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【博報堂キャリジョ研×BLAST CEO石井リナ氏 対談・前編】
Empowerするために、今、私たちができること。

2019.04.11
#キャリジョ研
「働く女性が“生きやすい”社会をつくる」ことをビジョンとして活動する博報堂キャリジョ研が、人々の多様な生き方や働き方を支えている方々とお話をさせていただく対談企画です。今回は、“人々を社会の固定観念から解放し、エンパワーメントする”をコンセプトとして注目を浴びる株式会社BLASTのCEO石井リナさんと対談しました。

多様な選択肢を伝えていく。

長谷川 キャリジョ研の中でも昨今、ダイバーシティや女性のエンパワーメントの話題になることが増えており、「BLAST」に掲載されていた情報について語り合うことも多く、ぜひ一度編集長である石井さんとお話してみたいと思っておりました。本日はよろしくお願いいたします。まず石井さんのご経歴について伺えますでしょうか。

石井 新卒でIT系広告代理店に入社し、デジタルマーケティングとSNSマーケティングを主に担当していました。その際に、インスタグラムマーケティングについての書籍の共同執筆をしています。また、その後、ベンチャー企業で、マーケター向けのオウンドメディアの立ち上げから運営を行っていました。その頃から、ミレニアル世代への注目も高まり、SNSを通して彼らを見ることも多かったので、連載でミレニアルズを取り上げることも増えました。そして昨年(2018年)1月に起業し、『BLAST』というエンパワーメントメディアを立ち上げました。

長谷川 なぜ、「エンパワーメント」に注目されたのでしょうか?

石井 SNSマーケティングに行っていたころ、Instagramで海外のメディア、インフルエンサー、企業やブランドなどのアカウントを多数フォローし、それらの投稿を週に1度パトロールするような生活を2年間ぐらいずっと送っていました。
その中で、海外での、「社会と個人の近さ」みたいなものをすごく感じていてたんです。企業が社会的意義のあるイベントを開催して、それをインスタライブで配信したり、世界的に人気のある歌手が「ウィメンズ・マーチ」(※女性の権利向上を訴えるデモ)について言及しないことで炎上したり。そのような世界をSNSを通して見ていて、日本との差を感じたところがとても大きいです。
また、「ジェンダー・ギャップ指数」という、男女不平等差をあらわす世界ランキングがあると思うのですが、その存在自体もこの2年ほどで知ったんです。日本は先進国だと思っていたので、そこでの順位の低さに衝撃を受けました。

BLAST CEOの石井リナさん

松井 キャリジョ研は、2013年に立ち上がった組織横断プロジェクトでマーケターやプランナーの女性が集まっています。設立当初は、クライアント企業の女性向け商材のマーケティングをサポートしつつ、働く女性についての調査データの発表などを行っていましたが、最近では、自分で生き方や働き方を選択していかなくてはならない時代の女性たちをサポートしていければと、多様な働き方を紹介するような書籍を2018年4月には出版しました。女性が働きやすく、生きやすくなる社会をつくっていける一部に私たちもなれればと思い、活動をしているんです。

長谷川 松井からお話させていただいたように、近年キャリジョ研でも書籍や講演会などを通して情報発信することも始めているのですが、石井さんのインタビューを幾つか拝見させていただいたなかで、「さまざまな価値観を伝えていくことの重要性」について言及されているのが印象に残りました。

石井 BLASTを立ち上げようと思ったのは、女性自身が「ジェンダー・ギャップがある」という事実や、制約を受けていることに気づいていないということに、問題意識を持ったからです。例えば、女性らしさとか母親らしさというような「○○らしさ」って日本だとすごく社会から求められますよね。でも自分らしく生きられるならそれで良いと思うんです。だから、恋愛や結婚、家族などのシーンにおいて、多様な選択肢があることを提示したり、性やセックスについてなど既存のメディアではあまり語られてこなかったことも発信しています。多様な選択肢を知った上で、自分に合ったものを選択してもらいたい。BLASTでは、そうしたロールモデルとなる方々の言葉やケーススタディを通してメッセージを発信しています。

松井 BLASTはインスタグラムストーリーズを活用されているメディアだと思うのですが、ダイレクトメッセージなどで、読者からの反応はあったりするのでしょうか?

石井 色々いただいています。「セクシュアリティにコンプレックスがあったり、不安をもっていたけど、自分と同じような人がいるとわかって、すごく安心した」といった声や、「今までに知らなかった新しい価値観や気付きをくれるメディア」というような前向きなフィードバックが多いですね。

松井 現在約6,000人の読者がいらっしゃると思うのですが、読者数の伸び方について感じられていることはありますか?

石井 もう少し増やしたかったなというのが正直なところですね。色々と理由があるとは思っていますが、ユーザーの投稿を促進するようなUGCコンテンツとは親和性があまりよくない問題を取り扱っているので、拡散されにくいという理由があります。また、Instagramは仕様上拡散されにくいプラットフォームなので、TwitterやFacebookといったシェアされやすいSNSまで広がっていないということがあります。また、私たちの読者は、社会人も多く、リベラルな方が集まっていると思うのですが、すぐシェアするということはあまりしないなという印象があります。まだ私たちの発信している情報を必要としている方々へコミュニケーションを取りきれていないと思うので、もっともっと広げていかなければいけないと思っています。

誰かが立ち上がったから、今がある。

岡村 少し話は変わってしまうのですが、人々をエンパワーする側というのは(精神的に)体力が要る、ということをキャリジョ研の中で話していました。私たちも本の出版や日ごろの情報発信で、どのような批判が想定されるかなどを検討しながら制作をしており、さまざまなステークホルダーに配慮しつつ、意見を主張していくことの大変さを実感しています。BLASTを運営され、人々をエンパワーする側としての、石井さんのパワーの源って何でしょうか?

博報堂キャリジョ研 岡村 実玲

石井 誰かがやらなきゃいけないと思うんです。同性婚について行政と戦っている方も言っていたのですが、いつか誰かがやってくれると思っていたら、もう私たちの人生が終わっちゃう。だから、気付いたならばやらないといけないなと。

私は、Netflixのドラマから影響を受けていることが結構多いんですが、その中に『ケーブル・ガールズ』という1920年代のスペインの女性たちを描いている作品があるんです。今の日本より男尊女卑が激しい世界で、夫の許可がないとお金を下ろせないなど女性が生きるのがとても不自由な時代を描いています。そのような状況下での女性集会のシーンを見て、このように力強く立ち上がった女性たちがいるから、今があるんだなと感じたり、他人事じゃだめだなと。そうしてやっているうちに仲間も増えるんですよね。共感してくれる人が増えたり。だから、続けなきゃいけないと思っています。

松井 私たちもそうかもしれないですね。一生活者として、女性として生きていると、生きづらさとか、色々な生の声を聞く機会があったり、自分自身も当事者でもあるので、生きやすくしていくためにどういうふうに世の中があるべきなんだろうみたいなことを考えると、ちょっとずつですけど、何かしたいなと感じます。キャリジョ研は、有志のプロジェクトなので、そういう思いを持った社員が自然に集まってきています。

博報堂キャリジョ研 松井 博代

“Sisterhood“ 連帯していくことの必要性

長谷川 SNSで私たちの書籍への感想・共感の声を見たりすると鼓舞されますよね。キャリジョ研への共感についてもそうですが、SNSが発達したおかげで、マイノリティとつながりやすくなりましたよね。
一方で、『Teen VOGUE』や『Refinery29』といった海外の若い女性向けメディアや、モデルのアジョア・アボアーが立ち上げているオンラインコミュニティ「GurlsTalk」などを見ていると、実際にひとつの場に集まって顔を合わせて対話をするような、リアルイベントが多く開催され始めているように感じます。そういう、リアルに繋がっていく必要性、需要も増えてきたのかなと思っているのですが、『BLAST』も、実際に声を発信している人と読者が会うような機会を検討されていますか?

博報堂キャリジョ研 長谷川 佑季

石井 リアルで会うことへの需要はとてもあります。イベントは昨年も数回行っていて、今月も開催しました。40人ぐらいの規模なんですが、参加券は1日で即完売しました。

長谷川 すでに取り組まれているんですね!コミュニティを作ることに波が来ているような気がしているんです。前回登場いただいたSHEに関してもお伺いすると、コワーキングスペースを活用したいというニーズ以上に、志を同じにする人と一緒に働きたいという思いで登録されているのかなと感じました。一人で立ち上がることって、何か心細いですしね。

石井 SNSで見かける、「#○○さんとつながりたい」みたいなものもその一つではないでしょうか。卒花さん(※式を終えた花嫁)とか旅が好きな女性とか。何かそういうコミュニティへの欲求みたいなのはあると思います。

岡村 ハッシュタグって、他人と自分の違いをみんなでオープンに話すということにまだ抵抗があるなかでの、日本人ならではの自分の持っている価値観の表明の仕方なのかなと思います。日本の社会でダイバーシティを受け入れていくために越えるべき障壁ってそこなのかなと思っているんです。どのように違う価値観を持っている人同士がオープンに「私とは違うけれど、それもいいよね。」って話し合えるかというのを個人的に考えていて。そのときに、今おっしゃっていた、多様な考え方やロールモデルがあることがわかるような、グループ、コミュニティをつくり、その活動や情報をSNSなどでどんどん出していくというのは重要なのかなと感じました。

長谷川 海外のSNS投稿では、そのようなハッシュタグの使われ方があまり見られませんが、最近、Instagramで「Girl Bossガールボス」という単語の入った女性起業家や女性リーダーがフォロワーとして集まっているコミュニティアカウントが無数にあることに気づきました。ハッシュタグのように、そうしたアカウントをフォローすることで自分の信条や立場を表明し、繋がっていこうとしているようです。

石井 「Sisterhood シスターフッド」が日本は少ないと言われているんです。女性同士であまり連帯しないということです。女性同士がサポートし合う、ということがもっともっとできたらいいなと思っています。

後編は、企業、個人が人々をエンパワーしていくことについて語り合います。
>>後編へ

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