には、こんなことをしませんか」と提案させていただくと、「あ、いいですね。」と言って、先生が一緒になって考えてくださる状況も生まれてきています。
鷲尾:
こうした経験を通じて、今、高校生たちには何か新しい変化があったと感じていらっしゃいますか。
森山:
集合住宅だけにとどまらず、高校生たちが経験したことから、他に行っている町中の取り組みとの新しい関係性も生まれてきています。例えば、地産地食の仕組みづくりを目指している「フードハブプロジェクト」とも連携して、地域の食材を使ったお弁当づくりにも展開しています。あと「孫の手プロジェクト」という高齢者支援につながる取り組みも生まれています。高齢者の方々が住まわれている民家では庭や樹木の手入れが滞っているところが多いのですが、学校で学んだ造園土木の技術を生かして高校生たちが庭木の剪定や草刈りを行います。まちの景観保全につながると同時に、高校生たちとおじいちゃんやおばあちゃんたちとが話をする機会にもなっています。
鷲尾:
集合住宅のプロジェクトがあることで、この町の中で新しい営みや、関係性を結び直していくような活動が生まれていっているんですね。
赤尾:
この町に今必要な住まいのあり方ってなんだろう。それってきっとただそこに住居があるだけでなくて、誰かとの出会いだったり、自分のできることが増えたり、自分の興味、関心がふくれて拡張されていったりとか、そんなきっかけをあたえてくれるような「場所」なんじゃないかなって思います。
鷲尾:
神山町の創生戦略からは、いくつものプロジェクト(事業)が生まれていますが、それら各プロジェクト自体がばらばらにあるのではなくて、少しずつ重なりながら連携している状況が生まれているんですね。その重なり合いがどんどん増えていくこと、それが「多義的な」とおっしゃったことなんですね。それも赤尾さんや森山さんのような存在があったから重なり合うことができているわけですね。
赤尾:
そういう場所が町の中にあるということ。そんな状況が育っていけばいいなって。
鷲尾:
それがこれからの「住まい方」なのかもしれませんね。人の暮らしや営みが持っている可能性をつなぎ合わせていくこと。「住まい方」ってその真ん中にあるもので、一人一人の住まい方自体が豊かになることが、結果的に総和としての生活圏の豊かさになっていくのかもしれない。
鷲尾:
「大埜地の集合住宅プロジェクト」はやっと第1期の入居者が暮らし始めたばかりで、まだまだ敷地内での工事は続いていますよね。今朝、その様子を見下ろせる高台から眺めていて、この場所は、神山町の中でもものすごくシンボリックな場所に育っていくような強い印象を持ちました。まだ3棟しか建っていなくて、重機もいっぱいあって、庭や木々が成長するのもこれからでという状況なんだけど、なんだかすごくそのことを直感したんです。風景として明らかに新しい質の空間に育っていくというような印象が。僕は最終的な完成図をよく知らないのですが。でも、その感覚ってすごく大切だなと思っています。
赤尾:
私もそれはすごく感じます。これまでに神山町には、「ランドスケープ」の考え方が乏しかったと思うんです。もちろん景観がこれだけあるのにも関わらず、そこに意識が薄いというか。住宅なり、施設なりを建てると、それで終わりという。そこから派生していく風景、感覚。その場所だけでなくて、全体の中で周囲とも関わりながらどのような風景が生まれていくのか。「点」で考えるんじゃなくて、ちゃんとつながりや関わりの中で考えるということを、このプロジェクトではすごく意識しながら進めてきていると思います。
鷲尾:
それはこれからの時間の流れの中で少しずつ、でもやがてはっきりと見えてくるでしょうね。
※参照:
神山町「大埜地の集合住宅プロジェクト」
http://www.town.kamiyama.lg.jp/co-housing/
神山町「大埜地の集合住宅プロジェクト」 第二期入居者募集のご案内
http://www.town.kamiyama.lg.jp/co-housing/
城西高校神山校「地域創生類 環境デザインコース/食農プロデュースコース」
http://www.town.kamiyama.lg.jp/josei/
※前編はこちら
一般社団法人 神山つなぐ公社
https://www.in-kamiyama.jp/tsunagu/
2015年12月に、神山町が策定した地方創生戦略を実現していくために設立された、一般社団法人「神山つなぐ公社」。いくつもの「まちを将来世代につなぐプロジェクト」が神山つなぐ公社と神山町の皆さんとの共同で日々動いています。
徳島県神山町出身。一級建築士。徳島市内のアトリエ系事務所で住宅や店舗の設計を学びながら、建築団体を通じてまちづくりや高校生の建築教育などに従事。2015年の独立を機に、改めて自分のまちを知り、地域の建築士としてまちに関わっていきたいと思うように。人々のすぐそばで、人々と共に生きていく、そんな暮らしのうつわをつくっていきたい。
岡山県岡山市出身。教育委員会および町営塾でのインターン経験を経て、福岡で教育NPOの支部を立ち上げ、教育プログラムの企画・運営に従事。神山の地方創生戦略策定を契機に神山へ。豊かな自然、営んできた歴史、培ってきた文化を受け継いでいく中で、人が健やかに育つことのできる環境づくりをしていきたい。
博報堂クリエイティブプロデューサー /「生活圏2050」プロジェクトリーダー。
戦略コンサルティング、クリエイティブ・ディレクション、文化事業の領域で、数多くの企業や地方自治体とのプロジェクトに従事。プリ・アルスエレクトロニカ賞「デジタルコミュニティ」「ネクストアイデア」部門審査員(2014〜2015年)。主な著書に『共感ブランディング』(講談社)、『アルスエレクトロニカの挑戦~なぜオーストリアの地方都市で行われるアートフェスティバルに、世界中から人々が集まるのか』(学芸出版社)等。現在、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻「地域デザイン研究室」にも在籍。
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