ワークショップは参加者が実際にアイデアをつくってゆく「Ideation」のプロセスに進みました。「フード」「ファッション」「トラベル」の、それぞれ4〜5人のチームにわかれて行います。
机の上には、見る人が少し離れても視認可能な、線の太めのペンと、アイデアを書き留めるためのカード(はがきサイズくらいの紙)が用意されています。
ここからは、レポートに加え、東大×RCA流の「アイデアのつくりかた」をご紹介します。
最初にRCA-IIS Tokyo Design Lab のマイルス・ペニントン教授は、良いアイデアを生み出すための、たったひとつの「戦略」について話しました。
RCAのカルチャーにおいては、良いアイデアをつくるための最適な戦略は、多くのアイデアをつくることだといいます。よって、ワークショップでは常に、アイデアを素早く、たくさんつくることを実践していきます。
その上で、ワークショップに求められる3つのルールが提示されました。
ルール1「どんなアイデアでもOK」
・・・実際的なもの、ファンタジーのようなもの、今日の出来事あるいは未来の出来事であってもよい。アイデアにはいかなる制約も課さない。
ルール2「アイデアをビジュアライズする」
・・・机の上に置かれた紙に、絵とタイトル、そして可能であれば説明書きを添えてアイデアを出す。絵の才能は気にせず、簡単でわかりやすい絵を描く。
ルール3「ひとりで考えて、チームでシェアする」
・・・ひとりで考える時間とチームでシェアする時間は個別に取り、これらは混ぜない。
このルールのユニークなポイントは、アイデアをつくってビジュアライズするということです。実際に絵として形を与えることができるかどうかが、伝わりやすさなど、アイデアの強度を決める要素になるという発想だとも言えるでしょう。
考える時間は2分、グループ内でシェアする時間は3分です。この時間では、ぼんやり考えを巡らせている時間はありません。今の頭の中にあるものをすぐにアイデアにして提示する、それくらいしかできない時間です。
最初はこのスピードに慣れることだけにでも時間を費やしてしまいますが、慣れてくると、アイデアは「考えるもの」ではなく、「つくるもの」であることを体感していくことができます。
最初はウォーミングアップとして「もっとも最悪のアイデア」を考えることに取り組みました。ファッションのチームからは「ダサい服を提案してくれるAI」、どんな格好をしていても金色に輝くことのできる「ゴールデン・メタモルフォーゼ」などのアイデアが生み出されました。
続いてIdeationの本番です。それぞれのチームで、与えられたテーマを拡張したキーフレーズを作成し、それをもとにアイデアを考えます。
まず、ひとりあたり3種類の「キーフレーズ」を考えます。1つ目は、自分の関わりのある仕事。たとえば自動車会社で働いていて、テーマがフードであれば「モビリティ+ラグジュアリー+フード」など。2つ目は、身近なことを読み込みます。たとえば「ラグジュアリー+シネマ+フード」など。そして3つ目はみんなを驚かせるようなキーフレーズを考えます。「ハプニング+フード」などです。
そうして作成した3つのキーフレーズを紙に書き出し、シャッフルし、机の上に山にして置きます。
次にそのキーフレーズの山からひとり1フレーズずつ取り、アイデアを考えます。アイデアができれば再びキーフレーズの山からとってアイデアを考えることを繰り返します。時間は1分半。アイデアを速く、多くつくり出します。
ワークショップ中には、自分の好きなキーフレーズを選んだり、隣の人と交換したりしながら、次々にアイデアをつくり出していきます。
次は、これまでできたアイデアをより強く、優れたものにしてゆくプロセスです。まずチームを2つのグループ「グループA」と「グループB」に分けます。そして、それまでにつくりだしたすべてのアイデアを机の上にならべ、それぞれのグループで2つのアイデアを選びます。
そして各チームのグループAは、アイデアを持って他のチームに移動します。
移動したグループAは、自ら選んだアイデアを、移動先のチームのグループBに説明し、フィードバックを受けます。その際、移動先のチームのグループBは、説明を受けて気づいたアイデアを絵にして返します。
こうしてチーム間で交流しながらアイデアを強めてゆくと、非常に個性的でエッジの効いたアイデアが生まれてきました。たとえばファッションのグループでは以下のようなアイデアが提案されました。
「強制発想スーツ」・・・アイデアを出さないと自動的に首が絞まり、呼吸がしにくくなる。
「セレンディピティ マスク」・・・自分の言いたいことが勝手にデフォルメされて発言されるマスク。自らの発する言葉の中で、意外なアイデアと出会うことができる。
最後に、出てきたアイデアを大きなポスターに貼り、マップをつくっていきます。真ん中にテーマ(今回の場合は「フード」「ファッション」「トラベル」)を書き、出てきたアイデアがどのようなキーフレーズ、他のアイデアと関連しているかを並べて提示(クラスタライズ)し、整理していきます。もちろん、「もっとも最悪のアイデア」も含めます。時間は10分。最後にはプレゼンテーションを行うため、どのような発表をするかを念頭に置きながら進めてゆきます。
最後はIdeationの内容をまとめ、それぞれ持ち時間を3分とし、各チームでプレゼンテーションを行いました。各チームの印象的なアイデアをレポートします。
「『母の味』が永遠に食べられるようになることは最高のラグジュアリーではないでしょうか? 過去の母の動きそのものや調理の音、さらには香りなどをデータとしてストックしておき、AIを活用して再現することで、母の味を未来永劫再現していくようなテクノロジーが生まれれば、きっと食における最高のラグジュアリーを実現できると考えられます」
「私たちのチームでは、未来の私たちは『食』によってどんな価値を得たいのだろうかと考えていきました。食にはいろんな価値がありますが、もっとも重要なものは、摂取することで美しくなれたり健康になれたりするという、身体機能の補修・拡張だと考えられます。
では、未来において食による身体機能の補修・拡張の価値はどのように進化してゆくだろうかと発想を広げていきました。すると『脳と心を刺激する食』というキーワードにたどり着きました。
たとえば、食べると心が元気になるような食べ物。あるいは、悲しみたくて食べる『泣ける食事』なども需要があるかもしれません。つまり、人の心をコントロールし、『なりたい気持ちにさせる』食事です。
この食には負の側面もあり、たとえば人に食べさせることによって、人の気持ちをコントロールすることができるわけです。お金さえ持っていれば、食べ物を用いて人を思うがままにコントロールすることも可能になる。そうした危うい未来が訪れる可能性も含め、脳と心を刺激する食を、未来の『ラグジュアリー・フード』としました」
「私たちはバーチャルコミュニケーションをファッションに適用することを考えました。着用する人は裸でも、どんな服を着ていても、周囲の人からは服を着ているように見える、そんなデバイスを構想しました。
このデバイスを使えば、たとえば、病院に入院していて、お見舞いにきた訪問者に対応しなければならないようなとき、自分自身はパジャマを着ているけれど、周囲の人からはスーツを着ているように見せることができるようになります。服装における機能性と装飾性を、バーチャルコミュニケーションによって再定義してゆく、そんなデバイスです」
「身につけることでクリエイティブな人になれるという服装こそ、最高のラグジュアリーファッションであるという発想から、スーツとマスクによる『無理くりクリエイティブウェア』を着想しました。
『強制発想スーツ』は着用している間、使用者がクリエイティブな発想をしていなければ自動的に首が締め付けます。さらに『セレンディピティマスク』を着用すると、使用者は自分が思ったとおりのことを話せなくなってしまいます。意図しないことを勝手に発言させられる中で、素敵な偶然の発想と出会うためのマスクです。
身につけているだけで強制的にクリエイティブな発想を鍛えられ、いつしかクリエイティブな人になれてしまうというウェアです」
「時間は非常に贅沢なものです。多忙な社会に生きる私たちにとって、今後、時間はますます贅沢なものになると考えられます。
そうした状況の中で、寝ている時間を自由に使って旅をすることができれば、それはもっともラグジュアリーな旅の体験になるのではないかと考えました。つまり私たちの考えるラグジュアリーな旅は『夢世界旅行』です。
たとえば寝ている間だけ、まるで第二の人生を生きるかのように、自分以外の誰かになることができたり、映画の世界に入り込むことができたら、それこそが現代におけるもっともラグジュアリーな旅になると考えました。
また、夢の中であればいかなる失敗も可能になるように、現実世界ではできないことが可能になる点も、ラグジュアリーだと考えられます」
「世界中が自分の家族になったら、きっと世界は平和になるんだと思うのです。私たちの考えたアイデアは『世界を家族化する旅』です。
たとえば、旅行で見知らぬ国に行った時、恋をしてしまうことがあります。しかし現在の制度・風習下では、たとえば既婚者であれば、いかに旅行の非日常の中であっても恋をして結婚し、新しい家族を持つことはできません。
もしも、旅の中でのみ重婚が認められるという制度があれば、人類は世界中で家族を持つことができる。すると、人々が旅をするほどにどんどん世界が平和になっていくと思うのです。さらに人間としては自らのDNAを世界中に拡散することが可能になります。
これからは『人生100年時代』とも言われており、私たちはまったく新しい考え方にチャレンジしながら世界平和を模索していくことが重要なのではないかとこのアイデアを考えました」
デザイン・リサーチ・プロジェクト「Foresight Project "Future of Luxury"」ワークショップでは実現可能なものから少し刺激的なものまで、具体的なアイデアが多数創出され、盛況とともに終了しました。
今後このプロジェクトでは、今回のアイデアを含め、プロトタイピングを前提とした具体的なアウトプットを模索していきます。現在、東京大学生産技術研究所(RCA-IIS Tokyo Design Lab)、博報堂BID、そしてSEEDATA三者間でディスカッションを重ねています。今後は、たとえば完成させたプロトタイプをロンドンのRCAにて展示イベントを行い、デザイナーや有識者らからフィードバックを得ていくといった展開も計画しています。
引き続き、より具体的な社会実装にフォーカスしたプログラムをつくっていきたいと考えています。また現在も、企業からの多くの参加者を募集中です。今回のレポートを読んで興味を持っていただいた方は、ぜひお問い合わせください。
担当:
博報堂ブランド・イノベーションデザイン 岩佐・本田
SEEDATA 岸田・林