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ブランドたまご第43回 / 丸太がブランドに?ファッションデザイナーが発信する青森ヒバの魅力「Cul de Sac – JAPON」

2019.04.25
#イノベーション#ブランディング#博報堂ブランド・イノベーションデザイン
「ブランドたまご」とは、生まれて間もない、まさにこれから大きく羽ばたこうとしている商品ブランドのこと。中でも、伝統を活かしながら革新を起こしている魅力あふれるブランドに注目し、その担い手に博報堂ブランド・イノベーションデザインのメンバーが話をうかがう連載対談企画です。
第43回に登場するのは、「Cul de Sac – JAPON(カルデサック ジャポン)」。青森県の材木屋で生まれた村口実姉子さんが手掛ける、木曽ヒノキ、秋田スギにならぶ日本三大美林である「青森ヒバ」を活かしたプロダクト。聞き手はブランドたまご編集部の加藤由佳です。

下駄屋の祖父、材木屋の父、そしてアパレルの娘へ。続いていく、青森ヒバのバトン

青森県を代表する針葉樹「青森ヒバ」。“青森”の名前は、このヒバの青々とした森からきたとも言われています。カルデサック ジャポンは、青森ヒバの特性(抗菌・防虫・消臭・リラックス効果)を活かした、靴の消臭・抗菌除湿材、芳香スプレー、丸太のスツールなどを展開。日本ではビームスジャパンをはじめ約20店舗、海外ではロサンゼルスやロンドン、フランスなどで展開し、老若男女問わず青森ヒバの香りを楽しむ人々が増えています。

左から、青森ヒバ丸太スツール、消臭・抗菌芳香剤、下:靴用消臭・抗菌除湿材

加藤
よろしくお願いします。お会いできるのを楽しみにしていました!まずは、カルデサック ジャポンを立ち上げるまでの経緯をお聞かせください。

村口
昭和19年ごろに青森の実家で祖父が下駄屋を始めて、父の代で青森ヒバ専門の材木屋になりました。私は上京後、ファッションの学校を卒業してアパレルだけやってきて、このお店は7年前にアパレルショップの「カルデサック」として始め、3年半前に、青森ヒバのブランド「カルデサック ジャポン」も立ち上げました。

ご実家の材木工場(有限会社 村口産業)の風景

加藤
そうだったんですね。ファッションだけやってきたところから、というのが驚きです。何かきっかけがあったんでしょうか?

村口
父からパッケージデザインや売り方の相談をずっと受けていました。「こうすればいいのに」という思いもあったけど、半端な気持ちじゃできないし、助言ぐらいしかできなかったんです。ヒバとファッションをどう両立できるのか想像もつかず、あるとき軽い気持ちでスタッフに相談したら、「なんでやんないの?」と後押ししてくれたのがきっかけです。

加藤
スタッフさんたちが後押しをしてくれたんですね。「こうすればいいのに」という本音の中には、ご自身の、青森ヒバへの“想い”があったのでしょうか?

村口
青森ヒバ自体を、誰もが知っている木曽ヒノキのように、ブランド化したい。ヒバと共に育った私には、あんまりに当たり前のものだったんですけど、東京に出たら、皆知らないんですよね。“デザイン”を加えて、見せ方を変えたら広がるのかなって、どこかでずっと思ってたんです。

根底に流れる“真面目にふざける”というブランド思想

加藤
ネーミングについてお聞きしたいのですが、なぜ「カルデサック ジャポン」というブランド名なのでしょうか。

村口
カルデサックはフランス語で「袋小路」という意味で、まさにここの場所のことです。ここをすごく気に入っていて、この名前にしました。アパレルの方はそのまま「カルデサック」。こちらの青森ヒバのブランドは、立ち上げる時から、海外展開をしようと思っていたので、“日本”をつけて「カルデサック ジャポン」にしました。

店舗は中目黒の路地裏に。

加藤
原点となるこの場所が、由来だったんですね。ロゴにはどんな意味が込められているのでしょうか。

村口
ヒノキチオールという、ヒバの油に含まれる消臭抗菌効果が強い成分の化学式をデザインに取り入れています。逆さになっているCLはカルデサックのことで、逆さまにしていて“真面目にふざけて”います。ファッションのほうの「カルデサック」は、 “真面目にふざける”がコンセプトで、それは青森ヒバの「カルデサック ジャポン」も共通です。

加藤
“真面目にふざける”、ですか。このコンセプトは、どういうきっかけでいつからあるんですか?

村口
ここを立ち上げた時からです。ただふざけているのは違うから、真面目に。トラディショナルなものは素敵だけど、それだけを身につけるわけじゃない。そこに、ひと癖あるものに自分自身も魅かれるんだと思います。ここの建物も、民家を改装していて大工さん1人にお願いしました。自分たちで壁も塗って、ドアの色やサイズ感もこちらからお願いしてつくってもらった遊びの詰まったお店です。

民家を改装してDIYでつくられた遊びの詰まったお店。

流行と普遍。異なる世界を行き来する、事業スタイル

加藤
ブランドを立ち上げるときに、一番困難だったことってありますか?

村口
ファッションはシーズンごとのテーマの切り替えが面白いのですが、ヒバは、何十年も売り続ける気持ちで始めなければならず、はじめは混乱しました。パッケージ、ロット、印刷物や箱、ボトルとか…“長く続く”ものをつくることは本当に悩みましたね。ファッションとヒバと、頭のなかを分けるまで時間もかかりました。展示会の時期が重なったときは、サンプル製作時に、机の上も資料も共通のものがないので…。

加藤
たしかに、作るところから見せるところまでご自身でプロデュースされるので、全く違う領域の2つの会社を同時進行させるような感覚ですよね。

村口
そうなんです。同じ展示会に、両方出すのにカタログ撮影して、ルックブックをつくって、型紙までひいて。くぎ屋さん行って糸屋さん行くとか、今では慣れましたが切り替えが大変でした。今では、楽しいほうが全然勝ってますけどね。

加藤
たくさんラインアップがありますが、商品開発は基本的には村口さんがアイデアを考えているんですか? 新商品はどんなスパンで出すようにしているのでしょうか。

村口
つぎの展示会に向けて新型をつくる流れで動いてはいますが、あまり束縛されずにやっています。中途半端な商品を出すほうがまずい。マイナーチェンジをしたり、無くすものもありますね。

加藤
そこがファッションのように流行ではなく、10年、20年と“長く続く”ブランドにしなきゃいけないということですよね。

村口
そうですね。それに、立ち上げまでの約1年間も、薬機法(旧薬事法)とか、服作りでは全く触れることの無かった視点も必要になって。スタッフも私を入れて3人と少ないので大変でした。新しい視点を得るのは楽しいし、他の何かにも繋がってくると思いますけど。

木製品ではなく、“青森ヒバだから”つくれるモノを

加藤
ほかに、デザインで気をつけていることはありますか?

村口
「木製品をつくる」ではなくて「青森ヒバだからつくる」ということを心がけています。青森ヒバは水に強い・カビに強いのですが、木の周りの部分は弱いんです。ふつうのウッドチップは廃材になる部分でつくるのですが、青森ヒバの特徴を活かせて香りが強く、カビにも強くなるように、木の中心部分でしかつくらないんです。樹齢によっても変わりますし、木ひとつひとつに合わせたものづくりをしています。

香りが強く、カビにも強くなるように、木の中心だけで作られた「ヒバチップ」

加藤
このチップにも、選ばれた部位が使われていたんですね。
樹齢が長いと、どんな特徴があるんですか?

村口
樹齢は長いほど、香りが強くなります。テーブルサイズのような直径1mぐらいの大きなものだと、樹齢は350年~400年。ヒバはスギなどに比べて、大きくなるのに3倍ぐらい時間がかかります。いま座っている丸太も、江戸時代に自生した200年モノです。

加藤
私たち、樹齢200年に座っているんですね(笑)。
私、カルデサック ジャポンを知ったとき「丸太が売れている」という情報を得て、有る意味、最強のマーケティングなんじゃないか、とびっくりしたんです。

村口
そうですよね。実家にごろごろしている丸太を、都会でも大自然を感じ、青森ヒバの香りを楽しめるスツールにしました。座面は座りやすい様、ゆるやかなカーブをつけています。丸太のかたちはすべて違って、割れなどもありますが、この自然のかたちを楽しんで欲しいなと思っています。そういう良さが分かってくれる人が、お客さんになってくれているのだと思います。

左:ご実家で伐採したヒバの木 右:スツール

加藤
香りの無い木では成立しない、青森ヒバだからできる変身ですよね。
木材って、変幻自在だからこそ、青森ヒバである意味が伝わるプロダクトを取捨選択して、カタチに落としているところがすごいと思います。

村口
そこは外したくない部分でした。それにうちは材木屋で、家具屋ではないから、できないことは無理してやらないようにしています。

加藤
このグラフィックデザインは、洋服と同じデザイナーさんと一緒にやられてるんですか。

村口
そうです。マウンテングラフィックスの高橋了さんにお願いしています。彼はファッションの学校の同級生で、もう20年以上の付き合い。私の考えがすぐに伝わるし、半端なこと言うと軌道修正もしてくれます。彼のデザインは海外でもすごく褒められるんですよ。

左上:グラフィックデザイナー、マウンテングラフィックス 高橋了さん
右・下:高橋さんデザインの、「ヒバの効能と、昔から伝わる使い方」を表現したカード。“真面目にふざける”の思想は、ここにも反映されています。(絵/志水則友さん)

実体験が、オリジナルな情報を生み出す

加藤
特に想い入れのある商品ってありますか?

村口
あの籠バッグの取っ手、私とスタッフで、ひとつひとつ付けているんです(笑)このかごは、日本に1人しか作れる人がいなくて外注もできません。その素晴らしい手仕事を無駄にしないように、私たちの技術も磨いています。

ひとつひとつ、手作業で取っ手をつけている「青森ヒバ籠バッグ」

加藤
手作業なんですか!つくるのと、売ることの両方できるのってすごいですよね。

村口
でも、つくることを知っているほうが売ることができると思うんですよね。商品に対して愛情もわくし、すべて作り手がいて成り立ってるものだと思っています。私も子どものころからずっとそういう人を見て育っているからかもしれませんね。

加藤
自分が実際に触って、大変な思いをしてつくらないと得られない情報ってありますよね。

村口
そうそう。大変な作業も、うまくできていけば楽しいし。そういう意味で、みんなでつくっています。小規模だからできるのかもしれないですけど、大切だと思います。

加藤
情報だけをインプットして売るのと、楽しみながら、実体験を通して情報を得るのと、商品を語る人から発される熱量には、差が開きそうですね。

ファッションと、ヒバが繋がる?続けてきたことが結びついてくステージへ

加藤
今後のカルデサックの展望について、教えてください。

村口
実はいま、ヒバの生地を開発しています。ヒバの成分を繊維に練り込んだものを1年半ぐらいかけて開発中で、やっと糸になりました。青森ヒバの抗菌・防臭効果をそのまま維持した、カタチを変えた青森ヒバを展開したいと思っています。

加藤
木で繊維、ですか。考えたこともありませんでした。アパレルと、ヒバが繋がるんですね!

村口
そうなんです!古いお付き合いの生地屋さんが協力してくださって。ファッションに結びつけられるのは、本当にうれしいです。

加藤
とっても楽しみにしています!学びの多い時間を、有難うございました。

ブラたまEYE ~編集後記~

博報堂ブランド・イノベーションデザインでは、これからのブランドには「志」「属」「形」の3要素が不可欠だと考えています。「志」はその社会的な意義、「形」はその独自の個性、“らしさ”、「属」はそれを応援、支持するコミュニティを指しています。(詳しくはこちらをご覧ください)
今回は「志」の視点で、「Cul de Sac – JAPON(カルデサック ジャポン)」から読み取れるこれからのブランド作りのヒントを考えてみたいと思います。

【志】領域の横断と、実体験が、ブランドを前に進める
ファッションと青森ヒバ、経営とデザイン、作り手と売り手。
1人では、どちらか片方を担うことが多い中で、村口さんは、両方を行き来する、オールラウンダーでした。
変わり続けるファッションと、普遍性を求められるヒバのプロダクト。頭の使い方が異なる上に、こだわりを持ちながら、川上から川下まで、2ブランドプロデュースするのは、想像を絶する大変さだと思います。しかし、「両方やってるから得られることってあるんですよね~。」村口さんは帰り際、サラッと微笑んでおっしゃっていました。
私は、取材から帰った後も、この言葉が頭から離れませんでした。
「いいものをつくろう」そう思うと、つい、その領域や自分の役割だけを突き詰めて考えてしまいがちです。しかし、この差別化が困難になっている現代に、もはや1つの領域だけを頭で考え続けて、新しい表現やモノを生み出すのは、難しくなってきているのかもしれません。「自分の手でつくってみるからこそ、語って売れる」「ファッションをやってきたからこそ、ヒバで繊維がつくれないか思いつく」。村口さんのように、領域の横断や、実体験を掛け算していくことが、そのブランドを発展させ、独自のオリジナリティを生むのではないでしょうか。

>>博報堂ブランド・イノベーションデザインについて詳しくはこちら

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