ビルボード・ジャパンが発表した2018年の【TOP ARTIST】で首位となった米津玄師。特に、ダウンロードランキングとルックアップ(※PCによる読み取り回数)ランキングでは1位となっている。そして2位のTWICEはストリーミングランキングと動画再生ランキングで1位となった。もはや、トップアーティストになるのに、デジタル指標(ストリーミング、YouTube、twitter、ダウンロード)でポイントを獲得することは欠かせない条件となっている。
博報堂・博報堂DYメディアパートナーズのメンバーで構成するコンテンツビジネスラボ(※1)が毎年実施している『コンテンツファン消費行動調査(※2)』によると、2018年のストリーミングサービスの利用率は約25%と、CD購入率の約16%を大きく上回る結果となった。ストリーミングサービスは誰に利用されていて、ユーザーは何を聞いているのだろうか?そして、ストリーミングサービスでヒットするアーティストとは?
『コンテンツファン消費行動調査2018』によると、ストリーミングサービス(Apple Music, Amazon prime music, LINE MUSICなどの有料の定額制音楽配信サービス)の利用率は24.6%で、推計2145万人という結果となっている。、さらに、ストリーミング利用者、CD利用者、ダウンロード利用者のいずれかの利用者を対象に、重なりを図示化したのが図1だが、3つの利用者のうち、「ストリーミングサービスのみ利用者」が最も多いこと、ストリーミングサービス利用者全体では実に70%を超えることがわかる 。さらに各利用者の性年代構成比(図2)を見ると、若年層ほど利用率が高く、全体と比較して10-20代は約4ポイント高い。アメリカでのストリーミング利用率の増加を考えると、日本においてもストリーミング利用者が今後ヒットを生み出す上で大事なターゲットになっていくことが分かり、ビルボードジャパンによるデータから分かるデジタル領域でのプレゼンスを上げることがヒットのトリガーとなる提言と本データは合致する。
次に、コンテンツファン消費行動調査2018において、国内外のアーティストの利用について聴取しており、表1は195アーティスト利用者におけるストリーミングサービス利用率、CD利用率のランキングについてまとめたものである。これを見てみると、ストリーミングの利用率の高いユーザーの半数近くは洋楽アーティストが占めていることがわかる。邦楽アーティストの中では、NICO Touches the Walls、キュウソネコカミ、KEYTALKなどの邦楽ロックバンドが上位にランクインしているほか、2年連続で「打上花火」が【Billboard JAPAN HOT ANIMATION of the Year 2018】にランクインしたDAOKO×米津玄師のDAOKOが8位という結果になった。
一方でCD利用者の場合、新しい地図や小沢健二、ジャニーズ系、ドラマ内のユニット、アイドルなど、J-POP寄りになっており、それぞれ大きく違いが出た。今後ストリーミングで上位に入るためにはストリーミングサービス利用者の嗜好性を考慮したマーケティングを考慮していく必要がありそうだ。つまりCD利用率が高いアーティストと、ストリーミング利用率の高いアーティストとはマーケティングアプローチ自体を変えていく必要がある、ということになる。
先程紹介した調査結果からわかるように、ストリーミングユーザーを取り込むために彼らのストリーミングサービスに関するユースケースを考察してマーケティングアプローチを考えていく必要がありそうだ。例えば音楽リスナーは、ストリーミングサービスの存在により、楽曲の新旧やジャンルを超えて、ある意味ボーダーレスな視聴がしやすくなった。そこから新たな曲との出会いに興味がシフトし、好きなアーティストの曲だけを聴くという視聴スタイルは相対的に減ってきたのではないだろうか?「雨の日に聴きたい」、「元気が欲しい時に聴きたい」等のムードや気分ごとのプレイリストも多く存在しており、新たな曲との接点が増えているのかもしれない。
また、Apple Muiscのプレイリストを見てみると、シャネルの「Caroline de Maigret for CHANEL」、ファッション誌『GINZA』の「レディの持ち物」など、音楽関連メディア以外のエクスターナルキュレーターも増えており、ライフスタイルの中での音楽視聴が身近になってきたと言える。聴く音楽を選ぶ理由が「こういう気分になりたい/浸りたいから」「こういうライフスタイルを送りたいから」に変化してきたことはチャンスである。自分の好きなアーティスト圏内におさまって音楽を聴いていただけの人たちが、その枠を超えて簡単に新しい音楽に出会える仕組みになったのだ。そのため、最近では”プレイリスト・マーケティング”を自ら行うアーティストも増えてきている。
2018年12月のBillboard JAPANのストリーミングチャート(2018/12/17-2018/12/23)では、あいみょんの楽曲がTOP10のうち4曲を占めている(図3)。図4は同じストリーミングチャート期間におけるあいみょんの曲のランキング推移をまとめたものだが、TOP10に入らなかったあいみょんの他の楽曲に関しても、「満月の夜なら」、「貴方解剖純愛歌~死ね~」、「ふたりの世界」のストリーミングにおけるチャート推移を見てみると、ドラマ主題歌となった「今夜このまま」が配信されるタイミングで順位が急上昇しているのがわかる。さらに、ストリーミングTOP10に入っているあいみょん以外の楽曲よりも、あいみょんの楽曲の方がチャートイン回数も多い。ドラマ主題歌への起用のような起爆剤があれば、そのアーティストの過去の曲も再び聴かれるようになる、という流れができているようだ。このとき、”あいみょん”とApple Music内で検索すると、「松任谷由実作品”休日ユーミン” by あいみょん」というプレイリストが出てくるが、これは、プレイリストを通じて松任谷由実の楽曲とあいみょんリスナーとの接点をうまく増やしている例と言えるだろう。
他にも、海外ストリーミングシーンで一躍有名になった日本人アーティスト「AmPm(アムパム)」は今年、Spotify公式グローバルプレイリスト”Singled Out”に日本人アーティストとして初めて選出された。彼らのグローバル規模のヒットの要因は、ストリーミングサービスをきちんと分析し戦略を立てたことだといえるだろう。その一つが、Spotifyのバイラルチャート(SNSでシェアが増えると載ることができるランキング)のランクイン。12月8日付けのYahoo!ニュースには、「Spotifyのバイラルチャートの仕組みを調べました。」と語る記事(https://news.yahoo.co.jp/feature/1158)も見受けられる。
AmPmのように、日本で売れることよりも世界で売れることに目を向けるのがストリーミングサービス攻略における鍵の一つだろう。日本はまだCDが根強く残っており、ストリーミングサービスは定着し始めの段階である。この転換期において、いち早くストリーミングサービスでの”売れ方”を会得したアーティストが売れ続ける。CHAIも、SpotifyのUKチャートにランクインしたのち、逆輸入的に日本国内でもヒットしている。
意外と知られていないが、ストリーミングサービスでは、再生回数がアーティストの収益に直結する。言い換えると、ファンがアーティストを売れさせることができる、ということになる。この仕組みをファンに気づいてもらえれば、「再生=お布施」のようにして再生回数を増やすことも可能だ。
2018年10月にBillboard JAPANとSPACE SHOWER TVが共同で主催したイベント『Now Playing JAPAN』では、8組のアーティストの中からストリーミングサービスで最も再生回数が多かった新人アーティスト1組だけが出演できる企画 ”STARTERS MATCH” も行なっている。今回のSTARTERに選ばれた電波少女は、ファンがたくさん聴いてくれたおかげで出演することができたことに対し「ファンの皆さんからいただいたチケットを無駄にしたくない」と言っており、ファンの視聴がアーティストを”直接”応援できる仕組みを意識しているように見えた。
同じく2018年10月にBillboard JAPANとSPACE SHOWER TVが共同で主催したイベント『Now Playing JAPAN』出演者の平井大は、「本当にいい曲でないとストリーミングではずっと聞かれない」という旨の発言をしており、最初にプロモーションしてその時だけ聴かれて終わりでは意味がなく、ストリーミングサービスでリピーターを定着させることの大切さを実感しているアーティストならではのコメントとも言える。繰り返し聞いてもらうコツとして、例えば、カラオケで歌いやすい曲、ライブで盛り上がる曲、仕事中に効く、ランニングのときに合う曲といった、アルバム以外のプレイリストの中で、接点を多く作ってあげることで”シチュエーション聴き”をしてもらうことが考えられるだろう。
2019年には更にストリーミングサービスユーザーが増えてくることが予想される。コンテンツビジネスラボではBillboardが保有するチャートデータや博報堂DYグループが保有する様々なデータを組みあわせ、ストリーミング時代におけるヒットのメカニズムを解明していきたい。Vol.2以降でもヒットの兆しをつかめるような分析結果を定期的に紹介していこうと思う。
(※1) コンテンツビジネスラボとは
独自調査「コンテンツファン消費行動調査」の知見をもとに、近年企業のニーズが高まっているコンテンツを起点とした広告やビジネス設計の支援を行う専門チーム。独自に提唱する「コンテンツファン発火モデル」を用いて、企業やコンテンツホルダーが実施するコンテンツを起点とした広告コミュニケーションの設計支援や、新規事業・サービス展開のマーケティング支援等を行っている。博報堂のマーケティングプラナーと研究開発職員、博報堂DYメディアパートナーズのコンテンツビジネス開発の専門家などで構成されるメンバーは、スポーツ、ドラマ、アニメ、ゲーム、音楽など、さまざまなカテゴリの熱心なファンでもあり、コンテンツに対する豊富な知見と情熱を有している。
(※2) コンテンツファン消費行動調査について
【調査概要】
■ 調査対象サンプル
日本全国15~69歳 男女5000サンプル
■ 調査期間
2018年2月9日(金)~26日(月)
■ 調査カテゴリ
ドラマ・バラエティ、アニメ・特撮、マンガ、ライトノベル、小説、映画、音楽、ゲーム、美術展・博覧会、レジャー、スポーツ、タレント
2017年博報堂入社。研究開発局で研究員として、データを活用したマーケティングサービス開発、生活者DMPを活用した生活者研究を行っている。注力研究領域は若者研究やAI技術を用いたマーケティング研究。また、コンテンツビジネスラボのメンバーとして、コンテンツ消費行動研究を行なっており、音楽分野担当として音楽ヒット予測等にも従事。